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yoru no jouka asa no shinon
BLの多重人格物で、これまでで一番強烈に印象に残っているのは、秀香穂里さんの「ダークフェイス」「ディープフェイス」(前後篇)だったのですが、この作品も、負けないくらいのインパクトがありました。ただ同じ多重人格者との恋をテーマにしていても、秀さんの方は攻め、本作では受けがその症状を抱えています。そして一番大きな違いは、秀さんの方では主人公が恋をするのは裏人格とだけで、表の人格とはあくまで仕事上の接点しかない、よそよそしい関係であったのに対し、本作の主人公高岡は一人の人物の裏と表、まさに一体でありながら対照的な二つの人格をそれぞれに愛してしまうのです。どちらも最後には裏の人格は表の人格に統合されて消える運命にあるのは同じですが、秀作品でそれはすなわち、主人公が永遠に愛する人を喪ってしまうことを意味します。なので昨今のBL作品には珍しく濃厚なバッドエンド感漂う幕切れで、でもその中に読み手の想像力次第でいかようにも膨らむひとすじの希望も垣間見えたりして、作家さんの手管にしてやられた、という感じでした。
ひるがえって本作では、高岡は本命である表人格の春樹と最終的に結ばれることになるので、バッドエンドではありません。ただ、本を閉じた後、胸に残る哀切な感情は、秀作品に勝るとも劣らないとわたしは思いました。
多重人格者となるきっかけには、多くの場合、幼児期に正気ではとても耐えられないほどの過酷な体験を強いられたことがあるという。本作の春樹もその例にもれず、いまでこそ大学院生として一見落ち着いたくらしぶりだが、幼い頃に親が闇金に追い込みをかけられ、一家で失踪、数年後に関西の暴力団関係者のもとでひどい虐待に遭っていたところを偶然発見、一人だけ救出されるという過去を持つ。高岡の目に映る春樹はいつも穏やかに微笑んでいて、触れるのもためらうくらいに無垢だ。一方で、ほぼ同時期に知り合った裏人格の凛は、奔放でどこまでも欲望に忠実、最初から身体先行の付き合いをしてしまっている。春樹が無垢でいられるのは、代わりに全てを引き受ける凛がいたからだ。同じ水から生まれても、春樹は上澄みで、凛は澱。そして高岡が惹かれるのはやっぱり春樹なのだ。妨げるすべを、凛は持たない。「ほんま、俺の人生、しょうがないことばっかしやな」ちいさくそんな風につぶやくだけで。
凛と春樹。二つの真逆な人格から愛される高岡という男、彼が完璧なヒーローじゃないところがまた、物語に厚みを与えている。最初にゲイの出会いスポットで凛をひっかけた時の高岡は、見た目と羽振りがいいだけの最低男同然で、凛にも「セックスが巧くて、情がない」とバッサリやられてたほど。でもそうなったのにも彼なりのわけはあって、昔本気で愛した恋人を自分が死に追いやってしまったという後悔に苛まれ続けている。その恋人にどこか似た面ざしを持つ春樹に惹かれ、大切にしたい、護りたいと思うのと同時に、身体をかさねるごとに凛に対する想いもまた変化していくのを止められない。「凛は損ばかりしてるな・・・」つい考えなしに、相手を傷つけるような言葉を吐いてしまったと自己嫌悪に陥ったり、逆に適切な言葉が見つけられずに悩んだり。あちこち壁にぶち当たり、ぶざまにあがきながら、それでも二度と後悔だけはしたくないと強く思う。みずから手を汚してでも、凛の望む復讐を遂げてやろうと決意するほどに。
高岡と凛と春樹。ふたりの三角関係は、あらかじめ定められた通りの軌跡を描いて、納まるべき所に納まる。高岡と春樹が新生活を始める部屋に、凛はいない。ただ高岡も春樹も、常に濃密に凛の気配を感じている。小道具の香水が随所で効果的に使われていて印象的でした。難しい題材を、最後まで破綻なく一気に読ませる作家さんの力量はたいしたものだと思います。イラストの七海さん、高岡はイメージどんぴしゃでしたが、春樹にはもう少し柔らかく、はかなげな雰囲気が欲しかったかな。
番外編ショートを読んで、興味を持って、本編であるこちらを購入しました。読後の印象は、ハッピーエンドなのですが、ちょっと切ないものでした。
1冊丸ごと表題作です。
高岡(攻め)の目線でストーリーは進んでいきます。
高岡は、一晩の遊びの相手として、凛(受け)とセックスをします。ところが、後日出会った凛は、春樹と名乗り、高岡の事を覚えてなくて…。
ネタバレしますと、春樹は多重人格です。裏の人格に、凛の他、ユリという少女と、マサキという凶暴な人格がいます。
高岡は春樹に片思いをしていますが、一方で、春樹と身体を共有している凛からは好かれるという複雑な三角関係です。
ラスト、高岡と春樹は両思いになり、凛は自らの意志で眠りにつきます。
春樹は虐待された過去を持っており、凛は春樹のその辛い部分を担っていました。凛が潜んでからは、その名残で悪夢など後遺症が残りました。
高岡は恋人に自殺された過去をもっていますが、さらに春樹が背負う重荷もあわせて愛することを選びました。高岡は完璧超人な男前ではないですが、カッコイイ大人の男でした。
春樹は標準語なのに凛は関西弁というのも、なんだか良かったです。
凛が健気でした。高岡がつい本体である春樹のことを優先してしまうのが切なかったです。復讐のカギであるマサキを、高岡を傷つけたという理由で消してしまった場面では、想いの強さに思わず泣きました。
惹かれている過程も自然ですし、イラストも素敵です。三人とも誠実なのが良かったです。傍からは高岡が春樹と凛に二股をかけているとも言えるのでしょうし、私は本来そういう系統は苦手なのですが、この作品は読んでいて少しも嫌な気持ちになりませんでした。お勧めです。
「Libre Premium 2012 PEARL PLATINUM」で、後日談的内容の番外編ショートが掲載されています。凛が主人公で、高岡の匂いに釣られて時々眠りから浮上した時に、高岡が凛の名前を呼んで…という話です。自分を含めて春樹を愛してくれている高岡に喜ぶ話で、私のように本編を読んで凛に切なさを残したままの方にお勧めの内容でした。
あとがきによると、かなりクローゼットで温めて?いた作品をベースに書き下ろした
お話ということでしたが、なかなかどうして、個人的にはウルウルしました。
ウルウルと言っても実際泣いたわけではないのですが、主人公の受け様が多重人格で
そのメインの人格と同格みたいな「凛」と言う名の人格が消えてしまうのは結構切ない。
受け様は幼い時に闇金融で家族離散になり、更に暴力団関係者に監禁され
普通の精神状態でいる事が困難なくらいの虐待を受け解離性同一性障害になっている設定
作品の内容から考えれば多重人格と表現した方が分かりやすい。
メインの主人格よりも前面に出てる「凛」と過去に恋人を亡くしたことから時が止まって
いるような攻め様との出会いは、いわゆるその手のお店で、一時の遊び相手にと
「凛」と抱き合うが、再び逢いたいと言われた攻め様はさらりと流して終わる。
攻め様は贖罪のように過去の恋人を忘れないようにしているので、恋人を持つなんて事は
考えていないが、たまに母校で競技ライフルの指導をしている攻め様は、
一夜の遊び相手に似た春樹と知り合う。
始めは同じ人物かと思った攻め様ですが、言葉も標準語で、仕草も何もかも違う。
そして、初めて凛を見た時に亡き恋人に何処か面影が似ていると感じたのと同じく
それ以上に春樹に面影を見出し、亡き恋人を思いだすように交流を持つようになる。
次第に春樹に好意を抱きつつ、再会した凛と春樹に何か関係があるのではと
思い始め、春樹の悲惨な過去を知り、凛が春樹のもう一人の姿だと気が付く。
過去のこだわりを抱えつつ、春樹を好きになる攻め様、その攻め様を好きになる凛、
奇妙な三角関係みたいなストーリーですが、凛が過去の憎しみを晴らす為にトラブルに
春樹の人格統合と、その為に消えてしまうだろう凛、その二つの人格を同じように
愛してしまった攻め様、なかなか読みごたえがある作品でした。
ストーリーはすごく良い!だからこそ、この「小説としての文章」の微妙さがもどかしく、惜しいと思った作品。
多重人格については、あらすじでは隠されているものの、わりとすぐに明かされる(ここの受けの説明に思いっきり書かれてるのには驚いた…)。
メイン人格と辛い過去を引き受ける人格が主になって進むという、多重人格モノとしては王道設定なんじゃないかな。映像作品を参考にしたのか、バウンドしながら人格が入れ替わる。映画なら分かりやすく画的に面白い演出だが、文章で表現されるとちょっと変。
背景や経緯がきっちり語られているため、世界観には説得力があった。高岡と春樹がキャラ立ちしていない分、凛の華のあるサマが際立っている。凛は役割的にも肩入れして描かれるタイプのキャラで、誰よりも存在感を放っていた。
高岡には元恋人が自殺したという設定を加えることで深みが出ていた。ただ、春樹に昔の恋人に似ていると告げた直後に好きだと告白する神経はどうなっているのかと思ったし、似ているから好きなのかと疑問に思わない春樹も不思議だった。
クライマックスはそれこそ映画のように、派手に盛り上げてくれた。そして悲劇のヒロインとなる凛と激しく感情を発露させる高岡。読む側が春樹と凛の二人をどう捉えているかでかなり感想が変わりそうだと思った。
ラストは個人的に共存で終わって欲しかったが、統合されてしまった。まあお約束だし、仕方ない結末なんだろう。
気になったのは文章。過去形を多用し小説としての盛り上がりを消している。特にエロシーンが酷く作業描写のようになってしまっている。日本語としておかしいわけではないが、情緒が無くつなぎが雑で魅力に欠ける。
ストーリーが良いだけにもったいなく、臨場感ある文章で書いて欲しいと思った。それならたぶん神作品。
多重人格のお話。
最初こそ享楽的な交代人格はちょっと好きくないかも~だったのですが、最後にはすっかり絆されてた私。(´;ω;`)
攻め様は、恋人に自殺されてしまった過去を持ち、今も贖罪の気持ちを抱えている高岡。
ある夜、凛と名乗る軽薄な雰囲気の男から声をかけられ、誘われるままホテルへ。
それきりのつもりだったのに、その後、凛とそっくりな春樹と出会う。
見た目はそっくりなのに、性格は正反対。
穏やかで純粋な春樹と過ごす時間が楽しみになっていく高岡は、他人の空似だとは思えないほど似ている凛と春樹との関係が気になって調べる内に、春樹が多重人格者であることを知る。
過去に壮絶な虐待を受け、別人格を作っていった春樹。
別人格のリーダー格である凛は、はすっぱな感じで享楽的で。
最初はあまり好きな感じではなかったのてすけど、高岡を好きだというのが、不器用でささやかでいじましいくて。
2人を別人格として付き合っていく内に、高岡はそれぞれに愛しさや好ましさを育てていく。
凛がどうしてもしなくてはならないと決めていたこと。
それをなんとしても止めたいと取った高岡の行動には、驚きましたけど、高岡の愛情が凛に伝わってよかった。
凛が消える前に幸せだと感じられて本当によかった。
春樹の中に凛を感じることができてよかった〜。
春樹の中で一緒に幸せになるんだよ、としんみりしちゃいました。
正直なところ、所謂『多重人格もの』は苦手な方です。
他の作家さんの『二重人格もの』BL(かなり好きな作品です)でも同じように感じたんですが、一応でも『ハッピーエンド』にするには、ストーリー展開としてはまずこうするしかないんですよね。この設定ならこれ、という、まさに『王道』。
純粋に『ドラマ』としてならいいんです。でも『ラブストーリー』として見ると、大抵は『消える方』に焦点が当たる描き方が多いので、複数の人格の誰(どちら)が好みかによっても思い入れは変わりますが、結局誰が残っても(消えても)必ず何らかのわだかまりというかモヤモヤするものを感じてしまって、どうにもスッキリしないんです。
それと私は、あくまでも個人的な好みで、凜がどうしても好きになれないタイプだったので、その時点で『多重人格もの』の楽しみ半減って感じでした。
やっぱりこういう設定では、多くの場合『統合される(消える)』側であるサブの人格に、いかに思い入れられるかが大きいと思うので。
ただ、冒頭に挙げた別作品では、それこそ『サブ人格』の方が好きだったので、ラストはなんとも微妙な気持ちになりました。
そういう意味では、この作品は(消える人格に特別な思いがまったくないから)あっさり流せてしまいましたけどね。作品を読む上で、それがいいかどうかはともかく。とにかく、私に葛藤もたいしてないので、せっかくの『切なさ』を十分に堪能できなくてもったいなかった気はします。
決して悪くはないんです。吉田さんはもともと結構好きな作家さんですし、キャラクターの心情描写も申し分ない。単に、私が(個人的な)キャラクターの好みの問題で、あまり入り込めなかったというだけです。
そして、七海さんのイラストがとても綺麗で素敵でした。
多重人格モノです。
「24人のビリーミリガン」が世に出てから割とポピュラーな認識になった多重人格。
それを周到して、過去の辛い記憶に耐えられなくなったために自ら作り出した人格がそれぞれの役割を担い、感情の負担をする。
リーダー格の人格があり、それが当人に負担をかけないようにコントロールしたり、時には本人を支配してしまうことも・・・
このお話もまさにその典型のパターンでありました。
元警官で射撃の腕があり、事業の傍ら大学で射撃のコーチをしている高岡が、息抜きで訪れるバーで声をかけてきた男・凛。
奔放なセックスは悪くない、しかしその場限りのはずだった。
指導している大学で、偶然出会った亡くした恋人に雰囲気が似ている男子学生・春樹。
しかし、春樹は凛にうりふたつ。
元恋人への残した気持ちから春樹に惹かれながら、凛と春樹の関係も気になり、
そして知る春樹の過去。
それを知ったときには、すでに高岡は春樹をそして凛を愛していたのですが、
凛には目的があったのです。
多重人格をはさんだ切ない三角関係です。
高岡はどちらの人格も認めて、どちらも愛しいと思う。
しかし、凛は春樹に嫉妬し、春樹は凛に嫉妬し、自分の中で凛がおってくれている役割を知ってはいても、この恋は譲れない。
本来の人格は春樹だから、あきらめなくちゃいけないが、決着もつけなくちゃいけない。
どちらかというと、凛の気持ちに肩入れしたくなります。
辛い体験を全て背負い、春樹のためにやってきた彼がただ唯一好きになった人。
切ないですね~。
また高岡も若気のいたりというのか、恋人を思いやれなかったために失ってしまった過去を背負い、
だんだんと好きになっていく春樹=凛にはむきあってやりたいと、踏み込んでいく。
主人公たちの過去やしがらみの絡ませ方がなかなか心憎いシチュエーションを準備して関係性の発展に持っていってる構成は、
魅せ方が上手いと思いました。
全体的にとても暗いお話です。
唯一、高岡と凛がゲームセンターで子供のようにはしゃいでクレーンゲームをする姿が一時の清涼剤でした。
七海さんのイラストもとてもいいのですが、表紙がちょっと暗いかな?
なんか影になってる凛が不憫で・・・(涙)