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ドラマチックBL下巻。
「シナプスの柩」名義の物語は、一冊の1/3位で一度終結。
上巻の終盤、記憶の混乱の中で樋口がなぜ長山のことを話してくれないのか、長山の言うことは本当なのか、どうしても知りたいんだ…という水斗は長山に会いに行ってしまう。
というところからの下巻。
当然、長山は再び水斗を手篭めにしようと。
そこに樋口が現れて、これまでの癒着やら医療過誤やらの長山の犯罪は今から警察に暴かれる、だから…観念しやがれぇ…(時代劇みたいダナ。)
…というまるでTVドラマでも見ているようなベタな展開が繰り広げられ、長山が水斗を道連れにまたまた窓から飛び降りようと。
その瞬間、今度は樋口は間に合うのですよね。
樋口は水斗を失わない。そしてその衝撃でかなんかは知りませんが、水斗の記憶も戻るんですねー。
ドラマチックな作品を読みたい方には、すごくハラハラもするし、上巻の「可哀想」が報われて大きなカタルシスがあるからおすすめです。
「幸福の領域」
長山が捕まり記憶も戻った後の水斗視点。
真面目な水斗は、自分は長山の愛人だったのだから、悪事に加担こそしてなかったけれどきちんと裁判には出ないと、と決意している。
すると樋口が「行かないで!」っぽくなる。
もう水斗にメロメロになってる樋口が読める一編となっています。
水斗は…不憫な半生を生きて、一度は全てを失い、そして生まれ変わった。
何もかもを包んでくれた樋口のために、あなたに相応しくなりたい、と生き直す、そんな強さがあります。
樋口は甘い甘い過保護な男…
上巻のつらい展開から報われました。
ただし、やはり記憶喪失ギライを克服/転回するには至らず。
この小説は、深層心理に興味を持つ人が読んだら、多分物凄くオモシロイ内容だと思います。特に、ユングの夢分析にほぼ沿っています。自分探しのヒントになると思います。
なので、この小説を深層心理分析に興味がない人が読むと、エロ少な目だし、訳不明の陳腐な内容に感じると思うので、お薦めしません。読まない方が良いです。
不評レビューが上がると、努力して再編集した著者の労が報われない、気の毒すぎます。
上巻で各所に示唆されていたこと、著者が専門家から聞いた内容の心理分析の答えが、下巻の「幸福の領域」に小説の形で書かれています。
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色々、長野院長の報復があったけれど、解決に向かう最終巻。
長野院長は、水斗の父と水斗の区別がついていたのか、謎。
執着しすぎて、殺人まで犯した「頭が壊れている人」だから、識別ついていたのかよくわかんない。
愛に飢える長野の異常愛が炸裂して、供連れ自殺に巻き込まれる水斗。
事件後に目覚めると、水斗は記憶を取り戻していた事に気づきます。
本人は完全に記憶が戻ったと思っているようですが、小説を読むと、完全では無くて、体で覚える技術系が無意識に反応して体を動かしているだけ、といった感じです。
忘れたい「汚れた記憶」の全部を取り戻していない間は(見て聞かない限り思い出さないから)、水斗が望んだ「浄化と再生」は叶ったのかも。
でも何かある都度に「それは、水斗のせい?」と自分が悪いと考える場面が、気の毒で哀しい。中々解消できないみたい。「寄生蜂のように、あなたを蝕んでいないでしょうか」と悩む水斗。
樋口は常に、水斗にだけは無条件に優しい溺愛型狼の理想のパートナー。
医師のカウンセリングを小説の中で水斗は受けては居ますが、樋口が聞き役になって、
ほぼ自力で水斗が夢分析を行い、水斗が自分の状態を有るべき状態に戻して行けたのは、
樋口がカウンセラーとして優秀だったから、かもしれません。
樋口に真の愛が無けりゃ、受け止め切れない事だったと思います。
ドイツに一旦留学・・水斗の夢を叶えるために計画を立てる樋口・・優しいねー。BLの攻は、惚れると受に振り回される愚かな恋する人になってしまう。
下巻では、水斗が過去と向き合い、自分を取り戻すまでの過程が主題的に描かれています。
二人だけの空間で心を通わせて水斗と樋口でしたが(華藤先生は二人だけの静謐な空間を描くのがとてもお上手だと思います!)、徐々に水斗をとりまく状況が動き始めます。水斗の師、長山にまつわる諸々の疑惑の捜査に警察が動き出し、彼の愛人であった水斗にも、長山の不法行為に加担していたのでは、という疑惑が向けられます。さらに、そうした状況の中で、水斗の記憶が少しずつ戻り始め、水斗は、自身の過去に怯えることになります。
水斗と長山、そして、樋口と長山の対決シーンが前半の軸になります。ありのままの水斗を愛した樋口と水斗をただ所有しようとした長山の対決。ここに来て、長山がなぜ水斗に執着したのかが明らかになったこと、そして何より水斗が長山を許してしまったことにより、絶対的な悪役がいなくなってしまった感がありました。長山にはとことん悪役に徹して欲しいという意見もあると思います(それはそれで面白かったと思いますがw)。ですが、長山が単なる悪役ではなく、一人の弱い人間であったこと、なぜ悪へと傾いてしまったのかというあたりに触れられていたことで、単純な善悪二元論よりも人間の内面が掘り下げられていて読み応えがあり、引き込まれましたね。
ところで、長山によると、水斗は弱い人間だということですが、その後の水斗を見ていると、それには半分同意しかねました。自殺を図る長山に道連れにされそうになった衝撃で水斗は記憶を取り戻します。それは比喩的に「湖の底に眠っていた自分がそこから湖面へと引き上げられる」という風に表現されるのですが、彼は、長山に対する憎しみだけは「湖の底」に置いてくるんですね。そのことに、私は水斗の魂の強さを感じました。
確かに、長山の知る水斗は、無気力で弱かったかもしれません。ですが、憎しみを捨て、許すという行為は、強さの表れなんじゃないかな、と。そして、水斗を強くしたのは、樋口の揺るぎない愛情だと思います。樋口も長山も水斗を愛したけれど、愛し方が全く違うんです。
さて、本巻の後半を占める書き下ろし「幸福の領域」では、記憶が蘇った水斗がどのように過去を乗り越えて行くかが主題になっており、私の中では、これをもって『シナプスの柩』が完結します。長山への憎しみは乗り越えたものの、彼の愛人だったという事実と黙認という形で間接的であるにせよ長山の悪事に関わっていたという事実は決して消えることはない。水斗は、長山の愛人であった自分の存在は樋口の将来に影を差してしまう、自分は樋口から離れるべきではないか、と思い悩みます。ぐるぐる思い悩むあまり、記憶が戻ったのに、それを言い出せずに子供のふりをして、樋口に甘える水斗は可愛いかったけど、相変わらず後ろ向きだなあ。子供のままの状態でいれば、樋口からずっと愛情を注いでもらえる、このまま幸せな時間が続いていく…。水斗はそう考えて、記憶が戻ったことを告げるのをついつい先延ばしにしちゃいます。う~ん、不安になるのは分かるんですけど、樋口からすれば、記憶が戻ろうが戻るまいが水斗であることには変わらないし、彼にとっては「一人の水斗」だけが存在するわけで。樋口は、そのことを言葉にはしないけれど、水斗への愛情を誠実に献身的な行動で示しているわけですから、もっと信頼してあげて!と少しじれったく感じてしまいました。
水斗の演技を信じ込んで「サンタさんから預かっておいたから」とか言って、水斗にキタキツネのぬいぐるみをプレゼントする樋口には萌えました。樋口は、すっかり子育てが板について、最初に比べてキャラ変わりすぎです!
樋口は包容力があって無条件にいい男だと思います。水斗は、樋口の深い愛情に包まれ、幸せを掴めて、もちろんそんな水斗の幸せな姿を見ることができて嬉しいんですけど、ただ欲を言えば、この書き下ろしで、もう少し前向きになった水斗が見たかったかなあ。本人も樋口の愛情により「生まれ変わった」と言ってるわけですしね。今後、水斗が徐々に前向きに生きられるようになっていったらいいなあと思います。過去を乗り越えた時が、人生の再出発の地点ですしね。そういう意味で私は、この「幸福の領域」を、物語の完結であると同時に、出発点でもあると受け止めました。
え、そんなふうに話が進むの、と驚いているうちに、いつもおもしろくなるのか読み進めていたら終わってしまった。残念。
ドラマチックというか、陳腐というか、大映ドラマや韓流ドラマみたいだった。