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kare wa shisha no koe wo kiku
え。文庫で950円?それもそのはず。
手に取ってびっくりずっしりの約450ページの大ボリューム。
そして内容は、愛と憎悪と嫉妬と執着うずまく、まさに佐田節大炸裂の昼メロも真っ青なドロドロの愛憎劇。
知的障害の双子の姉の死。10年経った今も鏡を見ると常に死んだはずの姉が映り込む。
罪悪感にもがき続ける斎木に、避け続けていた因縁ある幼馴染・神成との再会と脅迫…
そこに職場の人間関係のゴタゴタや、絵の才能のある神成や死んだ姉に対して抱き続けている劣等感やらが複雑に絡んできます。
読み進めるごとに明らかになる過去。
共依存というか、抜け出せない感じ。ハッピーエンドなのにどこかほの寂しい感じ漂うのです。だが、そこがいい。
佐田さんの既刊「あの日、校舎の階段で」の登場人物・遠藤がちらっと登場します。(読んでいなくても全く問題ないレベル)
今作も、かなり泣かされました。
重い。ずっしり重い。なのにどんどん読み進めてしまう。
読むのに時間もかかるので、読み始めるには気合が必要です。
人によっては地雷になりそうな要素を多分に含む作品ではありますが、読みごたえは十分です。
なんというか、佐田さんの作品って、人間の多面性というか、人のいい部分も、タテマエだけじゃない、人にはだれしもある人のエグい部分もまざまざと描き出されている感じで…。ものすごいパンチのある作風なのですが、一度ハマると抜け出せないような、そんな魅力がある気がします。
まずお話の前半をざっくりとご紹介します。
斉木明史には、知的障害を持つ双子の姉、朋がいた。
双子でありながら、健康、正常に生まれついた明史は彼女に負い目を持ち続けているが、同時に、プロの画家である父、感情的な母からの愛情を一身に受けている朋に複雑な思いを抱いていた。
彼女の持つ優れた画才も、明史には羨望の的であった。
隣家に住む明史の幼馴染である神成静彦も、また天才的な画才の持ち主であった。
神成と朋が築き上げた濃密な絆、神成の才能に明史は嫉妬し続けていた。
高校生になった神成は明史にひたすらな思慕を寄せるようになるが、明史は冷酷にそれを拒絶する。
明史が目を離した隙に朋がひき逃げにあい死亡するという事故が起こる。それ以来、元々死者をみることのできた斉木の左目には朋の姿が映るようになる。
激しく事故の責任を斉木になじる神成と 朋を死なせた罪の意識から逃げるように斉木は故郷を後にした。
それから10年がたち、斉木は就職難のため学歴を詐称して入社した編集プロダクションで働いていた。朋の姿は彼の目から消えず、斎木は罪の意識から逃れることができずにいた。
そこに、イラストレーターとして成功した神成が現れる。
神成は学歴詐称を暴露すると斎木を脅し彼を激しく陵辱する。神成は斎木に異常な執着を示し斎木の生活の全てを支配しはじめるが、仕事を失いたくない斉木は彼に従うしか道はなかった。
登場人物はみな複雑な人格を持ち、相対する人間によって様々な面を多角的に見せます。
残酷極まりない様に思える神成は、長年の友人にとっては誰よりも優しく信頼できる人物です。
斎木も一口に誰からもいい人といわれるような性格ではありませんが、彼も、窮地に無償で手を差し伸べてくれる複数の友人を持っているような人です。
斎木も神成も、自分が望んでやまないものをだけが手に入らないという苦悩にあえいでいます。
神成は経済的に満たされあふれるほどの画才を持ちながら、愛情に飢えています。斉木も暖かい家族には恵まれず、類まれな美貌と編集デザイナーとしての才能を持ちながらも、自身が渇望する絵の才能を持たないため自己を肯定できません。
斉木の神成から与えられる苦痛、逃げ場のない葛藤は読んでいて息苦しさを感じるほどでした。神成によって生活を侵食され体を蝕まれながらも、人間関係も就業状態も最悪の会社で真剣に仕事に取り組む斎木の姿には心打たれるものがあります
神成の才能を憎みながらも、それを上回る彼への愛情に気づいた斉木により、物語は一応の結末をむかえますが、単純なハッピーエンドとは言いがたいかなり緊張感をはらんだもののように感じられました。
無償の愛は存在するか、愛とは究極的には見返りを求める利己的なものなのかという著者の問いかけは恐ろしいものです。
ひとつ気になったのは、あくまでも朋が無垢で美しい存在として描かれている点です。成熟した女性の心を持つことのないまま亡くなった朋ですが、幼いながらも、彼女なりの思いもあったはずと思うのは穿った見方でしょうか。
ともあれ、450ページに亘る長い話を一気に読ませる作者の力量は並々ならぬものです。
甘く楽しい話ではありませんが、長く心に残る小説となりそうです。
執着責め大好きな私としては、佐田さんは作家買いしてしまうほど好きです(・∀・)
今回の攻めである神成はまさにストライク!!!最初読んでる時は「あー…昔は好きだったけど今は憎んでいるのか(´Д` )」となりましたが、ページをめくっていくうちに神成の一途すぎる想いが見えてきます。例えば、後ろから抱きしめて寝ていたのに目が覚めたらいなくなった明史を必死で探し、ニ階に避難して寝ていた明史をまた抱きしめて寝たり。「寝た?」と明史に確認して抱きしめて背中に頬ずりしたり…口では憎いと言いながら行動が明史大好きオーラ全開なんですよ!(*´д`*)ストーリーとしてはシリアスですが、朋が消えてしまうシーンなど涙するところもあります。人を妬んでばかりの主人公明史に感情移入できない人もいるようですが、私は逆に共感しっぱなしで痛いほど彼の気持ちがわかりました。現実から目を背けたくなるような痛さがくせになりますね。木原さんが好きな方はぜひ読んでみてください☆とっても好きな一冊となり何度も読み返してます。
こんなに面白い作品を久々に読みました。
読後に、「ようやく読み切った…!でももっと読みたい!!」とそわそわするこの感じ。『箱の中』の時以来でしょうか。
幽霊が見える、という受けの設定を事前に聞いた時は、ちょっとファンタジー色が強いのかと思いましたが、そんなことは一切ありませんでした。
むしろ、こんなに現実味のある、リアルな人間社会を描いた作品は少ないのではないでしょうか。
人間は、例え仲のいい家族間であっても、時には嫉妬や羨望や憎悪を抱くもの。他人ならば尚更。
そういった人間の負の感情を、隠すことなく全て暴き、リアルな心境が描かれています。故に、とても共感できました。
愛情が憎しみに変わる瞬間の描写には、思わず背筋がぞっとしました。
そうそう、愛と憎しみって表裏一体なのよね…と。
執着攻め、特に、受けに執着しすぎてちょっとイッちゃってる感じの攻めが好きな方には、きっと面白いと思います。
受けも、決して弱くありません。必死で攻めに抗い、強気の態度を貫きながら、攻めの執着に怯えている姿がなんとも言えず。
なにより、心の弱さから周りに強く当ってしまう、受けの人間臭さが良かったです。こういう部分、絶対誰にでもあるんですよね。
BLというカテゴリだけに収めておくには、なんとも勿体ないと感じた作品でした。
家族とは何か、愛とは何か、人間とはどれだけ醜く愛しい存在かを考えさせられる作品です。
痛々しく、ダークではありましたが、そこが良い。
読み応えのある作品をお探しの方は、是非ご覧ください。
どちらかというとオカルトが苦手なので、タイトルの「死者」という言葉から長年敬遠していましたが、読んでみると深い人間ドラマが描かれていて、BL以外の部分が素晴らしかったです。佐田作品のオハコの「偏執的な執着BL」に今回も引き気味でしたが、最後の最後に二人にも萌えられたので神評価にしました。
才能がある者に対する崇拝、羨望、葛藤、、。そういった複雑な人間感情が描かれている物語は描き古されていますが、この小説は素直に共感を呼び、心揺すぶられる内容でした…。
勉強、スポーツ等大抵の分野は、ある程度のレベルまでは努力、根性で何とかなりそうな部分もありそうですが、芸術は「センス」の有無で門が閉ざされてしまう厳しい世界だなーと実感しました。デザイン出版業界のお仕事ものとしてもリアリティーがあり楽しめました。
才能溢れて挫折を知らない「善」(真っ直ぐ)な人達に囲まれて、彼らに馴染めず屈折感から「悪人」ぶる主人公の斉木。そのスタンスは首尾一貫していて、人間臭い面は嫌いでなかったです。仕事に対するこだわりや執着は共感できるものでした。
双子の姉の朋のエピソードがとても良かったです。無垢で手がかかる分みんなから愛される、、。あるなーと思いました。学校の中だけが世間で、まだ遊びたい盛りの高校生くらいの斉木には、朋の事を責めるのは酷な話だと思いました。両親は本当の事を知っても、その時は罵倒したとしても最終的には受けいれたのではないかな。
それでも罪悪感は人は苛み、蝕んでいく…。心のわだかまりが解けるまでかなりの時間がかかりましたね…。何度も涙しました。
かなりのボリュームの長編小説は最後まで読むのに根気が入ります。派手な世界観や設定も無い現代ものですが、小説に求心力があったので、一気に読み進めました。元は自身のブログで部分的に公開された書き下ろし小説がショコラで完全版として出版されたようです。BL界にはこういうケースが多いですが、商業誌向けと違って多岐な内容が楽しめるのが嬉しいです。
佐田先生も心揺すぶられる小説を描ける類希な才能の持ち主。今なら発表の手段はいくらでもあるのにペンを置かれたのは、家庭の都合でしょうか。非常に残念です。いつか戻ってきて欲しいです。
「あの日、校舎の階段で」が大好きなのですが今回もま~~攻めのド執着を受けが嫌う、嫌うわ…最高ですね!?
攻めの一途さ、受けがいないと死んでしまう。
そんな危うい執着を抱えて苦しくなる攻めが最高でした。
一方の受けも受けで、攻めの持っている才能に藻掻き、苦しみます。
たまに理由なき執着攻めとかいるじゃないですか。
それもそれで面白いのですが、佐田三季先生は受けが攻めを嫌う理由がしっかりしていて、湧き上がる感情がリアルなんです。
特殊な能力なのに読んでいて、なぜか違和感がない。
それはやはり彼らの感情が確立しているうえに、私たち読者に上手く伝わっているからだと思います。
分かりやすく、かつ丁寧に描かれている。
それは通常の小説よりも多めのページ数にも表れているんだと思います。
本当にいい執着攻めを描かれる先生です。
また、「あの日、校舎の階段で」での攻めが登場するのも嬉しかったです。
ああ、記憶を消してもう一度読みたいです。
佐田先生の作品ははじめてです。タイトルでホラーなのかな?と思いましたが、心霊関係のホラー度は低かったです。そっちより攻めの激重感情ド執着っぷりが怖くて…!
こ、これは…ハピエンになる、のか…?と、ハピエン大好きな光の腐女子の身としましてはヒヤヒヤしながら読み進めました。ふたりがこれからも共に時を歩んでいきそうなラストに、それまでの苦悩を文章で追っていたわたしは、しあわせにねぇ!!!と涙しました。
登場人物みんな、生きていて。嫉妬、羨望、恋慕、執着…さまざまな想いを抱えながら、悩み、苦しんでいる様をこれでもかと見せられました。
攻めの執着っぷりはすさまじかった。こわいよぉこわいよぉと何度思ったことか…無理やりはやめてあげて。最終的にはわんこになってたので和みました。
痛々しい!つらい!と何度も思ったんですが、このふたり(3人かな)の結末を見届けねば…!と画面をスワイプする指がとまりませんでした。凄い作品を読んでしまった感でいっぱいです。
初・佐田先生。ホラー設定に興味を惹かれて買ってみました。
霊が襲ってくるような直接的なホラー展開はなかったですが、次第に過去が明らかになる謎解きのような面白さに引き込まれ、一気読みできました。
あくまでホラー設定を切り口に、死を身近に感じながらも生きていく残された人々にフォーカスした人間ドラマという印象です。
とは言え、現代社会や人間の愛憎がリアルに描かれていて、そこにある意味モダンホラー的な怖さを感じました。
神成の斎木に対する、欲望を叩きつけるようなセックス描写には臭いが漂ってきそうな生々しさがあり、
また才能に対する嫉妬や羨望、マイノリティに対する差別意識など、人が何かの瞬間に無意識に表出させてしまうような感情の描写が真に迫っていて、霊より人間の方が余程怖いと思わせます。
知的障害を持つ姉と、幼馴染の神成。芸術的才能を持つ二人に対する斎木の嫉妬。
姉の死を機に立場が逆転した、斎木と神成の関係。
斎木の目に映る霊の静かな佇まいと、斎木の姉に対する罪悪感。
学歴や才能にコンプレックスを抱えながらも芸術の世界から離れられない斎木の葛藤。
萌えよりも、生きることについて考えさせられる作品でした。
タイトルが、死者の声が「見える」ではなく「聞こえる」であることも見逃せないポイントで、過去と現在が交錯するラストにつながっています。
斎木がかつての苦い思い出を神成と一緒に再現することで、もういない姉を追悼するようなラストには、絵画的な美しさがありました。罪を背負いながら一緒に生きていくであろう二人の未来を予想させる、余韻の残る終わり方でした。
良い作品だと思いつつも、神成の人物描写に少し物足りなさを感じたため、評価は星4つで。
斎木を一心に慕う純粋な顔と、斎木の姉の死を機に見せる暴力的な顔。
斎木に少し優しくされたことから、後半みるみる暴力的な顔が消えていく過程がやや強引に思えたのです。
ヤンデレとは、天才とはそういうものだと言ってしまえばそれまでですが。
中盤までの、無意識に両極端の顔を使い分けているような底知れなさがこの話の怖さの芯だと思うので、そのパーソナリティーにもっと鋭く切り込めば、ホラーとしても人間ドラマとしてももっと面白かったんじゃないかなーと口惜しさを感じました。
ちなみに他作品のキャラもカメオ出演しているそうで、斎木の元セフレ遠藤(『あの日、校舎の階段で』)や、斎木と仕事する久世(『檻』)がどこに登場するか、探しながら読むのも楽しいかもしれません。
個人的に心がときめくような甘~い萌えは、感じられませんでした。でも購入して良かったです。序場、中盤は背中に刃物で刺され抉られるような感覚で、苦しい。終盤、アトリエの中の姉との話は号泣しました。優しくて優しくてとても悲しい。
救われたかと聞かれれば、「自分が求めている救いが何だったのか。自分にはわからなくなった」と答えると思います。でも・・・この本、大切にします。モナストラルブルーに触れてみたくなりました。
あと遠藤が出てきて「あの日校舎の階段で」が大好きな自分は、大喜びでした。少しですけど遠藤のその後が見れて幸せでした~(////)萌えた!
--(以下盛大にネタバレを含んだ感想になります)--
亡くなった人が視える斎木は絵に関連したで仕事で、昔の幼馴染、神成と再会をします。彼に弱みを握られ、ばらされたくなかったら言う事を聞け。と、斎木の触れられたくない過去を残酷に責め立てる神成。無理やり身体を奪われ心も身体もボロボロになっていく斎木。その過去の出来事が紐解かれて・・・
どんどんと斎木の気持ちに引っ張られるので、気持ちが痛いほど伝わって、彼が過去に追い詰められていく様子に「もうこれ以上入って来ないでくれ」と祈るようにページを進めていました。
斎木は、2人の才能が嫌で嫌でしょうがない。何故自分はそこにいけないのか。才能が無いと分かっていても、ひっそりと絵を描く事が辞めれない斎木、きっと一生描き続けるのだろうと思います。嫌いになれたら良いのに、捨てる事が出来たら楽になるのに、それでも手放せない。描かずには入られない、描いたら自分の力の無さに余計落ち込むと分かっていても。
この世界を生き辛いと感じることがあります。いくらでも自分の代えのきく社会に、自分がゴミの様に感じて絶望することもあります。またそれに苦しんだ女性の気持ちも分かるような気がしました・・・
楽しい息抜きも出来ない位、自分のキャパシティを超える仕事、相談の出来ない社内の空気、否定され続ける自分。
地球の広さに比べたら、目に見えない位小さい空間(社内)なのに、そこの空間が全てで、自分から仕事を取ったら何も残らないのでは無いかとすら錯覚させられる。同僚の根岸の「この会社は~」と言う部分、ある意味、今の社会でもある気がしました。
斎木の母親に関しては、色々と大変だったのだなと思えて、嫌とは思えませんでした。「朋ちゃんは、お母さんのお腹の中で悪いところを・・・」の辺りは、自分に感じている申し訳なさといいえばいいのか、どの言葉が適切か分かりませんが、それを誰かと分かち合いたかったのかと思えます。でも、それは幼い斎木には重すぎると思いました。
斎木の父親に対しては、自分なら殴ってアトリエを崩壊させてしまってるかも・・・(笑)才能の有る無しを決めるのは親では無いと思いたいです。初めは少し期待した目で画用紙をくれておいて、それをどれだけ子どもが大切にしていても、先が見えた途端、違うと奪わないで欲しい。価値を決めないで欲しい。
そんなことをされたら「好きなものを純粋に好き」って言う事が恥ずかしいと思ってしまう。夢を見させて欲しい。後悔しても、最後に自分で自分がどうするべきか答えを出させて欲しかったです。現実が厳しいこともわかってる親だからこその意見も必要だと思いますけど・・・苦しい。
そして神成。彼の執着、犬っぷりは超好みでした。(*ノノ)でも神成視点で少しでも話しがあれば、変わっていたかもですが、よく理解出来なくて彼に対する才能を羨ましいという気持ちしか抱けませんでした。(^^;)そして彼が描いた人を狂わせるほどの絵を想像出来ません。では実際、「彼の作品を見たいか?」と問われれば「今は・・・見たくない」と答えます。自分を壊されるような強すぎる作品は、今の私には、感動出来るほどの容量が無いです。佐田先生の文章からでも漂ってくる絵の具の匂い、雰囲気だけで囚われそうでした。
様々なキャラクターの視点で話を読んでいるようでした。人のゆがみや偏見や差別について、その社会の中で苦しくても生きるということ。とても考えさせられました。
最後にあとがきを読んで、佐田先生は斎木のように絵を文章をかくことで、自分の中にずっと溢れそうにひっそりと留めていたものを外へ出せたでしょうか。少しの量であっても、出来てたらいいな・・・と思いました。
BLにして京極夏彦の文庫並みの分厚さ!
読むのに苦労するのではないかと一瞬不安に思うも、それは杞憂でありあっという間に読み終えていました。
そのくらい吸引力のあるお話です。
もう最初から、硝子を爪でひっかいた音を聞かされているような、ヤスリで身体を削られているような、そんな痛みを感じながら、もう堪忍してー!許してー!とこちらが叫び出したくなるような苦しみを感じます。
しかも、その苦しみが歪みが、憎しみと依存と全てがないまぜになって押し寄せてくるそれが、まるで自分の事のように体感してしまう。
彼等の心情をバーチャル体験しているかのように、何かわかるな、という現実もともなっているから、そこがすごいところと思うのです。
薄弱という障害を持ちながらも親にも認められる絵の才能を持つ双子の姉・朋。
絵画教室の先生である主人公の父親にも認められる絵の才能を持つ隣家の幼馴染・神成。
彼等への妬みと羨望が、才能はないと決めつけられ学歴詐称をしてまでもアート関係の仕事をしたいと、本当は絵を書くことが好きな主人公・斉木の心を歪ませていた。
それに加え自分のせいで朋を死なせたという罪悪感もあり、霊が左目で見えるという彼の眼から朋の影が消えなくて、彼女の言葉がわからなくて、それは斉木を苛んでいる。
斉木を慕い、犬のように懐いていた神成はうとまれていることも知らず休みの帰省に斉木が来ると性欲処理に使われても自分を好きになって欲しいと願って、蔑まれてもすげなくされても言うがままにしてきた神成が、斉木から故意の傷付く言葉を貰ったことで、折れたのと、朋の死がきっかけでその感情は憎しみのような歪んだ執着に変化したのか?
神成と再会した斉木に待っていた脅迫と彼にとっては憎しみに見える性行為の強要と、キツイ仕事の二重苦で斉木は消耗していく。
装丁デザインの仕事で再会した斉木と神成の悲愴な生活の中に組み込まれる彼等の過去。
普通なら、重要な出来事だけ抜き出して状況説明だけで終わってしまうだろう、それさえも逐一を細かく描写することで、より彼等の心情の過程を裏付けるモノとなっている。
一番のキーワードは二人に一番関与している朋の存在。
それが彼等を一番くるしめているが、死者の声と気持ちはわからない。
それを有効に見せるのにとてもやくだっているのです。
あと、斉木視点の進行であるが神成を「男」と表現している。
これは、斉木の感情が現れた表現で、恐怖だったりモノとしてだったり蔑む対象だったり、それを表わすのにピッタリの使い方でした(ただ一か所、間違いが!?)
神成に追い込まれ、仕事に追い込まれ、恐怖と戦い、ギリギリまで追い詰められて死なない斉木は、逃げているように見えて折れてない斉木は、もろくはない人だと思います!
なんだろう?この強さは・・・
親に対しても冷めていて、でも或る意味自分で精一杯な感じが見受けられる。
才能の話といい、仕事の事といい、性格は決していい人じゃないけど、何故か親近感があわくのです。
神成は、ワンコでした。
最後にわかる彼の心の苦しみ。
これが見えて初めて彼の総ての行動に合点がいきます。
そういう意味では斉木より解りやすい人だったと思われるのですが、最初の鬼畜ぶり、憎しみなのか執着の病んだものなのか、その行動は読んでいて本当に苦しかった!
こんな苦しい物語の結末をどうやって迎えることができるのか、その鍵が朋にあったのですね。
我慢と奉仕ばかりの苦しい職場から放たれた、冷たい自分でも手を差し伸べてくれる友人がちゃんといる、そんな彼が初めて自分の周りに目を向ける余裕ができたこと。
それで、こんなに変わってしまうの!?と少しビックリでもあるのですが、
その後の変化の姿は、子供の頃の主人と家来のような斉木と神成の関係になるというのが、何だか斉木らしいな~と。。。
そんな点も斉木って強いんじゃないか?と思えたゆえんです。
本当に苦しい辛い終盤までの展開ですが、このラストにとても救われるのでした。
久々の佐田作品、堪能させていただきました!!
障害のこと、就職のこと、心の病のこと、厳しい職場の現場の実情、精神的に追い詰められて自殺した女性、不倫、潔癖症、親子関係、マイノリティ、、、
主人公のサイキックな設定や関係以上に、リアルな現実問題がかなり入っており、それは切実に訴える要素となっているのではないでしょうか?
そして【Restart】ではその後の甘い生活ぶりが。
ゲイのカミングアウトとか、やはり斉木は強いよ!そういう意味で、斉木の性格って一本筋が通っていたな、と思えるのです。
『あの日、校舎の階段で』の遠藤が斉木の元セフレとして登場していましたね♪
でもその作品を読んでなくても全然大丈夫。
神成がワンコで、主人公を「あーちゃん」と呼ぶので、ちと『渇仰』とダブるような雰囲気もなくもないのですが、、、そこは全然別作品ですしね