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ao wo daku
著者が一般文芸の本を次々と出している時期に、角川文庫から出されたこの本。BLの過去作なのにどうして今、一般のレーベルで出るんだろうと敬遠しているうちに店頭から無くなってしまい、結局後日取り寄せしたら3刷でした。
読み終わり、なるほどなあという気持ちです。BLはBLだけど変化球だなと感じました。
前半はひどくまったりとしています。著者の過去作に時折登場する、人生の中休みをしているような人が現れ、寝たきりになってしまった弟の介護に暮れる主人公に絡んで来ます。
余計なことを言っては怒られ、言葉が足りないようでもあり、そつなく先回りするようでもあり、そのことで主人公の気持ちが上がったり下がったり、とげとげしたり緩んだり、見ているこちらも苦しくなっていくほどです。
後半になって、少しずつ、前半で感じていた違和感の正体が明るみに出て、思いも寄らなかった仕掛けが明かされて、色々な事が収束していく様子は気持ちよくもありました。
ここに描かれる関係性と、同じ人物の過去の関係性が結びつくことで世界が複層的になるのを感じました。新聞社シリーズで良時と密と十和子の三人の複雑ともいえる関係性が、子どもの頃からのエピソードで少しずつ解き明かされていくように、かつての世界の上に今があることが如実にあらわされていました。
角川文庫は挿絵はありませんが、竹美家らら先生の絵柄がずっと脳内に浮かんでいました。元のレーベルでは藤たまき先生がお描きになっていたと後で知り、ふわっとした描線に親和性を感じました。
本書は大幅加筆修正された本編(「青を抱く」「青が降る」)のほか、著者ブログ掲載の「be with you」、購入者特典SS「ウェルメイドブルー」、書き下ろし「Dear my her」が収録されています。
加筆修正されているというこちらを読ませていただきました。
青を抱くというタイトル、読了後に
登場人物みんなが青を抱えていたと感じました。
靖野そのものが海で、みなが靖野を待ち、
待つ泉を宗清は好きになる。
海の深く青い場所に潜んで息をしてるような雰囲気の中に居ます。
泉と宗清を交換して育てる恋人2人は
愛と秘密の取引をした、と解釈しました。
女性同士でしか成し得ない愛のやりとり。
宗清の母親にとって、
かつて愛した女性のこどもだからこそ
生きる糧だったのではないかと思います。
皆がおもっていた物語の中心であった靖野。
目覚めたあとがかなしすぎます。
善行の後に水難事故に遭い、
長い眠りから覚めたら
ずっと想っていた泉は実兄と結ばれていた。
尽くしてくれた泉に「忘れた」フリをして身を引く。
良い子すぎて、辛い。
宗清にだけでも悔しさをぶつけてくれてもよかったのでは、
と思いました。
読了後おもわず靖野のスピンオフを探してしまうくらい、切なかったです。
以前フルール文庫ブルーラインの作品として出版された作品ですが、角川文庫として再文庫化されるにあたって大幅に加筆修正されたとのことです。
でもカテゴリー的には非BL作品となってもBLであることに変わりはないです。私はフルール版を読んだことがないので、どこがどう変わったのか比較は出来ないのですが、とりあえず商業BLらしくラブとこってりとしたエロがあるのは確かです。
といっても冒頭からBLっぽくない感じで、本編の最後まで一般文芸の雰囲気。BL作品は基本的にメインカプの2人のラブに収斂していくため、他の部分が削ぎ落とされる傾向があります。しかしこの作品では主人公・泉が長引く弟の介護により疲弊し心がささくれだっている様子など、恋愛以外の感情描写も細やかで豊富です。
なので、それがいいという人もいれば、リアル過ぎてしんどいとか不安になるという人もいるかもしれません。
ラブ要素以外の部分も歯応えのある読み物をBLでもじっくり読みたいかどうかで、評価は違ってくるかもです。
個人的には、本を読むからには読み応えがあるものが読みたいので、こういう作風は大歓迎です。