イラスト付き
kokō no ryūjin α wa tensei jūi e no ai ni madou

長尺の物語でしたが、時間が経つのも忘れて読み耽りました。
異世界転移で、オメガバースで、竜人が出てきて……と、BL小説ではお馴染みの設定がてんこ盛りのストーリーに、"よくある"物語だろうとタカをくくっていましたが、全くの見当違いでした。
"よくある"設定でも、中身はよくあるものになっていません。今まで読んだことのない事件と謎とバトルと、そして深い愛の物語でした。
種族の違い、第二性の違い、生きてきた世界の違い、身分の違い、そこから芽生える2人の恋愛模様は素晴らしいのひと言。「読む」のではなく、「読ませにくる」パワーに圧倒され、気付くと物語の世界に没入していたことにひたすら感動でした。
世界観としては、古代ローマあたりの時代をイメージすると分かりやすいでしょう。闘技場で奴隷を戦わせるシーンが度々登場し、映画「グラディエーター」のような死闘が繰り広げる場面描写の臨場感はものすごい読み応えです。
奴隷制度のエグさが投影された悪趣味な闘いのシーンにウヘェ…となりながらも、竜人の闘士として常勝記録を持つラシャの圧倒的戦闘シーンはめちゃカッコ良かったです^ ^
戦うことで主人に忠義を示すラシャの健気な姿勢からは、彼がどれだけ亡くなった主人を尊敬し大事に思っているかが伝わってきました。だからか、禁術で殺された主人を生き返らせたとき、主人本人ではなく別の世界からきた獣医師の魂が肉体に移ってしまったときのラシャの反応は冷ややかなものでした。
お前はお呼びじゃないよ的なラシャの誠治への態度は、主人を殺した犯人探しと復讐の囮にするほど情のないものです。Ωとなった誠治の最初の発情期のときも、まるで勝手知ったる作業というべき手際の良さで誠治の身体の熱を鎮めました。
しかし、尊敬する主人と同じ顔でも中身が全然違うことに苛立つラシャの中に、いつしか別人として映る「深浦誠治」という1人の人間に惹かれていく姿は、期待以上のラブ展開でした♪
何せ、2人の恋愛はゼロどころかマイナスからのスタート発進。嫌悪が好意に転じるにはそれなりの段階と根拠が必要なこともあり、恋愛模様は非常に丁寧かつゆっくりと描かれています。
特にラシャの誠治に対する好き感情は、あんな始まりだっただけに、フフフとニヤニヤが止まりません^ ^ 好きなのに素直になれない青臭い態度もラシャの可愛らしい一面が見えてホクホクでした。
獣たちを愛する慈悲深さ、獣医師としてのスキル値の高さ、この世界を理解しようとする健気さ、誰にでも優しい性格……誠治のいいところに気付くことで、ラシャにとって特別な感情を抱く相手となっていく変化は見どころです。
誠治の発情の熱を解放する行為も、他の誰にもそのポジションを譲れないと思うほどに独占欲が育っていくのも良き眺めでした。
2人が共に幸せになる道は、この国の制度改正なくして実現し得ない困難なものですが、それよりも何よりも彼らの恋愛成就を邪魔するのは、憎きヒール役の存在です。
主人殺しの真相と、誠治がラシャの主人の身体に転移した理由とが、最後にしてようやく繋がるラストは読み応えがすごかったです。そこには、主人のラシャへの思いが強く関係していて、本当にもう泣けました……!。゚(゚´Д`゚)゚。
終盤にさしかかる地獄から天国への最高潮の盛り上がりはこれ以上とない展開です。それこそ映画のラストシーンのようで、挿絵のイラスト含めて神的エンディングでした。
なぜ電子のみの配信なのか。非常にもったいないと思います。
この作品の素晴らしさや面白さが、私のレビューに乗って少しでも伝わってくれたら嬉しいです。