イラスト入り
geijutsuka ga koisuru riyuu zoku shuuchaku shachou no hatsukoi
某映画に「飛べない〇はただの〇だ」というハードボイルドな科白がありました。
この場合、飛ぼうが飛ぶまいがその本体は変わりがないのですけれども、芸術家が作品を造れなくなってしまったら、それは芸術家ではなくなってしまいます。
彼らの中には創作に対する渇望があるのだと思うのです。
香西みたいな『生まれながらの芸術家』にとって、創作意欲が沸かないというのは、ひょっとしたら実存にも関わる問題なのかもしれない。
香西がこのスランプから脱するのは、おっとり・のほほんとした癒し系の彼が、自分の中に嫉妬なんていうドロドロした感情を発見しちゃうことが契機になっているのですけれど。
しかし、スランプを書く作家さんって「身につまされる表現をするなぁ」と思います。これ、やっぱり書き物をする人たちも同じような経験があるからなのでしょうねぇ……ってことは、作家さま方も『ドロドロした感情に気づいてスランプ脱出』なんてことがあるんでしょうかね?
本編から2年後のお話なので、2人の関係はかなり落ち着いています。
ビックリしたのは、道本の変化ですよ!
この人、パトロンとしてかなり上達(?)してる!
作品を造っていない香西は香西じゃないってことに気がついたみたいで。
芸術音痴の彼がこれに気づいたというのは素晴らしいですね。
愛って凄いなぁ……
本編の面白さにはかないませんが『三途の川のエピソード』でほろりと来てしまったので(具体的には書きません。ウルっと出来るので是非ご自身でお読みください)おまけして『神評価』に。
香西視点です。
会社社長の道本(攻め)と造形作家の香西(受け)が付き合い始めて2年。
のほほんとした香西と香西の面倒を見るのが好きな道本は相変わらずの二人です。
しかし、香西はちょっとしたスランプでなかなか制作が進んでいません。
マネジメントをしてくれている結城がたびたび訪ねてきては、軽くプレッシャーを掛けてきます。
お盆休み前、家族を巻き込んだ同窓会で道本が意外にも子供の相手が得意で子供に大人気であることがわかります。香西も子供が好きですが道本のようには遊べません。そして、道本が子供と戯れているのを見ていると複雑な気持ちになるのです。
前作の続きということだし、P70ほどと短いのでお盆休みを満喫するラブラブな話と思っていたのに、また香西がスランプ気味でそれを乗り越える話でした。
結城の「恋の喜び、嫉妬、失って嘆くことすべてが芸術になる」という発言で、今回の話が見えたように思いました。
香西が、自分が嫉妬しているということに気づくのには時間がかかったため、もやもやしている時間が長く、気付いてからは道本は結婚したほうがとかぐるぐる考え、その複雑な想いを創作にぶつけます。
スランプ脱出を図るという結城の策略にまんまとハマる形になったのを、人間らしくなったと喜ぶべきなのか、香西らしさがなくなったなと残念に思うべきか。
今回もやもやしたのは、あんなに香西の心境に敏感だった道本が、ちょっとおかしいと思うくらいで嫉妬しているのも気づかず、話を聞かされてもそんな高度なことができるとはびっくりだと驚き、結城の策に乗って良かったと言ったことです。香西が困るのが一番困ることだったはずの道本が違う人に見えました。
とはいえ、その後の道本はもういつもの道本でしたが。というか、匂いフェチな新たな面が見えたのは良かったです。
いつもとても世話になっているとはいえ、制作のために人の心を弄ぶような策を弄した結城にはちょっと腹がたちました。芸術家はなんでも糧にしないといけないとは思いますが、結果的にうまくいったから良かったですが、結城もちょっと焦るくらい香西は大分思い詰めていたし、やり過ぎだったと思います。こういうことはもうやって欲しくないです。
それと個人的に攻めが嫉妬するのはいいんですが、受けが嫉妬する話は嫌いなのです。
短い話だったので、絡みが2回でそのうち本番は1回だけなのは仕方ないと思うんですが、話の大半が香西が思い悩んだり嫉妬したりしているので、もう少し甘い話を期待していた私は残念に思いました。
今回は前作のような面白い表現もないし、2人の性格がちょっと違った感じがしたし、成長したとすれば良いことなんでしょうが、私はあのとぼけた2人が好きだってのでそれもちょっと残念。
その上またスランプの話だし。やっと、スランプ抜けたと思ったら終わりだし。
まだ道本の休みは半分残っているのになんでそこで終わるんだ。楽しく休みを満喫しているところが読みたかったです。