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絶対に失くせない、たったひとりの大切な人――
挿絵で小説を選ぶ決まったイラストレーター(漫画家)さんがおりまして、北畠あけ乃先生はその一人。谷崎先生の小説となりゃ絶対買い!です。北畠先生のイメージなのかしっとりとしたアンニュイなテイストのお話に遭遇する印象がありますが、このお話も例に漏れず。物語は終始切なくて息苦しいトーンに満ちていました。
冒頭、悲しいエンディングかもしれないとハラハラさせるかのような、冬の寒々しく心細いシーンから始まります。人けのない寂しい年の瀬。中学生の諒は帰省もせず、一人寮で大晦日と新年を迎えます。ふと雪が降っているのに気付き窓から外を見ると、見慣れた姿が…。
諒が蘇我家の跡継ぎとして養子に迎えられた後、養父母に男の子が出来たため彼は居場所をなくしていた。そんな彼を蘇我の分家に生まれた清水岳雪が幼い頃からずっと側にいて護っていたが、岳雪の大学卒業を機に二人は離れることになる。高校を卒業後、諒は岳雪の年上の友人・龍王のつてで美容師になり、岳雪と離れた後、世界的に有名なファッション・デザイナーのクリストフ・ウォーレンと出会う。彼の紳士的かつ熱烈な求愛にセックスを含んだ愛を知っていく諒だが、彼にとって神様のような特別な存在である岳雪への思いをどうしても断ち切ることができない。
遠回りして二人は相手に抱いている欲望を自覚します。岳雪以外何も失うものがない諒と、家のしがらみや世間の目に囚われている岳雪。一度目の別離でぼんやりと、二度目の最後の別れで二人が出した答えとは…。
神様みたいに思える人ってすごい。その人がいるだけで心の支えになるっていうか、生きていてもいいんだって全肯定されるような。諒の場合はその神様と一緒に生活していて常に身近にいたのが羨ましいです。相手は肉体を持った神様だったから煩悩から逃げちゃったけどね。龍王はさすがに岳雪のことを見抜いていて、彼のセリフが全てを物語っているので注目です。
最初、諒の気持ちがよくわからなかったんですよね。岳雪に構って欲しいくせに自分からは何もアクションを起こさないところとか。でも、諒がクリストフによって肉体的にも愛されることを知ったというエピソードが、彼がフワフワとした天使のような存在から人間になった例えとして描かれていたのかなーと思えてきたんです。そうするとタイトルが表す意味も見えてくるというか。
もどかしくってちょっと難しく感じたお話でしたが、最後は幸せに幕を閉じるので、後味は悪くなかったです。