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gokudoushinshi to kimagure koneko
洒脱な表紙イラストに惹かれて購入したらスピンオフでした。この作品だけでも楽しめましたが「前作『恋文代筆承ります』でのお話を読んでからの方がもっと面白かったかも」と思いました。イラストは表紙絵だけです。あとがきはあり。
初読み作家さんです。こちらが二作目。
結論から言えば、大変好みの文章、及びお話でした。
私、あまり歴史は詳しくないので、このお話が大正っぽいのかどうかは良く解らないのですが、倉田組の描かれ方は『暴力団ではなく任侠』で『洋装と和装、人力と辻待ち自動車が混在』とか『新橋の街を芸子さんがお座敷に向けて歩いている』などなど、あちらこちらに挟まれる風景が雰囲気たっぷり。
また、しっとりとした文章がそういう背景と大変マッチしていて、物語世界にどっぷり浸かれます。
新たにシマにした横浜で西洋賭場を開帳するために、倉田組若頭の佐久間は組長の倉田と共にカジノパーティーの現地調査に訪れます。そこで佐久間は美しいハーフの男娼、航に声をかけられ、彼を買います。新しい賭場で航を『女』として使うことも考えた佐久間ですが、後日訪れた横浜支部で、航が支部の新参者であったことを知り、自分を利用するために近づいたのだと思います。一週間後、賭博場の物件を下見に来た佐久間と倉田は青あざを作った航を目にします。情夫との別れ話がこじれて殴られたと言う航を、倉田は医者に診せ、東京に連れ帰ると言い出します。どうも倉田は佐久間と航が『いい仲』だと誤解している様なのです。それならばと佐久間は、英語が喋れる航を賭場のウェイターにしようと、技術の訓練を命じます。『イロ』になれると思っていた航は、佐久間から「組の者をイロにしない」と冷たい態度を取られ、に反発しつつも必死で練習に励みます。航は修行のために勤めたバーでも客からの評判は良く、彼を気に入った貿易商から自分の会社に来ないかと誘いを受けるほどです。その話を聞いた佐久間は、航が任侠の世界にこのまま居続けるのは彼の幸せになるのか、疑問に思い始めて……
お話は佐久間視点で進みます。
で、佐久間って元士族のお坊ちゃんだったのが、義母の策略のせいで倉田家に預けられた過去があるんです。だから、人の行動には裏があるって思っちゃう。航に惹かれつつも「どうせ男をたらし込むワザだろう」って思っちゃう人なんですね。
素直じゃない。拗くれている。
だけど、どんどん航への想いが大きくなって来ちゃうんです。抱えきれない位に。
佐久間視点なものですから、航については何を考えているか明言されない訳なんです。
圧倒的に倉田の方が優しいのに、航は佐久間に固執するんですね。
(時々、抱いちゃう佐久間も狡いんだけれど)
だから、クライマックスで、その理由が明らかになった時、もう……
泣けます。
泣いたよ、あたしは。
「組の者はイロにするな」発言とか、航が拾ってきた猫とか、様々な伏線の回収もお見事です。
板東蚕さん、注目の作家となりました。