renachi
warau tsuki no yoru
総集編ということで、大ボリュームの上巻。短編の詰め合わせ状態で、それぞれのお話で事件が起こるため、一冊の中で頻繁に攫われたりボコられたり。毎回攻めが受けを助けに来るわけでなく、ヤられてトラウマを背負う描写もあって辛い。でもそんな中で生きるキャラに魅力を感じ、一気に引き込まれていった。
いきなり始まる物語は、そこに在る時空間をサクっとそのまま切り取った感じで、自分のリアルとはかけ離れた裏社会の日常であるのに、スムーズに没入できる。
最初は大崎が堕ちていくサマを見せられるのかと思って読んでいた。だがトラウマを負い、一部何か大事なものが欠けてしまったとはいえ、浮上し上昇していく印象に変わっていく。
人生のやり直しを拒否するところに少々開き直りを感じたが、黒川の存在があることで、反社組織であっても、そこが大崎にとって最良の場所であると思わされる。行政は救ってくれない、だから、というただの現実でもあるのが切ない。
黒川は過去に喫茶店の店員に惚れていたり、側近を抱きたいと思っていたりと、意外にのぼせ上がるタイプ?今は大崎一筋で、心変わりの気配がなくて良かった。全てを捨てて自分の元にやってきた大崎に浮かれてたシーンがとても好き。
二人ともその境遇ゆえに孤独を抱えているが、黒川はブチ切れて不満を側近にぶつけてしまったのに対し、大崎は舎弟と疑似的に友人になって発散したりしている。この両極端な対応が、根っからのヤクザとそうでない人間の違いなのかな。
常に死と隣り合わせの中で生きる二人なので、見守りながらヒヤヒヤしたりヒリヒリしたり、こちらも心が休まらない。組同士の抗争や跡目争いなど、下巻でもまた死にそうな目に遭いそうで怖い。そんな世界にどっぷり浸れる良き作品だった。
余談だけど。井上ハルヲさん、商業誌のあとがきに警察や裁判所に取材させてもらったと書かれていたと思う(「テミスの天秤」と「愛は裏切らない」)。組事務所にも取材に行ったりしたのか、さすがにそれはないか、とかちょっと気になった。