青海
wander vogel
off you goは、新聞社三部作の中で、一番切ないと思います。
これは、その番外短編の贅沢な詰め合わせ。
遠い外国で、電話で十和子から良時の結婚式の報告を受ける密。
愛人と過ごしながらも、妻を通じて繋がる他人との距離を密は想う。
ワンダーフォーゲルは、たった2ページの短編に密の秘めた想いとやさしさが窺えます。
雛の心臓は、密が退院する少し前の十和子の話。
樹上の巣から落ちた鳥の雛を良時が拾う、日常の出来事の中で、
聡い十和子は、良時の、密の、そして自分のそれぞれに対する気持ちの違いに、
子供心ながらうっすらと感じ取ります。
そして三人ともそれぞれ形は違えどお互いを愛していて、それを心に秘めている。
やさしくてせつない話です。
西口の結婚披露宴で、同僚たちに子供はまだかと聞かれる良時と密。
その後二人になった時に、良時は密に八重が妊娠したかもしれない事を告げます。
それぞれ、口に出せない想いを飲み込む二人。
大人になると歌を忘れるコウノトリの話をする密が、切ない。
密の背中に掛ける言葉を飲み込み、必死で夫になろうとしている良時が切ない。
study of silenceは、胸がつかえる様な痛みを感じる話です。
never let you goは雪絵と良時の祖父の話。
雪絵が良時に、初めて静家に引き取られた時の話をします。
これがすごく印象的な内容。
雪絵の父のお通夜に突然現れ、人目も憚らずワンワン泣き出したという良時の祖父。
二人はどんな関係だったのか?それは謎のままです。
最後のぬくめどりは、off you goのその後談。
ある夜の甘い二人が読めます。
合計5話ですが、良時と密と十和子の、
やさしさと切なさと痛さと愛が溢れた、ステキな短編集です。
off you go の番外編5つ。
良時と佐伯の関係自体の話というより、色々な角度から彼らの人生が垣間みられ、
関係を立体的に浮かび上がらせる小さな物語達。
非常に独特で魅力的な人物、佐伯密。
表題にもなっている最初の「wandervogel」は、
いきなり佐伯がベルリンで浮気をしている話。
こんな嘘つきで前科がありまくりで真っ黒な彼の、
普段は見せないけれどその行動の裏側にいつでもある、思い詰める程ピュアな思いや
少年のような真っすぐなやさしさが、なんとも切ない。
二人が決して口にしなかったこと。
罪悪感を抱きながら、それぞれに捨てきれず抱えてきた想い。
そして、小さい頃からそれを肌身で知っていた十和子。
本編で存在感のある脇役として描かれていた雪絵さん。
彼女の半生も語られる。
淡々と静家に尽くし、時代から取り残されているような生き方に見える彼女だが、
彼女にも彼女のドラマがあり、秘めた恋がある。
最後の「ぬくめどり」はようやくBLらしく、ある夜中八十八夜の二人。
露悪的な佐伯が、良時を振り回すことによって甘えているのがなんとも可愛い。