Krovopizza
sonoisu niwa mou suwarenai
『明日はきみと笑うシャラララ』(原題:『日曜日よりの使者』)のスピンオフ同人誌。
らんな〜ずの後輩コンビ「赤福氷」の話です(シャラララの冒頭、ラジオ番組でしゃべっていたコンビ)。
18歳で故郷の島を出て、大阪でコンビを結成した二人は、幼馴染で恋人同士。
売れないまま6年が経ったある日、
部屋でセックスしながらテレビを観ていると、番組に先輩コンビ「らんな〜ず」の姿が。
自分たちとキャラが被っている彼らのトークを聞きながら、
「あの二人、どっちかでええから死んでくれんかな」とぼやく。そして、その一年後……
「9 Years ago」「15 Years ago」「8 Years ago」の三部構成で、
特に、二人の生まれ故郷が舞台となる「15 Years ago」がなかなか凄絶でした。
昔の風習が残る小さな島で、幼馴染の翔平(受け)に片想いする鼎(攻め)。
島外の大学を受験する鼎と、島に残る翔平は、本来別々の道を歩むはずでした。
しかしある事件を機に、鼎は翔平が家族から疎まれる理由を知ってしまい……
男同士で生きていくため、故郷も家族も捨て芸人の道を選んだ二人。
売れなければならないと切実な想いを抱える彼らの他の芸人への対抗意識は、とても生々しく暗いです。
タイトルの「その椅子にはもう坐れない」とは、先輩芸人の失脚により思いがけずポジションが空いたけど、後ろめたくて後釜には座れない…
そんな意味かと思っていましたが違うようです。
家族に「死ね」と言われた瞬間そんな感傷は捨ててしまった翔平。
鼎は、昔の翔平がいなくなってしまったことに寂しさを覚えつつも、中本の後釜を狙う翔平の傍らに佇み続ける。
こんな想いで東京に進出し、8年後の『明日はきみと〜』では順当に中堅芸人となっている今の彼らの心境を、いつか知ることができたらいいなと思います。
BLとしてはこれ以上進展しようのない二人ですが、芸人としてドライにのし上がっていく彼らの物語には興味があるので。
『明日はきみと〜』を読んだ後だと本作の彼らにあまり良い感情は持てませんが、前作とはまた違ったテイストの芸人小説として印象深い作品でした。
筆者のデビュー作『明日はきみと笑うシャラララ』のスピンオフ。
本編は、関西弁に魅せられ、笑いあり涙あり、
心地よい読後感のクオリティの高い一冊だった。
が、こちらは同人誌ならではというべきなのか、
表紙のインパクトに負けないダークな作品。
正直、BLでこんなにゾクッとしたのはひさしぶり。
本編にちょこっと出てきた、らんな〜ずの後輩コンビの赤福氷の話。
物語は、暑い夏の日、貧しい部屋で抱き合いながら
TVの中で笑いに包まれているらんな〜ずを呪っている場面から始まる。
「らんな〜ず。どっちかで、ええから、死んでくれんかな」
彼らは閉鎖的な島で生まれた時から一緒に育った。
お屋形様の末っ子・翔平と、鼎。
将来を考え始める高校生もあと一年という頃、
互いの気持ちに気付いた彼らの蜜月は長くは続かない。
そこで起こった壮絶な事件。
その因習の島から逃げ出して船に乗った二人は
大阪に辿り着き、お笑いのコンビとして生きていくこととなる。
心中するか、芸人になるか……
恋が実るプロセスや、甘い関係を楽しむいわゆるBLらしさはない。
過酷な傷を抱えてギリギリのところで生きる芸人二人、
こういう世界が好きか嫌いかと聞かれれば正直微妙だし
好みということで言えば圧倒的に本編に軍配を上げるし、
本編の片山の悲しみと痛みを読んでしまった後では
しょっぱなの「死んでくれんかな」には反感を禁じ得ない。
しかし、最後まで読むと彼らのやりきれない闇が心に響き、
そうして翔平のそばにいる鼎の恋を超えた何かに惹きつけられる。
その後日の当たるところに踏み出した彼らは
何を思って生きていくのか。
片山の復帰をどんな思いで見つめていくのか。
ぜひ読んでみたい。
萌えでは評価しずらいのだが、作者の力量に瞠目して☆4つ。
雰囲気のある装丁と製本も、とてもいい。
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