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nigatsubyou
卒業を控えた高校三年生の千夏(せんか)と蒼司。ありふれた日常から一変、蒼司の両親が何者かに殺され、蒼司は誘拐される。高圧送電線の鉄塔を支えるボルトを100本外して届ければ蒼司を返してくれるとの言葉を信じて、千夏は毎夜鉄塔によじ登る。現場を目撃した元記者の男は千夏を咎めるが、警察に通報できないという千夏の決意にほだされ、共に事態に巻き込まれる、というお話。
内容が大変ハードで、八方塞がりで、どうなってしまうんだろうとものすごくハラハラしました。
瀬戸内海を舞台に繰り広げられるこのお話は、著者の最初の商業本のようです。なるほど、と納得してしまう面もありますが、非常に珍しい部類のBLと思います。
犯人がアジア系外国人ということしか記されておらず、逃げおおせたまま時効を迎えてしまいますし、当の二人もどうなったのか、どうやら元気でやっているようですが、杳として知れません。残された元記者の若田の心に大きな傷を残し、途中から登場することはなかったですが、千夏の家族や二人のクラスメートも深い悲しみに沈んだことでしょう。
完全に巻き込まれた恰好のメインキャラ3人。活路を見出すこともできず、なすすべもなく抗った唯一の方法は、二人で生き抜こうとしたことと、二人を守るために時効を迎えるまで口を噤んだことだけでした。ダーク過ぎる!
この切迫した状況の中、二人の幼すぎる恋や瑞々しい日々が描かれていて、その対比が鮮やかであり、また、蒼司の見張りをしていた男の事情と顛末が切ないです。
それはそれとして、一方で、本当にこうするしかなかったんだろうかと、読書中何度も考えてしまいました。若田は巻き込まれた大人として、もっとほかに出来なかっただろうか、とか。ただのサラリーマンではなく記者なわけですし、実際に後輩記者に連絡とったりしていることから、突破口が別にあるんじゃないだろうかと思ってしまうんですよね。
とはいっても、あの小屋をたとえ警察が取り囲んだところで、見張りの男しかいないから、見張りの男が蒼司を撃って自分をも撃ったら元も子もないのですが。
と考えると、やっぱりあの結末が最善だったのかなあ。
なんというか、切ない、でもなく、ツラい、でもなく、もちろん萌える、でもない。
ラブストーリーというにはちょっと若田の視点に納得いかず。
あれだけ犯人?と接触できているなら、高校生の二人には難しくても、元新聞記者ならもっと知恵を使えば?って思ってしまったので、そこから物語に入り込めなかったのが敗因かも知れません。
警察だって馬鹿じゃ無いんだし、駐在さんに言うなんてことじゃ無いんだから、いくら田舎とは言え県警にも話のできる人はいるだろうに。
そして、ボルトを持って行かせる時に買ったものを渡すとかさ…最後に鉄塔倒れるなんてことにならないようにできるのでは無いかなぁ。ま、この鉄塔が倒れないと根幹の実話部分が生きてこないのですが、そこに至るまでのロジックがなぁ。無理やり過ぎて。
が、出来ることがもっとあったはず、が彼の罪、病、ってことなのかもしれませんね。
そして、海を渡った二人が(多分、貧しくとも)幸せに生きているらしいことが救いです。でも、海を渡らずして幸せになれる道があったのでは?と思うとやりきれない。。。
ちょうど二月になる前日に手を取りました。
表紙からは想像がつかないようなハードでショッキングな内容でした。
前半での設定がめいいっぱい活かされた後半は怒涛の展開で夢中で読み進めました。
極限状態の中で芽生える恋心。こういう吊り橋効果的な恋愛ものは巷に溢れていますが、なかなか八方塞がりの重い内容で前半は息詰まりしそうでした。その中でかけがえのない存在である蒼司を助けるため、ひたむきな千夏の姿に心を打たれました。
若いが故に思慮に欠けるけれど、純粋な衝動と思いがけない余波、、。
歳を取ったせいか、2人の青い恋の結末より、切迫した中での一種の愛情表現という「行為」が引き起こした顛末の影響力の大きさに打ちのめされました。そう、忘れた頃にその存在は余りにも大きく立ちはだかります、、。2人の罪の重さに身震い。最悪の結末は逃れたのかもしれませんが。。
もっと若い時に読めば、もっと2人の気持ちに共感も持てて読後感も変わったかも。若田も今の歳に2人に出会っていたら、確実に2人を止めていただろうな。若田が良識ある大人であれば、2人の信頼は得られていなかったであろうけれど。
実際あった事件を題材に(ハード&ロマンチックに)脚色されたそうです。未解決事件のようで真相に色々な憶測がされていて気になります。その事件を全く知らなかったので、余計に驚きました。
色々な人の感想を読んでいると、組織が何故自力でしなかった等の意見もあるようですが、特殊な犯罪組織グループの破壊工作活動の意図は一般人には理解出来ません。小説でも犯行グループの意図は明かされず、未解決事件として終わっています。最終的に引き起こされた顛末を起こす事が最初からの目的で有れば、身バレしない様に自ら手をくださない事もあり得るように思いました。2人の行動も事件に巻き込まれた当事者として緊迫状態の中でした行動だと思うと、不自然では無いですし。。
圧倒的な読後感のある作品でした。タイトルの暗示する通り、しばらく引きずりそうです。「私の二月は三日足りない」と無意識に口ずさみそうです。処女作という事で恋愛心情描写にブレもあるかもしれませんが、四国という土地柄を生かした設定や文学的でありながらも、事実が淡々と語られる文体はとても良かったです。
すごい作品です。始まりからジェットコースターのように激しく揺さぶられる物語。冒頭は卒業間近の高三男子2人のシーンからはじまり、親友同士の片方が片方にいきなり告白して振られます。
その夜からが超展開。振られた受けの蒼司がとんでもない事件に巻き込まれ、命も危険な状態に。言葉は柔らかいけどかなり無神経な振り方をした攻めの千夏は失いそうになって初めて自分にとって蒼司がどんなに大切な存在だったかを思い知るのです。
この事件がドラマチックすぎて現実離れしている、と突っ込むのは野暮な話でこの話は「自分の今まで持っていた物全てを捨てて愛する人を救えますか?」というのがテーマだと思うので、迷いなく愛する蒼司のために自分の全てを捧げる千夏はカッコいいです。幼稚なお坊ちゃんだったのに愛を知った途端に大人びて男らしくなりました。千夏は愛というものがどんなものか全くわからなかったけどそれは自分のすぐそばにあったのでした…って童話の青い鳥みたいで深い。
四国を舞台にした物語でお遍路さんの風習が重要なエピソードとしてうまく生きていてとても魅力的です。若い2人の怒涛の恋愛を間近で見届けた語り手の若田は巻き込まれてしまって気の毒としか言いようがないけど。
どこかお芝居のような現代のお伽話のような戯曲のような…とにかくよく出来たお話です。読む価値あり。
「彼岸の赤」だったかを読んで、おセンチな感じが苦手だなあと思った印象のままの作家さん。何年か経ったので、まとめ買いしていた積ん読を消化しようと手に取りました。
後書きを読んで気づきましたが、こちらがデビュー作なのですね。やはり、と思うようなところがありました。
基本的には、青春の高校生同士の甘酸っぱい恋が書きたいのだと思うのですが、それを表現するために二人を犯罪に巻き込ませ、何度も同じ説明が繰り返されるので読んでいてまたか、と思うばかりで疲れました。
また、その犯罪の設定があり得ないもので、たとえば中国の犯罪者が、日本の工業用ボルトを盗むために仲の良い高校生の片方を拉致し、もう一方に盗ませるというもので、それくらいなら自分で盗む方が100倍速いよね、と思うともうダメでした。
やはり感傷的なタッチは変わっておらず、苦手意識がさらに強くなってしまいました。残念。
これから先、二月が来る度に、閏年が来るたびに、その地の名前を聞いたときに、鉄塔を見るたびに、異国の地でひっそり暮らす二人を思い出すのかと思うと、本当に不治の病みたいだ。いつまでも心の奥底に残るようなお話でした。
至って普通であったはずの二人の日常がある日崩れて、緊張の中で少しずつ千夏の気持ちがはっきりしてくる。蒼司の為にボルトを運ぶ千夏や蒼司の恋する気持ち、恐ろしい現実もどこか美しく見える。文章や挿絵を通じて、恐怖や焦り、どうしようもない恋の熱の交じる二人の世界が恐ろしいほどリアルに感じ取れました。
普通の高校生だった二人が、あんな目にあった二人が、やっと気持ちが通じ合った二人が、あれからどうやって生きているのか……とか、そんなことをこれからもずっとふとしたときに思い出すのだろうと思います。読み終えた後にもう一度冒頭を読んで、やられた!と思った。すごすぎる。
ノンフィクション・ノベル。読みにくかったです。冒頭、若田という元新聞記者の男が、ある時効になった事件の目撃者(一当事者)として交番に通報するシーンから始まり、それから過去に遡って物語の核となる殺人、監禁事件が紐解かれていく構成となっているのですが、それが現実なのか若田の妄想なのか、終始モヤ〜っとしていました。最後も、もしや夢オチでは?などザワザワと雑念が浮かび、個人的には世界に入り込むのが難しい作品でした。タイトルに「病」と付いている点も曖昧さを加速させます。夢現物のような効果を狙っての作家さまの演出なのだとしたら、凄く効いているなと思います。
実を言うと、事件と蒼司の恋を絡めたところにそもそも無理を感じてしまってました。。。どっちかにしてもらった方がアホなわたしには作品に入りやすかったのかもしれません。登場人物それぞれの視点でドラマティックな心情が綴られていますが、思いが強すぎてなんだか自己陶酔しているように見えて、ちょっと引きました。シリアスなテーマ故か皆切迫していて独りよがりで、人物同士心が通い合っている感じがしないというか…。でも、日常が突如壊されてしまった特殊事態なんだ、高校生だから若さ故の暴走なんだ、と安易に片付けてしまうのは惜しい程の挑戦的な作品だと思うのです。
「藪の中」手法なのかとも思いましたが、そうでもない。かといって若田が物語を総括する語り手の立ち位置とも認め難く。(おそらくその役割を担っていそうだけれど。)蒼司の気持ちも、千夏の気持ちも痛い程表現されているお遍路の件りは切なくてきゅーんとしました。けれど千夏の方は事件のドサクサに紛れて気持ちが一気に盛り上がっちゃって、おいてけぼりを食らった感が…。彼の蒼司を思う気持ちが同情なのか恋情なのか、パニックによって隠された思いが表面化したものだったのか。心理的カオスを描きたいのであったのならなんとなく分かるような気もするのですが…、個人的にはBLを読む時はストレスフリーが理想なので読むこと自体に気を揉むのは本意ではなく、正直最後まで読み終えるのが苦痛でした。ひとえに当方の読解力と作家さまの作風との相性の問題です。
作家さまの表現法や取り上げるテーマの変遷を見る楽しみもあるので、人気の高い最新作に辿り着くまでぼちぼち他の作品を読み進めて行きたいと思います。
文章がやや拙く、ところどころ読みにくいところもありますが最後まで退屈させない展開で、一気に読んでしまいました。
ストーリー自体が似ているわけではありませんが、中原みすずの「初恋」的な雰囲気です。(10年くらい前に宮崎あおい主演で映画化してます)
読み始めは千夏は嫌な男だと思ってました。が、読み進めていくうちに考えが変わった。人を好きになることを覚えた彼はとても素敵でした。奇しくも拉致事件をきっかけに、千夏は蒼司への恋を自覚していくんですよ。自分が犯罪に手を染めてるとか、家族が心配するとか、そういった後先のことよりも、ただひたすら目の前の蒼司を助けたい、とボルトを集める彼の姿に涙が出ました。無鉄砲というか、何というか。
見張り役の人って結局どうなったんだろ?
評価については迷いましたが最後がちょっと…。エピローグは、その後の二人の話かもしくは若田のその後が良かった気がします。
尾上さんのデビュー作です。
新人さんが出て来た、と当時表紙の美しさだけで購入したまま積ん読。
そのまま新作が発表されるたびに、何となく買い続け、やっとタワーを崩す気になったんですが……。
早く読んでおけばよかった……っっ!!!
文章が少し硬質な感じで、読み始めた最初のあたりは失敗したかなぁ……と思ったのですが、読み進めていくとあれよあれよという間に引き込まれ、読後に長いため息がひとつ出ました。
一言では言い表せないような、何とも言えない余韻です。
これをハッピーエンドと取るかは人それぞれですが、私はこのモヤモヤ感が気に入りました。
そしてその後に続く短編が、受の苦しい気持ちが綴られていて、本編を思い返すとじわりと来るものがありました。
美しい言葉が並んでいて、非常に心地よいです。
サスペンス風味で、実際の事件をモデルに話を作られていますが、あの当時の事件を元にして、ここまで書ける才能に拍手を送りたい。
そして自分自身、あの事件で予定を狂わされたので、どんな風な結末になるのか気になって前のめりに……。
受が攻と行ったお遍路で、納経帳の隙間に書き連ねた思いの欠片が延々と出てくるシーンには、思わず目頭が熱くなりました。
どんなに受が攻のことを好きなのかが、痛いほど伝わってきます。
そしてそんな受の気持ちに気づかなかったどころか、持ち前の無神経さで優しく傷つける攻が憎たらしい。
私の中でどうもこの攻の性格や背景設定が好きになれなかったので、神評価には至りませんでしたが、受がもうもの凄く健気。
強気なのに健気というお得感。
そして脇でありながらも、実質主役と言ってもいいような若田が、物語を引き締めてくれています。
文章は少し読みにくいというか、癖があり粗削りな感じがしますが、これが書きたい!! という作者の強い思いが筆に表れています。
最近は文章は上手だけど話が無難で面白くない新人さんも多いので、このくらい大暴れしてる話は新鮮で非常に良かったです。
あらすじは割愛させていただきます。
まず軽いネタバレですが、メリーバッドエンドです。そして、ひたすら低いテンションが続きます。
苦手な人は苦手だと思います。
しかし、テーマ性を以て伏線が張られているために分かりやすく、物語が進むにつれ受け攻め双方の愛情がだんだんとかみ合っていくさまが丁寧に描かれています。
細かい設定が曖昧という感想も多いようですが、恋愛モノとして読むには十分な情報はあり、基本的には学生の主人公視点で進むためそこまで違和感は感じませんでした。
とても良いラブ・サスペンスとして読めました(・ヮ・)