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kono ame no yo ga aketara
本文も人を選びますが、それ以外の部分が酷いです。
まず本作について。この作品には、ラブはあまりありません。攻めと受けの恋愛はスパッとダイジェストで書かれています。
受けが誘拐されて暴行を受け、攻めが右往左往しつつ心配する…。その辺りの酷な描写が作品のメインです。
内容については好き嫌いの範囲かと思いますが…。
ネット小説の書籍化とのことだったので、ネットでこの作品のことを調べてみました。
そしたら、本作でダイジェストだった攻めと受けの恋愛が公開されているんです。
後書きに「出版社に一作目を発掘してもらったが、二作目に思い入れがあったので売り込んで文庫にしてもらった」と書かれていたんですが、どうも一作目というのが攻めと受けがくっつくまで。二作目が本作だったようです。
道理で本を読んでいて、キャラの過去がちゃんと存在しているのに作中では書かれてなかったり、思わせぶりに出てきてそれっきりの伏線があったりするわけです。
本作もネット上で読めます。更には本作と同じぐらいの長さの後日談まであります。
元々は前後編の予定で、本は前編部分だったとか。
つまりこの作品は、
・第一話:主役二人がくっつくまでのラブ
・第二話:くっついてからの話(前編)
・第三話:くっついてからの話(後編)
の二話目にあたるということです。三話完結の二話目だけ読んでもどうしようもないと思うんですが…。
そして著者はネット上で
「この作品とは一旦決別します。引き伸ばすような内容じゃなかった。前後編の予定だったので書籍版は尻切れトンボです。私の脳内でキャラは美形ではなくキラキラしてもいません、HなBLを伝えたかったわけではないのに紙の本になる誘惑に負けました」
と発言しています。お金を払って損したと心から思いました。
本文が好みに合わなかったのは趣味の問題なので仕方ないですが、その辺りに納得がいきませんでした。
不動産仲介業者で働く大久保(受け・27歳)は
仕事で出会った内装業者の松嶋(攻め・20歳)と
恋に落ちる。
大型犬のような松嶋を愛しく思うも
男と付き合ったことのない大久保は
なかなか素直になれず…。
年の差カップルの日常。
ラブラブな導入に安心していたら
思わぬサイコサスペンスな展開が
待っていました!
大久保は、松嶋の職場の元バイトで
松嶋に憧れていた青年・河原に拉致監禁され
毎日のように凄惨な暴力に晒される。
右耳は聞こえなくなり、傷口は化膿し…。
容赦ない描写は現実の事件を連想させ
読むのが辛いです。
朦朧とする意識のなかで、
いじめられていた学生時代を、
恋人との幸せな日々を
思い出す大久保が切ない。
大久保のように大人しい人間が
理不尽な暴力を受け続けることで
加害者の犬に成り下がり、
抵抗を諦めてしまう。
そんな被害者の心理描写がやけにリアルで
何ともやりきれない気持ちになります。
一方、松嶋は
失踪した大久保のことが心配で
知人に紹介された探偵に相談。
そこで河原が暴力団幹部の息子で、
以前にも女性を監禁し1ヶ月も
暴行を加え殺害した嗜虐的な人物だと知る。
ごく普通の若者に見えた男の恐るべき素顔。
メディアや探偵を通して断片的にしか分からない
大久保の安否。
この松嶋側の描写も非常に切ないです。
表向きは大久保のただの友人でしかない松嶋は
警察や病院から大久保の情報は何も知らされない。
自身も両親を事故で失った松嶋は
恋人が心配で仕方ないのに何もできない。
男同士の関係の社会的な立場の弱さが
しっかり描かれており、
これはBLならではだと感じました。
犯人の詳しい動機やその後は不明、
再会した二人が犯人のことを
気にする描写もない点が気になりましたが
それは自分が読者(ニュースを見る側)だからで、
当事者にとっては事件のことは
語りたくないトラウマでしかないのかもしれない。
そう思うと、松嶋と再会できた大久保が幸せなら
それで全て良いではないかという心境になります。
身体には暴力の痕が残り、精神安定剤も欠かせない。
事件被害者としてマスコミをかわす苦労もある…。
事件の客観的描写より、
事件被害者とその恋人のリアルな心情、苦しみに
スポットライトを当てた物語であったと思います。
今後も事件の被害を背負い、苦しみつつも
支え合い一緒に生きていくであろう二人。
現実の厳しさと希望とを示唆するラストに
ズシリと余韻が残る鮮烈な作品でした。