条件付き送料無料あり!アニメイト特典付き商品も多数取扱中♪
tsumibito no hana
ずうう……ん、と腹の奥底に重く響く作品です。
何しろ、設定が苦しい。
妻と死別し、男手一つで保育園児の娘・羽奈を育てる機械工の北川。
だが、芋掘り遠足の日、飲酒運転の車と園バスが衝突し羽奈は車外に投げ出される。
羽奈を喪った北川は、弔問にやってきた保育士の氏家に八つ当たりのように、償うというなら穴を貸せ、と…
このように、2人の始まりはレイプと恫喝、バラすぞという脅しで始まりますが、比較的すぐに北川は氏家を大切に扱い始め、彼の存在に寄りかかっていくように。
本作は、表題作の「つみびとの花」とその後を受け視点で描く「苦しい息もたえだえに」の2編で構成されていますが、この両編を読んではじめて展開に納得のいくような作品だと思います。
例えば、氏家は羽奈と同じく喘息で、発作が始まる氏家に対して北川が娘にしてあげたのと同じ処置をしてあげる、そしてその行為を驚きと泣けるような気持ちで受け入れる氏家の姿がありますが、これは「苦しい〜」の方で明かされる氏家の子供時代に受けたネグレクトと虐待体験に重なってくる…
この哀しい子供時代を持つ氏家が、北川の優しさにほだされてラストのある種唐突な「あなたがすき」発言につながりますが、これも後半に明かされる氏家と婚約者との関係性と関連している…
何より北川に降りかかった不幸が大きすぎて読んでてつらい…
どん底にいる北川の脳裏に浮かぶのが聖書の一節であったりハイネの詩だったり。インテリでも教育関係者でも宗教関係者でもないのに。それがより一層哀しい。
続く「苦しい息もたえだえに」は、氏家視点。
孤独な北川と生きづらさを抱える氏家の寄り添い合う姿。
氏家はもう1つの試練・婚約破棄をも乗り越えます。北川の与えてくれた暖かさに力をもらったのでしょう。
「娘の死」という現実を氏家と共に少しづつ乗り越えていく北川と、居場所を得た氏家の2人。読後感は悲しみではありません。少し暖かく、少し日が差して、少し幸せな。
基本的に自分は、一度読んだ小説は、気に入ったシーンのみを繰り返し読むことはあっても、最初から通しで読み直すことはしないのですが、この小説は最初から最後まで通して読むということを何度もしています。
内容もさることながら、何より文章が好きです。
ぱっとした派手さはないですし、全体通して仄暗い雰囲気が常に漂う話なのですが、じんわりと胸にくるものがあります。
前半は攻め視点、後半は受け視点、2編ある本編のその後の話は攻め視点、と視点がそれぞれ変わります。
物語の序盤、主人公北川(攻)の最愛の娘が、乗っていた園のバス事故により亡くなります。もうこの時点で主人公に感情移入しすぎてしまい胸が張り裂けそうなほど苦しいです。娘の羽奈ちゃんが良い子だけに余計…
家族を亡くし、妻にも先立たれ、追い討ちをかけるように娘も…北川の苦しみは計り知れません。
そして、その園バスを運転していた氏家(受)は責任を感じて、花を持参し北川の家を訪問するのですが……
基本的に自分はレイプから始まる話をあまり好みません。というのも、レイプってどう考えてもそう簡単に許せるような行為じゃないわけですよ。男なら余計。でも大抵の作品が、レイプから始まったにも関わらず割とあっさり受けがその事実を呑み込んで(許して)、はいハッピーエンド♡って、んなわけあるかい!って思ってしまって。
でもこの作品は、ほぼレイプの様な関係から始まるにも関わらず、どっちの気持ちも理解できるというか、いや、最初に北川が「穴を貸せ」言ったときはさすがに ええっ…って思いましたけど、氏家の気持ちの移り変わりは割とすんなり理解できたというか…
ただ、この受けが少々曲者で、攻め視点だからしょうがないですけど、なかなか気持ちが見えてこないんですよ。北川に惹かれているのは言葉の端々で感じるのに、掴めそうなところですり抜けていくというか…
だからね、歩道橋の上のシーンは本当にジーーンとしてしまって、何度も読み返しました。
けど、くっついたと思っても、それで終わりじゃない。
その後も、もうね、なんでこんなに2人を苦しめるのって何度思ったか知れません。
でも読み終えた後の読後感はすごく爽やかです。
なんでこの小説が好きなのかなー。って考えたのですが、この作品に出てくる登場人物が、みんなすごくリアルなんです。
職場の上司の奥さんとか、前園とか、あー、いるいるこんな人って納得できるっていうか…
こんな人いないだろwって人が1人もいない。みんなちゃんと生きてる人間だなーって思う。
佐田さんの文章、ほんと好きだなあとしみじみ思いました。
静かに泣かされました。
初っ端から、北川が唯一となった家族の娘を事故で亡くすという悲劇から始まります。
北川の過去が既に凄惨なもので、愛した妻も亡くし、たった一人の大切な娘ですら失う絶望。
どれだけ傷付こうが、苦しくて息が出来なくなりそうでも、時間は平等に巡り、必ず朝もやってきて刻一刻と時を刻んでいくその中で感じる孤独。
氏家は運転していた、その事故の当事者として重い責任を感じ、こちらも苦しんでいます。
氏家にも凄惨な過去が有り、愛されない絶望を知っています。自分だけの温かい家族という憧憬も強くあります。
仲睦まじい親子を、憧れていた家族を自分が壊してしまった(と背負い込んでいる)過ちから、北川に虐げられても償いだと受け入れる氏家の苦しみにも泣かされました。
お話の中で何度か出てくる、夜が明けていく空の色は、彼らの悲しみや苦しみが徐々に緩和されていく過程のように思えました。
時間と、そしてお互いの拙い人肌という温もり。ぎこちなくはあったけれど、当たり前のように差し出される思い遣りや気遣い。それらが、北川と氏家それぞれの抱える痛みや哀しみを、静かにゆっくりと薄めて夜が明けていくんだなぁと。
ジワジワと胸に突く、北川と氏家の孤独や愛情に飢えた幼少期、事故の被害者と過失者という立場、それぞれが抱える苦しみや哀しみに、とにかく終始涙がはらはらと溢れていきました。
嗚咽が漏れたり、声を上げるのではなく、本当に静かに泣かされました。
そういう意味では凪いだ切なさを孕んだお話です。
でも、静かな真っ暗だった夜から、少しずつ明けていく東の空のグラデーションのように、ゆっくりと二人が闇から這い出し、歩み始めていくという表現に、痛くて切ない話で終わるんではなく、ある種の爽やかな読後感を味わいました。
傷の舐め合いなのかも知れませんが、北川は庇護できる存在を、氏家は自分が大切にしたいと思う家族(人)を求め、お互いに優しく思い遣る関係を築いていたんだと思います。この先、この二人にはたくさんの障害や繰り返す哀しみ、苦しみがあるだろうけど、ゆっくりと二人で肩を並べて歩いて行くのだろうなぁと想像できる、優しいラストでした。
自分の当たり前のように存在している家族を大事にしていきたいと思わされました。
というか、きちんとしている?というか、
もはや純文学、
くらいのきちんと組まれたプロットを感じました。
二人の気持ちの時間軸にずれがあって、
(憎しみから好意にかわるまでの)
その時間差、温度差にリアリティーがある。
北川目線で読むので、前半は2回絶望を味わい、
やるせない気分になります。
後半はようやくじわじわ幸せになるんですが、
ほんと牛歩のごとく、いこかもどろかみたいな感じで、
ちょっと浮上しては落とされて、みたいな…
氏家の愛情表現が乏しいというか、
北川への遠慮がすごく、自己評価が低いので、
決して好意がないわけではないのに、
なかなかもどかしいです。
あと、この作者の方、他の作品もですが、
なかなか昭和枯れすすき的なわびしい雰囲気の描写が上手いので、それがさらに寒々しく感じさせてくれます。
だからこそあたためあう二人みたいな、
お互いがお互いしかいない、みたいな。
重いは重いですが、
なんだか読み返したくなります。
がんばって坂を登れば、
ある時点から下りで楽になるから、
それを味わいたい、変な中毒性がある。
時間長くなりますけどw
大変評価が高い作品なので、秋の夜長感動を求めて読みました。
家族の中で疎外感を感じながら育ち、大人になってようやく築いた自分の家庭だったのに
妻に病で先立たれ、シングルファザーとして保育園に通う娘を一生懸命に育てる男。
それなのに、無惨にも突然の事故でその宝物であった娘も奪われてしまう。
果てしない孤独。
これでもかと失い続ける男は、混沌とした暴力的な衝動に突き動かされて
娘の通っていた園の保育士を強姦する。
はじまりはそんなやりきれない交わりだったが、
やがてお互い温もりを手放したくないものと感じていく。
男が、そんな始まりの相手を大切にしたい優しくしたいと思う様は、せつなく心打たれます。
受けもまた、不幸な育ちの中で孤独を抱えてまるで修道僧のような暮らしをしている。
攻めの理不尽な要求にも、あたかもそれが自分に課せられた罰のように受け止める。
でも、それでもそこまで誰かと密接に触れ合った経験がない受けの心は
この強烈な出会いに動かされていく。
最後にスーパーで受けの義母がとった行動。
この場面や攻めが作ったお弁当など、主人公達の愛とは関係ない場面が心に残りました。
:
全体に良かったのですが、いざ評価する段になると難しいです。
心を動かされる話だったと思うし、新人さんとは思えない筆力だとも思うのだけれど
一言で言えば、私がBLに求めているものとは違うということだったと思います。
挿絵もなしで、一般書として(としては弱いかな?)読んだら違ったのかもしれません。
(心は動かされた+でも趣味じゃない)÷2=…ということで、中立にします。
私、ファンの多い木原音瀬さんが苦手なのですが、その苦手さとどこか通じるかもしれません。
ただ、木原さんの作品に比べるとインパクトが弱くひねりもないので、
スラスラ読めるかと思います。
そこが良いような悪いような、でしょうか。
自分の娘を失う。
どれほど辛い事だろう。
私にも娘が2人いるので人事ではない。
親より先に子どもが死ぬということは親は身を切られる想いだ。
毎日の日常は色の無い世界だろう。
自分も死へ行こうかと考える事は 大事な人を失った誰もが思う。
この世には娘も妻もいない。
「ひとり」の現実。
辛く寂しい喪失感。
何もかもが空想ではないかと子どもを捜す。
この主人公のやりきれない想いが心を打つ。
だからこそ これからの人生を愛する人と歩んでいって欲しい。
必ず泣けると言う高評価作品だから、期待を胸に取って置いたのです。泣きたかったから手にしました。
「北川」の一人娘を亡くした喪失感や絶望感は、想像して果てしないです。
誰を恨めば良いのか怒りの矛先も見えない。
茫然自失の内に葬式が済んで、気が付けば1人ぼっちで骨壷を前にしている。未来は無い絶望しかない。
そんな時に、体を震わせ頭を下げた「氏家」が、心ならずの慰謝料を持って来てしまった。
細かな背景や心情が、紙面からずんずん伝わってきました。
北川の悲しみや怒りを思うと、誰かにぶつけ壊してしまいたくなるのも分かります。
それが、1人ぽっちの悲しさを知る氏家だったから“理不尽”でも北川を受け止めたんだと思うのです。
北川の、加害者が得る“ある種の充足感”が、留まったままの自分を動かす燃料となり、被害者の氏家を思い遣る気持ちも湧かせていきます。
負の感情が別の負を覆い隠そうとする図が浮かんだんですね、北川と氏家の両方に。
そして、北川が揶揄した、ヨブ記の「主は与え、主は奪う」
善人で家族に恵まれ金持ちのヨブが一瞬で全てを失って、それでも神を崇めたというあの話。
ここで、
「無が全って事なんだろう?」
「“我が神、我が神、何故、我を見捨てたもうや”の方じゃないか?」
と逡巡する自分に、作者はその直後、氏家に「好き」「とても好き」と告白させました。
北川も(自分も)救われる希望が、心にじわじわと浸透してきます。
表題作は、北川と氏家がお互いの気持ちを確かめあう迄。
【苦しい息もたえだえに】は、
主に、氏家と婚約者家族の悶悩の部。
同性愛・・・刹那の関係だからと、沢口や当事者のまどかが嫌悪するのは仕方ないです。
(【どうしても触れたくない】を思い浮かべた)
でも、氏家は北川をきっぱり取ってくれた!潔い清々しさが良い!
北川側の、同情する周りのおせっかいのあれこれ話も、小説に現実感を出しているのだと思います。
悲しみは消えるものではないけれど、薄めてくれるものはあるんです。救いがあって良かった。
ちゃんと心の中で泣いたと思います。有難うございました。
深い作品でした。
シングルファーザーである攻めが、いきなり娘を事故でなくしてしまうところから物語がはじまります。
どうしようもない悲しみの中で、「本当は責任はないけど少しは責任のある男」をレイプする。攻め本人も、自分のしたことが無茶苦茶なことだというのを自覚している。
最初はやり場のない感情(悲しみ、怒り、苦しみ、その他ぐちゃぐちゃの名前もつけられないような感情)のはけ口でしかなかった受け。
でも受けは娘と同じ喘息の病気を持ってて、その看護をしたことから、攻めは受けを「娘の身代わり」として慈しみはじめた――ように思えました。
後半あきらかになってくる受けの半生も相当過酷なもので、読み進むうち、この二人が惹かれあった理由が分かる気がしました。
受けもまた、「親の愛」に激しく飢えてる人間だったのだ。
二人ともはっきり自覚はしてないけど、互いに求めるものが一致してたんだなって思って。
もちろん性的な関係があるわけだから親子愛じゃないし、恋愛感情も芽生えてくるんだけど、それ以上に「子供を慈しみたい気持ち」と「親から慈しまれたい気持ち」が合致して、ゆえに余計に惹かれあったんじゃないかなって。
読んでる間ずっと胸がちりちりと痛かったです。
ノベルスでしかも二段組み…本を開いた瞬間に怖じ気づきましたが、みなさんのレビューを信頼して読み進めること数ページ。
そこでもう、二段組みなんて苦ではなくなるくらいお話にのめり込んでました。
主人公の二人ともが不遇の人生であり、その人物の背景が暗くてそして深いです。
物語を彩る周りの人たちも、個性的というか…本当にお話の中で生きてるんだなと感じる自然さ。
こういう人いるいる…!と感じるリアリティがありました。
お話はこれでもかというほどの不幸とやるせなさ。
設定自体がずるいくらい悲しいので、泣くものかと悔しくなりつつ…
やっぱり涙を我慢できませんでした。
ずるいです。こんな設定じゃあ泣ける話になるのは必至…!
でも、本当に泣ける話に出来るのは佐田先生の文章力の成せる技なんでしょうね。
なんだか、雰囲気がBLではなくJUNEのようで、昔っぽさというか…
なぜか懐かしい気持ちにもなってしまいます。不思議。
ハッピーエンドが当たり前で、ほんわか明るいBLが好きな方には合わないかもしれませんが、たまにはこんな深くて暗くて切ないお話もいいものです!
涙と鼻水で、お顔ぐしゃぐしゃになるし。
まず、いきなり男手一つで育てていた一人娘が事故で死にます。
初っぱなから泣かされレベルMAXのネタです。
その後、一度ゆるんだ涙腺はノンストップダダ漏れ状態のまま。
それでも、それが、別にイヤじゃなかった。
多分、北川の性格が、後ろ向きだったり、自分の悲しみに酔ったりするタイプだったら、こんなに気持ちよく泣けなかったと思う。
北川の優しさや愛が、この作品を、ただのお涙頂戴の詰め合わせにさせないでいるのかな。
秋の夜長に、しっかり泣く準備をしてからどうぞ。