イラスト入り
natsu no hate ~watashi ga koroshita otoko~
電子での短編小説。
書き手はアノ「英田サキ」先生!
短いページ数でのこの緩急のつけ方が、さすが。
体裁は、1人の男のモノローグ…
主人公は大学の若き教授・津々木。
今は、女性の学生から告発されたセクハラ事案で休職中。
だが、津々木はゲイで。女性とのトラブルなど起こるはずもない。
自分の指導教授に全てを捧げていた津々木。
だがセクハラ騒動でも先生は何も助けてはくれなかった…「恋人」の時でさえ、いつも自分は虐げられていた…
さて、休職中の今だけは人生の夏休み。
友人の別荘で、性癖も何もかも解放して楽しむのだ。
そんな津々木の前に現れるのが、美しい肉体の若きライフセーバー。
なんというか、コテコテではある。
体裁としての一人称。
それは「手紙」としての形式を取りつつの告白のような形式。
愛人であった指導教授の愛のない行為、満足を得られない関係性への復讐。
今体験している若く美しい男との情事が、これまでの「あなた」とのつまらないセックスを凌駕し、上書きし、忘れさせる行為であること。
それを得た自分が、若い男とのセックスに値する存在であること。
自分を軽んじ、何の性的満足、何の見返りも与えてはくれなかった「先生」への延々と続く恨み節。
さて、「私」は誰を殺したのか?
短い話だから、ストーリー的に実際にそこまで至るのはほぼ一瞬。
「そうか!」という解放感と。
「やっぱりそうだよね」という気の抜けるような感覚。
裏切りと喪失感、それに対する復讐と解放を見つめる…そういう短編です。
2016年9月発行のアンソロジー『エロとじ♥濡』掲載作品。
それほどついてはいませんが、評価をつけている方はみな高評価。
解る。
高評価、つけたくなります。
ベテラン作家はこうでなくっちゃ。
『安定の英田さん』でございます。
私、普段はとても饒舌で暑苦しいレビューを投稿させていただいているのですが、このお話はあまり語ってはいけないお話だと思うのです。ちょっとでも語っちゃうと、それ自体がネタバレになってしまう危険性を孕んだ物語なので。
危険を冒してちょっとだけ書きますが、これは『勝手な恋人に青春を捧げた男の復讐の物語』です。『今まで愛を与えられなかった男が手にした愛を永遠のものとするために行った罪の物語』でもあります。
濡れ場も多くエロスも満載ですが、描写は甘くありません。
それ故、物語のラストで主人公の考察にふわっと漂う甘さが引き立ちます。
大人を感じる一冊(デジタルだけど)でした。