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設定としてはおもしろいし、能の世界を分かりやすく書かれていてとても興味深い作品だったと思うのですが、なんといったらいいのか、萌えなかったのです。
京都を舞台にしたお話なので当然主人公(受け)も京言葉を使われています。
私の周りに京都出身の方がいなく、そちらの話し方に対しイメージがまったくないせいで掴めないからかもしれません。
何て言うんでしょう。
ニュアンスのようなものが掴めず、会話になるたび歯がゆい思いでした。
話のテーマは『執愛』執着する愛です。
攻めが受けに誤解したまま長きに渡り恨みを持っているのですが、同時に憎しみは愛情の裏返しの如く受けに対する思いもあるのです。
恨みを持った粘っこい攻めにどうしようもない親族。
どんどん追い詰められていく受け。
たとえ攻めとの間の誤解が解け二人がうまくいこうとも、今度は攻めの家族に反対され手切れ金までも渡され、また追い詰められる受け。
切ない、とても切なくていい話なのですが。
華藤さんは今回もしっかり能の世界のことを取材され、さすが!華藤さんでなければ描けない世界だと思います。
しかし……すみません、私にはあまり響きませんでした。
華藤さん定番の、京都・伝統芸シリーズ。
今回は、能の宗家のお話ですが、別レーベルの京都シリーズとは設定が違います。
それにしても、出だしから、読んだことあるような…と思っていたら、前半部分は雑誌に発表済みで、後半部分を書き下ろしての刊行
道理で、読んでいるわけだ、
っていうか、雑誌発表時は、自分内で絶賛、華藤さんブーム中でコンプリ熱の高まりのまま、雑誌にも手を出していたような、、、
前半は、雑誌掲載の縛りからか、かなり濃厚に痛い系のエチシーンが続きますが、後半の「華鬼~」、喬一郎の誤解が解けて、颯希も宗家を引き受ける覚悟をしてからは、展開は、かなり甘甘でぐずぐずです。
でも、BLノベルズとして、このはんなりしたグダグダ加減は、すごく正しいと思う。
流麗な文体と、北畠さんの端麗な絵で彩られた、ちょっと切ないラブロマンス。
BL小説が耽美呼ばれていた頃の流れを感じさせて、貴重な本だと思いました。
「能」を舞台にした京都の風情がたっぷりと味わえる、その情景もうかんでくるとてもしっとりとした味わいのお話でした。
何となくデジャブ感もある作品なのですが、華藤さんの味わいが広がります。
能の柏倉流の後援をしている会社の社長が亡くなり、その後を継いだのが、颯希と高校時代恋人だった喬一郎で、愛人も父からそのまま引き継ぐと、颯希も愛人にします。
「これは復讐だ」という喬一郎と、胸に想いを秘めたままの、すれ違いの執着愛が本編です。
柏倉流の宗家は颯希の従兄の雅弓が継いでいるのですが、彼は芸に精進を怠り、また私生活も乱れている為に、その尻拭いをし、流派を何とか支えているのが颯希なのでした。
この従兄との関係がある為に、実は・・・という部分が大きなミソなのです。
颯希のあきらめてしまったような、従順でいて反抗的な態度。
喬一郎の憎しみは愛の裏返し、その愛の片鱗を見せそうになると翻すようにすり抜ける颯希の姿と気持ち。
このすれ違いが、何ともその京都の情景を背景にして古風で和風で、”耐え忍ぶ”といった古い日本人の愛の形を表現させているな、と感じさせます。
そして過去の出来事の真実が明かされ、無事本当の恋人となれた喬一郎と颯希のその後を描いた『花鬼の恋情』
これに特筆すべきは、結構エロが際立つ華藤作品にしては”朝チュン”だということです!
濃厚シーンがありません。びっくりしました。
でも、内容は能の演目「葵上」を背景に、生霊となるほどに愛への執着をすることができない颯希の姿を重ね合わせるといった、正攻法的展開を見せ、読ませる作品になっていました。
もう、この二人がじれったいってなんの!
もっと側にいたい、二人で愛し合いたいのに、仕事をお稽古をつい想いやってしまい、口に出せないでいるもどかしさ。
「葵上」の稽古で颯希には鬼になる愛への執着が足りないと言われ悩む姿。
もう充分に六条御息所になりうる要素を持っているはずなのに、颯希には愛より「能」という流派を一番に考えてしまう姿が、それを邪魔していると気がつかされる時。
それは自分の為にも、本編で颯希を陥れた雅弓の為にもならないのだと、教えてくれたのは喬一郎でした。
古典を重ね合わせながら恋を綴っていくという、決して劇的で派手なものではありませんが、しっとりと大人の味わいで京を満喫した気持ちになれる雰囲気ある作品でした。