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nigatsubyou
なんというか、切ない、でもなく、ツラい、でもなく、もちろん萌える、でもない。
ラブストーリーというにはちょっと若田の視点に納得いかず。
あれだけ犯人?と接触できているなら、高校生の二人には難しくても、元新聞記者ならもっと知恵を使えば?って思ってしまったので、そこから物語に入り込めなかったのが敗因かも知れません。
警察だって馬鹿じゃ無いんだし、駐在さんに言うなんてことじゃ無いんだから、いくら田舎とは言え県警にも話のできる人はいるだろうに。
そして、ボルトを持って行かせる時に買ったものを渡すとかさ…最後に鉄塔倒れるなんてことにならないようにできるのでは無いかなぁ。ま、この鉄塔が倒れないと根幹の実話部分が生きてこないのですが、そこに至るまでのロジックがなぁ。無理やり過ぎて。
が、出来ることがもっとあったはず、が彼の罪、病、ってことなのかもしれませんね。
そして、海を渡った二人が(多分、貧しくとも)幸せに生きているらしいことが救いです。でも、海を渡らずして幸せになれる道があったのでは?と思うとやりきれない。。。
ちょうど二月になる前日に手を取りました。
表紙からは想像がつかないようなハードでショッキングな内容でした。
前半での設定がめいいっぱい活かされた後半は怒涛の展開で夢中で読み進めました。
極限状態の中で芽生える恋心。こういう吊り橋効果的な恋愛ものは巷に溢れていますが、なかなか八方塞がりの重い内容で前半は息詰まりしそうでした。その中でかけがえのない存在である蒼司を助けるため、ひたむきな千夏の姿に心を打たれました。
若いが故に思慮に欠けるけれど、純粋な衝動と思いがけない余波、、。
歳を取ったせいか、2人の青い恋の結末より、切迫した中での一種の愛情表現という「行為」が引き起こした顛末の影響力の大きさに打ちのめされました。そう、忘れた頃にその存在は余りにも大きく立ちはだかります、、。2人の罪の重さに身震い。最悪の結末は逃れたのかもしれませんが。。
もっと若い時に読めば、もっと2人の気持ちに共感も持てて読後感も変わったかも。若田も今の歳に2人に出会っていたら、確実に2人を止めていただろうな。若田が良識ある大人であれば、2人の信頼は得られていなかったであろうけれど。
実際あった事件を題材に(ハード&ロマンチックに)脚色されたそうです。未解決事件のようで真相に色々な憶測がされていて気になります。その事件を全く知らなかったので、余計に驚きました。
色々な人の感想を読んでいると、組織が何故自力でしなかった等の意見もあるようですが、特殊な犯罪組織グループの破壊工作活動の意図は一般人には理解出来ません。小説でも犯行グループの意図は明かされず、未解決事件として終わっています。最終的に引き起こされた顛末を起こす事が最初からの目的で有れば、身バレしない様に自ら手をくださない事もあり得るように思いました。2人の行動も事件に巻き込まれた当事者として緊迫状態の中でした行動だと思うと、不自然では無いですし。。
圧倒的な読後感のある作品でした。タイトルの暗示する通り、しばらく引きずりそうです。「私の二月は三日足りない」と無意識に口ずさみそうです。処女作という事で恋愛心情描写にブレもあるかもしれませんが、四国という土地柄を生かした設定や文学的でありながらも、事実が淡々と語られる文体はとても良かったです。
すごい作品です。始まりからジェットコースターのように激しく揺さぶられる物語。冒頭は卒業間近の高三男子2人のシーンからはじまり、親友同士の片方が片方にいきなり告白して振られます。
その夜からが超展開。振られた受けの蒼司がとんでもない事件に巻き込まれ、命も危険な状態に。言葉は柔らかいけどかなり無神経な振り方をした攻めの千夏は失いそうになって初めて自分にとって蒼司がどんなに大切な存在だったかを思い知るのです。
この事件がドラマチックすぎて現実離れしている、と突っ込むのは野暮な話でこの話は「自分の今まで持っていた物全てを捨てて愛する人を救えますか?」というのがテーマだと思うので、迷いなく愛する蒼司のために自分の全てを捧げる千夏はカッコいいです。幼稚なお坊ちゃんだったのに愛を知った途端に大人びて男らしくなりました。千夏は愛というものがどんなものか全くわからなかったけどそれは自分のすぐそばにあったのでした…って童話の青い鳥みたいで深い。
四国を舞台にした物語でお遍路さんの風習が重要なエピソードとしてうまく生きていてとても魅力的です。若い2人の怒涛の恋愛を間近で見届けた語り手の若田は巻き込まれてしまって気の毒としか言いようがないけど。
どこかお芝居のような現代のお伽話のような戯曲のような…とにかくよく出来たお話です。読む価値あり。
「彼岸の赤」だったかを読んで、おセンチな感じが苦手だなあと思った印象のままの作家さん。何年か経ったので、まとめ買いしていた積ん読を消化しようと手に取りました。
後書きを読んで気づきましたが、こちらがデビュー作なのですね。やはり、と思うようなところがありました。
基本的には、青春の高校生同士の甘酸っぱい恋が書きたいのだと思うのですが、それを表現するために二人を犯罪に巻き込ませ、何度も同じ説明が繰り返されるので読んでいてまたか、と思うばかりで疲れました。
また、その犯罪の設定があり得ないもので、たとえば中国の犯罪者が、日本の工業用ボルトを盗むために仲の良い高校生の片方を拉致し、もう一方に盗ませるというもので、それくらいなら自分で盗む方が100倍速いよね、と思うともうダメでした。
やはり感傷的なタッチは変わっておらず、苦手意識がさらに強くなってしまいました。残念。
これから先、二月が来る度に、閏年が来るたびに、その地の名前を聞いたときに、鉄塔を見るたびに、異国の地でひっそり暮らす二人を思い出すのかと思うと、本当に不治の病みたいだ。いつまでも心の奥底に残るようなお話でした。
至って普通であったはずの二人の日常がある日崩れて、緊張の中で少しずつ千夏の気持ちがはっきりしてくる。蒼司の為にボルトを運ぶ千夏や蒼司の恋する気持ち、恐ろしい現実もどこか美しく見える。文章や挿絵を通じて、恐怖や焦り、どうしようもない恋の熱の交じる二人の世界が恐ろしいほどリアルに感じ取れました。
普通の高校生だった二人が、あんな目にあった二人が、やっと気持ちが通じ合った二人が、あれからどうやって生きているのか……とか、そんなことをこれからもずっとふとしたときに思い出すのだろうと思います。読み終えた後にもう一度冒頭を読んで、やられた!と思った。すごすぎる。
ノンフィクション・ノベル。読みにくかったです。冒頭、若田という元新聞記者の男が、ある時効になった事件の目撃者(一当事者)として交番に通報するシーンから始まり、それから過去に遡って物語の核となる殺人、監禁事件が紐解かれていく構成となっているのですが、それが現実なのか若田の妄想なのか、終始モヤ〜っとしていました。最後も、もしや夢オチでは?などザワザワと雑念が浮かび、個人的には世界に入り込むのが難しい作品でした。タイトルに「病」と付いている点も曖昧さを加速させます。夢現物のような効果を狙っての作家さまの演出なのだとしたら、凄く効いているなと思います。
実を言うと、事件と蒼司の恋を絡めたところにそもそも無理を感じてしまってました。。。どっちかにしてもらった方がアホなわたしには作品に入りやすかったのかもしれません。登場人物それぞれの視点でドラマティックな心情が綴られていますが、思いが強すぎてなんだか自己陶酔しているように見えて、ちょっと引きました。シリアスなテーマ故か皆切迫していて独りよがりで、人物同士心が通い合っている感じがしないというか…。でも、日常が突如壊されてしまった特殊事態なんだ、高校生だから若さ故の暴走なんだ、と安易に片付けてしまうのは惜しい程の挑戦的な作品だと思うのです。
「藪の中」手法なのかとも思いましたが、そうでもない。かといって若田が物語を総括する語り手の立ち位置とも認め難く。(おそらくその役割を担っていそうだけれど。)蒼司の気持ちも、千夏の気持ちも痛い程表現されているお遍路の件りは切なくてきゅーんとしました。けれど千夏の方は事件のドサクサに紛れて気持ちが一気に盛り上がっちゃって、おいてけぼりを食らった感が…。彼の蒼司を思う気持ちが同情なのか恋情なのか、パニックによって隠された思いが表面化したものだったのか。心理的カオスを描きたいのであったのならなんとなく分かるような気もするのですが…、個人的にはBLを読む時はストレスフリーが理想なので読むこと自体に気を揉むのは本意ではなく、正直最後まで読み終えるのが苦痛でした。ひとえに当方の読解力と作家さまの作風との相性の問題です。
作家さまの表現法や取り上げるテーマの変遷を見る楽しみもあるので、人気の高い最新作に辿り着くまでぼちぼち他の作品を読み進めて行きたいと思います。
文章がやや拙く、ところどころ読みにくいところもありますが最後まで退屈させない展開で、一気に読んでしまいました。
ストーリー自体が似ているわけではありませんが、中原みすずの「初恋」的な雰囲気です。(10年くらい前に宮崎あおい主演で映画化してます)
読み始めは千夏は嫌な男だと思ってました。が、読み進めていくうちに考えが変わった。人を好きになることを覚えた彼はとても素敵でした。奇しくも拉致事件をきっかけに、千夏は蒼司への恋を自覚していくんですよ。自分が犯罪に手を染めてるとか、家族が心配するとか、そういった後先のことよりも、ただひたすら目の前の蒼司を助けたい、とボルトを集める彼の姿に涙が出ました。無鉄砲というか、何というか。
見張り役の人って結局どうなったんだろ?
評価については迷いましたが最後がちょっと…。エピローグは、その後の二人の話かもしくは若田のその後が良かった気がします。
尾上さんのデビュー作です。
新人さんが出て来た、と当時表紙の美しさだけで購入したまま積ん読。
そのまま新作が発表されるたびに、何となく買い続け、やっとタワーを崩す気になったんですが……。
早く読んでおけばよかった……っっ!!!
文章が少し硬質な感じで、読み始めた最初のあたりは失敗したかなぁ……と思ったのですが、読み進めていくとあれよあれよという間に引き込まれ、読後に長いため息がひとつ出ました。
一言では言い表せないような、何とも言えない余韻です。
これをハッピーエンドと取るかは人それぞれですが、私はこのモヤモヤ感が気に入りました。
そしてその後に続く短編が、受の苦しい気持ちが綴られていて、本編を思い返すとじわりと来るものがありました。
美しい言葉が並んでいて、非常に心地よいです。
サスペンス風味で、実際の事件をモデルに話を作られていますが、あの当時の事件を元にして、ここまで書ける才能に拍手を送りたい。
そして自分自身、あの事件で予定を狂わされたので、どんな風な結末になるのか気になって前のめりに……。
受が攻と行ったお遍路で、納経帳の隙間に書き連ねた思いの欠片が延々と出てくるシーンには、思わず目頭が熱くなりました。
どんなに受が攻のことを好きなのかが、痛いほど伝わってきます。
そしてそんな受の気持ちに気づかなかったどころか、持ち前の無神経さで優しく傷つける攻が憎たらしい。
私の中でどうもこの攻の性格や背景設定が好きになれなかったので、神評価には至りませんでしたが、受がもうもの凄く健気。
強気なのに健気というお得感。
そして脇でありながらも、実質主役と言ってもいいような若田が、物語を引き締めてくれています。
文章は少し読みにくいというか、癖があり粗削りな感じがしますが、これが書きたい!! という作者の強い思いが筆に表れています。
最近は文章は上手だけど話が無難で面白くない新人さんも多いので、このくらい大暴れしてる話は新鮮で非常に良かったです。
あらすじは割愛させていただきます。
まず軽いネタバレですが、メリーバッドエンドです。そして、ひたすら低いテンションが続きます。
苦手な人は苦手だと思います。
しかし、テーマ性を以て伏線が張られているために分かりやすく、物語が進むにつれ受け攻め双方の愛情がだんだんとかみ合っていくさまが丁寧に描かれています。
細かい設定が曖昧という感想も多いようですが、恋愛モノとして読むには十分な情報はあり、基本的には学生の主人公視点で進むためそこまで違和感は感じませんでした。
とても良いラブ・サスペンスとして読めました(・ヮ・)
尾上さんの作品は「二月病」は私的に一番ウルッときました。
「蒼のかたみ」「天球儀の海」より泣けました。
受の蒼司は親友で女子にモテモテな攻の千夏にずっと叶わぬ思いがあり、ずっと諦めようとしていたが、卒業前に思わず千夏に吐露しちゃう。
千夏は蒼司の想いに全く気付いておらず、それを知っても「蒼司が女だったらいいのに」とやんわり断り、このまま一番の友人でいようと収める。
が、翌日、蒼司が学校に来ない。
千夏は昨日の事が気になり、蒼司に連絡するが音信不通、実はこの時蒼司は殺人事件に巻き込まれ、監禁されていて、それを知った千夏は蒼司を助ける為に、開放条件の鉄塔のボルトを外し続ける。
殺人事件に巻き込まれ、犯人グループに監禁され、いつ殺されてもおかしくない状態の蒼司。
蒼司の命を護る為、誰にも相談出来ず一人で立ち向かおうとする千夏。まぁ、若田さんていう助っ人が出てきますが。
二人の行く末はいかに?っていうお話。
他のレビュアー様が書いておられるようにはっきりいって、話の筋的に疑問点が多すぎです。犯人グループの設定があまりにもボンヤリしすぎてモヤモヤしますし、ツッコミ所満載なんですが…。
しかし!!!!!それを軽~く凌駕してしまう蒼司と千夏のお互いの恋がんもぅ凄いんですよ!!
納記帳に書かれた蒼司の想い、それを読んで自分の一番に気付く千夏。
毎日ボルトを抜いて監禁場所に行き、語られるお互いの激情。
もう涙がポロポロ出ちゃう。女の子だもん。
明日死ぬかもしれない。やはりこのヒリヒリ感のある状況で恋愛からませないとここまで盛り上がらないですよね~。
もうとにかく読んでない方は読んでみてください。泣ける。
騙されたとおもって読んでみてください。騙されたと思って。
大事なことは二回。
じつは私的ですが、この「二月病」を読んでる途中で、丁度香川にうどんを食べに行きまして…。タイムリーでした。
高速に乗り、坂出に下りて「がもう」でうどんを食べながら、「あーこんなとこで二人はうどん食ってたんかー」と思ってジーン。
車で次のうどん屋に移動しながら坂出の景色を眺めながら「あーこの辺りを千夏はバイク走らせてボルト抜いたんかー」と思ってジーン。
八島水族館に行ったらすぐそばがお遍路のお寺があり、「あーこんな山の上まで二人で歩いて蒼司は祈ったんかー」と思ってジーン。
帰りに瀬戸大橋渡りながら旦那に倒れた鉄塔を教えてもらい、「この鉄塔かー。オイオイこの鉄塔だけ電線が瀬戸大橋の上に伝ってるじゃねぇの。電線緩んだら車の上に落ちるし。これ倒したの確信犯じゃねえのよ。うわー。でも千夏頑張ったんだねー」と思ってジーン。
隣の旦那は「????」でしたが。あっはっは。
尾上さんの個人サイトSSにて彼らのその後が書かれています。
貧しいながらも幸せそうにしている二人にホッとしました。
本編とSSの間の長い物語もいつかは発表したいとおっしゃっているので、その「いつか」を熱望いたしております。
不思議な余韻を残す物語だった。
世界観を2、3日引きずった。
ストーリーは簡単に説明できてしまうのだけれど、
そこに至るまでの心理描写が、
物凄く読者の心を揺さぶる類の小説だと思う。
文章自体はとても淡々としている。
1センテンスもそう長くはない。
でもリズミカルという印象とは違い、
やはり「淡々と」しているという
イメージが近い気がする。
崩れず、どちらかというと硬い。
でも、そんな文章だからこそ、
御朱印帳に書かれた蒼司の恋の病の独白に
どうしようもなく打ちのめされたのだと思う。
実際のところ、お話のシリアスな部分で
疑問点は点々とあった。
(もし千夏が蒼司に恋情を抱かなかったら
この取引は成立しないだろうし、
そもそも日本に来たなら犯人が自分で
ボルトを回収すればいいと思う。)
でも、前述した通り、淡々とした文章の中に
どうしようもない感情と切迫感が
埋め込まれていて読者を揺さぶる。
その揺さぶりが、数々の疑問点を
静かに押し流しているように思う。
そんな風に、いつの間にか
読者である自分の目は
千夏と蒼司の恋に向かわされていたんだろう。
本を読むとき、小さな齟齬を感じたら、
それが最後まで残ってしまうという方には
向かない作品かもしれません。
客観的にみるとツッコミどころは確かにある。
物語に犯罪が絡むので、それは尚更だと思います。
しかし、この作家さんには、
文章で空気感・世界観を形作るパワーが
あるんだろうなという感想を抱きました。
始まりと終わりの若田の視点も、
そんな世界観を担う一端なんだろう。
この視点がまた、BLと言うよりも、
純愛物語のような印象を与えていると思います。
私自身、世界観に持っていかれましたが、
レビューがとてもしにくい作品だったので
「中立」評価にしています。
ただ、好きか嫌いかで聞かれたら、
この小説は好きだった。
Blogで同作のアフターストーリーが
少し公開されています。
同人誌掲載の一部とのこと。
本編に描かれなかった部分を目にし、
そちらにもじわりとしました。
文章力、表現力は素晴らしいです。途中までは、これ、何かの文学賞受賞作でもおかしくないと思いながら読んでいました。
でも、ごめんなさい。主役二人の設定が受け付けませんでした。
攻め上げ受け下げが、ちょっとあからさますぎじゃないかと…。
攻めは、成績優秀スポーツ万能イケメンでモテモテ。対する受けは、成績が悪く、何の取り柄もない平凡な人物。
そんな素晴らしい攻めが、輝かしい未来も何もかも捨てて受けを選んでくれたっていうのが言いたいのかも知れないけど、私は同じ歳なら対等な関係が好きなので、すっきりしなかったです。
親友だった。
一番大切な友達で、就職して結婚して子どもが生まれても、ずっと変わらず親友でいるはずだった。
サスペンス仕立ての作者のデビュー作。
カッコ良くて人気者で何でも持っている千夏(せんか)の口癖は、「幸せになりたい」。
1998年、高校卒業を控えた二月のある日、
幸せに気がつかない程傲慢に幸せだった彼の平穏な日々は
突然に巻き込まれた事件によって、劇的な転換を余儀なくされる。
親友で、一緒にお遍路を回った、誰より近くにいて誰より大切だった蒼司に告白され、
そしてそれを優しく退けた翌日、蒼司は学校に現れなかった。
蒼司の両親は何者かに殺害され、蒼司自身も誘拐され拉致される。
第一発見者となった千夏は彼を解放する条件として、
特殊なボルトを100本集めてくるように言われ、日々鉄塔に登る日が始まる……
物語がどこへ向かうのかに、不安な思いを抱きながら読み始め、
硬質な文章にいささか読みにくさを耐えながら読み進み、
蒼司の想いが綴られている御朱印帳を千夏が目にする下りで、切なく胸を揺すぶられる。
……が、その後あまりに破綻が多過ぎて、感情的に失速してしまいました。
未解決の坂出送電塔の倒壊事件という事実を使った着眼点には瞠目するし、
それにお遍路という四国の風物を絡めた世界観も素晴らしい。
しかし、某国で作れないボルトを集めるにしても、
高校生に調達させるというのは素人が考えても疑問だし、
着信履歴が一番多かったというだけの友人が(しかも10代の子ども!)が
こんな過酷なことに応じると考えるのは現実的ではないし、
何より、弟の面影を蒼司に見た監視役の男の行動があまりにご都合主義だし、
突っ込みどころが多過ぎて、乗切れないまま話が終わってしまった。
「だれとでも幸せになれるだろう。でも不幸になるならお前とがいい」
など印象的なセリフも多く、記憶に残る作品ではあるとは思うが、
ただ、丁寧さと詰めの甘さのバランスが、私的にはうまく咀嚼できなかった。
それから、この物語の主人公は実は元新聞記者の若田であると思えてならないのだが、
だとすると、彼を中心にして若者二人の物語はもっとファンタジーとして描かれていれば
もうちょっと違ったかもしれないと思う。
この辺のバランス感も、私の肌には今ひとつしっくりこない部分だったかと思う。
独特の世界を描く作者だけに、今後に期待のデビュー作という感想だった。
1998年、香川県で起きた鉄塔倒壊事件。あの事件の裏にこんなドラマがあったら…という仮定のもと描かれるミステリー仕立てのお話で、かなり読ませます。
私の二月は、三日足りない…という台詞が意味深な2013年の冒頭。
そこから始まる15年前の物語。
家族の死とともに姿をくらました少年と、
鉄塔からボルトを抜き取り、黙々とある場所へ運ぶ少年。
ある事件に巻き込まれた二人の運命と、互いを救いたいと思う気持ち。
元記者・若田を巻き込んでの脱出劇。そして鉄塔倒壊が起こり、真相は全て闇に葬られ…という話。
序盤は事件の真相をたどっていくミステリーとしての面白さがあり、
中盤以降は切ないラブストーリーやアクションの要素も出てきて息もつかせぬ面白さで
一気に読めます。
犯人側の実態(動機、組織など)がハッキリ説明されておらず視点が狭かったり、
見張りの男が甘すぎだったり、二人の行く末がそれまでの展開の割にご都合主義的だったりと、細かいところは気になるのですが、題材の斬新さと文章力で最後まで持っていった感じです。
個人的に印象に残ったのは、二人が寝た後のシーン。抱かれて「切ない容れ物」になってしまったと自分の身体を思う下りが甘いだけじゃなく切なさと痛々しさがあって好きです。
ラストは、二人の運命に関わり、秘密を背負ったまま生きることとなる若田と一緒に
ポツンと取り残されてしまうような、少し寒々しい読後感とともに「二月病」の意味を噛み締める…という単純にハッピーエンドでは終わらない作品でした。
前述の細かいところが気になるのと、その後二人を待ち受けたであろう厳しい現実がぼかされていた点がやや不満でしたが(『花嵐』はキレイに終わりすぎな感がありました)、
BLにあって大変斬新な設定に星4つ。この路線でもっと書いていただけたらと思います。
新書二段………開いた瞬間に掻き立てられました。
あ、これは、やられるなと。もちろん不確かな直感ですが。
まさかこんなに重い話だとは思ってませんでした。BLを読んでいることすら忘れそうになるくらい作品に引き込まれました。
登場人物の感情が苦しいほどにわかりやすく描かれているし、若田のキャラクターもいい。死を間近にして事件に巻き込まれながら愛情が恋情に近しいものだと気づく千夏。ずっと隠してきた想いがもっともっと募って、狭い小屋の中やり場のない感情に打ちひしがれる蒼司。
私としては、納経帳に綴られていた蒼司の感情にたまらなく涙腺が緩みました。ああ、こんなに想ってたんだなって。
ですが、蒼司の気持ちは本当によくわかるのですが。惜しいことに、私の頭が足りないのか、千夏の気持ちの変化が少し早すぎたんです。恋情を友情としてみていた、ホントの気持ちに気付かなかった。蒼司が失うかと思うとやっと気付いた。確かにそうなのかもしれません。でももっと欲しかった。千夏が蒼司を好きというまでに、蒼司がずっとずっと千夏を想って隠して苦しんできたその重い期間が描かれてるように、そこまでの過程をもっと長くして、もっとゆっくり鮮明に千夏の心情の変化・気づきがみたかったんです。
唯一わがままをいいたい部分はそこだけです。それがあったらこれほどまでに神作品に相応しいものはないかなと思います。
彼らにとって二月とは特別な意味を憚ります。もちろん、若田も含めて。
二月に起きた事件。空白の三日。閏年であると一番良くわからせてくれるのも二月。
最後は逃亡で終わりますが、その後の彼らを気にならずにはいられない。
尾上先生ご自身のサイトにアップされているSSと、後日談が含まれる同人誌も出してくれるそうなので、これからも追いかけていきたいと思います。
ある種、幻想的な作品、といったらいいのか。
四国の田舎で起きる唐突な事件、それにたった一人で向かう青年。
そしてそれを苦々しくも甘い思いで見つめる元・新聞記者。
およそ現実的ではないシチュエーションの数々なんですが、
無機質な鉄塔と、切ないほどの思いの対比が素晴らしい。
なんか映画でこういうのあったよなぁ~…と思わせる。
四国の片田舎で、高校生・蒼司は謎の集団に捕えられ、監禁される。
解放の条件はひとつ――。
ボルトを100本持って来い。さもなくば蒼司を殺す。
蒼司が「好きだった」と告白した相手、千夏はひとり、二月の寒空の下、
送電線の鉄塔に登り、ボルトを抜いていく。
尾上先生は期待の大型新人とされていますが、その筆致は一穂ミチ先生に似た
体言止めを多用しつつも、きわめて冷たい短いセンテンスで突き放します。
一穂ミチ先生の文体が優しく幻想的であるのに比べ、
尾上先生は冷めています。傍観者的に何の感情もなく、
まるで記録簿のように描かれているといったらいいか。
なんで、序盤は「入りにくい硬さ」を感じていたわけですが
御朱印帳の綴目に書かれた蒼司の言葉
これに心を突かれた!
つたない言葉
単語の羅列
しかし、その中に秘められたものはあまりに大きい。
あーーーっ、やられた!
淡々とした辛い文章はこのためにあったのか!
灰色の世界に、そこだけ万華鏡のような美しい世界があるって…
やるなぁw
千夏が冷たい鉄塔に登って抜いていったボルトは
御朱印帳に挟まれた「花」とつながり、鉄塔の高さが二人の想いのたけに見えてくる。
読みどころは、蒼司が囚われの身でボルトを毎日毎日受け取るプロセス。
淡々とした描写がかえって怖い。
あー、いっそ、アルベルト・モラヴィアの「孤独な青年」のように
すべて「自分の幻想・妄想だった!」って結末にならないかなー、と真に思ったw
さて、最後についている「花嵐」ですが
ムカつくことに、尾上先生、「二人のその後」は一切書いていない。
救いようがないじゃないか。
自分には二人のその後が、恋愛に浮かされた二人が現実に返ってしまう
ボルトを抜かれた鉄塔のように脆くも瓦解してしまう
そういう日がもう来ているんではないかと思うんです。
それとも、海に漕ぎ出した先で、二人とも遭難してしまうとか。
あまりに悲観的ですかね?
従来のBL観念を打ち破る斬新な作品ではありますが、尾上先生の今後に期待して☆3つ。
「この作品を書くために小説家になった。」という言葉を時々目にしますが、一作目にして、この作者のこの作品への熱い思いが全編から感じられ。
読後は、「久しぶりにいい小説よんだなあ…」という充足感でいっぱいになりました。
五條瑛さんの『プラチナビーズ』の雰囲気が少しあります。
BL小説というよりはJUNE小説に近い気がします。
だからなんでしょうか。新作なのに懐かしく。けれど、今までに読んだことのない発想と独特のキャラクターと少し硬めの文体と個性的な言葉選びと。
「小説を読んでいる。」という喜びをタイトルから最後の一行まで遺憾なく、感じさせてくれます。
もちろん、好き嫌いはあるかと思いますが。
あえて内容には触れません。
騙されたと思って。
ぜひぜひご一読をお願いいたします。
特に、「なんかパンチのある作品よみたいな。」とか「甘々はなんか食い足りなくなってきたなあ~。」とか「昔のジュネに載ってたみたいな小説よみたいなあ」という方には激おススメです。
ドラマCD化超絶希望!できれば映画も舞台もいいと思います。
骨太作品、万歳!
早く尾上さんの新作よみたいなあ。
作者さんの初の単行本。
これを読み終わった後、ひたすらに自分の気持ちは主人公達を見届けた若田の気持ちになり、まるで千夏が集めたボルトが一個、胸に埋め込まれたような感覚になりました。
実際に四国で起きた鉄塔倒壊事件、自分的にはその後のカルト集団事件に関連したもののほうが印象に残っていたのですが、その事件を題材にここまで物語を構想できる作者さんに素晴らしいと思いました。
場所が四国だけに霊場88箇所巡礼のお遍路も組み込まれており、またそれが主人公達の気持ちを表現するのに有効に使われ、思わず胸に訴えかけてくる真摯な想いもしかり。
片方が片想いをしている親友同士の千夏と蒼司、そして千夏と出会った事で彼等を見届けそして見送ることになったフリージャーナリストの若田。
それぞれの視点からがっつり2段組で表わされた若者の恋は、若者に背負わせるには余りに重たい現実を突きつけながら、しかし命より大事な片われで或る事を自覚したが故の固い結びつきが、あますことなくずっしりと描かれています。
「わたしの二月は3日足りない」若田を陥らせたその二月病は、一生治らない不治の病なのかもしれません。
もしもあの事件の裏にこんな真実が隠されていたら・・・
なんてかなり本格的なミステリーですっかり惹きこまれてしまいました。
坂出市の事件をモチーフにしているお話みたいで、読む進めるうちに事件を思いだし
ました、不思議な倒壊事件だったので未だに記憶に残ってました。
千夏と蒼司は高校3年で同級生の親友同士、千夏は幸せになりたいと運命の女性が
現われるのを待っているような感じで、今までも何人も女の子と付き合っても
何故か違うと言う思いが常にあるのです。
その日も女の子に告白されるが、やはり違うとしか言いようがなくて・・・・
見ていた親友の蒼司、憮然と嫌な顔をされるが、モテる自慢ではなくて
自分でも分からないが今までに出会った人では何か違うと心が感じてる。
そんな時、突然蒼司から千夏が好きだったと過去形の告白をされてしまう。
でも告白が過去形で今まで通り親友でいたい千夏は蒼司が悩んでいただろう思いを
感じるが、慰めるのも違うし、過去形にしての告白なのでこれまで通りに・・・
そして明日からも今まで通りの日常と親友との変わらぬ付き合いを信じていた。
しかし翌日から蒼司と連絡が取れなくなり、それが二人の運命の歯車が突然回り出す
蒼司はトラブルに巻き込まれ命の危機に陥っていて、それを助け出そうと千夏も
逃げられない呪縛の世界に巻き込まれていくのです。
その事件が起こったことによって千夏の自分でも気が付かなかった深層の思いを
どんどん自覚していくんです。
あまりにも切なくて死ぬか生きるかギリギリのところで葛藤していく若い二人
その様子を、元新聞記者が千夏と偶然出会い、千夏とは違う形で巻き込まれていく。
どうしていいにか分からない現実に立ち向かっていく二人
でもこれが最善の方法だったのか、本当に幸せになれるのか、ちょっと考えてしまう
かなりシリアスなストーリーです。4年に1度届くハガキが希望に思える。
元新聞記者が回想しながら過去を振り返る、拭えない痛みを抱えて・・・
この作品はじっくり読んで欲しいなと思う1冊でした。