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dairiya mochidukiryu no kokuhaku
涙と共に読み終わって、浮かんできた言葉は
「何これ?もっと評価されるべきお話なんでないのー!」。
確かに、私が『バイブル』と思っているあの本やあの本に比べたら、荒削りと言うか説明不足の部分もあるかもしれない。神田との結ばれ方もちょっと唐突な感が否めないし、このテーマならば仕掛けによってはもっと盛り上げられたかも知れない。
でも、この物語で描かれている『望月流の告白』は、かなりギュンと来ますよ!
流が『何かを望む事を諦めている訳』を告白していくシーン、私は涙なくしては読めませんでした。
『砂の器』かよっ!(古いね。誰も解らなかったりして)
望月流は歌舞伎町で代理屋をしています。水商売を親や彼氏に言えない人達の為に、ある時は授業参観で父兄役を、ある時は葬式で配偶者役を、またある時は結婚式で架空の会社の同僚役などをして来ました。今回の仕事は壊したドローンの弁償の為に商品券を届けること。指定の場所で榎本という男にそれを渡した瞬間、麻薬取締官の突入に会い流は逮捕されてしまいます。何も知らないと言う弁明は受け入れられず刑務所への収監も覚悟したのですが、いきなり解放。実は、逮捕を免れて逃亡していた榎本の死体が発見されたのですが、彼は国会議員の息子で各方面から圧力がかかり、マトリとしての捜査は中断、捜査一課に殺人事件として引き渡されることとなったのでした。経緯を理不尽と感じながら、捜査を引き継ぐ神田と、暴力団から薬の横流しをしていたと思われる榎本の取引相手と、横流しをしていた人物を特定したい暴力団から狙われることになってしまった流は、方や捜査の為に、方や自分の身の安全を守る為に事件の真相を探っていきます。
この文章の冒頭に書いた『望月流の告白』は上記あらすじの事件が解決してから行われます。
山場は『事件解決』ではなく、こっち。
ここを読んで始めて「ああ、流が冤罪を声高に主張しなかったのはその所為なのか」とか「怪しい依頼は受けないと決めていた流が、ちょっと不可解なこの依頼を受けた訳」とかが明らかになります。
また、それと同時に、神田が流と体を繋げた理由も。
これがどっちも泣けるんですよー!
自分の望み、それも『たわいもない望み』を『夢』としか言えない流。
『夢まぼろし』でしかない幸せを求めてしまう哀しさ、寂しさを理解しつつ、でも、それを求めてしまう感情を押さえることが出来ない。
この子は今まで何度、そういう目にあってきたのかを思うとね……
方や神田。
子どもの頃、飼い犬を選ぶ為に保健所で殺処分予定の犬たちを見るエピソード。
神田の流に対する想いの根拠がよく解らなかったんですけれど、ここを読めばバーッと解るようになっているんです。ここに来るまで、職務に忠実で、一般市民に対しても誠実に対処する人柄を解っちゃっているからね。「さもありなん」と思うのですよ。
もう、この2つで涙腺崩壊。
「誰にでも無条件に与えられるべき愛情ってある」と私は思っています。
でも、それすら与えられない人がいるのも事実。
「そのことも含めた丸ごとを受け入れてくれる人はいるよ」というお話に、心から感動いたしました。
あらすじ:
歌舞伎町で代理屋を営む望月(受け)は、麻薬横流しの事件に巻き込まれ、警視庁捜査一課の神田(攻め)と共に事件を追うことに…
小学生の授業参観日に父親代わりに出席する等、ちょっとした代理仕事を請け負っている望月。
危ない橋は渡らない彼ですが、ひょんなことから麻薬横流しの関係者と疑われ、警察に連行されてしまいます。
そこを刑事の神田に助けられ、なりゆきで彼と生活を共にしながら一緒に事件を追うことに…という展開。
表紙イラストの望月は幼い印象ですが、作中描かれる彼のキャラはもっと大人っぽく飄々とした感じ。
絡んできたチンピラを逆に脅し返す等、心身共にタフで、これまで色々修羅場をくぐってきたことが窺われます。
そんな望月を保護し、彼に誘われるまま身体の関係を持つ神田は、クールで真面目な性格。
ちょっとキャラクターとして個性に欠ける感じはありますが、後半望月の過去と秘密が明らかになってからは、彼を支える頼もしさを見せてくれていました。
麻薬横流し事件がメインと思いきや、望月の正体というもう一つ大きなエピソードがあって、更に望月が神田と共に過去にケリをつけるところまで丁寧に描かれています。
ストーリーやキャラクターが特別印象に残るということはありませんが、堅実な作風に好感が持てる一冊でした。
東京の繁華街の裏にアンダーグラウンドの香り。代理屋というぼんやりとした職業には家族の繋がりを断たれた人々の哀しみをも感じ、主人公の行き場のない身の遣る瀬無さも被ってくる。攻に保護されてセックスでしか温かみに触れようがない、身の内の寂しさが受の生い立ちによるものだと なんとなく訳ありだと察していたけれど!フラットなテンションで物語は語られているのが 物語の背景にある「秘密」に似つかわしい。キャラクターの萌えは小さいのだけれど、ストーリーを読ませる力のある作家さんだと思いました。