ぱるりろん
hagakure denial
1945シリーズの同人誌。
タイトルにもあるように「天球儀の海」の番外編です。
「天球儀の海」は希の視点で全編綴られていますが、本書は資紀の側から描かれています。
2024年3月改訂版を読みました。
A5版2段組で、小さい文字でびっしり、190ページの本です。何万字なのでしょう。
もうこのまま文庫で発行できてしまう大作です。
表題作の「葉隠否定論」のほか、巻末に「ひかるきずあと。」というSSが収録されています。
「天球儀の海」は衝撃的に過ぎました。
希の側からのみ描かれていたこともあり、こんなに健気でまっすぐでいい子に、資紀はなんてことをするのだと、怒り恨みました。
あの当時の社会情勢、田舎での成重家の家格と嫡男としての立ち位置、色々なことを踏まえて思考しても、どうしてもどうしても理解できなかった。
小説としての吸引力や影響力、大いに慨嘆させられたことを踏まえれば、「神」評価にするところでしたがこの資紀の行った所業が許せず、恐れ多くも一番下の評価としました。
これだけ心を揺さぶられたことからも、真ん中の3つの評価は当てはまらないと思ったためです。
本書「葉隠否定論」も同様の評価としました。理由は以下のとおりです。
理解できなかった所業ではあるものの、前述のとおり、好きなシリーズであり大作とも思っており、別の観点から別の読み方ができるのであれば試したいとの思いから、手に取りました。
全編、希の視点で描かれたあのお話を、今度は最初から最後まで資紀の視点で読み解く。
このような機会は通常では得られません。
(お書きになった尾上先生の筆力や情熱には舌を巻く思いです。)
希が小さい時、たった一度の出会いの後、資紀がここまで希に魅入られていたのかというのはある種怖くもあり(ごめんなさい)、興味深くもありました。
驚くほどに生真面目に、希を大切に思っていたことが伝わってきます。
「天球儀の海」では、希が資紀のことを憧れの対象として敬愛している描写が何度も出てきますが、資紀にとっても希はそれに近しい、もしくは同じくらい、敬愛しているのだと知りました。
お互い一度の出会いなのに、心の中に相手の像がいつまでもあって消えない。
純愛なのか、盲愛なのか、妄想なのか、でも昔の一目惚れなんて同じようなものかなとも思えます。
「葉隠否定論」を読み、前提が覆ったのはここでした。長いこと資紀の方も希を星だと思っていた。
それならば、やっぱり何故、とあの凶行に思念が及びます。
あの凶行については、いろんなことを考えてあの方法が一番いい、これしか手は無いと思い、実行するに当たってはシミュレーションも何度もして、準備もして、特攻の報を受けてのタイミングはこのときだ、とかなり詳細に描写されていました。
それを読んでなるほど、と思う自分もいましたが、でもやっぱり許せませんでした。
資紀の誤算もあり(希が真実に気付いて、特攻機を追いかけて暴れて大変な目に遭ったこと)、実際には希は資紀の思惑をはずれて、大切にはしてもらえなかったことを知っているし、希は資紀を恨まないし、ならなくても良かった右手の欠損という障害を抱えて生きていくこと、それらを良しとするに足るほどの解釈を私は見出せず、心を広く持てませんでした。
もうこれは感情の問題なのだと、自分の頑なさに呆れますが、資紀を受け入れることはできないようでした。
希が相変わらず資紀を好きで、寄り添い、尽くし、それが幸せならばもうそれでいいのかも知れない。
一方で、恒兄ちゃんにボコボコに殴られろ、と思う気持ちも拭えません。(恒は怒りで卒倒するかも)
貴重な本を読む機会をありがとうございました。
たくさん出ていたらしい本シリーズの同人誌もいつか読むことができればと願ってやみません。
天球儀の海の攻め・資紀坊ちゃん視点のお話です。
出会った頃からずっとずっと希を愛してきた坊ちゃんが健気すぎて…涙涙…
これは天球儀の海を読んだ全読者様に読んで欲しいと思います!!!
私はこちらの同人誌を読んで本当に良かったです!
「天球儀の海」を坊ちゃん視点で書いた番外編同人誌。
衝撃的な本編ですが、こちらを読んで初めてあの本が完成されるような気がしました。
見事に天球儀を裏側から見た話になっているので、ああ、あの時坊ちゃんはこんな気持ちだったのか、こんな風に考えていたのか、こんな風に希のことを考えていたのか、というのがもうすんごいよく分かります。
本編だといまいち坊ちゃんが何考えているのか分からず、希への凶行もそこまでするのは何故なのか、そもそもそこまでするほど強い思いだったのか? と疑問に感じてしまいがちだった部分が、物の見事にストンと落ちてなるほど~となりました。
2段組み180ページという、すんごい分厚い本の中に、坊ちゃんのとんでもないほどの執着が余すところ無く書かれています。
もうストーカーとかそういうレベルじゃない……幼児相手に恋をして、再会するまでの15年近くをひたすら妄想懸想し、希のためなら死ねるをガチで行ってました。
坊ちゃんがどれだけ希のことを大切に思い、希を拠所とし、そして希ったか。
あまりの想いの強さに途中何度も涙しながら読み終え、重たい溜息と同時に再会できた2人の様子に改めて胸が熱くなります。
戦争の描写もかなり生々しいので辛い部分も多いですが、読んで心から良かったと思えました。
そして装丁がもの凄く凝っていて素敵です。
暗闇の中で星図が浮かび上がる仕様になっていて、それに気付いた時は思わず感嘆しました。
ただひとつ残念なのは、原爆投下日は8月6日と15日ではありません、6日と9日です。この話の根幹部分の出来事ではないとはいえ、1945シリーズと銘打つのですから、日付はきちんと確認して頂きたかった。
被爆地が身近なものとして、こういった部分のミスはすっと冷静になってしまい、ご本人はそんなつもりはなくとも軽く扱われたようで残念に思います。
商業発表の天球儀の海よりも先に書かれているせいかこちらの方が勢いがあり、力強い感じがします。坊ちゃん視点のせいかもしれませんが 彼の真意がよくわかり、読み応えがあり一気に読んでしまいました。幼少時に見初めてからずっと一途に想い続け ある意味怖いくらいでちょっとストーキング入ってます。でもそのくらいでないとあの事件?は起こさないので、天球儀の海よりもずっとあの行為を納得できるのだと想います。両方読むと理解が深まります。
尾上さんとの出会いでもあった天球儀の海がまるっと資紀視点で描かれています。
天球儀を読んでる時「多分資紀もこういう思いだったんだろうけど、でも実際どうなの~~~!?」と思う箇所がいくつもあありましたが、
これを読めばそのもやもやもすぱっと解決。
ほとんど天球儀の海と同じ時系列で描かれているので、天球儀の海を並べて一緒に読むと「あーー二人は互いに勘違いをしてるなあ」とか、「資紀そんな覚悟でいたのね…」などなど、いろんな発見があり素敵でした。
特に正月であった軍内部での出来事と、ガラス玉を叩き割るシーンを資紀視点で読むと彼の胸中に涙腺を刺激されてたまりませんでした。
希の無邪気な思慕に優しく応えたいと願うのに、裏腹の行動をしないといけない資紀の決意は本当に、ただ希のためだけに行っていたこと。
その切実な思いと行動が行き着く先のあの事件も、資紀視点でみると違う色合いに溢れて胸がぎゅっと掴まれてたまりませんでした。
装丁も夜闇にかざすと浮かびあがる星座に、二人の眺めていた景色が呼び起こされますし、私は表紙をめくったその先にあるカラー絵も二人の世界に無くてはならないもので、一冊まるごと本当に丁寧に作られてるな、と感じました。
天球儀の海を読んで、資紀のことをもう少し知りたいと感じた方には絶対におすすめしたい一冊です。