イラスト入り
tomurai no kojou
「小説b-Boy ホラーBL特集(2013年7月号)」に収録の短い作品だけど、
ホラーじゃ済まない、読後考えてしまう真面目な要素一杯。
「どうしてなのか、それは「きっと淋しかったからだ」」とアキが古城で回想する場面が印象的。
もし、アダムからイブが生まれた経緯が似た理由で、孤独な科学者の為せるものだとしたら?・・等々、読後連想してしまった。
細胞分裂から生命体の形を作り上げることは、いまの科学でもできる事だけど、
クローンを作っても、組織する体を動かしている性格を構成するものを「魂魄」と言うなら、
元は同じ杯でも、宿る魂=人格は同一なのか分からない。
クローン技術が進んで復活する日を待つ冷凍された遺体が、某所に沢山あるそうですけど、
死者の復活と神々の権限を侵す=何が起こるか分からない未知の危険があるかもしれないと示唆する
真面目に怖い純愛物語でした。
カインが善良な魂を持つヒトでよかったね。
フィンランドを舞台とした、恐ろしくも哀しい純愛ものになります。
電子配信中の「小説b-Boy ホラーBL特集(2013年7月号)」にも収録されてるそうなので、重複購入にご注意下さい。
で、こちら紙本だと134ページと中編になりますが、とにかく切ないのです。
ホラー作品になるのですが、ベースになるのが人造人間カインと、研究者であるアキとの純愛なんですよね。
いやもう、泣けて泣けて。
ホラーだと思って読み始めたので、こう来るとは予想してなかったなぁ・・・。
内容ですが、人造人間・カイン×クローン再生学の新進気鋭の研究者・アキによる、切なく哀しいホラーBLになります。
祖父が亡くなった事から、彼の遺した人造人間の研究を知ったアキ。
祖父が研究を秘密裏で行っていた古城を訪れると、そこには目覚めるのを待つばかりのヒューマノイド2体が、仮死状態で眠っていてー・・・というものです。
まずこちら、序盤からホラー感満載で、かなりビビらせてくれます。
惨殺された祖父の遺体。
不気味な古城。
研究施設の中の、たくさんの死体ー。
そして、小さな村で起こる、家畜や村人の殺戮ー。
華藤先生と言いますと、目の前に実際に浮かぶような情景描写なんかがお得意ですが、今作もそれが遺憾無く発揮されてるんですよね。
白い雪に覆われた原生林。
恐ろしい程の静寂。
そして、月に照らされた古城ー。
何だろう・・・。
この静かで美しい情景描写がですね、ホラーでありながら、全体的には物悲しい雰囲気にしてくれていると言いますか。
う~ん・・・。
上手く言えないのですが、恐ろしいと共に美しいみたいな。
で、そんな中繰り広げられる、カインとアキの交流。
祖父の遺した研究データを元に、カインを目覚めさせる事に成功するアキ。
何も知らず感情も持たないカインが、アキと関わり合う事により、人間らしい感情を育てて行くー。
カインがですね、とても純粋なのです。
最初こそ機械そのものなのに、少しずつ少しずつ「感情」を覚え、アキに対して恋して行く。
時が止まったかのような古城で、二人が優しい時間を共有する。
なんだかとてもあたたかい気持ちになります。
しかし、そんな時は長く続かずー。
家畜の殺戮や村人が襲われる事件が続き、怒りのままに古城を取り囲む武装した村人達。
彼等は村を襲う犯人が、カインと同じ顔をしていたと告げ、と言う流れです。
こちらですね、恐ろしい共に、なんだかとても哀しい作品なのです。
祖父が科学者としての研究にとり憑かれ、作り続けたヒューマノイド達。
彼等は一様に、酷い暴虐性を持っており、作っては処分し続けるしか無かった。
その暴虐性を無くす為に、遺伝子の一部を欠損させて誕生したカイン。
そして、同じ遺伝子で作られ、目覚めないままのもう一体。
実は、オチとしてはかなり早い段階で気付いちゃうんですけど。
また、失礼ながら、このオチなんかがすごくありがちと言いますか。
アキが真実に気付くのが、遅すぎる気もしますし。
ただ、とにかくカインの健気さに泣けるんですよね。
最初は機械そのものだったカイン。
そんな彼が愛を知り、アキの幸せの為なら自身の命と引き換えにする。
アキと一緒に生きられない事を、ひとりぼっちにしてしまう事を悲しみ、自分の中に感情が存在する事を誇らしく思うー。
いやもう、泣けちゃって泣けちゃって。
「愛」って何だろうなぁ。
例え、作られた生命体でも、ちゃんと心は存在するんじゃないかとか。
こう、深く考えさせられます。
残りのページ数を確認しながら、「このまま終わっちゃったらどうしよう」とドキドキしましたが、ちゃんとハッピーエンドなのでご安心下さい。
また泣けちゃったけど。
あと、キヅナツキ先生のイラストがとっても素敵でした。
大きなネタバレは無しのレビューとなります。
人間との境界が曖昧な存在×人間の組み合わせがお好きな方におすすめの短編作品です。
フィンランドの古城が舞台となる今作。
キヅナツキ先生のイラストが素敵。
本編のモノクロイラストはもちろん、カバーイラストのオーロラの色味が綺麗だなあ。
華藤先生といえば海外の空気を感じさせるような情景描写が巧みな作家様ですが、こちらの作品もフィンランドの自然の美しさを堪能出来るかと思います。この美しさが時には怖さも感じさせたりして。
なんだか不思議なお話だったんですよね。
美しくも残酷で哀しいおとぎ話というか、現代が舞台なのだろうけれど、どこか現実味が薄いというか。
人の気配がない雪深い森の中にある古城が舞台なこともあってなのか、閉鎖的で浮世離れした印象がありました。そこが魅力的。
ある日、唯一の肉親であり、疎遠だった祖父の訃報を伝えられたクローン再生学の研究者であるアキ。
到底獣の仕業とは思えない、何者かに惨殺されたような、あまりにもグロテスクな祖父の遺体。
かつて違法な研究にのめり込み、研究職を追われた祖父が人知れず遺した禁忌の研究結果が眠る古城。
トゥオネラ(死者の国)と呼ばれ、現地の人々に恐れられている古城でアキが出逢ったのは、深い眠りにつく美しい双子の人造人間(ヒューマノイド)だった…
と、序盤から非常にミステリアスな雰囲気で、一体どう進んでいくのだろう?とわくわくしました。面白いです。
アキがカインと名付けた禁忌の存在・人造人間。
感情を持たないカインが、アキと共に古城で暮らしていく。
人工生命に人間が情操教育をする…というのは定番中の定番ではありますが、書き手によって味付けが変化するのが面白いところですよね。
真っさらな状態のキャンバスに色付けをしていくわけですから、色付けをする側によってどんな色にでもなり得るわけで…
日々アキと接し、アキに色付けされたカインはどんな変化を見せていくのか?禁忌と人間の間に生まれる感情は?といったところが見どころでしょうか。
個人的には、カインの何気ない一言にグッと来てしまったな。自然には生まれない存在から発せられた言葉だからこそ胸にくるものがある。
優しさやあたたかさを感じさせる2人の交流を描きながら、綺麗なだけではない残酷さも描いていて、レビュー冒頭にも書きましたが、大人向けのおとぎ話といった印象を受けました。
元々がアンソロジーに収録されていた作品とのことで、短編〜中編ほどの長さなのが非常に惜しいです。
設定とピリッとスパイスの効いた展開が面白いだけに、この長さだと活かしきれない部分があったり、疑問点も残りますし、何よりももっとじっくり読みたいテーマだったなと。
人造人間と人間という"禁忌"を描くには、やはり短編ではあっさりとしすぎてしまいますね。
なんだかちょっと良いなあと思う部分や、切なさやもの哀しさは感じられるものの、感情が揺さぶられるほどには浸れなかったというのが正直なところ。
しかしながら、物語の雰囲気はとても好きです。
これは丸々1冊分厚めの本で読みたいかな。