snowblack
『おとぎ話のゆくえ』の番外編。
本編のあと大学生になった湊は、京都で暮している。
そこには来杉もいて、生まれて初めて若様としてではなく過ごす日々…、
「そして二人はいつまでもなかよく暮しました。めでたしめでたし。」
というのがおとぎ話の定番だが、湊のそれは4年の(6年や9年かもしれないが)期間限定だ。
生まれ育った土地で当たり前だと思って背負っていた荷物が、実は重く窮屈なものであること。
誕生日の過ごし方を大学の友人達に可哀想と言われ、
故郷に帰って久しぶりに若様として過ごす時に、感じてしまった違和感。
離れてしまったが故にそれに気がついてしまった湊だが、
そんな揺らぎを何とか自分で押さえつけて折合いをつけようとしている。
誕生日を自分本位に過ごせない湊、ひとに我が儘を言う事ができない湊、が
来杉にだけは、ちょっと我が儘を言う。
しょーがねーなーと言いながら、叶えてくれる恋人。
誕生祝いなんてとてもじゃないが期待できないような男なのに、
ちゃんとプレゼントも用意してくれている。
「頑張るから」という湊に「過労死するぞ」と言いながら、かわいそうがりもちやほやもしない来杉。
湊にとってそんな接し方は新鮮だったし、救いなのだろう。
そして、後半は祇園祭りの夜。
夜店で金魚をねだる湊。文句を言いつつも鮮やかな手つきで願いを叶える来杉。
その後の夜の縁側…
慣らし履きを忘れた草履の鼻緒で、擦り剥けた足を舐め上げて…、祭りの夜の闇の中の二人!
金魚の名前が(笑)
ああ、もう、湊のネーミングのセンスったら!
表紙は竹美家ららさんの描く浴衣姿の2人。
裏表紙の黒の中に浮かぶ赤い二尾の金魚が、鮮やかで、愛おしく切ない。