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大正時代が舞台です。
超面白かった。
秋月さんの知識の深さにも感嘆しました。この時代の文壇について、ただ調べたというだけじゃなく、ちゃんと消化して血肉にしたうえで物語のなかに折り込んでいるので、すごく分かりやすかったです。
夏目漱石とか江戸川乱歩とかがちょこちょこと登場するので、ニヤニヤ笑いが止まらなかったです。
主人公は小太郎という少年です。
実家を離れ、『現代』という雑誌を発行している本屋に住み込み、書生として働きはじめる。
そこは、明日をになう文学者の卵たちや、青年実業家たちのサロンになっていて、小太郎はさまざまな人々に出会い、成長してゆきます。
銀月という、不思議な男にも出会います。彼の正体はのちに明らかになりますが、荒唐無稽になりがちな展開を、秋月さんは上手く料理されてました。
なにより小太郎の性格がいい。苦しい状況でもマイナス思考に陥らず、健気に前を向き、懸命に考え、働き。周囲にいる一癖も二癖もある人々に、自然といい影響を与えていくのだ。まるで、天然のひまわりのように。
大正という時代の匂いに、たまらなくそそられました。
物語は『慕情恋情』へと続いてゆきます。
時は明治から大正へと移り変わるまさに変革の時。
高等学校進学の為、父の遺した僅かなお金を持って
上京した16歳の小太郎。縁あって書生として
身を寄せることになったのは本屋を営む室井家でした。
時勢の移ろいも目まぐるしい中、
時の流れの止まったような室井家での穏やか日々と
純粋無垢な小太郎が巻き込まれることになる政治絡みの
事件との明暗が徐々に浮き上がってきます。
折しも実在の文豪が台頭し始めた時代が舞台とあり、
夏目漱石、芥川龍之介、森鴎外などのが会話の端々に出てき、
後の江戸川乱歩である平井少年も登場しますよ。
時代ものではありますが、区切りのよい文章と文化人たちの
洒落の利いた会話が面白く、すいっと読めます。
本書の表紙を飾っている美人は、室井家の居候、怜悧な容貌、
艶やかな黒髪を持つ銀月です。
名前以外は正体不明の上無愛想な彼ですが、純粋で誠実な
小太郎との交流でその鉄面皮も少しづつ柔らかくなってくるのが見所。
銀月は室井の情人なのですが、その仲を知った小太郎もまた
気付かぬ内に銀月に魅かれていきます。
本書一のアイドル的立場の小太郎は、少し生真面目ながらも
勉強熱心で忠誠に篤いことから方々で可愛がられます。
本人は嫌がっていましたが、まるで子犬のように名前を呼ばれ
おもちゃにされている様子が微笑ましいです。
また、貴族や政界人、はたまたやんごとなき方々に顔の広い
文筆家、室井氏の素性も気になる所。銀月とはどんな風にして
出会ったのか、など疑問は尽きませんがいづれ語られるかも
しれません。