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yoshihara sinjuu
作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます
大正浪漫「帝都万華鏡」シリーズの5冊目、
本編4冊は京介×琢磨、紘彦×春洋の2カップルの話でしたが
今回は番外編、春洋の兄の物語で、独立した話として読む事ができます。
栗原薫に「泉鏡花のような、といっては褒めすぎながら、現代のBL作家の持たぬ
こってりとした味わい」と評された濃艶な文章が大きなの特徴の作者ですが、
シリーズ1冊目の「桜の頃を過ぎても」あたりは生煮え感があって
かなり読みにくかったのが、流石に途中に別シリーズを挟んでの8冊目になり、
熟れてきた感じがあります。
大正時代の東京の景色、江戸の言葉、花魁の言葉、吉原の風俗などが、
文体や今市子さんの挿絵と相まって、独特の雰囲気を醸し出しています。
大きな遊郭の長男として生まれ、屈折した想いを抱きながらも
表面は愛想の良い顔で生きる夏洋。
遠巻きにする人々を冷静に見切って、実は人間に飽いている。
物心つく前に楼に引き取られ、
夏洋の小さい頃から子守りとして奉公人として仕えてきた久助。
無口で律儀で賢いが、自分の感情にも人の感情にも疎い久助が、
自覚できないままに抱く恋心に嫉妬する夏洋。
夏洋にとって久助だけが、自分の世界に寄り添ってくれるただ一人の人間なのに…
物語は前半が夏洋の視点で、後半が久助の視点で語られ
想いのすれ違いが、両面から立体的に描かれます。
ストーリー自体は大きく心揺さぶられる程の面白さではないのですが
世界観や緻密な描写が美しく、独特のエロティズムに彩られた物語が
一時違う世界に誘ってくれます。
ラブ〜♡萌え〜♡というのともひと味違う、その世界で生きざるを得ない切なさ、
生きる哀しみと人と繋がることでの救い…、が沁みてくる佳作だと思います。
シリーズ五作目の舞台は、大正デモクラシー以前の吉原。
既刊とリンクしていますが、本書単独でも読むことができます。
吉原遊郭の跡取り・夏洋(攻め)と、四歳年上の奉公人・久助(受け)。
久助に密かな欲望を抱く夏洋は、ある夜思い余って久助を犯してしまう。
それから数年後。夏洋が楼主となり、何事もなかったかのように見世を切り盛りする二人だが…。
第一章は青年期の夏洋視点、
第二章は数年後の久助視点です。
子どもだと思っていた夏洋に抱かれて以来、事あるごとに彼を意識してしまう久助。
すっかり大人になった夏洋を前に、一度だけの行為を幾度となく思い出す久助が切なくも色っぽいです。
夏洋は、優しい仮面の下に冷酷な一面を隠し持つ、歳のわりにかなり老成した人物。
女を売る家業を若くして継いだ彼は、驚くほど淡々と仕事をこなしていきます。
感情が欠落しているのではなく、中途半端な優しさが遊女の為にならないことを知っているのだと思います。
そんな夏洋も、かつては燻った欲望を久助にぶつけたり、腹違いの弟・春洋に冷たく接したりと未熟な時代があった。
夏洋を成長させたのは、犯されても尚自分に仕え続ける想い人への罪悪感と自制心だったのかもしれません。
派手な展開はありませんが、年下攻めの成長と年上受けの不器用な可愛さを堪能できる良作かと思います。
キャラクターとしても、一人称「あたし」のインテリ楼主と、ござんす口調の年上奉公人という組み合わせがまず良いし、夏洋の年下とは思えぬカッコよさには久助でなくともクラクラしてしまいます。
夏洋が久助の前でだけ、一人称を「俺」に戻す場面にもドキリとさせられました。
続編がなく、その後の二人は既刊(主に二作目)でちらりと登場するのみなのは残念ですが、本書ラストの会話が今後の二人の生き方を暗示しています。
「吉原が終わるなんざ、縁起でもねぇ。そんなこと、お天道さまが西から上がってもありえねぇ話じゃねぇですか」
この久助の言葉通り、迫りくる時代の波にも負けず、大正の吉原を二人でしぶとく逞しく生きていったのでしょう。
シリーズ中、最も心動かされ萌えを感じた一冊でした。神寄りです。
「帝都万華鏡」シリーズのスピンオフ、「秘話」です。シリーズとしては5作目。
本作の主人公は、横山夏洋(なつみ)。
シリーズ2・3作目のCPである横山春洋の兄で、吉原の東雲楼楼主です。
時間軸は、夏洋が中学部の学生だった頃から3年ほどの間。春洋はまだ子供の時分です。
このシリーズなら、1作目のメインCP・高市京介の長兄・大介と高市家家令の伊部との関係性が描かれるか?と思いきやの、まさかの夏洋ターン…
久助(きゅうすけ)は、子供の頃から4才年下の東雲楼の跡取り息子・夏洋の遊び相手、兄やとして、そして現在はなんでもこなせる有能な奉公人として東雲楼で働いている。
「帝都万華鏡」第1作で、東雲楼の花魁・明里(あけさと)の肖像を描く絵師に淡く惹かれる久助の姿がありましたが、本作ではそんな久助に苛立ち、執着していく夏洋の姿が描かれます。
一度は無理やりに久助を犯す夏洋。
その後視点は久助に移り、それ以降何事もなかったかのような夏洋の態度に苦しむ久助が描かれます。
学業を断念して吉原の家業を継ぐ、それはつまり女の苦界を食い物にして生きるという業を背負う夏洋の重圧を理解し、やはり夏洋のそばで支えたいという想いを抱く久助。
ある夜遂にこれまでの夏洋の本心と久助の想いが重なり合う…
「帝都万華鏡」本シリーズではほとんど感じられなかったが、春洋の兄・夏洋にもこんなドラマがあったのだ…という感慨。
春洋もおそらく、夏洋と久助の間の感情の流れに気づいてないのかも。
絵の世界に自由に漕ぎ出て行く春洋に対して、長男として家業を継ぎ楼主として才覚を見せる夏洋。
だが女郎屋の家業をしのいでいくためには、情のない自分でいる必要もある…そんな大人の夏洋が秘めている激情。
抑えて見せない「情」が心の内で燃え盛る。そんな表現は非常に私の好みで読み応えがありました。
春洋の兄、夏洋と久助のお話し。シリーズ5作目。
春洋編でちょこっと登場した久助の恋。顔がよく似た売れっ子花魁と、同じ絵描きの先生(男)を好きになった久助だが、自覚もないまま一途に心に秘めた恋だった。
そんな久助を、幼い頃からずっと好きな夏洋。商才がありなかなか切れ者の夏洋は、実家の老舗遊郭を切り盛りするようになる。しかし、自分の気持ちはなかなか素直に出せない。
一度無理矢理久助を襲ってしまう夏洋。だが、気持ちがなければ意味がないといったん離れる。しかし、だんだんとほだされ、恋愛の自覚も出来出来た久助とハッピーエンド、というストーリー。
個人的にあまり萌えどころがなかったなあ。シリーズは全部雰囲気が好きで読んだけど、やはり京介×啄馬が一番良かった。
久助が夏洋を好きになった課程が分からないところが一番のネック。一応、一家の主に育った夏洋に男性としては尊敬するようになったのは分かるが、それが恋愛になるかどうか、というところが弱い。
京介よろしく、夏洋の痛々しいまでの片思いはせつなくてよかった。