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大学の剣道部の先輩であり医師でもある守×後輩でフリーターの貴彦の物語。
このシリーズ第1作は守の陰気な弟×アホで超絶ポジティブな弟の同級生、という組み合わせだったのですが、2作めの本作と本作の続編だある3作目の主役の二人はネガ×ネガの組み合わせ。
本来混ぜるな危険、の2人です。
守は体育会系部活に勤しみながら医者になった、もともと高い能力を持ちなおかつすべき努力を怠らず、なるべくして成功した男です。
そのかわり、弱い者、努力しない者、自分の面倒になるものは容赦なく切り捨てていきますし、己の弱さを人に知られるのを潔しともしません、
そういう傲岸な性格の悪さを自覚した上で隠そうとも直そうともしません。
代わりに他人に優しさを求める資格はないと諦めているし、慰められるのは負けと等しいと拒否している面もあります。
愛情に結ばれた恋愛関係、人間関係が築けないまま生きています。
他方貴彦はトラウマ持ちのゲイです。
優しさと弱さから流されて最悪の事態を引き起こしたと自分を責め、その弱さを父親から責められているとビクビクし、弱さゆえに自分では正しく生きることも出来ず、他人まで巻き込んでしまうと思い込み絶望し、自暴自棄になっています。
そんな二人が因果の巡り合わせで渋々同居する事になります。
本来の守の性格からいったら貴彦のようなお荷物は真っ先に切り捨てる存在です。
他方貴彦側も権威的な父親に対する恐怖から、強権的な守とは相性は良くありません。
本来の相性で言ったら最悪の組み合わせ。上手くいくわけがありません。
でも弱さを晒す事を何より嫌い、弱者の傷の舐め合いを認めなかった守が、偶然のタイミングで貴彦に己の弱さに気付かれて、今まで誰にも許さなかった自分の心の傷に貴彦が触れる事をなぜか悪くないと思えるようになります。傷を舐められることによって慰められる自分に気づくのです。
また自分には優しさなどかけらもないと思っていたのに、自分の手によって貴彦が慰められてもいる事に気付き、また貴彦の弱さをそっと守りたいと思っている自分を知り、少しばかり自分を許してやる事ができるようになります。
他方貴彦も、他人との関わり自体を諦めてきたところから、守がただ強いからではなく努力してそうある事を知り、また守から思わぬ優しさを与えられたことにより、ちゃんとしなきゃと再び思えるようになります。
そして守に自分の存在を求められることで、初めてここにいて良いのだと思えるようになります。
ネガ同士が、互いの最も誰にも触れられたくなかったネガな部分に触れ合い、互いにだけは許し合えるのだと気付き、また互いに最も他人から受け入れて貰えないだろうと諦めている部分について、互いになら、許し合え、受け入れられるのだと知るのです。
それが愛というものだとはわかりもしないままに。
そんなふうに、今まで人とうまくやっていけるわけがないと思っていた二人が、戸惑いながら互いの手を取り合うようになるまでの過程がとても繊細に描かれている愛と再生の物語でした。