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speechless
MMの短編翻訳はジョシュ・ラニヨンの「雪の天使」、クリッシー・マンダーの「聖夜の理由」を読みましたが、これが一番印象に残っています。ここ数年の間に読んだ小説と比較してもお気に入りの一作です。
受けのドリューことアンドリューは失語症で、筆談すら出来ない。作中一切喋らない受けというのも初めてですが、ドリューはしぐさやジェスチャーや目線、カードでのコミュニケーションに長けていて、ハンデを全く感じさせません。
攻めのトラヴィスも普通とは違うドリューのコミュニケーション方法にイライラすることなく、自然とドリューの意図を読み取ることが出来る。そんな2人のコミュニケーション描写は読んでいて新鮮で楽しめました。
攻めがガテン系の職業で眼帯といういかつい外見なのに猫を可愛がっていて、受けがイギリス人で元小説家、舞台が変な都市として有名なポートランドというのもツボです。はっきりしたリバ描写はなく、受け攻めは固定ぽい書かれ方なのでリバ苦手な方も安心かと思います。
続編は残念ながら今のところなさそうですが、代わりに同じ著者の他シリーズのカップルが出てくるショートストーリーに2人も出ています。「The Gig」というタイトルで無料配布されています。
フォーマット:Kindle
挿絵:あり
CPの片方、ドリューは失語症で、セリフが一切ないという珍しい作品。物語のテンポが悪くなったり読みづらいと感じることは全くありませんでした。キム・フィールディング先生の作品は初ですが、冬斗先生の訳文もしかり、お二方とも大変お上手なのだろう。
発声ができない失声症と混同していましたが、失語症は単に声が出ないというモノではないのですね…万人に辛いことは明らかだけれど、小説を書くことを生業としていた彼にはさらに衝撃の事故だと思います。ひょっとしたら自分の作品を読み返すことすら難しいのかもしれない。確かに彼の過去のパートナーは「クソったれ」かもしれませんが、作家として輝いていた彼を知っているからこそ心が離れてしまうことも容易に想像できます。既に失語症だったドリューと出会ったトラヴィスとはまた違う。兎にも角にもドリューとトラヴィスは相性がぴったりだったということだ。
「人として生きるということはただ暮らしを立てていく以上のものなのよ」
この作品はこのセリフに尽きる。自分が相当な守銭奴なのでこの言葉は刺さりました。もちろん、トラヴィスもこの土地で何かしら仕事は探すでしょう。本来ならひとりの男性が生きていくに不足する収入しか得られないにしても、労働によって得る喜びが少ないにしても、それにかえてもドリューと共にある方が人として生きられるのでしょう。彼らの間でこの点のトラブルがまた起きるかもしれないだろうと想像できますが、なるべく長く愛が続くといい。
BLやM/Mはちょっとね……という人でもサクサク読める短編です。
舞台はアメリカだけど、中上流階級ではなく今にも押し潰されそうな底辺の人が主人公で、ある意味格差社会アメリカっぽい物語かと。レイモンド・カーヴァーの短編とか、映画『スタンドバイミー』に漂ってるちょっとやるせない雰囲気を感じますね。
BLとしてどうか? といえば、日常ほっこり系BLとしてはレベル高いのではないかと。
個人的には、ラストのブツッと終わる感じはけっこう好きなんですが、そこに至過程が、ちょっと微妙だったかな……。つまらない訳じゃないけど、筋金入りの読書家にはおすすめしないです。
片眼を失った旋盤工トラヴィスと失語症の小説家ドリューのお話。
大きな事件は起こらず、二人の出会いから仲を深めていく様子が描かれる。お互いに引け目に感じていることを認め合ったり気にしなかったりしていて、二人が心から受け入れ合っていく感じがとても良かった。
ストーリーはやむを得ない事情で離れた二人が再会するところで終わる。別れた後も未練を残すトラヴィスだが、戻ると決意するきっかけが突然出てきたドリューの義理の母というのは少々残念。
できればその後のトラヴィスの心理描写をじっくり読みたかった。
ラストはトラヴィスから告白。これがドリュー式の方法で、すごく良かった。片目のトラヴィスがeyeと「I」をかけたのにはどんな意味があるんだろう。正式な手話じゃないはずで、よく分からないけど上手いと思った。
全体的に穏やかで読後感の良い短編。この作者さんの長編も翻訳されて欲しい。
電子での海外BL短編。
ある町で、旋盤オペレーターのトラヴィスは1人の男性を気に留めるようになる。
仕事帰りに通る道のある家の前の石段。ギターを弾く男。
気になりだすと、ほぼ毎日彼がいる事がわかってきて。
気になって気になって、ある日、思い切って彼に話しかけてみた…
それが2人の出会い。
ギターの男はドリュー。小説家。
そしてドリューは失語症。相手の言うことはわかるが自分は話すことができず、独自の身振り手振りで意思疎通をはかるのだ。
トラヴィスは最初こそ戸惑ったけれど、すぐにドリューと親しく「会話」ができるようになり、2人の間にはどんどん親密な空気が流れるようになっていく。
そして2人は…
…と流れるように2人のハッピーな恋愛が熱を上げて進んでいくけれど。
変転がやってくる。
トラヴィスの勤めている工場が閉鎖される。遠く離れたオマハに移れば雇用は保証される。
資産のあるドリューは、生活は面倒を見るから行かないでくれ、と。
一方トラヴィスは、養ってもらうことはできない、ドリューこそ自分についてきて欲しい、と。
だがドリューの方も口がきけないながら生活基盤を整えてきたこの地を離れるのは大きな負担になる…
恋と経済の問題は二律背反なのか?
これが経済的に低位のトラヴィスが女性ならば、何も問題なくラッキーなハッピーエンドになり得る。
だけどトラヴィスの誇り、プライド、そんなものが恋を駆逐するんですよね。
つまり遠距離恋愛すら選ばずに、お互いつらい別れを選択してしまうのです。
その結果、2人とも苦しんで、寂しくて。トラヴィスは一夜の気晴らしすらできない。
ついにドリューの義母までがトラヴィスを説得しにくる。
仕事、あるいは自分の稼ぎ?、それよりも愛を選べ、と。
ラストは、トラヴィスがドリューの元に戻る、という結末で終わります。
再び恋情が経済問題を打ち負かすわけだけど…
どうなんだろ?結局実は資産家のドリューがトラヴィスが新たな仕事を見つけるまで養うのか?
トラヴィスはドリューのマネージメント的な事をするようになるのか?
2人は対等なのか?いや、勿論対等よ。でも。後日トラヴィスがモヤったら?
お節介ながらこんな事を考える。
実に同性同士のパートナーシップについてチクッと刺さった物語だったよ。