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kairaku no shihaisha
もともと紙で読んで作家様を網羅したきっかけとなった作品ですが、近年電子化されてなぜなんだろうと思っていました。読み返してみてやっぱり名作だ、と個人的に思ったのでありがたかったです。しかし、電子版を読んで濁点が落ちている箇所が多々あり、気になってしょうがない。。続編の方は大丈夫でしたが、この辺も謎笑
BLにおける表のSM教本としては剛しいら先生の勅使河原氏が不動かもしれないけれども、裏読本として?目を開かれたのが本作でした。『快楽の支配者—Rough Trade』と『罪深き誓約—Rough Trade〈2〉』は2巻セットとなっているので、こちらだけ読んでもまだ物語の途中です。
能代が勤める会社で、立場的にも年齢的にも能代より上の澤崎。中途入社で職場で浮いていた彼と能代は、いわゆるハッテン場で偶然鉢合わせします。保守的な社風に馴染もうとしない澤崎をよく思っていなかった能代は、扇情的に誘いをかけてきた彼を性的に蹂躙して鬱憤が晴れた気がしていましたが、それ以降、澤崎の被虐性にハマっていくことに…
他にも有名作はあるけれど、小説でMによってSがジワジワと仕込まれていくパターンを読んだのはこれが初めてでした。能代はゲイでタチですが、支配欲はあっても所有欲はなく、暴力を潜在的に忌み嫌っていました。その扉を開けてしまったのがMの澤崎だったのです。
例えば、誰かに隷属することが「好き」とイコールであること。ご主人様の命令がどんなに理不尽であっても、それに従うことが悦びであること。
そんな澤崎の感覚が能代にはよくわかりません。
澤崎の真意を知るために、二人でボンデージナイトに行ってみたり、澤崎を仕込んだ男に話を聞いてみたり…。それは能代が自分のS要素を吟味する手がかりでもありました。
本作では、自分の嗜虐性を受け入れられない能代が、なぜ澤崎が普通のセックスだけでは恋人として成立しないのか、プレイを通して答えを探っていくことで腹を括るところまでが描かれています。
能代が初めて付き合った相手との経緯や、父親との関係、プレイ中に澤崎を可哀想だと思ってしまうけれど、許しを請いながらイク姿に征服の満足感を覚える能代の潜在的なS属性がきちんと布石を打たれているので、見逃さないで欲しいです。きっと続編で二人が着地した関係性に納得できるのではないかと思います。
にしても、澤崎のSを見出す嗅覚と獲物を捕らえて離さない戦略は生存本能に近いほど切実で、痛々しくもあるし恐ろしくもある。誰かに縛られていないと安心できない性(さが)というのは完全に共感はできないけれど、なんとなくわかるような気もするのでした。
えろいSM読みたい!くらいの気持ちで読んだのですが、全然想像していたお話と違いました。
奥が深いというか、SMという嗜好が心理的に解説された「調教」がテーマのお話は他にも読んだことがあるけど、これはもっと根本的なSMって何かわからないけど理解しなきゃ!みたいな主人公の葛藤のお話です。
正直言うと恋愛としての萌えは全然感じず、期待していたようなえろも殆どなかったんですが(えろ度は高いと思いますが)読んだことないタイプの作品だったんで興味深くてじっくり最後まで読めました。
お話はMである譲とSである聡の視点が交互に展開しています。
SとMの視点が交互…て珍しいですね。
会社では冷徹で浮きまくってるけどプライベートでは自分を差し出すことに喜びを感じるマゾの譲。
聡は会社では気遣い上手ですが、多少「支配すること」に快楽を覚えるS気があるゲイです。
聡は暴力的なことだけは手を出したくないと心に決めているのですが、 譲とハッテン場で出会い、何度か寝て譲がマゾだと打ち明けられ、自分は譲の「主人」になれるのかどうか…というお話。
最初から全くSじゃないわけでなくて、聡は素質そのものは持っています。
ただSMという世界には足を突っ込まずに来たわけです。
譲も何が何でもSになって欲しい!と言って仕込んでくるわけでなく、あくまで「できれば聡に主人になってほしい」という控え目な態度です。
譲のプライベートでの尽くしっぷりが本当に健気で、これだと可愛いと思わないはずがない…と思うのですが、尽くしたい、尽くされたいは対等でなければならないのですね。
SとMに上下はないからこそ、対等を見つけるのは大変なのかもしれません。
「SとMの関係になれるか」みたいなお話ですので、ほんとに恋してるのか
というのが私にはわかりにくかったんですが…。
「一緒にいると心が温まるから」みたいな理由で恋人を探すわけでなく「SMプレイできるか」どうかで譲は今まで相手を選んできたわけですから。譲の「好き」は「隷属したい」と同じだといっています。
譲の「隷属すること」=「快感」だという心理をここまで書き表しているお話は読んだことないなぁと感動しました。どんな無茶なことを言われても、酷いことを強いられても「はい」「します」と譲は受け入れ、「はい」「喜んで」って言ってるうちに興奮して感極まって涙するんです。
私は多分Mの心理はわからないと思うのですが、隷属する譲がすごく気持ち良さそうというのは伝わってきます。
「SM」=「楽しいこと」というのが頭の中で重ならない、俺は間違ってる?わからないわからない、と真剣に悩む聡と一緒に、読んでるほうも「SMとは?」って事と「SMを楽しむ人とは?」ってことを考えたくなります。
ここでもう付き合えない!って相手を切ることもできるのに、聡は譲を手放したくなくて真剣に悩みます。
ここまで真剣に悩んで、他の人に話を聞いたりして、何とか頑張ろうとする聡には譲に対する愛を感じました。
恋愛を楽しむお話とは違うかもしれませんが、SMに興味のある方にはオススメしたくなる作品です。
蛇足ですが、このお話を書くためにSキャラとMキャラを4人作って組み合わせを考えたという作者さんの言葉が面白かったです。
非常に興味深いお話です。
「MがSを調教する話」と書いてしまうとあまりに簡潔すぎて、そこには人間心理とSMの真理があるような気がします。
榎田さんの作品に「優しいSの育て方」という本がありましたが、それよりハードですしそれと比べてもこちらの方がリアルをまとっていると思われます。
思わず主人公と一緒になって考えてしまったよ。
話として特殊ではありますが、とても良い本だ!
恋人と別れてふた月近く、ゲイの聡はハッテン場(今回はサウナと思われる)で視線があった男に注目する。
彼は自分の勤める会社の同じ部にシステム開発でヘッドハンティングされてきた上司にあたる澤崎だったのです。
周囲になじまず空気をよまず、あくまでもマイペースで部内の雰囲気を悪くしてしまう男。
彼の下についたことで、同僚たちと彼との間にとって頭を痛めている相手でもあったのです。
日頃の仏頂面とうらはらの淫靡な表情を浮かべ誘ってくる澤崎にその気にさせろと乗るのですが、そこで見せたへりくだった態度がまた新鮮でしまいには「ごめんなさい」と言って果てる澤崎なのです。
それから彼等は体の関係を結ぶのですが、仕事上は普段通り。
体の相性はいいはずなのに、なにか違和感を覚える聡。
そこで澤崎が隷属志願のMだということがわかるのです。
澤崎の顔はM奴隷の時の顔と会社の顔との二つしかありません。
プライベートになると会社とは打って変わって聡に至れり尽くせりの姿を見せ、プレイでは聡の望むとおりでいいと言いながら、彼にされることを期待して、実はもっと酷くされるのを望んでいる。
聡もSではないものの、元々自分よりガタイのいい男を組み伏せるのが好きなタイプ。
苦しそうに聡の言われる通りにする姿に嗜虐心が働いて、酷くしてしまったりもするのだが、必ずその行為の後に後悔が訪れる。
優しくしたい、でも彼の望むものをあげたい。
酷くしたい、でも怖い。
聡は悩むのです。
澤崎は根っからのMですがどうして完全にSではない聡を気に入ったのか?
それは彼の持つ外へ出さないうっ屈した激しさを見たから。
この人なら自分のご主人様になってくれると。
彼は聡が澤崎の望むことをしてくれなくてもご主人様でいてくれればいいと、心から信頼しています。
これも愛なのです。
体が始まりとはいえ、彼のそのMを知って澤崎をより知りたいと思い、心がついていく聡。
確かに彼等の間には愛情が存在します。
SMの関係だけどどうしたいのか、どうなりたいのか、彼等が悩むところがこの作品のいいところなのです。
澤崎のMは徹底的なMです。痛いことが好きなMです。
むしろ聡の割り切れないSの悩みが切実です。
もう辞めてしまえば?と思いそうですが、そうできないところが情が移ったということなのですよ。
この巻だけでは完結していません。
『罪深き誓約』へと続きます。
一体どうやって、彼等は折り合いをつけて互いに求めるべきSMパートナーとなりうるのでしょうか?
Sを割り切れない聡の人間くささが、とても良いのです。
とにかく滅多に見かけない設定、展開。
とても貴重です。
SM、しかもM側から、Sを調教というか、仕込んでいくというか、この設定に興味が持てる人ならおもしろく読めるはず。
いやー、面白かった。
隠れた名作じゃないかな。
年上の美人でクールなドM受けによる、Sの調教ストーリーです。
がっぷり四つでSMというものを突き詰めてる作品でした。
趣味はわかれると思いますが、非常に刺激的なお話でした。なので、ちょっとオマケの神評価です。
精神的な部分を重要視しているという意味で、これほど深い部分にまで踏み込んだ小説もなかなかないんじゃないかなと思いました。最後まで明確な答えを出してないのも良かったな。
隷属関係における歪みや矛盾を突き詰めている。
MこそがSを選び支配しているのだということ。
支配欲と所有欲は違うものだということ。
最初、ドMな受けが、攻めを罠にかけて身体の関係を持ち、彼を優秀なSへと調教していこうとします。肉体的な反応や言葉で攻めを煽ったり誘導したりして。
でも、嗜虐に興奮と抵抗の両方を感じる攻めは、迷いに直面します。
そんな攻めを見て、Mのほうも様々な葛藤を抱くようになる。
Sの側もMの側も、相手の心を伺い、自分が望むかたちと相手の望むかたちの狭間で揺れ動く。
難しいわ!!と思いながらも、どう着地させるのとワクワクゾクゾク楽しい。
もちろん愛もあります。ていうか、互いに愛があるからこそ迷うのだ。
裏表紙には「秘密の快楽。Mによる、S育成ストーリー」とありますが、この刺激的なコピーに負けていない充実した中身でした。
『罪深き誓約』という続編に続いてゆきます。