心に深い闇をもった男の過去とは? 心の救いを描いたヒューマンラブストーリー。

夜をわたる月の船

夜をわたる月の船
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神54
  • 萌×219
  • 萌33
  • 中立13
  • しゅみじゃない10

--

レビュー数
48
得点
458
評価数
129
平均
3.7 / 5
神率
41.9%
著者
木原音瀬 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

イラスト
日高ショーコ 
媒体
小説
出版社
蒼竜社
レーベル
Holly Novels
発売日
価格
¥857(税抜)  
ISBN
9784883863761

あらすじ

ある日、河瀬は上司の柴岡に人事異動をたてにセックスを強要された。
どうしても企画部に異動したい河瀬は、たった一度きりで自分の望みが叶うならと、男と寝ることに同意するが…。

表題作夜をわたる月の船

商品企画課主任、30歳
北海道支社長、48歳

その他の収録作品

  • あとがき

レビュー投稿数48

右手

木原作品ということは大前提で、いまさらそこに関しては書きませんが思いっきりネタバレありなので注意してください。
この話は手(特に右手)がキーワードですよね。
作中で河瀬(攻)が柴岡(受)に「俺のこと、好き?」と問いかけるのに対して柴岡が「君の右手が、一番好きだ」と答えるシーンがあるんですが、なぜ右手なんだろうと思いながら先が気になりそのまま読みすすめたんです。
確かにそれまでにも右手の甲にキスをするシーンはありました。
そしてラストシーンにきて柴岡の「いつも君は私の手を引く。だから…助けてもらえるんじゃないかと勘違いする」ではっとしました。
読み終わってから急いで読み返すと、最初にあるじゃないですか!手を引いてもらうシーンが!
それまでも健康的でうらやましい(?)という気持ちはあったようですが、このシーンで柴岡が恋に落ちたとわかって絞り出すように涙が出ました。
その後も探せば出てきます右手が。
最後の最後でも、右手の下の砂をさらうという状況が何かを表しているんでしょう。
それにしても木原先生の作品にしては珍しくずっと河瀬だけの視点だったのが印象に残りました。
この作品は柴岡視点を書いてしまうと成り立たない話なので必然ですよね。
ちなみに河瀬が柴岡を好きになるのも当然な流れだと私は思いました。
ですが河瀬から気持ちが返ってくることなど微塵も期待出来なかった、勘違いすることさえ自分で許せなくなってしまうような柴岡のこれまでの人生がとても辛かったです。
追いかけてくれる河瀬に出会えて本当に良かった。
死ぬほど続きが読みたいけれど、まずはハッピーエンドで良かった。

1

何を読んでも

木原音瀬さん、何を読んでも最後にう〜んんん、と唸ってしまう作品がほとんど。
こちらの作品も重い方に唸りました。
(軽かったり、萌があったりする作品もあるけれど、それでも“やられた!”って唸っちゃうんですよねw)

萌ドコロはオヤジ、でしょうか。でも普通じゃないんですよね、このオジサン。
そして、人間の情ってどういうものなんだろう、って。
河瀬がはまり込んでしまった迷宮というか逃げられない袋小路と言うか。死ぬか、抱えるか、の究極の選択が自分に課されたら?そして抱えることで自分にも拠り所が出来てしまったら?
その関係を断ち切ることが出来るのかな。難しい。わかんないですね。
だから、河瀬の行動を普通じゃないとか、有り得ないとか思えない。

そして、柴岡も少年時代に母との関係や、母を愛してしまっていた(それは単なる情だったかも知れないが)、なのに裏切られたという壮絶な人生を歩いてきただけに、こうなっちゃったのかもな、って。

母親に対してもっと拒否できていたら、違う人生だったのかも知れない。
父親宛の遺書を読まなければ、通り過ぎた愛を糧に次の恋人を見つけられたのかも知れない。

「だから…助けてもらえるんじゃないかと勘違いする」

柴岡も死ぬと決めながらどこかで足掻いてたんですよね。
最後には河瀬が柴岡を好きになったことで救われるお話には成ってはいますが、なんとも言い難い気持ちになりました。久しぶりにガッツリ来た木原音瀬さん作品でした。そして、日高ショーコさんのイラストがハマり過ぎててヤバい。

0

ボリュームたっぷりの力作。

映像を書き起こしたかのような情景描写と、細やかな心理描写で終始描かれた作品でした。小説というよりも手記のようなスピード感で、自分はいったい何を読んでいるんだろうと途中で我に返ってしまいました。
萌えも特になく、明らかに「しゅみじゃなかった」のですが、評価確定済みだったので「萌」の評価になっています。(多分昔は柴岡に深い人間性を感じたのだと思う)

気になった点を書き留めておきます。

1. 河瀬という都合の良い人物
この作品の主役は受けの柴岡です。攻めの河瀬は、柴岡の説明役です。柴岡は理解不能な人物である、しかしそれには理由がある、ということを説明するために用意された人物が河瀬なのです。
そのため仕方がないのですが、簡単に柴岡に翻弄される河瀬に「おバカすぎない?」となってしまいました。柴岡の挑発にすぐにイラついて、嘘を簡単に信じて、うまくいかない状況に思い悩む河瀬。もう少し学習能力がほしいなと思いました。
それに加えて、もう見限ってもいいだろう場面で思い直すスイッチが入る(サイレンの音で怒りが収まる場面とか)ので、「いやいや都合が良すぎるって」となりました。
また河瀬が柴岡に好意を抱く変化も強引に映ってしまいました。自分の体を再び差し出したあと、柴岡に対してすぐに好感を持っており、素直な性格に変わっています。彼女には尽くすタイプという説明がここでなされていますが、そんな人物にはとても見えなかったので、もろもろお粗末だなと感じました。

2. ラッキーな柴岡
柴岡は本当に面倒くさい人物です。申し訳ないですが、私には臆病で性悪の死にたがりなメンヘラにみえました。「もうそのまま一人で閉じ籠もっていればいいじゃん」と思ってしまいましたが、河瀬は本当に良い人でした。
柴岡のような訳アリの人にとって、河瀬はとても有り難い存在だったと思います。厄介な自分を諦めないでいてくれて、いつまでも気にかけてくれる。重い人生を背負おうとしてくれる。
柴岡のために用意された人物ですが、それでも柴岡は救われただろうなと思うと、良かったなと素直に思えました。
作家さんは過酷な人生を柴岡に歩かせていますが、救いも用意している。そのギャップで希望を描きたいのだろうと解釈しました。

3. 柴岡の強靭なメンタル
柴岡は15歳で母親と関係を持ってしまいました。「普通」でなくなった柴岡は、そこから約30年もの間、「普通」に憧れてきました。大抵どこかで吹っ切れるでしょうに、こだわり続けたそのメンタルは強靭だと思いました。ある意味、子どもの頃から何も成長してこなかったのかもしれません。
また、「普通」に見せようと真面目に取り繕ってきた律儀な柴岡。その点も素晴らしいと思いました。柴岡はもっと自分を認めてあげてもいいと思います。

4. 子どもと親の会話
同棲中の柴岡と河瀬の会話。
自分の世話を焼く河瀬に対して、柴岡は「面倒を見てくれと頼んだことはない」「君が勝手にしていることだ」と言います。
ここのやり取りは、まるで「あんたが勝手に産んだんじゃん!」という反抗期の子どものようでした笑
そう簡単に見限れるわけがないのに挑発してくる。河瀬は柴岡の親でもないのに、親が子の命を背負っているのと同じくらい、柴岡の命を背負ってしまっていて、自業自得なんですけど可哀想でした笑
柴岡はそんな無鉄砲な人に出会えて本当に良かったですね。河瀬とどうなるかわからなくても、もう十分救われたような気がします。まだ48歳ですし経歴も十分ですから、未来は明るいです。

5. ラストシーンが秀逸
二人が初めてむき出しでぶつかり合い、心を通わす場面には心を揺さぶられました。この場面における柴岡のか弱さと、河瀬のまっすぐさが好きでした。早く話し合えば良かったんだよ。。ここまで長かったな。。

2

無気力かわいい

この作品で新しい扉を開いてしまった…。

最初のしっかりした印象からのギャップが激しくて、後半は痛々しいのに萌えてしまった。
面倒な男ではあるが、とても魅力的な人物だと思う。
放って置けない危うさがあって、河瀬が気にするのも無理もない。
何回も繰り広げられる○○騒ぎにヒヤッとした。
かなり長い話なのに、続きが気になって一気に読んだ。

柴岡ではなく「男」と表記しているのがとても印象的。
二人の微妙な距離感がよく表れていると思う。
何回も読みたい作品。

2

思考への攻撃の恐怖

「じゃあ、本当の話をしようか」

めっ
っっちゃ面白かった!すごかった…!!
「ラブセメタリー」を読んでからであれば更に怖さが増すと思います。今作は恐怖や人の奥底がよりリアルに緻密。主人公河瀬への問いかけはそのまま読者にゾクゾクと刺さりまくり、読んでいてその臨場感と作品の濃厚さに泣けました。

木原さんの作品はほぼ外れなく面白いのですが、今回はことさら畏敬の念を抱かずにはいられません。
多くの作品で彼女は、社会的に取り残された者、平凡に社会生活を送る者、みすぼらしい中年、エリートやマイノリティや障害者を、BLを保ちつつ立体感をもった生々しさで描きます。
固定観念や一般的なイメージから抜け出したその人達の豊かな風合いが彼女の作品の魅力の一つです。40代アルバイトの谷地さんも、前科3犯の百田も、腕はいいけど性格最悪の谷脇も、神様の新も。
それは小説だけでなく日常での他人を見る目への問いかけでもあります。

柴岡の心中や人生は、多くの人にとって気持ち悪い、理解し難い、可愛そうや悲劇という感情を伴うであろうものなのですが、木原さんはそんな色を付けずに描いていると思いました。作中に出てくるように、彼らにとってはそれが普通であるからなのですが。
彼女の文章にその立場の人達への誠実さと真剣さ、眼鏡の透明さが表れていて、あぁこういう人だからこの人の本はどれも面白いし、クズ中のクズでも愛しくて笑えるんだよなぁ、と思いました。そして書かれるサインも丁寧。
だから「ラブセメタリー」も、あれだけ深刻で闇深く胸糞悪い題材と内容でも、自分の甘さにどれだけ責められているような気持ちになっても、それだけではない空気と後味が残るのです。今作とキーワードが少しリンクしているため、しつこいほど作品名を出し長々偉そうに語ってしまいました。

このお話のキーワードは「普通」「擬態」「本当と嘘」
「心の中に闇なんてないんだよ。自分は自分でしかありえない。」という台詞が素晴らしいです。そして自分とは全く違った生き方考え方をしてきた男が何を言い出すか分からない。
柴岡が本当の事を話そうとする時の緊張感と恐怖、そして飄々と嘘をつかれ混乱して、どんどん河瀬は巻き込まれて悪い方へ向かっていく。
話が進めば進むほど主人公の河瀬の生死に関係なくなっていくのにこのスリルは凄いです。それだけ思考への直撃は恐怖を禁じ得ません。

最初の異動願い取引云々は「そんな会社辞めちゃえよー!」だとか思うしお話の強引さも目立ちました。その“取引”はBLなら通常、『それでも快感が…』とか言いそうな所、今回は気持ち悪さと恐怖に覆われているのが強烈にリアルで、その後延々と続く罪の意識は全く地獄で圧巻でした。

散々おどろおどろしい展開で読み応えが半端なく、「これはBLじゃない!一般だ!」と大海原を感じた途端に、魔性が現れます(笑)
中年の色っぽさと滑稽さを描かせたら木原さんは一等です。
河瀬が聞きたい時だけ話す事を許可するのも、すぐ死のうとするのもシュールなロボット(そしておじさん…)みたいで可笑しい。あんなに有能な上司で支社長だった男なのに。
食欲が死欲に替わった3大欲求のみで生きる柴岡、そこから情がわくのは少々体が良い気もしなくもないですが、それが柴岡の本質の一つなのだとすれば河瀬が認められたのはこのお話の救いですし、こちらも認めないといけません。

自分が触れられたようにしか触れられない不器用さ、諦めとやり切れなさどうしようもなさ、最後まで救いがあるようで気休めかもしれない。本当に人は複雑で容易くて且つなかなか変えられなくて、心の底から愛が欲しい生き物だなぁと思いました。
生きることに対して私もさほど熱望も絶望もないので、柴岡があの後生きる気持ちを持てるのか思いつきませんが、彼も今までの考え方以外を河瀬から得られるといいですよね。そうすれば次第と整理整頓されていくかと。

4

良かったーーーー

一気に読んでしまいました。

魔性のおじさま受け……。
彼の本性が分からずなかなかに惑わされました。

平気な顔してそれっぽい嘘吐くわわざと怒らせるようなことまで言って非常にややこしい男性なのですが、どうにもこうにもリアルな人間らしい欠陥のようなものが愛おしく見えて仕方ないんですよね…。

こういう男性に会えるから木原先生作品はやめられないんだ。
ずっとしがみつかせてほしい。

おじさん受け苦手だったはずがいつしか魅力を知り堪能できるようになりました。
これも先生のおかげ。

4

月のように鮮やかに

食品会社で営業の仕事に嫌気がさしていた河瀬は、上司・柴岡に企画部に異動したいと相談します。柴岡は見返りに体の関係を強要し、河瀬は一度だけと応じますが、企画部に異動したのは別な人間。怒った河瀬は夜道で柴岡を殴り、柴岡は車にはねられ大けがを負います。数か月後、河瀬は企画部に異動。柴岡が約束を守っていたことを知り、自分の未熟さと羞恥心に打ちのめされます。
6年後、河瀬は新商品のテストのため訪れた北海道支社で、柴岡と再会。柴岡の完璧な仕事ぶりとは裏腹な異常な面を目の当たりにします。暴走運転、汚れ切った家、言葉で煽り自分を崖から突き落とさせようとするなど、柴岡は河瀬を翻弄します。
その後、東京に来た柴岡はこともなげに死ぬつもりだと言い、放っておけず河瀬は柴岡を自宅に連れ帰ります。柴岡は自殺を阻まれたストレスなのか目が見えなくなり、手を焼いた河瀬は精神科医の叔父に相談。偶然にも柴岡の自殺した母親は叔父の元患者で、母子は夫婦として暮らしていたことが分かります。柴岡のこれまでの行動に垣間見える河瀬への好意。母との壮絶な関係。柴岡を死なせたくなくて、河瀬は柴岡と体を重ねてしまいます。体だけの関係でも、次第に柴岡を可愛いと思う河瀬。しかし、好きだと告げた翌日、柴岡は突然視力を取り戻し北海道に返ってしまいます。河瀬は後を追いかけますが…。

河瀬が柴岡に一歩二歩と踏み込んでいくうちに、気持ちが嫌悪、同情、愛情へと変化していく描写に引き付けられました。特に、柴岡の言動に苛ついた河瀬が喋るなと命じて体を重ねるうちに、柴岡の素の面を知っていくころが、とても面白いと感じました。言葉で擬態していた柴岡。本当は甘えたがりで、素直で、恥ずかしがり屋で、そんなところに河瀬は惹かれていったのでしょう。

行為の最中、柴岡が「君の右手が一番好きだ」という場面が、とても好きです。昔、初めて一緒に夕食を食べた帰り、暗がりで立ち止まった柴岡の手を河瀬が引いてやったことがありました。このとき柴岡は河瀬を好きになったのだなあと深く納得し、嘘つきな男が胸の奥に何年も恋心を隠していたことに、すごく切なくなりました。

河瀬に好きだと言われて柴岡の視力が戻ったのは、愛する人に愛されたことがなく、逃げ出したくなったからなのだろうと思いました。
柴岡が海に入って死のうとした後、河瀬に最初の時「好きだ」と言わなかったのは「何も言わない方が、君もすぐ忘れると思ったんだ」と話す場面があります。柴岡はどうしようもなく不器用なのでしょう。

心に闇を抱えていても、人は救いを求めずにはいられないのかもしれません。柴岡が最後に救われて、本当によかったと思いました。タイトルの中の「月の船」は、柴岡にとっての河瀬のことなのでしょうね。暗いトーンの物語だからこそ、最後の救いが月のように鮮やかに印象に残りました。

4

生きて!!と思う

オヤジ受けは初めてだったけれど、はじめてがこの作品で、もうすっかりその魅力に引き込まれてしまった。オヤジ受けだからというか、オヤジであることと受の持つ事情が相まってというか。とにかく圧倒的存在感の受と、比較的普通な攻がどうなるのか、読み始めたら手が止められませんでした。
受になる柴岡は、見た感じは普通のおじさんで良い上司であったけど、その中身がとんでもなかった。不安定で嘘つきでいくら手を伸ばしても届かない。心の中の闇、過去は想像以上に壮絶。
最初、攻の河瀬は異動をしたいならと柴岡に体を求められそれはもう嫌っていたけど、別れてまた再会して少しずつ気持ちが変わってくる。
柴岡の心に巣くう母親が大きすぎて、その人生を母に支配されてるような、そんな柴岡を河瀬が救い上げる。静かなのに強烈な印象を残すお話でした。
個人的な萌の話ですが、目が見えるようになる前のやりとりやイラストに描かれた二人の姿がとっっっても萌えた。そしてなにより、全編を通して不思議な柴岡という存在にどきどにはらはらさせられてるうちに彼の魅力にどっぷりはまってしまいました。

4

ちょっと重いかも…でも、それがイイ!!*。ヾ(。>v<。)ノ゙*。

日高ショーコ先生の素敵なイラストと、美しいタイトルに惹かれて手に取りました (⌒-⌒*)v

読み終えてまず思ったことは、ハピエンで良かったなあと言う事 ( *´艸`) 決してバッドエンドが嫌というわけではありませんし、「救いのない終わり」と言うのもありだと思うのです。

でもこの小説の柴岡(受)は心に深刻な闇を抱えています。年は40代後半。このまま放っておけば必ずや自殺あるいは孤独死するのは間違いなく、それではあまりにも悲しすぎます。だからラスト近くになって、ようやく柴岡(受)を理解し始めた河瀬(攻)が、柴岡(受)の頑なな心を突き崩そうとぶつかっていく姿が頼もしく、嬉しい気持ちになりました。

実は物語の序盤・中盤とも、河瀬(攻)が柴岡(受)を大層気持ち悪がっているため、この二人が最終的には恋人同士になることなど有り得ないのではないかと懸念しておりました。また終盤では柴岡(受)の自殺願望が強すぎて、河瀬(攻)が自身の気持ちの変化に気づく前に、柴岡(受)がこの世を去ってしまうのではないかと冷や冷やしました。

読後は収まるところに収まったとホッとしながらも目尻に涙が浮かび、柴岡(受)の境遇や自殺願望に至った経緯などを思いやっては、いつまでも鼻をグズグズいわせておりました。甘々のハピエンも好きですが、本書のようにしっとりと余韻のある終わり方も大好きです 人*´ー`*)スキスキ♪

本書は全編通して河瀬(攻)視点でした。よって柴岡(受)が何を考え、何を欲し、何をしようとしているのか皆目分かりません。柴岡(受)の行動も言動も謎ならば、なぜ死にたいと思うのかも謎です。受けの心の行方すべてがミステリアスで、そこが面白く夢中になって読みました。

通勤電車内で読むのが常ですが、幾度か下車駅を通過しそうになり、慌てて降車するということを繰り返しました。それほど私にとっては興味をかき立てられる作品でした。オジサマ受けが地雷というのでなければ、いえ地雷であっても是非多くの方々に読んで頂きたい作品です。

まあ、それにしても!河瀬(攻)があれ程までに柴岡(受)を嫌い、「気持ち悪い」を連発するのには驚かされました。確かに河瀬(攻)の気持ちは分かるのです。人事異動を楯にセックスを強要されたのですから。でも単に「嫌い」とか「嫌な奴」くらいなら、その後の展開で恋愛として十分成り立つと思うのです。が、そこまで気持ち悪がられると、BLとして成立するのだろうかと心配になりました (・・;)

でも柴岡(受)はナイスミドルで見た目は若いのです。そして「嫌よ嫌よも好きのうち」と言う言葉があるように、河瀬(攻)は柴岡(受)を嫌悪し殺したいとまで思いながら、無視することが出来ません。無関心ではいられない、つまりは関心があると言う事。これって大きな意味での「好き」の一部分。惚れた腫れたで結ばれた後、徐々に相手の悪いところを知り嫌悪感を抱くカップルよりも、最悪な部分を知りつつも好きになる方が、長続きすると聞いたことがあります。

もしも河瀬(攻)が柴岡(受)を嫌いなまま、何の接点もなく遠く離れ離れのままだったなら、そこで終わりになっていたことでしょう。でも一時は離れ離れになった二人が6年後には再会を果たすのです。そして、偶然な成り行きとは言え何度も接触していくうちに、嫌いが好きに変化していく。その様は読んでいて楽しい展開でした。

まず再会して驚いたのが、柴岡(受)の髪の毛の色。染めるのが面倒だからと真っ白なまま。次に凍り付いたのが運転の速度。高速道路でもないのに120キロ超えで走ろうとするのですから。そして唖然としたのは汚部屋。柴岡(受)のきっちりと清潔そうな外見からは想像出来ない散らかりよう。これらは皆、柴岡(受)の心の底からの「救って欲しい」という訴えだったのかなあ、と全てを読み終えた今は感じています。

魔性系オジサマの柴岡(受)は、河瀬(攻)を傷つけるような酷い言葉ばかり吐くし、ホント可愛くない。それなのにラスト近く、だんだん可愛いと思えてくるようになるのです。河瀬(攻)の言葉に顔を赤くしてみたり、恥ずかしがったりと、柴岡(受)が意外な一面を見せるせいかもしれません ギャップ萌ぇ――――(p〃д〃q)――――!!

河瀬(攻)はあらゆる面で翻弄されっぱなしでしたが、最後はようやく主導権を握ります。どうか河瀬(攻)が柴岡(受)を甘やかし、心の闇の部分を忘れるお手伝いを一生かかってして下さいますように、と祈るような気持ちで最終のページを捲りました。もっともっと小説の続きを読みたいと放心状態になりながらも、物語の終わりを飾る日高ショーコ先生の挿絵イラストが素晴らしく美しく、あたかも二人のその後の未来の姿が見えるようで救われました (ノд・。)

14

普通のオヤジ受けではありません。

何回も読んでいるので初心でレビュー出来なくなっているのですが・・・。
一番初めに読んだ時は終盤号泣した記憶があります。目が腫れるほどに(恥)
先が気になって②ちゃんと読んでいるようで読んでいないような・・・そんな感じだったのか、読み返してなるほどなあと思うこともありました。
今回再読して、やっぱり涙が出ました。

雨の中、柴岡が1人で出て行ったのを後から河瀬が追いかけて引き戻すあたり。
ソファーまで河瀬を探しにいって居なかった時の柴岡。
「君の匂いがするから」「犬のように紐で引っ張られたくない」
最後の目が見えてるのに目隠しするといつもの柴岡になるところ。
言い出したらキリがないですが。

お話の中で何度も置かれている立場が(精神面でも)逆転している?!のに最終的には河瀬が追いかける方に!
想い合った後に別れがくるこの感じ。木原節炸裂ですね(勝手に言ってます(笑))

あとエチシーンがあんまりエグくないと言いますか、セクシーではあるんですが、サラッと読めてしまうのも木原さんならではなのかな?とも思います。
この作品は木原さんの中でもエチ回数かなり多い方では?!

最後に「月の船を拾いに」というセリフがあるんですが、タイトルの中にある言葉が出てくるとなぜか「タイトルきたーーーー」ってちょっとテンションあがるんです(笑)
初回はあまり思いませんでしたが今回はきたーーーってなりました(笑)

初めから最後まで重めで暗いお話ですが私にはこれが最高なのです。

14

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