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作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます
「夏の塩」「夏の子供」セットで読みましょう。何故だかもっとBL未満な作品だと記憶違いをしていました。塩は確かにまだまだ序章ですが、子供ではしっかり甘いBLになります。塩の前半は話の雰囲気を掴み損ねて波に乗れませんでしたが、塩後半から止まらなくなりました。面白かった。
塩では魚住くんがまだまだ人ならざるものの雰囲気で。妖精か、あるいは妖怪か。
当時のBLはこういう話が少なかったのだと思いますが、逆に今ではよく見るパターンといってもいいぐらいになりましたね。先駆者。過去のレビューを見るのが面白い。
この作品の苦手なところをあえて書くなら、結局魚住くんの見た目が良いからこそって部分が大きいんだよなぁ…と。魚住は顔を気に入ってない描写があったり、被害にあったりってのもありますけど、久留米や濱田やマリちゃんの寵愛もこのツラあってこそだと思うと。
序盤でストップしてしまって半年以上放置してしまい、やっぱり読もうと再開してまた止まり。。。2回ほどストップしてしまいました。
止まってしまった箇所は、チャプター1[夏の塩]魚住が飼ってたペットの死体を放置して久留米の家に転がり込んでた事が発覚して処置しに向かったところと、チャプター2[この豊かな日本で]の始まり部分、朝の身支度しながらの魚住と久留米の会話。
なんのお話読んでんだろ?ってなかなか入り込めなかった。ぽやんとしてる魚住くんと、ガサツで大雑把な久留米くん。全然恋愛の気配ないけど、久留米の汗舐めちゃったよ、魚住くん。味覚障害なのに、久留米の汗の味わかっちゃった。
なんか、私の苦手なふんわりしたお話に思えてしまってた。
が、魚住と久留米がお互いの気持ちに気付いてからはグッと面白さが増し、読むスピードも格段に上がりました。新たな登場人物もぞくぞくと登場し、えーーっ!めっちゃやな計算女子じゃない?!なんなの?この子!って思う子も案外その生き方に理由があったり、魚住くん、久留米くんと会話して過ごしていく内に変化していって、やっぱり話してみるとその人の事を納得はいかなくても理解できたりするもんだななんて思ったり。
読み進めていくうちに、魚住くんの割と悲惨な過去が明かされます。何故か近しい人の死に遭遇してしまう。好きな人が突然居なくなる経験。
病院で知り合った中学生のさちのちゃんに「俺のお母さんになってよ」って言うシーンも胸がぎゅっとなりました。家族の愛に希薄な2人の擬似的関係年齢逆転してるけど、許される無邪気さと抱擁力。
これからいい関係築いていけたらいいなと思ってたら。。。
死別は、誰にも起こりうる事態だけど、頻繁に起こるものじゃないし、起こって欲しくない。
なのに、魚住くんは遭遇してしまう。今回は目の前で。もう、このシーンは辛すぎた。
直前に楽しいイベントがあってからの出来事だけに。そして、後日発覚する彼女からの年賀状に書かれたメッセージに泣きました。屋外で読んでたにも関わらず。やるせなさでいっぱいでした。
魚住くんと久留米くんの恋愛は両片想いながら少しずつ進行していっててその部分はきゅんとします、
飴を口移してきたり、キスしてみたり。
なのに、次のシーンではリセットされたかの様に進展しない。
うーん、もどかしい。でもなんか、いい。
人間ドラマの部分が秀逸です。マリちゃんや、サリーム、響子ちゃんに濵田さん、さちのちゃん。
お食事シーンたくさんあり美味しそうに食べてます。味覚障害だった魚住くん、味覚が回復してからは食への執着が出てきてるのも可愛いです。
誰かと食事を共にするって会話するし、同じ時間、味を思い出を共有するって大切でかけがえのない事だな。
もし、序盤で止まっちゃった私みたいな、方は、[夏の塩][この豊かな日本で]以降ぐんぐん面白くなるので先を読み進めてほしいです。
腐女子友達から何度か勧められてやっと読みました。このJUNE?時代のBLのようなBLじゃないような感じがすごく良いですね。商業BLが何でもBL展開過ぎて無理。だったり、最近BL食傷気味かも。という方には特に読みやすいと思います。魚住が受けで久留米が攻めになると思うのですが、受け攻め関係なく二人の関係性や青春の何気ない話にドキドキできます。しんどいシーンもありますけどね・・・。
私が今作で特に好きなのは、「なぜ魚住が久留米を選ぶのか?」について女キャラや他の男性キャラと中立な立場で久留米が描かれていることです。こいつは当て馬、こいつはモブ、というより、みんなが主役でみんなが対等なんですね。久留米は面倒見はいいけど無神経で、他人にはあまり興味がないタイプなんだと思いますが、それが重い過去を背負った人たちにとって気楽な存在なんだと思います。だからいつも話題の中心にいる。特に魚住は久留米の横が一番安心できるんだと思います。また、久留米が変わっていく魚住の恋心を愛しく思う過程がキレイでした。「好き」という気持ちを二人で共有していくほどに「恋人」という関係に居心地の良さを見つけられるようになったんだと思います。良いカップル!
ちなみに続編の「夏の子供」も読みましたが、こっちは思ったほどラブラブ展開ではなかったです。どうしても魚住の一番弱い場所に久留米がいて、逃避先が久留米になるのは必然なので、魚住は逃げたくない時ほど久留米に会わなくなるようになります。ただ、この二人にとって「個人の問題は個人で乗り越え、ラブラブする時はラブラブしよう」と大人の付き合いをしているのかなと思いました。丁度いい付き合い方をしているから絶対別れなさそうな安定感があって、すごく微笑ましいです。BLというよりは若者の青春ドラマっぽいですが、その分BL以外の魅力がたくさん魅力が詰まっている作品だと感じました。
よく生きるには?・・を考え直すきっかけになる作品だと思います。
人はひとりでも生きていけるけど、沢山の人と支えあって生きているんだと気づくことで、生きる力が増します。人は、群れで生きて進化してきた猿だからかな。
「宮廷神官物語」シリーズを先に知って、著者名漢字とひらがなの違いで超人気のデビュー作があると知り、興味を持ちました。レビューに「この作品に出会えてよかった」の一文が多いことにもびっくり。
レビューを参考にして、挿絵が美しい中古版を買おうか、電子版にしようか、最新の紙版にしようか迷いました。
この復刻版、上下巻の上には、
夏の塩/この豊かな日本で/ラフィン フィッシュ/制御されない電流/鈍い男/プラスチックとふたつのキス/ハッピー バースデイ Ⅰ(書き下ろし)/彼女のWine,彼のBeer/月下のレヴェランス/メッセージ
・・・文庫本の3巻までと書き下ろしが入っています。
常に読むには電子版・・でも電子版は、挿絵がないんですよー。
挿絵を見たくなったなら、後から絶版本の初版を中古で買うことにしました。
紙本を本屋で確認すると、この本は、真っ白な表紙で帯に人物の絵が入っています・・帯を外すと真っ白。中はぼやけた挿絵だけ→電車やバスの中でも安心して読める仕様。
・・著者はBLジャンルの壁をこの復刻版で排除したかったのかもしれない。
このシリーズの人気は、衰えていない。茶屋町 勝呂さんの表紙絵のメモリアル版の定価950円が、今7万円になっている。・・メモリアルは図書館で探すしかないみたい。
作品については、他の皆さんの感想の通り。
諸々の後遺症に悩む主人公と理解者の物語。生と死を見つめる主人公。
意味が深いのは、下巻。でも上巻を読まなければ、下巻の深みが増さない。
登場する全ての人の人情が織り成す綾が素晴らしい。
下巻にも書き下ろしが入っているので、この復刻版は魅力あります。
榎田先生の作品は何作か読みましたが、この作品が一番心に残るものになりました。
まず、装丁が素敵です。きれいで透明感があり、でもどこかつかみどころのない感じが、主人公魚住のようでした。本を開く前に眺め、読みおわった後にまたじっくりと眺めたくなるような、そんな装丁です。
二冊ともかなりボリュームがありますが、一冊の中に、様々な登場人物にスポットを当てたいくつかの短編が時系列に沿って連なっている構成となっています。なので、短期で読もうというんでなければ、例えば1日1編ずつじっくりとかみしめて読むのもおすすめです。
もともと今作を読む上で、bl的な萌えは期待していませんでしたが、きちんとそういう描写もありますので、活字が嫌いだったり、重めのテーマが苦手という方でなければ、読んで損はないはずです。
どの短編も心に響くものがありましたが、私にとって中でも印象的だったのは、夏の塩のメッセージと、夏の子供の表題作です。2つについて書くと長くなりすぎるので、メッセージをメインに、感想を書こうと思います。
メッセージでは、さちのちゃんというHIVキャリアの中学生の少女に対する久留米の回想に心打たれました。何も悪いことをしていないのに、たくさんの不幸を経験しなければならず、でもその不幸に対して抵抗したり、怒りをぶつけたりすることもなく、ただただその中に佇んでいるような生き方が魚住とどこか似ていたさちのちゃん。そんな彼女が本当に欲しかったものは、慰めでもその場限りの優しさでもなく、自分が誰かの助けになることだったのではないか。助けてもらうのではなく、助けたかった、与えたかったのではないか。それが、自分も彼女と関わりを持ち、魚住と彼女の血縁にも似た深い関係性を聞き、久留米が思い至ったことでした。
これはあくまで私個人の意見ですが、人間という生き物は、誰かに必要とされていないと生きられないのではないかと思うのです。仕事というのは、どんな仕事でも、必ずどこかにいる誰かのためになっていて、だから、働いている人はそれだけで自分以外の誰かの役に立っている、誰かに必要とされているということになるのではないかと思います。仕事というものを持っていない学生や、今は仕事がないという人でも、自分のことを心から愛してくれ、必要としてくれる家族や友達がいるという人が多いのではないかと思います。
でも、母親に捨てられ、HIVキャリアということで学校でもばい菌扱いされるいじめを受け、教師達も遠巻きに見ているだけという中学生のさちのちゃんはどうだったでしょうか。もちろんさちのちゃんにだって、母親がわりをしてくれているお祖母ちゃんと、リストカットする度に真剣に叱ってくれる南雲先生という存在もいました。でもやはりさちのちゃんにとっては、必要とされているというより助けてくれているという認識の方が大きかったのではないかなと思います。そんなさちのちゃんが魚住にお母さんになってよと頼まれて初めて、自分も誰かに必要とされている、誰かを助け、何かを与えることができる存在になれると思い、戸惑いつつもそれを受け入れたのだと思います。
夏の子供に収録されているアイ ワナビーア フィッシュという短編内のさちのちゃんに対する南雲の回想にも、「ますみといると、なんか楽チンなの。ひとりだと、かなり頑張ってないと立ってるのがしんどい感じなんだけど、ますみといると、なんにも考えないで歩ける。いつまでも、お散歩していられる。意味のないお散歩だけど、なんか楽なの。」というさちのちゃんの台詞があります。それは、夏の子供の表題作でのマリと太一くんの会話にある通り、魚住が、自分の受けた痛みを誰にも転嫁せず、数々の悲しみから自分を守る殻として持っていた鈍感さがあることをきっかけになくなって痛みに敏感になってからも、憎しみを育てたりしない強さを持っているけれど、大人らしくはなく、無垢な子供らしさがある、弱い大人よりずっといい強い子供だったから、大人が苦手なさちのちゃんでも頑張らずに一緒にいられたのだと思います。でもそれに加えて、魚住に必要とされている安心感というものも過ごしやすさにつながっていたのではないかなと私は思いました。
テーマが深いだけに、それなりに読むのに精神力がいるので、そう頻繁に読み返すタイプの作品ではないと思いますが、手元に残しておきたい作品となりました。
『夏の塩』『夏の子供』榎田尤利先生 読了
BLですって一言でくくってはいけない一作でした。これは愛と、孤独と、憎み、それから温もりで詰まった、生きる感覚を蘇る人間の物語なのです。
そもそもBLってなんでしょう。私のイメージでいうと、今時感が溢れる男、あるいは男の子たちの恋愛話にあたるものです。BLとなると、やはり個人的にある範囲のファンタジーが許されるので、それもBLの楽しみの1つなのです。
ただしこの作品はただの恋愛話なのか、というと、決してそうではないのだ。読んでいただくときっと分かりますが、作者がこの作品を通して伝えたいのは、決して男同士のラブの萌えだけじゃないです。
マリちゃんが言った。魚住は自分が受けた痛みを人にぶつかったりしない。ただしたくさんの痛みを経験したせいで、体の「免疫」が働いて痛感をなくした。それと一緒に生きる感覚すら忘れてしまった。
さちこちゃんが決定打ちでした。彼女の存在はこの作品の中では相当大きな役割を果たしました。感情の表し方や、外来感情の受け入れ方など、魚住は小さな彼女からたくさんの宝物を受け取りました。
魚住は、自分の周りの人間はどんどん死んでいくから、これからも大切な人が死ぬのが怖がっていた。ただし、死は人を脆くすることができるが、強くすることもできる。
榎田さんはこの作品で描きたい「つよいこども」というのはまさに、「失うものがあっても、同じく手に入れるものもある、悲しむことがあっても、同じくらいに愛もそこにある」、ということなのです。
魚住は最初から強かった。強すぎて「泣いていいぞ」「頑張らなくていい」と言われても意味がわからなかった。その強さが自分を抑えつけすぎて感覚器官が勝手に閉じてしまったから、周りの人々の「人間の温もり」で心が解凍されていくみたいな、そういう話でした。読んでいくと自分まで溶けてしまうくらい涙がボロボロ落ちてくる。
榎田さんの作品は初めて読みましたが、文章のきれいさが本当にのめり込んでしまいたいくらいで、1行1行目を追っていくと頭の中でちゃんと絵になってくれます。古い家屋の縁側に、夏の風鈴がチリンチリンとなっているのが聞こえるような雰囲気の作品で、色々と詰まった宝物箱みたいな一作でした。
最後は、本当に幸福が溢れるみたいな終わり方でした。みんなが自分のポジションを見つかって、これからも迷いながらも前向きに進んでいくという、カンペキではないけど、それでもカンペキなエンディング。
ふと思い出すあの言葉。人生は薔薇色じゃないけど、それほど捨てたものでもない、と。
先生、なつやすみの宿題終わりました!
そんな読後感。
この有名作、私は2009年発行のハードカバー版で手に入れました。10の話が一冊に収められ、一気に読める嬉しさはあるものの、2段組みでボリューム感が凄い。
読書は義務なんかじゃないけど、どこかやらなければいけない宿題のような存在でした。
元々BLと一般の境界的な作品ということは聞いていたので、BL描写の期待はしてなかったけれど、思った以上に文芸的だったという印象。
周囲の人間の死が多い、多すぎて鈍くなっている美形の男・魚住が主人公。
その周りに、後に恋人となる友人の久留米、サバサバした女友達のマリ、久留米の隣人サリーム、魚住の所属する大学院の研究室の人達、そしてまたその周りの人々が各短編で絡んでくる群像劇。
一見魚住と直接関係ないような物語まで入ってて、逆に魚住と久留米が長年の友人関係からなぜ恋に変容していったのかの描写は希薄なわけで。
それでも、カウンセリングの先生の弟の話(『プラスチックとふたつのキス』)や、病院で知り合ったさちのという少女の話(『メッセージ』)などは、もうBLも何も関係なく息をつかせず読んだ、という感覚でした。
ここまで久留米は魚住への欲望をわからないふりをし続け、魚住は久留米が好きだけど何も言うつもりはなく、こんな凄絶な儀式を経ないと2人は入口にも立てなかったのね…
「夏の子供」に続きます。
電子書籍で購入し、すごく量がありそうだったのでなんとなく後回しにしていたのですが、読みだしたらもう止まらなくて、他のことが手につかないほど物語の世界に心がのめり込んでいました。
心揺さぶられる作品でした。
小林秀雄の何かの評論に「美は人を沈黙させる」という言葉があるのですが、本当に感動すると言葉は出てこない、という体験をすることができました。
なんと言っていいかわかりません。
興味深い、感動するようなお話を読むと、その感動を語りたくなるものだと思っていました。
この作品を読んで、逆に何も言いたくないということもあるのだなぁと知りました。
あらすじも分析も感想も、何も言いたくないのです。
不安定な器になみなみと入った透明な水を受け取った気分です。それをこぼさず波立てず、そのまま奥深くにしまっておきたい。そんな気持ちになりました。
BLというよりも文学です。むしろこんな作品もあるのならBLも捨てたものではないと思うのです。
再入荷とのことで記念に。
装丁の美しいこのご本、幅広い帯に印刷された茶屋町さんのイラストが目を引く印象的なデザインです。
BLという言葉で括ってしまうには余りに勿体無い作品だなと思います、文芸的というか純粋に小説らしいというか。
BL臭さがない為に嫌煙されるタイプの小説であるとも言えるかも知れません。
魚住の過去による欠落や、それを向き合い見守っていく久留米の存在。
彼らを見守る周囲のキャラクター達。
日常の中で沢山のものが形成されて、ようやく魚住になったという感じ。
すっごく重い話で、総て読み終えると萌えどころか喪失感すら覚えますがわたしはBLUE ROSEといい榎田さんの持つこの物悲しい作風も好きです。
ずきずきと痛みを感じるほど無機質な魚住の生き方が、徐々に人間としての暖かい生き方に変わっていく様子がとても切なくて愛おしい。
最近の榎田さんしか読んだことないよーって方にも是非手にとって頂きたい名作です。
魚住くんシリーズの存在は知っていたのですが文庫版の新装版が単行本ということで本が高いです。
なかなか手が出せないでいました。
榎田さんは2作目です。もしかしたら良い順番で読ませて頂いたかも。
この作品はBLというジャンルでくくらなくても良いような気がしました。
「命」は必ず「死」を迎えます。
作中でもたくさんの「死」が語られ「生きている」登場人物の中に作者の真摯な視線を感じます。
たったひとり(一匹?)の家族を亡くし友人、久留米のアパートに魚住が転がり込んだことから始まった「夏の塩」
魚住が愛を知り失うことの怖さを知り人を想う涙を知ったところで次作へ続きます。
いろいろな意味で考えさせられた作品だった…。
榎田先生、たいへん巧みで流れるような文章を書かれる方である。
まぁ、ちっと装飾的すぎるきらいもなくはないが文章の落し込み方やひっぱり方、申し分ない。だからこの評価はいい悪いではないんです。
だが、好きかと聞かれると…
ぶっちゃけ、整いすぎていてなんとなく疲れるのであります。
うーん、BLらしいバカバカしさに欠けているというか。
むしろここまで書けるなら、ふつうに人間ドラマとか心理小説にしちゃえばとか。
BLを超えたBLといえばそうなんだが、
あまりに文学的な(村上春樹あたりの)匂いがしすぎちゃって、
いや、それはそれで楽しく読めるんだが、1ミリも萌えないんだな~。
だいたい、魚住がブレのない不思議ちゃんゆえ、周りの人物の人間性を暴いていく構造なのはわかる。でも、リアルに魅力が伝わってくるかというとあやしい。
さらになぜ魚住が久留米に惹かれるのかも、イマイチ納得できないというか?
まあ、登場人物がどれもこれも身近にいそうじゃないタイプなんで、共鳴しにくい部分はありますね…。
最強の致命傷がやはりHくさいシーンで、
文学的な香りがする方々によくありがちな話だが、とにかくHシーンが余計に感じるというかなんというか…。見方によってはBLとしても一般小説としても楽しめるってことになるのだろうが、自分は逆にここまで書いたんだったら、エロティックな感情が入ってくるっていかにもとってつけたようで非常に居心地の悪さを感じるわけです。
榎田先生はおそらく現状のBL界ではもっとも筆力・バランスともにすぐれた最強の作家のひとりだろうと思いますが、それ以上になんか夢中になる要素ってのがうすい。自分的にはだけど。
しかしながら、避けては通れない「名作」に当たるのはほぼ間違いないでしょうねぇ。
現在ではBLエンタメのプロと感じる榎田尤利さんだが、初期作品だけあって、自由に書いてる感がする。発表の場が今はなき小説JUNEということも無縁ではないだろう。最初は投稿作であり、人気を呼んでその後依頼原稿となったが、指導されたりはしなかった(自由に書いていた)といったことを作者自身が語ってらしたように記憶している。
文章も今とずいぶん違っている。まず、視点が漫画のように混在している(なのにスラスラ読めちゃう、不思議!)。
幼児期の虐待体験のため感情を喪失した魚住が、生きること感じることを取り戻してゆく、再生の物語、とでも言えばいいのか…テーマはJUNEらしく重さもあるのに、じれじれの恋も楽しめる。
キャラ立ちは凄い。みんな魅力的!!魚住、久留米、マリちゃん、サリーム…。読んでるうちに自分も心地よい仲間たちが大好きになってしまう。加えて攻めの久留米のヘテロっぷりがリアル。BL慣れした身には新鮮に思えた。
いうまでもなく傑作であるもののしかし、私は最初「メッセージ」のエピソード(死にネタ)がベタに思えた。そこにいたるまでのお話でどこか「文学的」というイメージを抱いていたからだろうと思う。
それでも物語が要求するエピソードであるのだろうし、
JUNE作品はある面「ベタ」さ「陳腐」さと無縁でいられないのではないか、とも思う。思春期の悩みや焦燥といったものが、かつてのJUNE作品には色濃く存在していた。JUNE作品は性欲持て余しかつセクシャリティに悩む(実年齢はともかく精神の一面が)未熟な、少女達の読み物であったのだ。
ベタさと混在する、例えば「マスカラの距離」(『夏の子供』収録)の洗練。----語り始めるとキリがない。この作品はJUNE末期、あるいはJUNE~BL移行期の金字塔的な作品であると思う。
連作短編といったつくりで、好きなときに好きな話を読めるのもよいですv
内容も色々と壮絶なのですが、出てくる女の子が印象的です。
男性陣も含め、とても魅力的で好感が持てます。
魚住くんは儚げを通り越して不器用も通り越したような不思議な子です。
度を越した天然ちゃんですね。
魚住くんの心の揺れ動きがカラフルに手に取れてとても読み応えがあります。
内容はどシリアスで痛い程ですが、読んでおいて損は無いと思います。
また茶屋町さんのイラストが綺麗で作品を綺麗に締めてくれています。
小説もイラストも含めてとても素敵でした。
続きの夏の子供も是非読んで欲しいです!
コミックは読み漁る割に、小説(ティーンズ文庫系というのでしょうか)には全く手を出していなかったわたしです。小説ではほのめかせる程度のBLが好きだったので。
こちらの作品は人からおすすめしていただいて読んだのですが、ストライクでした…。
薄幸の美青年魚住くんの過去や傷は壮絶です。シリアスな話は好きですが、これはなかなか重い。言い方はものすごく悪いのですが、「所詮BL」という見方から入ったので、びっくりしました。全体を通して、恋愛色よりも、死と生、生きるつらさや喜びといった命題の色が強かったように思えます。
久留米と魚住の恋愛に関して言えば、BLにはありがちの、「とんとん拍子」がありません。ハイ出会い、ハイ告白、ハイ揉め事、ハイ解決、みたいなわかりやすすぎる起承転結ではなく、もどかしくじわりじわりと面倒臭い恋愛です。一歩進もうとしては一歩退いて、曖昧な距離のまま求め合って離れてくっついて。
時にはさっさとくっつけ!と叫びたくなりますがこの絶妙な距離感が良い。特に一番はじめの章の久留米と魚住の距離なんて、これ本当にBLのくくりなんだろうかというほど。そこからゆっくり丁寧に発展していきます。
久留米と魚住以外のサイドキャラがとにかく素敵です。サイドとも言えませんね、みんな主要キャラです。礼儀正しく優しい外国人に威勢が良く面倒見の良い美女、世話好きの先輩などなど、本当にいい役割をしています。周りの人物あっての魚住。
特に個人的ベストCP(そういう言い方すると一気にBLっぽくなりますが…)は濱田と魚住…! 研究室の先輩である濱田のいい保護者っぷりが! すごくいい!
これはとても個人的な感想ですが、普段読むものが余白たっぷりの読者の想像におまかせします系だったので、ここまで書き込まれた作品にはただただ圧された感もあります。
魚住の設定にしても、登場人物たちの関係にしても、隙が無い。余白が無い。悪く言うならば「こてこて」。そこからこの作品の素晴らしさが生まれるのですが、なんといいますか、胸焼けしそうな感じもしました…(笑) 餌与えられすぎてお腹いっぱいといいますか…。
この作品は萌えよりも痛みを感じることの方が多いのではないかと。わたし自身萌えたかと言われるとうーん?と首を傾げちゃいそう。確かに魚住の色っぽさは壮絶ですし弱る姿もグッとくるものがありますが、それ以上のなにかがあります。
読み終わった後の余韻が凄まじく、「ああ……魚住くん立派になったな…ほんとに…大人になったな……」と母親のような気分になります…(笑) しばらくは日常生活に支障を来しましたね……。素晴らしかったです。
美しい顔の魚住は、味覚障害で感情も乏しい。
生きているのに死んでいるような人物。
久留米は、魚住に対して唯一普通に接することのできる男。
魚住は、久留米を好きになるし
久留米も、魚住を好きになるお話なんだけど
魚住を変えたのは久留米だけではなくて
まわりにいるインド系ハーフのサリームだったり
ちょっと変わった久留米の元カノのマリだったり
人格者の先輩、濱田だったり
その他もろもろ・・・の日常が交差して魚住は成長し形成されるんです。
読み始め、こんなに重い話だとは思わなくて
1ページ1ページ手が止りながら読みました。
登場人物たちの不幸は、ちくんちくんと胸を刺す
ものすごくドラマチックに不幸を売りにしてるわけじゃなく
あくまでも日常としてドライに語られるので痛い。
榎田尤利さんのデビュー作とのことですが
『ルコちゃんシリーズ』にどこか通じるような雰囲気ですよね。
この魚住くんシリーズがあって、ルコちゃんシリーズが出来たのか!
と、思いました。
ずっとシリーズ通して手に入らなくて、ハードカバーで再販と聞いて驚喜した覚えがあります。
しかもイラストは茶屋町さんのまま。
神様ありがとう、ありがとう太陽図書と拝みつつ、二冊同時に発売日に買いました。
その割には今更読んだのはもったいなくてなかなか手が伸びなかったせいです。
人ととことんずれていて、自分の痛みにすら気づかないにぶにぶの魚住と、そんな彼をどうしようもなく放っておけないんだけどそれでも自分の気持ちには気づかない違う意味でにぶい久留米。
二人ともにぶいせいでちっとも進展しない二人にじれじれしたりほのぼのしたりしていたらいつの間にやら二人の元には次々と考えなければいけない事態が。
少しずつ進んでいく関係と、しっかり生きている周りの人々が愛おしいです。
BLだけど、BLの枠に収らない良い作品だと思います。
榎田尤利先生のデビュー作が、書き下ろしも加え上製本上下巻で復刊しました。
旧版は全5巻の作品なので、上巻には3巻の半分までを収録。「無自覚から自覚への移行」という、うまいところで区切ったよな~、という感じです。
表題作は、「小説JUNE」誌にて発表され、当時「文学的」と評されましたが、つまりは匂う程度で、具体的な恋愛は描かれていません。
全体を見通せば、魚住と久留米のラブストーリーに他ならないのですが、むしろ作者は、魚住の成長物語という枠を通し、様々な欠落や、それを埋めるに万能ではない「恋愛」や人との関わり、ジェンダー問題などを書きたかったのではないのかと思われます。
魚住という主人公は、姿形だけは美しいですが、浮世離れした性格の陰に様々な欠落を秘めた青年です。
本作では、多数の重要人物が登場しますが、彼らは「魚住の友人」というよりもむしろ、魚住の欠落の一つである「家族の喪失」を埋めるべく配された「疑似家族」と言った方がしっくりきます。
そう思って読むと、魚住の特異な個性は、「家族の喪失」に伴う「過去の喪失」がもたらした退化であり、言わば自ら張った羊水に浸かった状態で日常を営んでいるような乖離感があるのではないかと感じられました。
他方の主人公、久留米という男は、並外れて鈍感です。本人が鈍感たれと在る所もありますが、ガサツ、大雑把、様々に表現されながら、何よりもあらゆる事柄に対してニュートラルなのです。
それがどういうことなのか、というのは是非読んで実感していただきたいところですが、とにかく久留米は、非常識な魚住の世話を焼くことはままあれど、魚住を決して庇護されるべきものとして見たりはしない…絶対的な庇護者である母になったりはしません。
出産と死は隣り合わせです。痛みと、多くの血が流れる中、苦しみを伴ってやってくる命…さちのという母を得て、「メッセージ」はそういう意味では何と分かりやすい魚住の産まれ直しのメタファーであることか。
そうして産まれ出た魚住の傍らにただ立ち、彼が自ら痛みを受け止める様を見つめるラストシーンに、改めて胸が詰まりました。
出会った当時、魚住の欠落の一部は私のものでした。それは他の多くの読者の方にとってもきっと同じなのでは。
できれば最初は、10代のうち…もしくはなるべく若いうちに読んで欲しい一作だと思います。
本当の意味で歩き始めた魚住の物語はまだ続きます。
書影ではマットな白い表紙に金の箔押しタイトルと黒で印刷された著者名のカバーのみ写っていますが、実際はフルカラーの黄色系描き下ろしイラストの幅広帯がかかり、他も統一された非常に美しい本です。
そして、中のイラストも全描き下ろし…といっても、挿絵ではなく、カットと数点のイメージイラストという感じですが。