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アラブものなんですが、かなり重々しかったです。暗いと言ってもいい、よくあるアラブものとは全く違うタイプの作品でした。
アラブものの攻めって、強引で主人公を無理矢理ものにしようとするイメージが強いのですが、このお話の攻めキャラであるアーキルは出会いから優しく親切。アラブの王族というより白馬の王子ってタイプだと思いました。
時代設定が100年くらい前というのもアラブものにはちょっと見ないと思います。
主人公の朔人はイギリス育ちの日本人で、旅行で訪れた国でアーキルと恋に落ち、体の関係を持ちます。
しかし、アーキルが実は自分の兄を殺した犯人でないかと疑いを持ち、真相を探るためにアーキルの養子になってこの国に残る決意をします。
設定はなかなか複雑かもしれません。この、朔人のなくなった兄のエピソードが酷くて悲しくて、それがこの作品をかなり重たくしています。
その後も朔人は毒を塗られて目が見えなくなったり自分の大事な馬を殺されたり…など最後の最後までかなり苛酷なシーンが続いて見ていて辛かった。
アーキルは最初は優しいのですが、中盤以降はやはりアラブの王子…という強引なキャラになって最初の優しさはどこへ…。
ちゃんと朔人のことを愛しているのですが、とてもわかりにくいです。
国を治めるために非常な心もなくては、というのももちろんわかりますが、朔人にそこまで冷たくする必要はないような…。最初優しかったのだから、間に色んな勘違いがあってすれ違いが続いてもちゃんと優しくしてあげて、最初から兄のことも説明してあげていればこんなことにならなかったのでは??とちょっと疑問に思いました。
このお話で起こる事件の真犯人も、兄の真相も、ものすごく意外で、でもこれを全て統括するにはストーリーや設定がちょっと詰め込み過ぎかな?とも思います。
朔人が「兄の敵である人を憎まないといけないのに愛してしまった」というジレンマが、この作品のテーマになっていると思います。
でも冒頭が旅先で突然恋に落ちた、というものだったので、短い期間で互いにどこをそんなに執着を持つほど好きになったのかな、というのが私にはちょっと伝わりにくいなあと感じたかも。
媚薬を体に塗られるシーンが何度もあって、そこにその香を好む蝶々がたくさん止まるという表現が何度もあります。
それがすごく異様な光景で、扇情的で何とも言えずよかったです。
真瀬さんの作品は心情描写などがとても綺麗でやわらかく書かれると感じることが多いです。アラブという割とパターン化された(?)ジャンルの中にあって、作者さんの持ち味は健在で、ちょっとせつなくミステリー性のある作品になっていました。
一風変わったアラブモノを読んでみたい方におすすめです。