今夜ここで何が起ころうと、それは満月のせいだ

腥血と遠吠え

seiketus to tooboe

腥血と遠吠え
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神22
  • 萌×24
  • 萌1
  • 中立2
  • しゅみじゃない2

--

レビュー数
8
得点
131
評価数
31
平均
4.4 / 5
神率
71%
著者
あかつき雨垂 猫巳屋 
媒体
小説
サークル
イマジンブックス<サークル>
ジャンル
発売日
価格
ISBN

あらすじ

ある人狼に追われる年経た吸血鬼ヴェルギル。傲慢で不遜ではあったけれど、人外の〈協定〉の守護者である、人狼達の〈クラン〉に追われるほどの罪は犯していないはずだった。
ついに追い詰められたヴェルギルは、自分を殺そうとする人狼クヴァルドの美しさに見とれる。だが、彼の望みは想い人の復讐だった。
「人違いだ」と説明するも耳を貸さないクヴァルドに捉えられ、人狼の本拠地へと連行されるヴェルギル。そして天敵同士である人狼と吸血鬼は、手を組んで同じ敵を追うことになるが──。

それぞれの思惑を抱えつつ、激しく惹かれてゆくふたり。だが、ヴェルギルにはどうしてもクヴァルドを裏切らねばならない理由があった。やがてふたりの道行きに、国中を戦禍に巻き込みかねない陰謀の暗雲が立ちこめ──!?

人外たちが人間と共存する異世界の島国・ダイラを舞台にした、吸血鬼×人狼の中世ヨーロッパ風ファンタジーBL。

表題作腥血と遠吠え

ヴェルギル,謎に包まれた吸血鬼
クヴァルド,クランに属する人狼

その他の収録作品

  • 番外編(書き下ろし)
  • Postscript

レビュー投稿数8

完成されたハイファンタジーBL小説 

この小説を読み終えた時の感動を、自分の語彙力でうまく表現できるとは思えない…そのことが悔しくてたまりません。
さて、この作品の記念すべき一人目のレビュアーになれることを嬉しく思います。
文句のつけようがないハイファンタジーBL作品でした。
元々ファンタジー小説が好きで、一般・BL問わず読んできましたが、読みながらこちら側の世界の事を忘れ「物語の世界」にどっぷり入り込むことのできる作品というのはなかなかありません。
よもやBL小説でここまで世界観を作り込んだ小説に出会えるなんて、思いもしませんでした。(決して他のBL小説を馬鹿にしているわけではないです)

物語の世界観・ストーリー・文章力・登場人物の心理描写・伏線・キャラ構成・もちろんBL展開。優劣をつけるつもりはありませんが、すべてにおいてここまで完成されたハイファンタジーBL小説を私は他に知りません…
いえ、ファンタジーというジャンルを超えて、まず間違いなく、私の中でベストBL小説3本の指に食い込む作品でした。

この作品を読まれる方には是非とも先入観なしに読んでいただきたいので、内容についてはあまり多く語りたくはないのです。
ただ、なんとなくですが…M/M小説や、一般小説だと十二国○がお好きな方はまず間違いなく楽しめるんじゃないかと思います。

吸血鬼×人狼もの。
中世ヨーロッパの雰囲気に神話伝説要素を足したハイファンタジー。
これだけ聞くととっつきにくいかもしれませんが……
とにかくハイファンタジーもののBL小説が好きな方には是非とも読んでいただきたい。
私に言えることは、是非時間のある時に読み始めてください。ということ。主人公二人が出会うシーンからは、もう止まらなくなりますから。

ちなみに私、この小説を読んでいる際、馬鹿なので「○○ってなんだっけ?」と忘れてしまった用語が出るたびに戻って最初から読み返していたのですが、巻末に作品中の用語集があることに読み終わった後に気づきました……最初に知りたかった!笑

16

最&高 久しぶりに夢中になれる作品に出会えました

王道ではない。けれど、刺さる人には凄まじく刺さるファンタジー

この作品、答えて姐さんの「小説憩い場」の方で絶賛されておりまして……
「おうおう、そんなに言うなら吟味してやろうじゃないの」という、半ば挑戦的な気持ちで読みはじめたのですが、、、ガツンとやられました。
陳腐な感想しかいえなくて歯痒いのですが、「すごく良かった…」これに尽きます。
ただ、多分攻めと受けの人物像からなんとなーく一般受けしないんだろうなあ…と思います。攻めは序盤放蕩者の印象ですし、受けは とにかく逞しいんですよね。肉体的にも精神的にも。わたしは二人とも大好きでしたが、、、

この作家さんの小説をこの作品以外存じ上げないのでなんとも言えないのですが、すごくファンタジーと調和した文体だと感じました。登場人物の会話も、どことなく翻訳物っぽい雰囲気で小気味よく、自分に合っていて良かったです。

そして、ハイ・ファンタジーものではありましたが、現実世界の、特に中世ヨーロッパの雰囲気にリンクしているシーンなどもあり、すごく楽しめました。
おそらく作中で出てくる神話の話は創作神話だと思われるのですが、現実世界の神話についても、きっとよく勉強されているんだろうな〜、と。ま、私は詳しくないので偉そうなことは言えませんが…。
BがLするためだけに作られたハリボテの世界観ではありません。

正直、よくある
"為政者のくせにちゃんと政治してるのか疑わしい頭の中受けのことしかない恋愛脳な王子様と、何も特別なことできないのに何故かモテモテな健気だけが取り柄の受けが結ばれるファンタジーBL"(表現が暴力的ですみません…)
みたいな小説にはうんざりしていたので、しっかりと骨太なハイ・ファンタジーBLが読めて大変満足致しました。しばらく他のファンタジー作品は読めそうにありません。
すすめて頂かなかったら恐らく出会えていなかった作品です。新人さんのこういった優れた作品はどんどん紹介してほしいと思いました。

9

ピピン

直せたみたいですね。よかったです\( 'ω')/

ピピン

こんばんは、はじめまして
ご存知でしたら、申し訳ありません。
ガイドライン→作品レビューを書く→レビューの修正
https://www.chil-chil.net/compPage/k/sandias/pg/53#11
にあります通り、レビューは投稿30日以内でしたら修正ができます。
今のレビューを消して、コメント欄のレビューをコピーして貼り付け直しては、いかがでしょう? もったいないと思います。
最初の投稿より30日過ぎたレビューは修正できなくなります。

もりもりまんじゅうくん

失礼致しました。
前の方の文章に似通ったレビューになってしまいそうで、参考にしつつ投稿しようとしたところ、間違えてそのまま投稿してしまいました。
運営側の規約に個人的な理由での削除はできないとのことでしたので、こちらで訂正させて戴きます。
ここにっぱ様にも申し訳ございません。

タイトル

【王道ではない。けれど、刺さる人には凄まじく刺さるファンタジー

この作品、答えて姐さんの「小説憩い場」の方で絶賛されておりまして……
「おうおう、そんなに言うなら吟味してやろうじゃないの」という、半ば挑戦的な気持ちで読みはじめたのですが、、、ガツンとやられました。
陳腐な感想しかいえなくて歯痒いのですが、「すごく良かった…」これに尽きます。
ただ、多分攻めと受けの人物像からなんとなーく一般受けしないんだろうなあ…と思います。攻めは序盤放蕩者の印象ですし、受けは とにかく逞しいんですよね。肉体的にも精神的にも。わたしは二人とも大好きでしたが、、、

この作家さんの小説をこの作品以外存じ上げないのでなんとも言えないのですが、すごくファンタジーと調和した文体だと感じました。登場人物の会話も、どことなく翻訳物っぽい雰囲気で小気味よく、自分に合っていて良かったです。

そして、ハイ・ファンタジーものではありましたが、現実世界の、特に中世ヨーロッパの雰囲気にリンクしているシーンなどもあり、すごく楽しめました。
おそらく作中で出てくる神話の話は創作神話だと思われるのですが、現実世界の神話についても、きっとよく勉強されているんだろうな〜、と。ま、私は詳しくないので偉そうなことは言えませんが…。
BがLするためだけに作られたハリボテの世界観ではありません。

正直、よくある
"為政者のくせにちゃんと政治してるのか疑わしい頭の中受けのことしかない恋愛脳な王子様と、何も特別なことできないのに何故かモテモテな健気だけが取り柄の受けが結ばれるファンタジーBL"(表現が暴力的ですみません…)
みたいな小説にはうんざりしていたので、しっかりと骨太なハイ・ファンタジーBLが読めて大変満足致しました。しばらく他のファンタジー作品は読めそうにありません。
すすめて頂かなかったら恐らく出会えていなかった作品です。新人さんのこういった優れた作品はどんどん紹介してほしいと思いました。】

素晴らしい世界観。是非皆さんに読んで欲しい。

この小説を読んだら、そろそろ unlimited退会しようかなと思っていた気持ちが吹き飛びました。 
電子限定なので仕方がないにしても、このままちるちるの中で他の作品に埋もれてしまうのは本当に本当に勿体ない。

読み始めてものの数ページ……いや、数十ページ?読む頃には、身も心もこの世界観のなかに飛び込んでいました。
とにかくその描写力に度肝を抜かれたので、実は一般小説書かれているプロの方が密かに投稿しているのではと思ったくらいです。

これ、unlimitedで読めてしまってもいい代物なんですか?
作者の口座が目の前にあったら、まず間違いなく大金を捻じ込んでいます。

冒頭からめちゃめちゃ熱い展開なんですが、もう始まりから最後まで一切失速することがありません。
それに加えて、ヴェルギルとクヴァルドの会話はユーモアに溢れていて愉快で心地よく、ともすれば皮肉が効いていてクスリと笑えたり…
先の方が仰っていますが、M/M小説の洒落た会話と言ったら雰囲気が伝わりやすいですかね……

もちろん主役二人だけでなく、脇を固める登場人物皆素晴らしく、一人一人に厚みというか…しっかりとした物語があり、そこもとても魅力的でした。


※ネタバレ含むあらすじ(一部引用)


吸血鬼は他者の血液を介してしか 、生きるために必要な陽力を摂取することが出来ず、しかも、"満足や高揚 、あるいは快感"を覚えた血液ほど美味とされるとあって、数多の貴族婦人と浮名を流すことをもはや生き様としてきた吸血鬼のヴェルギル。
その日も名のある貴族婦人との房事にふけろうとしていたところ、人外社会の秩序の守り手である〈クラン〉の一員で、人狼であるクヴァルドの突然の襲撃を受ける。
「やっと……やっと追い詰めた」
ヴェルギルに対し殺意を漲らせるクヴァルドに「人違いだ」と説明するも、そのまま捉えられ人狼の本拠地へと連行されるヴェルギル。
そして天敵同士である人狼と吸血鬼は、手を組んで同じ敵を追うことになるーーーーー
それぞれの思惑を抱えつつ、激しく惹かれてゆくふたり。だが、ヴェルギルにはどうしてもクヴァルドを裏切らねばならない理由があった。


※※※


読み始める前、どちらが受けか攻めかの確認もせず、あらすじもろくに読まず、「ふ〜ん、ヴィジュアルの好みで言えば左が受けの方が良いな〜」(実際は逆でした)
なんて軽い気持ちで読み始めたのですが、読み終わったときには、そんな些末な概念なんかどうでもいい!これはヴェルギルとクヴァルドの物語だ……ズビズビ……と感涙していました。(何を言っているのやら)

夜中に読み始めたので1日で読み切ることができず、仕事のため丸一日読み進めることができなかったのですが、その一日が地獄でした。仕事中ずーーーっと続きが気になって気になって……。
ですので、これから読む方は翌日が確実に休みという
タイミングで読み始めることをおすすめします。

以上です。

7

神としか…

映画三本分観たくらいの読後感でした。今まで感じたことのない満足感に浸っています。ベタですがアーサー王や指輪物語の世界観をイメージしながら読んでいました。引き出しが少なくてすみません。

一方的に信頼をおいているレビュアーさん(念のため交流はないです)が本作をちるちるに登録してくださり、とても情熱溢れるレビューまで寄せてくださったので、ぜひ読んでみたくなりました。

ファンタジーももちろん好きだけれど、萌えに刺さるのは日常系の方が多い読者にとって、この作品はファンタジーだからこそ上品に描ける「超」ラブストーリーだと思いました。

内容については他のレビュアーさんが詳しくまとめてくださっていますし、素養の無い者が作品の世界観をアレコレこねくり回してもボロが出るだけなので、ファンタジー愛好者よりもむしろ敬遠している方にこの作品の面白さが伝わるといいのにな、と願っておりますが…

序盤から半ばまでは、忍耐力必須です。
でも中盤から一気に面白くなりますから!

読みはじめは物語の世界観を把握するまで色々覚えなければと不安になりますが、ゲームのプレイ初期と同じで、(読み)進めていくうちになんとなく把握してくるので心配いりません。そこで合わないと感じたら潔くやめましょう。相性を見定めるのに、試し読みで十分です。

わたしにとって本作の一番の魅力はキャラでした。メインカプのみならず、脇役も存在感があって、ストーリー展開に勢いをつけてくれている上に無駄がない。

ヴェルギルは吸血鬼として長生きな分、ユーモアのセンスに長けていて、後半になるにつれ人間以上に人間臭さを見せてくる姿がたまりません。人狼のクヴァルドはナドカ(人外種)の中ではまだまだ子供で、仔犬呼ばわりされてしまうくらい。ヴェルギルにそう呼ばれるたびにムッとしていたのに、いつのまにかお腹ゴロンしてて…。三つ編みのエピソードが大好きです笑

全てにおいて正反対な二人ですが、出会って以降の距離感の詰め方に萌えます。言葉や体で交わす彼らの思いが、徐々に読者にだだ漏れてくるので…ムフ

それぞれが相手への思いを自覚していき、気持ちを伝えようか葛藤しながら満月を理由に激しく求め合うなんて、エロスの極みですよね〜。でも、それとはまた別の愛の形として、ヴェルギルとエダルトの関係も切なくて萌えるんですよもう。

誰かを愛する行為が死と引き換えだなんて、これ以上のLOVEがあるでしょうか。ファンタジーだからこそ、そのような無情な世界観がうまく生かされているのだろうと。

カップリングがB Lとしてテッパンなのも悶えますよね。カバーイラストご担当のイラストレーターさんとは別バージョンという意味で、さて、どんな絵柄で妄想しようかと、そういう楽しみ方もさせていただきました。(挿絵はありません)

二人の肉体美や毛並みや毛髪、瞳の描写、ヴェルギルの体に施された意外な装飾がさりげなく官能的に描写されています。一瞬、なぜかガチムチな兄貴たちがよぎるのだけれど、萌えポイントは純国産だと思いたいです笑

『アレキサンドライト』的な古典的耽美とも違うし、アメリカが舞台のDEADLOCKシリーズとも比べられないし、ガッツリ翻訳B Lでもないし…思い浮かぶのはやはり海外のスペクタクルファンタジー映画で、これはもう作者にしか描けないB Lではないでしょうか。

吸血鬼と人狼のカップリングが初めてでしたので、『怪物くん』しか想像力のタネがないわたしは、なぜこの二人が惹かれ合うのか、果たしてどんな結末が用意されているのか、後半はハァハァしながら導かれるように読み進めてしまいました。

最後の番外編は神!です。ここは本編を読み終えられたご褒美タイムですね。書いてくださって本当に嬉しくありがたい読者サービスでした。

作家様がTwitterでご自身の文体について翻訳小説寄りの癖があるとおっしゃっていましたが、冒頭から世界観を把握するまでのことなので、中盤以降は全然意識してませんでした。リスペクトしている仔犬養ジン先生のオリジナル作品の方がわたしには試練でしたので笑

それより気になってしまったのが、受け攻めの視点がしょっちゅう入れ替わるところ。読者には地味にキツいポイントというか…。最初は同じ章内でも混乱してしまい、後々章ごとにこれはヴェルギル、ここはクヴァルド、と読んでいて意識しないといけなかったので、そこがちょっと苦しかったです。番外編ではそれも全く気にならなくなったので不思議ですが。

たとえ血生臭いシーンがあったとしても、最初から最後までどんな描写も逐一美しく表現された壮大なファンタジーB Lでした。ある人にとっては上質という表現がふさわしいかもしれないけれど、上品という方がわたしにはしっくり。脳内では座裏屋蘭丸先生の美麗な絵柄で勝手に映像再生されてました。

本当にこれからの作品も楽しみです!

5

まるで映画のよう

完成度が高く、読んでいる最中も楽しく、そして読み終わった後も楽しい作品でした。
BLでこれだけ完成度の高い作品に出合えたことに、感謝すら覚えたほどです。
本当に素晴らしい。

読んでいると、指輪物語のような一つの映画を見ているような世界観に
どっぷりと浸ることができる素晴らしい作品でした。
よく考えられている設定や、背景はきちんと最後に向かってより上げられ
完結へと導かれていきます。

本当に面白かった。
名作だと思います。
読めたことに感謝です。
こういう作品があるということが、本当にうれしい。

2

重厚なファンタジーと人間ドラマを楽しみたい方に

なんだか時間を忘れて読みふけってしまいました。
非常に面白く、骨太で読み応えのあるファンタジー作品です。
長期に渡って構想を練られていなければ、ここまで読み手を夢中にさせるお話は書けないのではと思います。
それくらい作家さまの熱意やこだわりが随所に感じられる作品でした。

まずは文章について。
他レビュアーさま方も仰っているように、やや硬質さのある文体で綴られています。
個人的には、これ程までに壮大な物語を描き、魅力を引き出すのならばこの文体しかないだろうなと。
世界観に合っていて私は好きでした。
良い意味で突き放したような素っ気なさを感じるからか、物語全体を俯瞰的に見られて良いなと思いました。
雰囲気的にはモノクロームロマンス文庫の文体が近いでしょうか。

物語は、神や神話が信じられ、人間と「ナドカ」と呼ばれる人ならざる者が共存している架空の世界。
人間と人外が共存する為の「協定(ノード)」というものがあり、それを護り司る「氏族(クラン)」と呼ばれる人狼を中心とした組織があったりと、独創的な設定が光ります。

永きに渡る時を退屈に過ごし、日々を流れるように生きる吸血鬼のヴェルギル。
とても享楽的で臈長けた魅力のある、いつも人を揶揄って言葉遊びをしているような掴みどころの無い人物です。
そんな彼の退屈で平穏な永遠のひと時を、文字通り拳で破って入り込んで来たのが、愚直なほどに真っ直ぐな性格の年若き人狼・クヴァルド。
真逆とも言える性格の2人が"吸血鬼違い"をきっかけに行動を共にし、無差別に殺戮を繰り返す悪名高き最古の吸血鬼・エダルトを追っていく内に、神話や歴史の大きな渦に飲み込まれ、やがて隠されていた真実を知っていく事になる。

ヴェルギルとクヴァルドの両視点で、現在と過去を交えながら、神話や歴史、文化、この世界で生きる者達の人間ドラマが読み応えたっぷりに描かれています。
架空の世界の神話や歴史と聞くと小難しい印象を受けますが、性格が真逆な2人の旅の様子と共に少しずつ語られていくので、そこまで難しくは感じられないと思います。
文化や種族に関しても同様ですね。

今作の1番の魅力は、なんと言ってもやはりストーリーでしょう。
巧妙に、さり気なくあちこちに散りばめられていた伏線の数々が自然と回収されていき、気が付けば次々と明かされる真実に唖然とする。
読み進めていく内に、ここまで考えていたのか、という驚きとお話の面白さにぞくぞくしました。
吸血鬼と人狼、凸凹コンビのような2人の旅からこんなに壮大なお話になるとは思ってもみませんでしたし、これだけの重厚な物語と設定を自然と読ませてしまう筆力の高さが本当にお見事です。

物語だけではなく、登場人物達の心理描写も非常に丁寧。
千年もの永きに渡る時を死んだように生きていたヴェルギル。
たった1人のはみ出し者の人狼の若者と出逢った事によって、彼の失われ忘れかけていた何かが動き出す。
年齢的にはかなり年嵩のヴェルギルが、真っ直ぐなクヴァルドに心乱されていくのがたまらなく良かったんですよね。
いけ好かない相手とのただの協力関係だったはずが、孤独を抱える者同士が共に過ごし、互いを知る毎に言いようの無い感情が生まれ始める。
少しずつ2人の距離が近付き、触れる度に愛おしさのようなものが育っていく様子が唐突には感じられず、あくまでも流れるように心情が変化していくのです。
相手の容姿を「色」を使って表現するところが好きでした。
「満月のせい」にしながら本音を隠す2人がもどかしくも切なかったりして、物語の雰囲気は壊さないまま上手く描かれていたように思います。
初回の満月の夜から、中盤・終盤の変化も見どころのひとつですね。

エギルとヒルダ、ディアドラという少女とマルカスという鬼人(デーモン)、そしてグレタという少女と放浪民のシーンも印象的。
放浪民のシーンは、ヴェルギルとクヴァルドの関係性により深みが増した気がします。
ヴェルギルとグレタのやり取りも含めて大好きなシーンです。
そして、絶対悪のようなエダルトがどうして殺戮を繰り返すようになってしまったのかについても納得がいくものでした。
メイン2人以外の登場人物達のそれぞれ形が違う愛の物語、人間ドラマも必見です。


見知らぬ世界の地図。
謎だらけのまま始まる序章。
一体これから何が始まるのだろうとわくわくする。
一気にラストまで見届けた後に序章を見返すと、これを序として持ってくるセンスが本当に素晴らしいなと。
読後の余韻に浸りながらまた読み返してみたいと思います。

文句無しの神評価にしたいのですが、ラストがほんの少しだけ駆け足気味に感じたので、ここまで丁寧に描かれた物語ならば、数年後の手前辺りも欲を言えばじっくり読みたかったなという気持ちがあった事と、章途中で名称や用語からルビが外れてカタカナ表記のみになってしまった点だけがやや気になりました。
漢字も含めて用語として記憶していたので、漢字+ルビのままであればもう少しすっきりと読めたかなと思います。
ここで読み辛さを感じる方もいらっしゃるかもしれません。
なので、限りなく神に近い萌2評価で。

オリジナリティ溢れ、読み応えのある重厚なファンタジー作品がお好きな方におすすめの良作です。
ファンタジーとしての完成度が高く、何より、楽しんで書かれているのが分かる素敵な作品でした。

初回限定の同人誌版を購入したのですが、小口染めの蒼色が大変美しい装丁でした。
再販分・続編も年内に頒布・電子版にて配信予定だそうです。楽しみですね。

11

物語として、文句なしに面白いです

中世ヨーロッパ風ファンタジーで、神話の世界であり、吸血鬼や人狼と言った人ならざる者達のドラマであり、父と子の物語でもあります。

こちら、物語として文句無しに面白いんですよね。
筋金入りのファンタジー好きでして、BLに目覚める前から山ほど読んできてるのです。
それこそ、ファンタジーで名を馳せてる有名作家さん方にひけをとらない、よく練られた壮大で素晴らしい作品だと思う。
ただ、これは本当に好みの問題だし、自分の評価がズレてるんだろうとも思うんですけど、BLとして評価するなら「萌」で。
素直に感じた事を言わせていただくと、ラブが弱い気がする。
他の部分が圧倒的すぎて。

あと、すごく文章力のある作家さんだと思うのです。
読んでいて、それはひしひしと感じられる。
ただ、少し不親切。
独自の用語はバンバン出てくるし、ちょっと持って回った言い方で、正直読み辛い
作中での、用語に対する説明も分かり辛いです。
これだけ文章力のある作家さんなら、もっと読者に分かりやすく書けるだろうし、それでも十分伝えられると思うんですけど。
巻末に用語集があるので、それを頭に叩き込んでから読めばいいだけの話だし、私がアホだからこう感じるだけの気も大いにしてはいるんですけど。

なんだろうな・・・。
素晴らしい文章力だけど、圧を感じると言うか。
個人的には、読者に分かりやすい、誰が読んでもスラスラ読める文章で感動させる方が難しいと思ってるので。

ザックリした内容です。
吸血鬼として、気が遠くなるほどの年月を過ごしてきたヴェルギル。
人狼で〈協定(ノード)〉の守り手であるクランの一員・クヴァルドに、人違いから襲われます。
ここから、クランの頭領の復讐を果たすべく行動しているクヴァルドに、協力する事にしたヴェルギル。
しかし、ヴェルギルには、クヴァルドの敵・エダルトを殺す事の出来ない、ある事情があってー・・・と言うものです。

こちら、繰り返しになりますが、物語として文句無しに面白いです。
最初こそ、生真面目で堅物な人狼と、享楽的な吸血鬼が共に旅すると言う軽い展開なんですけど、ここからどんどんお話は深みを増して行くんですね。
伏線が非常が巧みなんですけど、はるか過去の神話だと思われていた出来事に、その裏に隠されたとても悲しい真実。
物語を読み進めるうちに、それがまだ終わってはいない、主人公にとっては現在進行形の出来事なんだと分かってくる。
いや、こうやって繋がっていたか!と。

とにかく、要所要所で驚きの真実が明かされ、驚愕させられるんですよ。
読みながら、どんだけ隠し玉が出てくるんだよ!と、目が離せなかったですもん。

えーと、キャラの造形、彼等のバックボーン、そしてしっかり練られたストーリーと、全てが完璧と言うか、素晴らしい調和を見せる事でより面白くなってるのです。
純粋に、これだけの物語を創作出来るって、凄いと思います。

ただ、これは本当に個人的な好みだし、私がそう感じるだけなんですけど。
えーと、もうちょいラブの部分をしっかり書いて欲しかったと言うか。
いや、これだけ壮大なお話となると、ファンタジーの比重の方が大きくなっちゃうんですよね。
個人的な好みとしては、もっと主役二人のラブにドキドキしたいし、切なくもなりたいし、単純に萌えたい。
う~ん・・・。
このバランスって難しいとは思うんですけど。
こんだけ壮大なお話を読んで、もっとラブを!って自分でもアホ丸出しの感想だとは思うんですけど。
いや、BLとしての評価なので。

あと、申し訳ないけど、文章が読み辛い・・・。
すっごく上手い文章だとは思うんですけど、とにかく理解するのにいちいち頭を使う。
何だろう・・・。
翻訳ものっぽい書き方なんですよね。
もちろん、こういう文章が好みの方は大勢おられるでしょうし、スラスラ読める方が大半だろうとも思う。
でも、私は疲れる・・・。
そして、不親切だとも思う。

えーと、理想としては、読み進める中で自然と用語や内容が理解出来るなんですけど。
物語に、集中出来るので。
でも、今作は真逆なんですよね。
一生懸命考えながら読んで、一生懸命覚えながら読まないと、あっという間について行けなくなる。
しつこいけど、私がアホなだけで、普通はスラスラ読めるのかもしれないけど。

最終的には私なんかが読んでしまってすみませんって感想しか出てこないんですけど、同じように感じて悲しくなる姐さんもおられるかもしれないので、一応レビューを書かせていただきました。
高評価の中、申し訳ありません。

17

普通のBL作品でした。

他サイトレビューに「 ライトノベルに辟易した人におすすめ 」 「 BL史上初の世界に翻訳されるべき大作 」 、 云々の大言壮語に惹かれ、即読んでみました。 落ち着いて、ゆっくりと。

 ………が、高評価を下した方には申し訳ないのですが、作品の良さが全く分かりませんでした。 少なくともその他のライトノベルと大きく差をつけるほどの良さがどこにあるのかが。
 地図のリアルさ、エスプリや皮肉の効いたセリフにうっとりとし、最初こそ斬新な刺激を感じましたが、徐々に「奇をてらうための、雰囲気を気取る為の口調とテクニック」を見ている気がしてきたんです。
 人物はセリフを駆使して必死で動いているのに、肝心の物語そのものがどこかに置き忘れられてしまい、序章の持つ雰囲気と情景が後続の章と乖離するというか、かみ合わなくなってゆく様に心がしぼんでゆくのを止められませんでした。

確かに壮大なストーリー設定には目新しさはなくてもそれなりに面白いと思う。だけど書きたいことを書くためだけに書いているような運びに気がついた時、心がさめてしまったんです。
 こういう事はBL作品としてはしょっちゅうある事だとわかっていても。
 酔って書いたのか、抑制を失ったセリフが読んでいてイタイ。
 なまじっか筆が立つゆえに筆に酔い、物語の本分を失ったか、 物語の壮大な設定に筆力を生かしきれなかったのか?

 序章の耽美な雰囲気を貫徹し、最後まで読み手を引っ張ってほしかった。 序章の埋没と死を眺めるのは寂しかった。

 結果を言えば、凄い地図で体裁を整えるという労苦や手間を施す理由が全く見当たらない内容でした。 ……まさに普通レベルのソッチ系のBL。
  
 「 世界に翻訳されるべき」作品だったらば、何故あのイラストなんだ、っていう不審感は直感だったんですね。 いや、すみません。
 
 他に考慮しなければならない不安は、電子書籍という媒体は脳内に映像を送り込んでくるので、本来よりも3割増しで作品を良く見せる落とし穴がある。
 人それぞれの評価を大切にしながらも、今後は電子書籍市場の販売戦略に踊らされないように良作を探さなくては。
 でも、やっぱり、残念でした。

8

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