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kinsoku
思ったよりあっさりめのお話でした。
もっとドロドロした復讐劇とかねちっこい仕返しなんかあるのかと構えてしまいました。
人魚姫といえば好きになった王子様の結婚で身を引き泡になって消えた健気な姫ですが、こちらは傲慢王子の裏切りで傷ついたお姫様が落ちぶれた王子様に復讐するお話でした。
屈辱を味あわせてやるとばかりに計画的に側に置き着々と復讐を…ですが、やっぱり惚れた方が負けとばかりに根底には王子様大好きがりますから鬼畜人りきれず、色々事情を知ってしまうとあっさり許してしまいたい方向に転進です。
傲慢王子が別れてから自分がどれほど環を愛していたか思い知りバカだったと猛省し詫びる気持ちが溢れてきたというのがちょっと信じられなかったです。
失くして初めてその価値を知るというのはよくあることですが、だからと言って急に性格まで変わるかなと思いました。
パッと開いた口絵〜!アワワ…(書店でのカバー掛け注意!)
本作は何となく鳩村衣杏さんの作風というか登場人物の性格が、今までと違うように感じました。
というのも、主人公・足立環は別れた元カレ・海保倫之に復讐する人物なのです。
環は現在は仕事の実績もあって表面上は美しい勝者そのもの。
なのに倫之に再会して恋に傷ついた心が噴出してしまい、倫之に嫌がらせのように自分の今持っている経済力、仕事での地位・影響力などを見せつけて、今は借金を抱え小さな仕事をしている倫之を貶めるような事を仕掛けます。屈辱を味合わせてやる、と。
つまり借金はキレイにしてやるから自分の使用人になれ、と。
お仕事BL的な部分でも、鳩村流の読んでて励まされるような金言というより、ビジネスの勝者はカネの匂いに敏感で網を張ってタイミングを逃さない、というような(本当の)現実が語られる感じです。
おキレイな健気さとか謙虚さとか清廉さよりも、より人間臭い設定と感じました。
倫之はといえば、以前の魅力的な言動は姿を消し環に従順に従います。環が傷ついた心から自分に辛くあたっていることを自覚しているのです。
ただ、普段は以前とは逆で敬語を使っていますが、時々前の口調に戻ったり。そこを読みづらいと思うか、倫之と環の揺れる関係性を表してると読むかで感じ方も変わりそう。
読んで感じるのは、やっぱり復讐なんて空しいな…という事ですね。つくづく愛の反対は「無関心」なんだとわかる。
環は倫之に再会して、無関心ではいられず憎しみをぶつけようとする。それは全くまだ愛してるの裏返し。金で支配し無理やり体を繋げて、結局は愛の燠火をくすぶらせて。
そんな環に伝える倫之の言葉『俺は、間違えたんだ 愛し方を…愛の捉え方を』
これに心を貫かれてしまいました…
再び恋愛関係になる2人ですが、攻め受けは前と同じ、でも立場は逆転の一種の下剋上的展開です。
本当に環の心の傷が癒えるといいな。
どんなに濃密な夜を過ごしても、
恋人の倫之は決して一緒に朝を迎えてくれず
寂しさが募りつつも我儘を言えない環は
それでもそこに絶対的な愛があると信じていました。
ところが倫之が結婚する事をしってしまい、
環は渡米し、姿を消しますが…。
前半はツラかったです……。
甘い言葉も熱い愛撫も惜しみなくくれていたのに
決して踏み入れられない倫之の心の奥底に気づきながらも
環は愛していたのに…!!
感情移入してしんどかった……。
復讐は思い通りに進みそうで、
環の気が済むようにはなかなかいかず
どうしても憎み切れないところが人情ってものですよね。
立場が逆転してしまった事で
言葉遣いも倫之が敬語なのが萌えそうなものなのに
たまに環をお前呼ばわりしているので気になってしまいました。
きっと、その時は取り繕う事なく素の部分が出ているからだとは思うのですが…。
左足の薬指裏側に入れた錨のタトゥー、
意味合いがとても切なかったです。
足の甲へのキスは“隷属”、爪先へのキスは“崇拝”の意味があるそうですが
シャワーも浴びていない足にキスって…凄いな…。
どうも私は衛生面で宜しくない気がしてしまうあたり
我ながらしょうもない……。
お互いの本音が語られた時には
報われて良かった!!と安堵しましたし、
やはり失ってから気づく事もあるのでしょうね。
倫之の献身っぷりも読みどころです☆
「あまりに幼く、独りよがりな恋の結末」
これ、父が亡くなった後に母が環に人魚姫を評して言った言葉なんですけれど、この言葉が物語に上手に使われている様な気がしました。
うん、独りよがりな恋は悲恋になっちゃうよね。
「人魚姫が泡となって消えずにたくさんの経験をして、海の女王となった後、王子様と再会したら」っていうお話。「ああ、私の華々しい恋愛遍歴の中にそういう男もいたわねぇ」となっていれば「お、人魚姫、大人になったねぇ」で終わっちゃうわけなんですが、このお話のお姫様はそうじゃない。
あまり良い言い方じゃないけれど、女々しいんです。そんで、前述の母親の言葉の意味が解ってない。
でも(イラスト効果もあると思うんですが)女々しく美人な環が「そうじゃなく!そうじゃなく!」とか思いながら、自分の未練たらしい気持ちにグルグルなっているのは、まさしく「翻弄される薄幸の美女」。このトーンがなんか良かったです。(途中で我に返って、現実的な対応を求めちゃダメよ)
ペーパーは小説ものには珍しく両面刷りでした。糖度は薄めでしたがちょっと得した感じがしました。
おとぎ話シリーズ最新作、モチーフは人魚姫です。
といっても、王子様の幸せを願いながら、泡になって消えてしまう儚いお姫様ではありません!
自分を裏切った王子様に復讐しようとする、強気なお姫様です。
これまでのおとぎ話シリーズとカラーが違い、ドロドロの愛憎劇だそう。自分を裏切り大企業の令嬢と政略結婚した元恋人が落ちぶれた事を知り、自身は成功した受けが使用人としてそばに置いて復讐しようとするお話です。
ただしこの受け、「屈辱を味わわせてやる」と息巻いている割には、悪役に徹しきれないというか、甘っちょろいです。
受けに可愛げを感じるか、中途半端だとイラつくかで評価が変わりそうな気がします・・・。
私自身は、何だか強気な事を言っている割には、徹底的にやれない所が可愛く感じました。根は純粋なんだろうなと。純粋だったからこそ、攻めの事が許せなかったんでしょうしね。
受け視点で、受けの葛藤が丁寧に書かれているので、気持ちに共感するんですよね。憎くて仕方ないのに、まだ惹かれる気持ちを止める事が出来ないといった迷いや弱さが切なくて。
そして攻めは殉教者のようです(笑)
彼もまた、弱い人間だったんですね・・・。
ラストはもちろんハッピーエンドで、この作者さんらしい仕上がりになってます。
結局の所、ダークな復讐劇というより、根は甘ちゃんな受けと、若さ故に傲慢だった攻めとの再会もの? 拗らせた関係の、やり直しのストーリーですね。
「お姫様は、真実の自分を手に入れましたとさ」と締めくくりたくなるラストでした(^^)