期限切れの初恋(BBN)

kigengire no hatsukoi

期限切れの初恋(BBN)
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神76
  • 萌×222
  • 萌22
  • 中立7
  • しゅみじゃない16

--

レビュー数
42
得点
541
評価数
143
平均
3.9 / 5
神率
53.1%
著者
木原音瀬 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

イラスト
糸井のぞ 
媒体
小説
出版社
リブレ
レーベル
ビーボーイノベルズ
発売日
価格
¥850(税抜)  
ISBN
9784799713389

あらすじ

宇野には忘れられない恋があった。
誰からも好かれていた大学時代の同級生・村上に卒業してからもずっと片思いしていた。
友人の結婚式を機に、この思いを終わらせようと決意するが、そこで会えるはずだった村上が、借金を重ねて行方不明になっていたことを知る。
何もかも失った村上はホームレスになっていた。
宇野は自分の恋を終わらせるために彼を拾ってきて、一緒に暮らし始めるが…。
その後の二人の書き下ろし、100P超収録!

表題作期限切れの初恋(BBN)

村上隆人,ホームレスになった大学時代の同級生
宇野裕貴,総合商社の社員

同時収録作品人でなしの恋

村上隆人,大学の同級生で特殊清掃会社勤務
宇野裕貴,総合商社の会社員

その他の収録作品

  • ふたりではんぶんこ by糸井のぞ
  • あとがき

レビュー投稿数42

BLとしては・・・

木原先生は8作品目。

読み終わって「これはBLなのか?」と思いました。
確かにBLではあるんですが、個人的にはどっちつかずな印象を受けました。
大半がとことん現実を突き詰めた内容に占められていたので、最後の展開に少し違和感を覚えました。
あくまでも個人的な感覚ですが、ほとんどBLとは関係ないストーリーだったところで、最後によくわからないまま宇野と村上がヨリを戻して終わりというのが...
ヨリを戻すのがおかしいというよりは、BLならBLとしてその後の生活をもうちょっと覗きたかったし、そもそも村上の気持ちがあやふやな印象を受けたのでその辺りも掘り下げていただきたかったという願望です。

ただ、それを差し置いても素晴らしすぎる内容でしたので、神評価にさせていただきます。

0

木原音瀬作品にしては最後が・・・

のっけからアカン受けや・・・と思いつつ読み進める。でも学生時代とか受けの立場って本当はこういう感じなんだろうねと思えると言うか、片思いの辛さが同調出来るようになっています。
でもって、落ちる所まで落ちた村上と出会うこと、それを受け入れることで望みを叶えたかにも思えるけど、実は村上の方はそうじゃない。それを分かってしまうと自己防衛で前に進もうとする受けが切ない。
実際の恋愛でもこういうのはあるよね、きっと。村上にしたって相手は既に子持ちだし、相手も一番好きな人じゃ無くてもそれなりに幸せな生活を築けてる(多分)

人でなしの恋の最後、ちょっと駆け足での村上の変化が今までのリアルをぶち壊してる気がして神評価にはしてません。
最後はHappyになって欲しいものの、ちょっと受けの彼女への嫉妬からだけってのは前半の村上の感じからはポカン感に。
読後はHappyなだけに悪くは無いんですけどね。あれ?って言う感じでした。

3

泣けた…嗚咽した

やっぱり、木原先生の作品は心して読まねばならん。
表紙とタイトルで甘酸っぱいのかな?なんて思ったけど、んなわけなかった。

この作品も攻めがクズい。まだあんまり木原作品読んでないけど、大体ナチュラルにヒドイ態度取ったり言うたりする攻めが出てくる。
学生時代人気者のリア充攻めが、いろんなことが重なって見事な転落人生。
そこに現れた干渉せずにただ見守ってくれ、自分の居場所になってくれた元同級生(受け)に依存。
廃人同然だった日々からようやく立ち直りかけ感謝を込めてささやかながら受けのサプライズ誕生日会を開いた日に出て行ってほしいと言われ逆上(まぁ、どっちの気持ちもわからないでもない)受けに恋愛の意味でも好きだから一緒にいるのが辛いみたいな事言われて勢いで強姦まがいに致してしまう。
(ここまで受け視点)

次から攻め視点がスタートするんだけど
何でや!ゲイでもないのに欲情って、そこはわからん。
それからも何度もSEXするけど、出したら気持ちが冷めて恋愛の意味で好き違うわって毎回思うってどんだけ酷いやつや!寂しいから身体で繋ぎ止めてるだけって。
結婚まで考えた元恋人を好きだった気持ちと比べると全然違う。この関係ずるずる続けたらあかんなって悶々としつつ、でも1人は寂しいし、でもラブではないしと延々ループ。
うーん、本心だからどうしようもないよなって読んでて辛い。

受けもそんな事お見通しで、自分から離れてあげる。
最後に優しい暗示の言葉を掛けてあげて。
(ここ、泣ける……。)
なのに、受けに新しく彼女が出来たと知って、
攻めが嫉妬心でなんて事を!!!!!
なんてやつ!!!!!!!!!
許さんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
(ホントこれくらいの憤りでした)

って思ってからの怒涛のラスト!
嗚咽ヤバい。
久しぶりに声出して泣いてしまいました。
木原作品これだから読んじゃうんだよ。

先生のあとがきにもありましたが
あらゆる悪臭に塗れた作品です。
ひたすら臭そうです。

クズい人も居れば良心的な人も出てきます。
人は何かのきっかけで転落してしまったり、自分で命を落とそうと思ってしまったりするけど、これまた何かのきっかけでやり直せたりするんだって、希望も持たせてくれる作品です。

最後に、
何も悪くないのにNTLにあった可哀想な彼女に
今後幸あれ!

1

BLを超えたリアルさに感情が荒れ狂わされた


普段は攻めが受けを溺愛するものか、執着攻めばかり読む私ですが、今回は趣旨を変えて購入。
音瀬先生の作品は「FRAGILE」を既読。
痛い・グロい・重い、があまり得意ではないので心構えをして拝読。

読み始めて中盤くらいで終わりを感じ、すごくいい物語だなぁと思いきや後半が本番でした。
ああ、これが音瀬先生か…と再確認させられた後半は攻め視点。

受けはもちろんのこと、読んでいるこちらの感情もグチャグチャ。

かなり女性絡みがあるので地雷な方は本当に要注意!
その代わり、現実感がすごくありました。

そしてなんといっても、今まで読んできた中で攻めが一番クズ。
だけどこれがリアルだよな…と現実を突きつけれました。

攻めがどんな姿であろうと包み込む受けの包容力はマザーテレサでした。
そのマザーテレサに向かって恋愛感情は沸かないと言い放った時は心の中で荒れ狂いました(笑)

あまりにも受けが可哀想すぎる…。
でもこれが恋だし、攻めに強要もできない。分かる、と一人で納得(笑)

なんとか攻めザマァが多少あり、救われましたが読んだ後も色々考えてしまい、ただただ無感情で萌えられるBLを漁りました(笑)

好みとは違いますが、音瀬先生の凄さを痛感した一冊でした。

1

攻の気持ちの変化が面白いです

長く熟成させた積読でしたが、やっと読了。
手をつけたら一気読みでした。なんでしょう、早く読めばいいのに…。
(いろいろ心の準備が必要、と身構えるのでつい積んでしまうのに、読み始めたら止まらなくなるのが、ザ・木原マジック)

比較的ハピエンですよね(笑)。正直、”期限切れの初恋”までだと、村上の気持ちは”生存本能”じゃないの?という印象でした。”人でなしの恋”でやっと、どうにかどうにか、宇野の初恋が成仏してる感じです。こんなにも元カノに未練たらたらな村上が、どうしたら他に(しかも男)に特別な感情を抱くことができるんだろう、、しかもめっちゃ”ときめき”とかの恋愛要素にこだわってるのに…と最後の最後までハラハラしてしまいました。(芽生えない可能性もあるのかしらと…)
ただ、油断できないのは、”村上は愛しているかもしれない男”の~”という最後の一文。え、まだ”かもしれない”んだ、さすが木原先生、と思ってしまいました(笑)


3

片思いが精算出来ていない人へ

人の恋する内面について描かれた作品で、これ程面白いとのめり込み「やだやだー!」と駄々こね叫びたくなった作品は映画やドラマも含めて他にありません。恋愛話でここまで展開が怖く心臓バクバクで、先にネタバレを読み漁った作品もありません(笑)

自分とはかけ離れた人を好きになることは現実によくあることと思います。
それを引きずった私もこの主人公の宇野がどう落とし所を見つけるのか知りたくて読みました。

忘れられない人を美化し、変わり果てても好きで、どうすれば嫌いになれるかと考える宇野が恋とは何かを考えます。
そしてどうすれば後悔せず吹っ切れたのか、あの時のチャンスは、あの時言ってれば…とあれこれ考えるのは「わかる」の一言でしかありません。
好かれているが好きではない相手への関心のなさとその自覚のなさが、主人公ふたりと取り囲む友人とで残酷なまでに描かれていて、それでも共感させられます。
一緒に過ごしても上手く掛け合えない人間性と戻らない時間が切ない、ビターな作品(木原さんの作品でその表現は無いかしら)でした。

第1章で信じられないことにハッピーエンド的な終わり方でそれはそれで良かったのですが、その後のずるずるとした二人の気持ちの温度差と戸惑いがどちらも凄く納得すると同時に辛く感じながら読みました。
優しく大切には出来ても心から愛することは出来ない、というのはどうしようもありません。そこに村上が悩むことは彼が底辺から抜け出した恩人に対して報えないこととして描かれていても、宇野と同じような気持ちをかかえる読者としては優しさを村上と木原さんに感じました。

運良く身体は近付いても心と過去は変えられない。
大きな決意をした終わりでもないのですが、宇野がどれだけ必要な存在か、村上が自分の現状の気持ちを自覚してちゃんと宇野の存在を認められて良かったなと思いました。あからさまに両思いでハッピーじゃなく、これからを感じさせて無理がないのが良いです。

宇野のように気持ちの精算が出来ず思い出に出来たかそうでないかの人、ただ興味をもった人も、これからも沢山この作品に出会う人がいることを願います。
私事ですがレビュー100個目なので、これを機に好き過ぎてレビュー書けなかったこの作品に手をつけようと思いました。

1

切ない

BL作品といえど、これは純文学と言えるのではないか。特にラストの方の宇野くんのセリフ。これにこの作品の全てが凝縮されているような気がする。
「好きだって言ってる僕の横で、他の人がいいって泣くのに。僕はどうすればよかったんだよ」

私が特に切ないと感じたのは、村上が立ち直り始めた後半のカフェのシーン。
村上、雛乃、未来、加々美と宇野くんが勢ぞろいのカフェで、加々美が悪戯で村上のコーヒーに砂糖を山盛りにする。
それが昔のギャグだとは知らない宇野くんが、村上に替えてあげようかと提案する。
村上はそれを拒絶する。あの頃、宇野はそこにいなかった。という描写からも、この辺から村上が宇野くんを、だんだんと疎ましく思い始めているのが手に取るようにわかる。
更に、雛乃の前で、恋人ぶるな。
無言の圧力を宇野くんにかけて…。

元恋人やかつての友達の前で、恋人として紹介してもらえない。こんな、屈辱…普通、耐えられるか?

そして、だんだんと影の薄くなる宇野くん。村上の語りなので、村上自身がそんなふうに思い始めているからなんだろうけど…。
BL作品で、ここまで受けの影が薄くなる描写があるのは本当に珍しい。BLはファンタジーなんて言われているけど、木原作品に関しては、これがリアルで、心をえぐる。
この場では雛乃が泣いていたが、一番泣きたいのは宇野くんと読者だろうよ…。
好きな人が、自分と同じように自分を好きでいてくれない。自分が蔑ろにされる。
そんなの、リアルだけで充分だ。それでも、この物語に惹きこまれて読んでしまうのは、木原マジックなんだろうな…。

ラストの「斉藤さんが相手だったら、絶対にこんな酷いことしないくせに。言わないくせに。」という宇野くんのセリフも、涙を誘う。

村上は、雛乃の幸せを祈って身を引いた。雛乃のことを無理に、抱こうとはしないだろう。 
でも、宇野くんの幸せを祈って身を引かなかった。宇野くんに関しては、自分の欲望を優先する。
その差が、宇野くん的には辛いんだろうな。



でも、こうも考えられないか?

村上にとって、雛乃はなりふり構わず手に入れたいと思えるような相手じゃなかった、と。

結局、過去を美化しているだけで、無い物ねだりにすぎない。と。

そう考えて、私的にやっとこの作品に萌を感じられた。

余談ではあるが、宇野くんのことを、本当に理解している人物がこの世にいるのか?という疑問に至った。

なんか、読後感がもやもやすっきりしないのは否めない。それが、木原作品を読む上での醍醐味なんだけど…。

あまりにも宇野くんが気の毒すぎる。
女友達、もしくは会社の先輩、なんでもいいから出てきて(オネェでも可。笑)

「そんな男、こっちからフっちゃいなさいよ!あんたにはもったんない!つーか、雛乃って女もなんなの?!今更、でてきて、村上が1番辛い時に支えられなかったくせに!その村上の仲間たちだって、村上が1番ひどい時に救いの手を差し伸べようとすらしなかったくせに、裕貴のこと、ないがしろにして!!でも、1番、腹立つのは村上よ!助けられた恩も忘れて、一体なんなの?!何様?!かわいそう、裕貴!!」

的なことを、捲し立ててくれるキャラが出てきたら、まだ、読者の怒りを代弁してくれるので、読後感が違ったものになるのかも…。

でも、こんな強烈なキャラがでてきて、宇野くんの気持ちを代弁しちゃったら、名作が台無しですね。


今後、村上がなかなか表現できない宇野くんの気持ちをくみとって、理解できるようになれたらいいなあ。

このノベルズのイラストを描いている、糸井のぞさんがコミックの後書きで、「この2人にはイチャイチャより、お互いを理解するためにたくさん、話し合って欲しい。」と書いていた。

私も、そう思う。
イチャイチャも大事だけど、それよりまずは、お互いを理解しあってほしいな。心と心で繋がってほしい。

個人的に、当て馬的にされた、宇野くんの新恋人、加奈ちゃん?

「お前に合ってないよ」と言った村上の言葉は正しいと思う。(笑)なんか、すごいファンキーすぎ。。

心より、宇野くんの幸せをお祈りします…。

9

ひみた

レビュー笑わせていただきました。オネェの代弁者にスッキリしました!(笑)
ファンキーな新恋人にも同感です…

いつかは僕で君が幸せになってほしい

とりあえずやたらと臭いをイメージさせられる作品でしたね。
攻めの村上のホームレス状態だったり職にした汚部屋清掃だったり。
綺麗なものだけでかためられることのない木原さんの作品、確かな描写力が大好きです。

それにしても序盤の攻めはついつい顔をしかめてしまう程の汚すぎる身なりで嫌悪感半端なかったのですが、それでも好きでいることをやめられなかった受けの宇野の想いの強さに驚きました。
年数も経ち美化されたところもあるだろう初恋の相手が変わり果てた姿になったとしてもそばで支えた…。

BLでよく見掛ける容姿に惹かれて…だとか簡単に説明できる理由ではなく大学時代からずっと恋心と共に村上を見てきた宇野の気持ちがとても伝わってきました。
ゲイというわけじゃないんですよね、ただ好きになった人が同性の村上だったんですよね。

誕生日にお互いがお互いを遠ざける発言をしたことは胸が痛いです。
比較的落ち着いてるぞー!と思っても絶対どこかで心をガツンと殴られるんですよね。
そこから継続的なズキズキが続いて…でもそこが魅力的で読み耽ってしまうんですよね。

村上は元カノの雛乃への未練があって、宇野との関係を持ちつつも同じ情熱を向けられないっていうのも生々しくて夢中になりました。
恩返しのような義務的な愛し方をする村上に気付かず健気に触れ合う宇野を見ていると心臓がギューギューしました。

結果的には光の見えるエンドですが互いの気持ちが噛み合っていないというかきちんと絡まっていないように私には感じました。
でもそれがいい。
都合良くくっ付いた物語のカップル感なく、超ハピエンでなくともつらくなった時に一番そばにいてほしいと思いそうしてくれる人がいる…そこに濃厚な愛の結びがなくともそれだけで既に充分幸せ者だよな…と思いました。

完全な恋人同士にならないBL…それでもあたたかい。

2

恋は不思議

表題作の「期限切れの初恋」は、地味で内向的な宇野が、落ちぶれた片思いの相手・村上を偶然見つけて自宅に住まわせる話で、宇野の視点で書かれています。
タイトルが謎かけのように思えました。「初恋」だから、大学時代に宇野が村上に抱いた初恋のことなのでしょうけど、それは社会人になり会わずに何年たっても、全く終わっていないのです。
大学で村上が作ったキャンプサークルに誘われ活動を共にするうち、村上を好きになってしまった宇野。村上は自分と違い、華やかで人気者。同性同士だし、特別に親しくなれる見込みもない。辛い片思いに区切りをつけたくて、卒業式の日に、村上に告白しようとするも結局できず…。宇野の初恋は手放す期限を過ぎてしまった。タイトルの「期限切れ」は、そういう意味なのかもしれないと思いました。

宇野が村上への思いに捕らわれ続ける姿が、あまりに卑屈で痛々しいです。
自分からは思いきれないからと、村上がもっと悪い男になって失望させてくれないだろうか、などと考える。毎日自分の金を盗んでパチンコに興じる村上を最低と心で罵りながら、一緒にいることが嬉しくて、追い出すことができない。
村上が立ち直り始めると、以前のように軽く扱われて傷つくことを恐れ、村上を追い出す。立ち直らず汚いままの村上ならずっとそばにいられたのにと考え、自己嫌悪で涙する。ちっとも前向きじゃない。挙句、怒りにかられた村上に好意に付け込まれるように抱かれてしまう。
どんなに相手がひどくても、見込みがなくても、捨てられない恋とは、いったい何なのだろう。
でも、周りの誰もが納得するような恋ばかりじゃない。こういう恋もあるのかもしれない。恋なんて、病気みたいなものだと思うのです。半端に放置すれば、治らなくなってしまうこともあるでしょう。

それにしても、村上が酷い。
自分を見捨てなかった宇野に感謝しつつも、愛情でつながれば二度とマンションを追い出されずに済むだろうという思惑がはたらいていたことが、村上視点の「人でなしの恋」で明かされています。
村上は特殊清掃の仕事に自信を持ち始め、大学時代の友人に借金を返し関係が修復されると、宇野との同居を一方的に解消します。そして、「気に掛けてもらえていると思うだけで落ち着く」とか、「会いたくなれば、自分が動けばいいだけだ」などと、勝手に二人の距離を決めてしまう。きちんと宇野と話し合うこともせずに。結局、村上は昔と変わっていない、自己中心的な人間なのだと思いました。
だから、村上と昔の恋人はやり直してもきっとうまくいかなかったでしょう。失った恋をやり直すのにも期限がある。友人の「もう遅いのよ」という言葉がなければ、諦められなかった村上は本当に弱い男です。

むしろ、一見地味で弱弱しい宇野のほうが実は強いことが、「人でなしの恋」を読んで分かりました。最初から、村上が寂しくて宇野に寄りかかっていたこと、距離を取りたくて宇野の元を離れていったことを知りながら、自分勝手な村上を責めなかったのですから。寂しくて会いに来た村上に、「幸せになってください」と背中を押してやる寛大さ。静かな強さに胸を打たれました。
これで二人が別々に歩んでいけば、少しつまらないけれど、納得のいく終わり方だったかもしれません。

自分が会社を首になるきっかけを作った元上司の自殺現場の清掃に入った村上は、やっと気づきます。自分には宇野がいたから立ち直れたのだと。呆れるほど遅い。でも、村上の宇野への気持ちに変化が起きたとすれば、この瞬間なのだろうと思います。見返りを求めない宇野の愛情に心からひれ伏して、愛しく思えたのは。
宇野を無理やり抱いて、恋人と別れてと言い、「愛せないかも…しれないけれど、傍にいて」という村上は本当にひどいけれど、自分の弱さを自覚して正直なところに好感が持てます。宇野も「人でなし!」と怒ったり泣いたりしたけれど、幸せそうだから、この結末でよかったです。これからは言いたいことを言い合って、意外と上手くいくような気がします。

すっきりと納得はできないけれど、恋って不思議で面白い、と思う作品でした。

4

好きのベクトルが違うふたり

電子書籍で読了。挿絵有り。

『人でなしの恋』の終焉についての感想を書きます。盛大なネタバレになると思いますがご勘弁ください。


実人生の中で「いい人だと思うけれど、この人に恋することはないだろうな」と思ったことが何度かあります。同じように「この人のことがとっても好きだけれど、この人が私と恋に落ちることは絶対ないな」と思ったことも。だから私は村上がクズとは思えなかったです。また、宇野が執着男だとも思えない。お互いにとって「仕方ないよねー」ということでしかない。私がそう思ったように。

一見、ハッピーエンドに見えるこのお話のラストは、私にとってとても不穏なものでした。お互いに「好きだ」と思っていると思います。また、縋り付く気持ち、失いたくない気持ちもとても強いだろうと思います。でも、恋というものは、ある時、いきなり降ってくるものです。村上に訪れないとは言えない。

木原さんのお話の多くは、自分からは遠い登場人物による『怖い話』です。まあ、そのお話が鏡になって、自分が見えちゃうから余計怖いのですが。でも今回のお話は、どこにでもいるような登場人物がくり広げるドラマです。形は違っても、今現在どこかで起きているだろうと思えること。
読後、深い悲しみに襲われました。

3

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