灰の月 下

hai no tsuki

灰の月 下
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神99
  • 萌×27
  • 萌5
  • 中立9
  • しゅみじゃない14

--

レビュー数
35
得点
547
評価数
134
平均
4.3 / 5
神率
73.9%
著者
木原音瀬 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

イラスト
梨とりこ 
媒体
小説
出版社
リブレ
レーベル
ビーボーイノベルズ
シリーズ
月に笑う
発売日
価格
¥1,120(税抜)  
ISBN
9784799742082

あらすじ

嘉藤が惣一の傍を離れて2年――
組長が倒れ、久し振りに会った惣一は以前のように冷徹でカリスマのある人物になっていた。
嘉藤がこの世界でたった一人と決めたボス。
だが惣一はその座を降りようとする。
引き留めるために惣一の願いを聞き、今夜だけと抱いた嘉藤だったが
惣一の涙に嘉藤の気持ちは変化していく。
しかし組の抗争が激化し、惣一が行方不明になってしまう!
激動な2人の歪な愛の結末は静謐で穏やかな日々に――。
本編大量改稿&その後の幸せな書き下ろしショートを収録。

表題作灰の月 下

本橋組若頭
本橋組組長

その他の収録作品

  • 灰の月 最終章(書き下ろし)

レビュー投稿数35

No Title

上下巻まとめての感想です。
今日、日曜の午後に読み始めて一気に読み終わってしまいました。
一言でいうと「衝撃」でした。
思わず息を呑んでしまう場面が何回もあり、読み終えた今も胸に苦しさが残っています。

これ、ほんとに「月に笑う」の惣一さんなんですか…。
上巻でも可哀想な人だと思ったけど、下巻でえげつない追い討ちをかけてきましたね。
嘉藤は忠実な部下ではありますが、ヤクザとしての惣一を慕っているのであって、彼の性癖や私情については敢えてなところもあれど、辛い当たり方をすることが多くて複雑な気持ちで読みました。

「月に笑う」時点ではどん底に落としてやりたく思えた惣一さんでしたが、「灰の月」では惣一さんにはもっと幸せになってほしかったなぁと思う気持ちも残りました。最後に愛だけが残ったのは救いなのかな…。

2

ここまで不運が重なるか…

惣一の大きな無理の綻びでもあり、努力の報酬でもあるラストだと思いました。
2人が思い描いていた未来ではなかったけれど、収まれるところに収まった。
読了後は、とにかく読み切った充実感がありました!
これでもか‼︎というくらい、事件が起こるので、ハラハラしどうしでした。
私は、メンタル弱い時にサンドバッグになるつもりで読みました。
まともに読んだら、しんどくはなると思います。
良い意味で木原先生らしい作品で、満足です。

0

タイトルの考察

読後じわじわ効ますねー。
読んでる時の脊髄反射の感情と、読み終わって振り返ってみると違う景色が見えてきたり。
ちょっと置いてまた再読したいです。

タイトル「灰の月」
個人の勝手な考察なんですが
燃え尽きた紙の月(ペーパームーン)
→燃え尽きた紙(灰)の月なのかなと。

ペーパームーンは張りぼての月が由来で、まやかしや偽物という意味がある反面、紛い物でも信じ続ければ本物になる。という意味もあるとか。
カトウが大切にしてたペーパームーンは、惣一を頂点にした組を自分が支える。という、青写真や未来予想図だったのかな
でも最終的に燃え尽きて灰になってしまった紙の月。
全く別物になってしまった月を、それでも抱えて生きていくってのがカトウの出した答えだったのかな?

3

この愛情は痛くて愛しい!

先に「月に笑う」を読むのが個人的におすすめです。
惣一と嘉藤のことを知ってから、「灰の月」を読むと、より感情移入しやいと思います。

以下は、「灰の月 下」について個人的な感想です。

「月に笑う」の賢く腹黒い惣一は、まさか愛のために狂人となった。
愕然とした展開、衝撃な結末、すごい、すごすぎます!

嘉藤視点だが、
狂った行動を起こし、もがく惣一の苦しさ、空虚感、しっかりと痛々しく伝えてくれました。

愛されなくても、せめて愛する男が好きな肉体になれればと、
胸を作って、自分の体を異形にした惣一。

「もし死んだら、次に生まれ変わるのは女がいい」
「黙って立てるだけでお前がぶち込みたくなるような、女になりたい」
あんな狂おしい想いを淡々と穏やかな口調で告白した惣一。
心の虚しさを噛み込んで、持ち耐えない気持ちを裏に隠していたでしょう。

豊胸も女装も、女になりたいわけではない。
プライドまで捨てて、ただ愛する男を喜ばせる体を手に入れたかった。
必死なアピール、一生懸命な惣一を尊敬します。

嘉藤が撃たされた時、身を挺して彼を守った惣一。
このような全力で愛する男にした無意識の行動が心に痛切に感じられました。

旅館でのすべての出来事、
病みつきになるほど好き、どうしても欲しくてたまらない、でも、決して受け取ってもらわない嘉藤への気持ちに追い詰められた姿が痛すぎます!

ほろりとした結末。涙ボロボロでした。
漁師となった嘉藤と、クスリの後遺症で頭がおかしくなった惣一。
すべて忘れてしまっても、愛する嘉藤のことだけ忘れたりはしなかった。
きっとこの愛を魂まで刻んでいたでしょう。

共に生きている2人の間には、断ち切れない愛情が存在しています。

この愛情は、恋、傾慕、同情、欲望、劣情、信頼、いろいろな感情を混ぜてきた相手に注ぐ愛の気持ちだと思います。

恋:嘉藤への激しい恋心を抱いている惣一。

傾慕:強いボスに惚れ込んだ嘉藤。

同情:感情をコントロールできない、狂ったボスへの同情。凄惨な強姦、監禁、凌辱、クスリ漬け、さらに性器切断された男への同情。

欲望:性欲の強い惣一、嘉藤が欲しいという欲望。

劣情:惣一の「胸」に本能的な性欲を生じた嘉藤。

信頼:長年にわたって作り上げた絆。

組を捨てた2人は、きっとどんなことがあっても離れたりはしない、
2人だけの愛情をもっとより深く積み上げるでしょう。

今まで一番
本当に感極まる余韻が止まらない作品でした。

5

まさかのまさかの結末

いや、これは。なんと言いますか。
私は上巻のレビューにおいて、どう落とすのか、描きたい何かがあるはずだ、と書きまして、ずっとそのことを探りながら下巻を読み進めておりました。
正直、最後の最後まで、「どうすんのこれ」と。312ページの「END」マークにものすごく絶望しました。
上巻と同様、下巻も同人誌として発行されたものを収録しており、数えると7冊(+ペーパー)にのぼります。最終章のみ書き下ろしです。
上巻は5冊分だったので、惣一を描いた同人誌は全部で10冊以上になるわけです。
描きたい何かがあるはず、という私の疑問は、本書の後書きにより、あっけなく答えが提示されました。
いわく、「惣一さんを幸せにすべく続きを書いていた」。「最終的に惣一さんの一途な思いが伝わった」との言葉に、愕然とした次第です。
私は、物書きの業をまざまざと見せつけられたような、そんな気持ちでいっぱいです。
作者が、この二人の長い物語をハッピーエンドだというのなら、そうなのでしょう。紆余曲折があり過ぎましたし、結果として最終章で嘉藤が出した答えがこれならばそうなるのでしょう。
長かった道のり。書きたかったのは惣一の幸せであって、嘉藤のではない。
なるほど、と納得しました。
終始嘉藤の視点で描かれていましたが、あの嘉藤がこれまでの生い立ちやらヤクザ同士の抗争やら、厳しい上下関係やら義理人情やら、その他諸々色々なしがらみ含めて、全部捨てて惣一だけの物になるためには、これほどの大きな事情がない限り無理でした。それは分かりました。
が、待ってください。
本橋組の皆さんのことは、ハチや井上さんや西や山平や、その他大勢の組員のことはもういいんですか。彼らが彼らなりに収益を上げる手段を講じることが出来て、惣一の資産運用その他に頼らなくても資金繰りに困らなくて、嘉藤がいなくても幹部がなんとか運営するだろ、みたいな目算が立てば、二人は二人の世界に埋没して逃避して、それでいいんですか。
私は、やっぱりそこは、仮に薬物中毒者が作り出した夢の世界のお話だったというオチがついたとしても(そんなオチではないですが)、飲み込めません。大勢の人が絡む、社会の一員として、この終わり方は、理解はできても納得できず、すっきり終われません。
そもそも、嘉藤も壊れていたのでは、と思ったりもします。
惣一が女性の乳房を作ったことを知った時、元に戻すのは可能そうだ、と言いながらも手術させなかった。そのそぶりも見せず、なんだかんだ愛撫するし、なんだかんだ胸ばっかり見るし、確かに嘉藤は女性が好きなんでしょうけど、胸があればいいのかと。相手が男でも、男の身体に不自然に胸だけ生えている状態でも、表向きさえ自身の理想とする組長然と振る舞ってさえくれれば、やりまくるのか。
破綻していると思います。ああ、だからこその逃避行エンドか……。

下巻で良かったところは、胸を作ったことを知った嘉藤が、冷たい言葉を吐きながら惣一を抱くシーンです。「月に笑う」を読んだときに、私は惣一が酷い目に遭ったと聞いて、ざまあみろと思いました。そこからここまでで初めて、惣一を可哀相だと思いました。
男の声は興ざめするから喘ぐなと言われて、これまであんなにうるさいくらい嬌声を上げていた惣一が、服を噛んで声を出さないように涙を流して堪えていた場面です。
本書に巻かれていた帯に大きく書かれた「純愛」の文字。上巻を読んだ時には違和感しか覚えませんでしたが、この場面を読んで、ああ、と腑に落ちました。

2

惣一の地獄と嘉藤の涙

これまで惣一の負った苦しみの負債。

そして北海道に移り住んでからの2人の生活の静けさ。
負債に対し、なんて小さすぎる日常の穏やかさ。


もう、わたしの心臓は
持ち堪えることができなかった。

正負の法則というものがあるのなら
惣一の負債はどういうエンディングで
回収出来るのだろう。
物語のその先に、これ以上の幸せがあるのか…?


しかし惣一はもう、この負債を忘れている。
代わりに、嘉藤がその負債と記憶を負う。


嘉藤は負債を追うことで
はじめて愛を知ることになったのだ。
「……私の名前を知っていますか?」
「私を好きですか?」
「あなたが私を忘れても、傍にいますよ」

一度は風前の灯となった惣一の命に与えられた
残りの人生を、想う。

あんまりじゃないか!
勘定が合わないではないか!

もう、どれだけ愛しても、愛しても、
不憫で、悲しくて、苦しい。

1

愛だけが貫かれ、愛だけが残った結果

下巻では、愛だけが残る、というのがキーワードなのかと。上巻もかなりハードでしたが、下巻の最後はもう、どひゃーな展開からのはぁ~~~…と、まさにジェットコースターでした。

以下ネタバレありますのでご注意ください。

ある事件をきっかけに嘉藤は東京へ戻り、再び惣一のもとへ。下巻はヤクザならではの抗争や裏切り、粛清、とにかくバイオレンス満載です。私は小説は創作なので、バイオレンスでもバッドエンドでも作品である以上まったく気にならないのですが、苦手な方はいるかもしれません。

そんななか、惣一は嘉藤への愛だけは貫いているんですよね…離れていても、決定的な決別の言葉を投げかけられても、ただひたすらに嘉藤のことを好きでい続けている。

身内の裏切りを粛清して一段落つき、神戸の隠れ家的宿に惣一を迎えに行く嘉藤。その夜、惣一は嘉藤のひどい言葉の凌辱に耐えながら、嘉藤にお願いしてまで抱いてもらうんです。

この痛々しさったら…もう筆舌に尽くしがたい。こんなにも心をくれない相手に、泣きながら心を傷つけられながら抱かれる描写が痛すぎる。

でも、嘉藤も嘉藤で、もう惣一を自由にしてやれよ…とか思うんだけど、絶対に惣一には組長になってもらうと惣一を手放さないんです。違う意味なんだけど、二人の執着のベクトルは同じ…。

しかし、惣一を抱いた嘉藤にも少しずつ心境の変化が訪れ惣一が組長に就任してからの二人の関係は以前とは違うものに。嘉藤は惣一を愛してはいないんだけど、欲情はする。嘉藤自身もこの不思議な気持ちを消化できずにいるんだけど、暗雲立ち込めていた過去の関係に一筋の光が差される。

順調に進んでいたかにみえたが、最後の最後、バイオレンス、凌辱、クスリ、もうありとあらゆる痛々しさを含んだ大事件が起きて、どひゃー、うひゃーとページめくるのも怖くなるほどの徹底的な描写に、もはや心はお許しくだせ〜状態に。

誘拐・監禁されてクスリ漬けにされた惣一の性器切断という途方も無くキツイ描写は、これはもはやBL小説なのか?と思うほどに、徹底的で容赦がない、ここまでするんかい?と思うほどでした。

でも、この描写。あとから、これ必要なものだったんだと思いました。

嘉藤は異性愛者で、嘉藤は惣一に対し、愛に応えられない理由として、女を抱きたいから、ということを言っていました。そのため惣一は自分が女のようになれば、嘉藤は自分を抱いてくれると思い、豊胸手術をするんです。でも、ペニスは残ったまま。

その後、性器切断されるという痛ましい事件となり、クスリの影響で廃人同然となった惣一だったけど、事件のあと、惣一と嘉藤と二人だけで漁村で慎ましやかな暮らしをする中で、惣一が言うんです。「ペニスもなくていいと思ってたら短くなった」と。

つまり、ずっとなりたかった「女」になれた。やっと嘉藤に自分を愛してもらえる、抱いてもらえる。

そして最終章、ついに二人の愛は結実します。

クスリの影響ですべてを忘れても、すべてを失っても、嘉藤の名前と存在だけは覚えていた惣一。ただひたすらに嘉藤への愛だけを貫いた。なりたかった「女」にもなれた。そこまでに惣一の嘉藤への愛は揺らぎないものだったんだなと思いました。

そして、すべてを失っても自分への愛だけが残った惣一を前にして、男とか女とかそんなものは超越して、これからの自分のすべてを惣一に捧げようと、ついに惣一の愛を受け入れ、自らも惣一への愛を認識した嘉藤が描かれていました。

惣一は自分のすべてを引き換えに、1番欲しかった嘉藤の愛を手に入れる。他に何も要らない、という惣一の言葉には泣けてきました。そして凄惨であまりにも過酷な過去はすべて忘れて、今、目の前にいる嘉藤だけが現実であり、嘉藤の愛に包まれていることが、惣一のすべてとなったことに、惣一は唯一無二の幸福を手に入れたのだと思いました。

他の人からみたら大きすぎる代償だけれども、惣一はそれしか、嘉藤しかほしくなかったわけだし、嫌な過去はすべて記憶からなくなり、ただ嘉藤との穏やかな日々だけが続いていくのだから、惣一にとっては代償を払ってでも欲しかったものなのだと。

そして嘉藤はすべてを失ってもなお、自分を好きでいる惣一に、ついに愛を認識するんだけど、愛してるとか言葉で言うのではなく、惣一の中で自分が忘れ去られた存在になることへ恐怖を感じるんですよね。もちろん、こんな状態の惣一を見捨てられないという気持ちもあるんだと思いますが、惣一に自分を覚えていてほしいという、本当に純粋で無垢な気持ちを持つに至るんです。

もはや究極の愛。まったく汚れのない愛だけがそこに残る。

読了後、すごすぎて、なんも言えねー状態に。でもここまですごいからこそ、絶対見届けたいと思うのかもしれません。

これは人を愛する究極のカタチなのかもしれない…。
すごい作品に出会ってしまった…神以外の評価はできませんでした。

8

読む人は心を傷つけられる覚悟で読んで下さい

私にとっての商業BL小説デビューが木原先生でした。
そのあまりのえぐみのある展開に心打たれ、一気にファンになりました。

何冊か一般文芸を手に取って、そして辿り着いたのがこちらの本でした。

読む人を選ぶ、というのを小耳に挟んでいたので、まずKindleで冒頭を試し読みしてから紙本で購入しました。届いた本のカバーイラストが素敵すぎて、美しすぎて、しばらく二冊並べてじっくり眺めてしましました。紙本で購入してよかった、と心の底から思いました。

正直、冒頭の惣一の陵辱シーンも読む側として全く問題なく(しんどい展開好きなので)、すいすいと読み進められました。

嘉藤視点で語られる、惣一の淫乱な姿ですが、木原先生の手にかかるとものすごく痛々しく映ります。愛のないセックスを描くのが本当にお上手だな、と内心ものすごく感動してしまいました。(肉棒、や、雌犬といった言葉を主語として使うあたり)

私は不憫な美人受けが好きなので、そんな惣一にもかなり唆られるところがありましたが、下巻に入ってもなお、嘉藤が依然惣一に全く唆られないどころか嫌悪と性欲が入り混じった苛立ちと興奮に、これまた木原先生らしいな、と、普通のBLならこんなに美人な受けがいたら、ほだされてすぐ惚れるのに、頑なにそうならないところに木原先生のお約束をガン無視する残酷さが見えて、暗い話が好きな私としては興奮しました。

そして、中盤明かされる、嘉藤への想いを募らせるあまりに惣一の下した決断というのは、読者の私もさすがに驚きました。こうくるかー、と。やっぱり木原先生すげぇやー、と。

そして、終盤、ついに行方不明になっていた惣一を嘉藤が救出するシーンで、嘘やろ……と頭を抱え、本を閉じたくなりました。正直、ここまでの展開で心が痛むことはほとんどなかったのですが、これはやばかった。しんどい。しんどすぎます。これを書いているのは読了した翌日なのですが、後遺症がものすごくて、日常生活に支障きたしていくレベルです。誰か、救済を、救済を……と、空に手を伸ばす始末。

最後、惣一と嘉藤の二人だけの、穏やかで、しかしどこか狂った世界も、見たいけど、見るのがしんどい、でも読まなくちゃ……そんな気持ちで最後まで読みました。嘉藤は惣一を連れてどこに行ったのか。どこか不穏さを残しつつ、読者に想像を委ねるラストも、お見事です。

どこまでも一方通行な二人が、同じ箱の中に収まるにはこのような展開でしか手に入らないものだったのでしょうか?あまりに残酷すぎて、もうちょっとどうにかならなかったのか、と頭を抱えてしまいます。

雌として嘉藤をどこまでも貪欲に求める惣一と、そんな惣一をボスとして尊敬し、どこまでもついていくと決めた嘉藤。お互いが、お互いに対して確かに愛はあるはずなのに、その方向性が違う、中身が違う、種類が違う。それだけでこんなに残酷な物語になってしまうんだな、と読み終えた私は呆然としています。

闇に耐性あると思ってたし、そういう展開ウエルカム!なはず……だったのですが、まだまだ修行が足りなかったのかもしれません。己の甘さをこの本で痛感させられました。

BL初心者はもちろんですが、中級者にもなかなか勧めにくい。それだけ読む人を選ぶし、終盤のあの展開に辿り着く前に心が折れて本を閉じてしまう人も多くはないのかな、と。

ただ、それでも読み進めた最後にあるものは、桃源郷のような、儚くて切なくて、偏った愛に満ちた、どこか空虚な世界。これを何エンドと評せばいいのか分かりません。くっつくとかくっつかないとか、そういう次元を超えたところに、この物語の、そして惣一と嘉藤の関係性に答えがあるような気がします。

ぜひ、これから読むぞ、という人は、確実に心を傷つけられる覚悟で読んだ方がいいです。それぐらいパワーとえぐみのある物語です。

木原先生って、ほんとうにすごいな、と言葉にならない絶望と感動が私の身体の中でひしめき合っています。

気軽に読み返すことはできませんが、確実に私の心を捉え、そしてどこまでも抉っていったことを、私は忘れません。すごい読書体験でした。ありがとうございます。

3

完全にノワール小説だった

上巻とガラッと変わってヤクザモノ!って感じのお話で、ずーっと続いていって誰が裏切り者なの?何が起こるの?ってところにドキドキしながら読む。忠実な部下は死んでほしくないなと思ってるのにじゃんじゃか死ぬわ、リンチするわ、殺すわ。
ハードボイルド!

惣一が嘉藤と離れてた2年間のうちにまさか豊胸手術してたなんて超絶ビックリ。(扉絵でのネタバレはやめて欲しかった)
ともすれば、笑いにもなりそうなビックリ展開。
組長の豊満なおっぱいを隠す為に翻弄する嘉藤のやれやれな日々、みたいな。
もちろんそんなドタバタギャグにはなりません。

最悪な事態に巻き込まれていくし、この身体のお陰で堕ちるとこまで堕ちてこの身体のお陰で嘉藤達に見つけてもらって救い出される。(ほぼ手遅れ)

上巻では、惣一ワガママすぎる!許せんな、懲らしめてやりたい!なんて思ってたけど、
下巻に入り同情してしまった。
惣一は、ただただ嘉藤に愛されたかったんだな。
大阪のホテルからの脱出大作戦で、女装しての逃避行はとても良かったです。田舎のラブホでのプレイにエロスを感じた。

ヤク漬けの上ハードな裏ビデオ出演、性器切断となかなかハードな描写で心抉られます。
でも、裏社会ではこんな悲惨な事もあるかもしれないなんて思いながら読んでしまった。

ラスト、どうなったのかハッキリとは描かれてない。だけど、あとがきに[二人は何もかも捨てて愛に生きるのかな]と書かれていたので死エンドでなくてよかったと思いました。

ヒリヒリするし読むのしんどいんだけど、先が気になるし中毒性があるのが木原作品だなーと思います。
BLなのか?とは思う。

2

愚かさに泣く

「自分の頭の中まで他人の価値観に支配されるなんて、生き地獄そのものでしょう」と木原さんの『ラブセメタリー』にありました。その言葉の牙を久々に向けられ、自分の予想を超えるどころか滅茶苦茶にされ、嫌悪と衝撃に暫く頭痛で放心状態でした…ネタバレなしで読めてよかった。
惣一が嘉藤を求める余り行動に移す愚かさ馬鹿さを、誰も辿り着けない境地まで読ませる力が凄い。こんな想像力を世に出せるって恐ろしいし、刊行と読者に許される(烏滸がましい言い方だけれど)のもまた稀有な事だと思いました。

「余りにも愛がない」と一度ボツになり、元々同人誌で描き続けたものをまとめた上下巻とのこと。嘉藤も惣一に対する気持ちを考えるシーンもありましたが、これはBLなのか、愛と括るには暴力的すぎる気がします。
嘉藤が求める惣一は理想の組長、惣一が求める嘉藤は性愛のみで、それは揺るがないように見ていましたが、惣一のどんな事をしても嘉藤が欲しい気持ちは容貌を変え、慈愛と悲哀を纏ったようでした。

嘉藤が離れた時に惣一はいつも危険に冒されて(それはもうフラグが立つほど)きたので、共に居るこれからはずっと安泰なのでしょう。

心を削がれる凄い疲れた読書でした。ネタバレはコメント欄に書きます。

1

ひみた

上巻の最後に、秋の訪れに蝉の死骸を思う一文がありました。音でしか感じない生命の始終。
惣一の中で勝手に生まれて死んだ生命に憤る嘉藤。彼は妄想に付き合いつつ、男の惣一が自分との子を愛おしく思う様を眺めてどう思っていたのか。嘉藤の為に作れ変えられた身体。良いように考える惣一。余韻が凄い。
出来れば惣一は記憶を思い出しているのにそれを言わない設定が良いのだけど、そんな分かりやすい着地は木原先生は用意しない。
ヤク漬けでも「カトウ」と呼ぶ惣一…(余韻が凄い)

ひみた

記憶が殆どなくなりボーッとしている時でも、惣一は異形の自身を見て発狂せず、欲しい形だと言える惣一がどれだけ嘉藤を欲していたか分かる。大阪に行った嘉藤と会わない2年間、その前にバッサリ振られた惣一は乳房をどう思いながら身に付けたのか考えると切ない。そして一度触れられたから切除すると言葉にする彼に泣ける。女々しくてみっともなくて純粋過ぎて愛おしい。
嘉藤に対して、性別が違うだけでここまで絆されないものかと、他のBLを読んだ後には思ってしまうけど現実的にはそうだろうと。

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