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電子書籍版を購入。
丸ごと1つの話です。
挿し絵なし、あとがきありです。
棋士の話です。
あらすじから予想していた話とは違いました。
よくあるスポコンものの展開を期待していたのです。
絶対的な王者がいて、その王者に憧れと羨望、嫉妬、そしてそれを倒すのは自分だと言う根拠のない自信をもつ若者。
そんな若者を最初は相手にしてないのだけど、自分を脅かす存在として無視できなくなり……って王道展開が大好物なので、あらすじを読んでこれ、これよ!求めてきたのは!
ってワクワクしていたのです。
が、本作を手に取り読み始めると微妙に違う。
そこで、そこ、そこ、行けーっ!って所で、あれれ?それでおしまい?という肩透かしが数度……
それでも、二人の閉塞感や複雑な心情を綴る文章力は流石で、十二分に楽しませていただきました。
『運命はすべて、なるようにる』のような痛さはありません。
(別の意味で痛々しいかもしれませんが)
個人的な好みとして、もっと、もっと痛ければ「神」でした。
素敵な作品、ありがとうございました。
将棋の世界のお話です。若手プロ棋士同士の恋愛と一言で片付けるには、なかなか濃いお話でした。
将棋界の頂点に立つ若き天才棋士・藤沢朱莉、機械のように正確にコマを操る将棋界では、神様のような存在、そんな彼の才能に魅かれ、彼こそは自分と同じところを目指す棋士だと憧れプロ棋士を目指す主人公嘉村葉司。
しかし、神である藤沢は、彼を一人の男として求めていたのです。師である蜘蛛橋の死に打ちひしがれている嘉村をさらうようにマンションにつれていき、関係を結びます。
藤沢を神のようにあこがれていたのに、藤沢には一人の男として求められるギャップに悩みます。
藤沢が妻を娶って社会的に自分の関係が不倫関係だというのも、普通の青年の嘉村には耐えられないもので。
藤沢にマンションまで買い与えられ、愛人として囲われりことで、将棋にも勝てなくなり自分を見失います。一度は田舎に逃げ帰りますがそれでも将棋を捨てきれない嘉村は、藤沢と決別を決心します。藤沢と同じ位置に立つためには、藤沢と分かれることを選ぶのです。
嘉村のモヤモヤとした思い、ストレートな藤沢の感情表現。どうなるのだろうと中盤ヒヤヒヤしたが、藤沢を捨てきれない自分を認め、二人で生きていくことを選びます。
案外もろい藤沢くんのだめだめっぷりが、母性本能をくすぐりますよ。
息苦しいような濃密な愛です。
二人の間に将棋があったことが、より事を複雑にしていたような気がします。
美貌の天才棋士・藤沢朱莉 執着メガネ攻め×新人棋士・嘉村葉司 ヤンチャ受け
田舎にいた頃から朱莉は憧れの存在で、目指して自分が倒す人だった。
世間の誰もまだ認めてはいない葉司を認めて、ライバルとする。
朱莉から肉体を求められて、3年間も関係を続けてしまう。
朱莉がちっぽけな自分に拘るのかわからない。求められて嬉しい自分もいて、世間の常識にもからめられてがんじがらめに。
結婚している朱莉には奥さんがいて子供を作ろうとしている事に衝撃を覚えて、更に自分の負けを知っても動じない朱莉に、ライバルとしての存在意義がわからなくなる。
朱莉が行為の時に言う言葉が、独特で偏執的で抒情的です。
『僕の肉体も、魂も、すべて君だけのものだ。誰にも引き裂けはしない。僕たちの運命は、この肉体を越え、愛を結び、魂の永遠を約束する絶対的な契りなのだから』
行為の度にそんなことを言っていたら重たいですが、そういう人であり、それだけの愛なのです。
君が死ねと言うなら死ぬと、どれだけ葉司が朱莉以上に朱莉の事を思っているか知った上で、そう言って関係を続けさせる。
純粋に愛を訴えていたのに、葉司が素直にそれを受け取れなかった。あれだけの重たい愛でもあるし、覚悟がいります。
人間である朱莉を受け入れてからの開き直った葉司がかっこよかったです。
『HOT FASCIO』の亮介が葉司の友人として出てきます!
彼のファンだったので再登場が嬉しかったのですが、あまりいい場面がないので、出て来なかった方がよかったかもしれません。
朱莉でいっぱいな葉司の視界に亮介が移る隙間なんてなく、あっさりと袖にされます。
エロ:★4 独特で濃密。朱莉の言葉責め?がすごかったです。
総合:★5 朱莉の存在感、将棋への真剣度といい、五百香さんファン必見本です。
驚くことに、将棋の世界を舞台にした棋士同士の話なのに、まったく対戦の描写がありません。もちろん、あれはあれで描写されてもどうかと思うし、BLはラブがメインだし、と思うんですが、だったら将棋を別のものに置き換えちゃったほうがいいんじゃないの、無理に将棋にしなくても、と思っちゃいました。
というか、将棋で出会って、繋がっているんだったら、二人の勝負も見せてくれなかったら片手オチでは?
ただ、描写がないこと以外では、互いに妄執を抱き合った二人の、濃いラブストーリーで悪くなかったです。