東雲月虹
why don't you
『雪よ林檎の香のごとく』で
志緒が“ゆうき”を札幌へ見に行き、桂も追いかけて来て
帰りの飛行機からのお話。
ホテルに泊まったけれど何もせず
「起きたらキスしていい?」って桂は確かに言ったのに
起きてもご飯食べても身支度しても
一向にキスしてくれる気配がない。
学校は学園祭で、今しか出来ない経験なんだからと
親に「学園祭が終わってから帰します」と言ったそうで、
11時前くらいに二人で学校へ着きます。
病院に行っていたと連絡していた桂は
遅刻したのを口うるさい先生にちくちく言われ、
自分のした事が原因なのに、不甲斐なさを感じる志緒。
その後女子生徒にまとわりつかれてる桂を見て
独占欲を自覚してしまい
自分のそんな感情に驚き、
もう考えたくなくて学園祭後も一生懸命片付け
普段生徒が立ち入らない職員用の通路を通ろうとすると
ひとけのないところでキスをしている男女が…。
そこへ桂がタイミング悪く現れ、
「かわいいかわいい」と余裕の発言をします。
志緒にとっては同年代のそういう場面を目の前にしてしまい
動揺しているというのに。
自分の目線では決して感じない桂に
怒りにも似たような感情が溢れ、
衝動的に桂の耳を齧って逃げます。
運んでいた途中のパンパンなゴミ袋2つを置いたままw
送り届けて、親に一言挨拶するつもりの桂でしたが
手をざっくり切ってしまった女子生徒の
病院への付き添いで一緒に帰る事が出来なくなります。
帰宅後志緒は泣いた美夏をあやす為散歩に出ると
付き添いが終わった桂と道で会います。
美夏に「…こんにちは」と話しかける桂を見て
本編で“ゆうき”を見に行こうと決意した時の自分と同じ言動に涙が…。
で、結局キスはまだw
耳を齧られあっけにとられた桂は真っ赤になり
その場から動けなくなるのですが、その
桂視点の『Spider's web at dusk moon on the ground』、
キスしなかった(できなかった)理由と
「叶うならばいつでもどこでもしたいです当方、」って!!
たった1P分ほどの、桂の大人ゆえの苦悩に
激しく共感してしまいました。
あーあ、志緒にはそれこそわかんないんだろうな…。
そこがまた可愛いんですけども。
齧った後「……キスしろよ、ばかやろう」の捨て台詞に
「キスするぞ、ばかやろう」と心でつぶやく桂。
なんというか、こういうサラッとしたセンスが
たまらないミチさんなのでした。
「雪よ林檎の香のごとく」の番外編、本編の翌日の物語。
新千歳で一泊した志緒と桂が、飛行機に乗って帰京するところから物語は始まる。
心が通じあったものの、何もなく過ぎた夜。
志緒の頭の中を、寝る直前に桂が言った「明日の朝起きたら、キスしてもいい?」という
セリフがぐるぐると回っている。
遅刻して辿り着いた学校は、文化祭の真っ最中。
浮かれた空気の中、いつもの学校の中でいつもの教師として過ごす桂を見て苛立つ志緒。
今までなんともなかった当たり前の風景なのに
心穏やかにいられないのは、自分が変わったせいなのだ…賢い志緒は自覚する。
嫉妬、自分のふがいなさ悔しさ、初めての恋にざわめき揺れ溢れる心。
誰にぶつけるでもなく、そんな持て余す気持ちを自分で抱え込む志緒のピュアさがいい。
そんな彼の「キスしろよ、ばかやろう。」と言う捨てゼリフ…ああ、なんて可愛い!
後半の桂視点の『Spider's web at dusk moon on the ground』がまた面白い。
彼だって勿論自分のセリフを忘れていたわけじゃあない。
けれど年上だからこそ大人だからこそ、逡巡したり身構えたりしてしまうのだ。
「キスするぞ、ばかやろう。」なんて、志緒には言えないセリフを心の中で吐いてしまう桂も
また恋する可愛い男だ。
一息で吐き出したような文体が、桂の切実な想いをリアルに伝えて、うーん、ほんといいな!
『雪よ林檎の香のごとく』同人誌3冊目。
二人の気持ちが繋がった翌日、北海道をあとにする機内の中で「空港からそのまま学校へ行けよ」と、志緒が先生に言われるところから進んでいきます。
お互いの気持ちがお互いにしっかり通じて、確かめて、手も握って。
そして引き戻された現実世界。
二人だけで過ごした、たった数時間がまるで夢だったんじゃないかと思えるくらいの、「先生と生徒」の学校祭。
今。
志緒がやらなくちゃならないのは、生徒としてしっかり学校の行事を全うすること。
先生がやらなくちゃならないのは、生徒の模範となること。
当たり前のことなのだけれど、その当たり前が志緒にとって心をくすぶらせるのでしょう。
気持ちが通じ合ったからと言って、全て投げ捨てていい訳じゃない。
目の前にある「すべきこと」をしなくていい訳じゃない。
学校と言う、色々なものからの制限を受ける場所で、今までにはなかった悩みや感情をまた抱えて過ごしていくんですね。
学校祭と言ういつもと違う空気に浮かれる子だって中には居て、カゲに隠れてキスなんてしちゃうカップルが居て。
先生にとっては「お?」くらいでも、志緒にとっては物凄い衝撃的だったり。
たったそれだけの事でも、年齢差だったり立場の違いだったり感覚の違いだったりを実感する志緒は、青く若く怖いなぁと思えたりもして。
妹の重みや家族の笑顔。
大人の責任と子供の保護。
桂の幼い笑顔と志緒の涙。
たった一瞬だけでもいいから、その時のそれと今を重ねたいと思う事は、悪いことではないだろう。
どれだけ思い願ってみても叶わないけれど、切なくなる程欲するくらいは、と。
志緒の焦燥感は、ただひたすら、桂と共有することに意義があるのであって、今すぐ大人になりたいとか、そういう感情からではないと思います。
だからこそ、志緒は志緒で、桂の気持ちまでは読み取れない。
実は、キスだってタイミング伺っていたし、あの時駐車場でキスしたかったし、可愛いとすら思って居たこと、なんて。
絶妙なバランスの二人。
ラストの桂目線での2ページで、切なかった志緒目線の感情から少しだけ浮上出来たかな、と一人勝手に思いました。