snowblack
志緒、大学4年生の夏休み。
彼は家族とともに沖縄に旅行に来ている。
本編で生まれた妹美夏も、もう来年は学校に上がる年齢だ。
偶然職場の親睦旅行が同じ時期の沖縄に重なった桂と、南の島で一日だけのランデブー。
離島の空港に迎えにくる志緒、降り立つ桂。
家族が出払った明るい昼間のコテージで抱き合った後は…
桂が「珊瑚の骨を踏んでいるようで申し訳ない」というシーンが好き。
志緒の研ぎすまされた鋭さとはまた違うのだが、
彼もまたこういう生きにくい繊細さを内に抱えている。
何げない行動やセリフから、二人が何故こんなにも惹かれ合ったのかが伝わってくるのがいい。
桂が転勤していてもう志緒の母校にはいないことも、この同人誌を読むと分かる。
出会った時から早7年、3つ年上の栫達も桂に教わっていたことを考えると、
転勤しているのは至極当然なのだが、
こうやってサラリと知らされると、二人がちゃんと日々の生活を営みながら
年齢を重ねているリアリティがあって、なんだか知り合いの近況を聞いたような気分。
こういうところも、上手いなー。
『雪よ林檎の香のごとく』同人誌5冊目。
沖縄で落ち合う二人のお話。
家族旅行の志緒と、職場の慰安旅行の桂。
偶然にもお互いの日程と場所が丸被りで、1日だけ、一緒に過ごします。
ただそれだけの設定でもキュンと来ちゃう。
静かにコッソリと、人目を盗んで二人で蜜な時間を……と考えると、正にタイトル通り。「ランデブー」以外の言葉が思いつきません。
沖縄に行った事のない私にも、一穂さんの綴る言葉のおかげで、沖縄での二人の情景が映像として思い浮かべる事が出来ました。
じりじりと照りつける太陽。
志緒一人で泊まっているヴィラ。
空と海しか見えない景色。
砂浜に転がる珊瑚。
二人で握る手。
いつもと違う、異空間のような逢引だからこそ、その熱がふと下がった時に思い浮かぶ現実が、物悲しく襲ってくるのだろうな、と。
そんな特別な時間だったからこそ、浮かんで来たその先にあるもの。
お互いがきっといつしか必ず思うことで、でも口に出して共有することだけは避けたい。
心に留めておくだけでいい。
そんな、本当に「いつか」の話。
作中に出てきた、「トータル7年のお付き合い」という言葉を見て、少しジンと来てしまったのは私だけでしょうか。
あの北海道のあのときから、もう7年。
色々当たり前のことも当たり前じゃないことも、一緒に過ごしてきた7年。
日常はいつもどこかで必ず何かに縛られているのだろうから、だからこその、沖縄での甘い甘い短い時間は、きっとずっと心に残るんじゃないかな、と思えてなりません。
いつかを重ねて、先が見えていても、一緒に過ごす時間の甘さが多い事を望んでやみません。
そんな、沖縄と二人の熱さが詰まった、短い逢引でした。