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37℃
主人公の野田の「私」という一人称からか全体的に文学っぽい印象を受けた。
臆病だからこそ自分の幸せを受け入れ切れない野田は、些細なことをきっかけにぐらぐらと揺れる。
対する若杉の優しさも野田の言うことを受け入れる優しさであり、逃げる彼を追わない優しさだ。
この行き違いがとても切ない。
そういう微妙で繊細なゆらぎを読ませてくれる作品だと思います。
結末は、正直そこで終わるの!!?とすごくびっくりしました。
ハッピーエンドはまだまだまだ先にある感じです。
二人の関係も不安定で脆そうで……だけど、だからこそすごく綺麗だ。
この曖昧さはすごく心臓にわるいけれど、その分印象深い。
あああ、もうなんだか上手く言えなくて悔しいです。
とにかくこれは読んでみて欲しい。
あなたの目で、心で確かめて欲しい。
そんな作品です。
文字も小さくないし、ページ数も多くない、だけれど、とても重い何かがこの作品には詰められていたとおもいます。
このお話は、単純に切ない恋というだけではなく、三十路を超えた、「社会」の枠組みの中に支配された一人間としてのリアリティーがとても重視されていて、まるで、自分が経験しているかのような辛さと憂いと喜びを感じられました。
両想いなのに片思い。素直になれない現実主義者の野田さん(受)と、いつまでもロマンチストで一途でさみしがり屋な若杉さん(攻)、そうやって言葉にすれば簡単に図式化できてしまうのに、そう、うまくいかない。お互いの気持ちがわからなくて、もどかしくて、人生に保守的になってしまって…。
それは、生きる人間特有のことだと思います。生きて、必死になって、もがいて、苦しんで、そうして経験して。そういった「生きる」ことをこの本の中の世界は表わしていて、だからこそ、厚みや重みがでるのかなと感じました。
そういった意味では、ホラーとも取れました。
まったく不明確な未来。真っ暗な世界。孤立した不変を望む社会。
それらすべてがのしかかって、幸せの絶頂にいるとおもえば、突然の崩落があり、そこから愛が芽生えれば、唐突にそれを覆されたり…。
正直、読んでいて「ここで読むのをやめたい」と思ったのは初めてです。次にくる真っ暗なものが怖くて、このまま二人を幸せのまま終わらせてあげたくて、何度も何度もため息をつきながら読みました。(良い意味です。)
それぐらいリアルで、投げ出したくなる本の中のキャラクターたちに何度も共感しました。つらかったです。でも、それがこの本の醍醐味というか、良いところなんだと思いました。
BLとしてはいまいちきゅんとするものだはありません。どちらかというと、そういう枠組みじゃないと思います。萌えるか萌えないかではなく、その世界に入るか入らないかみたいな印象を受けました。
ですが、とてもおすすめしたい一冊です。
少々お値段が高めになっていますが、買って損は絶対にありません。
この本を手にとったなら、ぜひとも開いてもらいたいです。
とても素敵な本と出会えてよかった。
ありがとうございました。
はて?37℃とはなんぞや?って思って手にしたんですけど
ちょうど人間にとって「熱がある」という頃合の温度ですよね。
男前で寂しがりの若杉と平凡で臆病な野田
ふたりは、学生時代に恋の病に罹って
ずっと長い間、病に冒されているって話なんじゃないかと思いました。
またこの37℃っていう温度が性質が悪いw
若かりし頃、一度は別れたふたりが30代という年齢になり
ふたたび身体を重ねる。
若い頃に見えなかったもの、見ようとしなかったものが
少しずつ見えてくるのが、ちょうどこのぐらいの年齢なのかもしれない
そうやって、ふたりの気持ちがわかりあえたときには
お互いの抱えている社会がネックになっている
そんな30代ですよ・・・
急速に物語は展開せず、酷く臆病な受けの“私”語りで綴られてて
ずるずると読みすすまなくてはいけません。
だがしかし!それが、まさに37℃!
じわじわ~と身体の芯から、熱に冒されるv
ちょっとけだるい雰囲気が、私にはしっくりきた。
心の中に、マーブル模様が渦巻き続けるような感覚を覚えた作品でした。
水と油のように、決して混じり合わないのに、複雑に絡みあって一つになる。
そして美しく繊細な模様になって、人の心に浸透してくる。
そんな二人の物語でした。
何だか久しぶりに読んでみたくなり、引っ張り出して読みました。
杉原理生先生は、本当に大好きです。
野田が大学生時代、共通の友人を介して知り合った若杉。
生真面目で繊細な空気を持ち、色白で本人的には平凡な見た目の野田。
人を惹き付ける外見と劇団脚本家としての才能を持ち、淋しがり屋で恋人が出来るたびに家へ転がり込む若杉。
ささやかな切欠で、周囲に内緒で同棲をはじめた二人。
本当はゲイの野田と、男女問わないバイの若杉。
肉体関係だけで繋がる二人。
片方の隠された性癖と、普段のあまりにも冷たい距離感の中で。
二人の精神は、少しずつ磨り減っていきます。
やがて時がたち。
野田は、別れてから十年間何の音沙汰も無かった若杉から、突然しばらく泊めて欲しいと頼まれます。
野田が今妻と別居中であると、噂を聞きつけたからでした。
若杉も若い恋人(男)と別れたばかりで。
二人は以前の関係とは違い、純粋に友人として暮らしはじめます。
そこから始まる、二人のお話。
読んでいて意外なのは、ええ加減そうな若杉は細かいところにきっちりしていて。
几帳面な野田は、意外と面倒ごとを先送りにするタイプでした。
この野田の性格が、後の様々なトラブルの根底に隠されています。
端から見たら水と油な雰囲気の二人ですが。
微熱を帯びた恋の病に溺れて。
溶け合うことは無くても、美しい模様となって絡み合い、決して離れられなくなっていく。
それが幸せなのか、不幸なのかは読み手によって感じ方が違うかもしれません。
私は好きだなぁ、と思う作品でした。
迷ったけどやっぱりすばらしい作品だと思ったので神評価で!
大人になってから、学生時代、体の関係だけ持った友人と再会するお話。
主人公の野田は屈折した性格で理解しがたく、非常に面白いです。
最初は若杉のほうが変わったキャラクターなのかと思いますが、読んでると次第に野田がどれだけ面倒なキャラかわかってきます…。
大人になって再会し、いろいろあって、学生のころのあれは恋だったと今更ながらに理解する野田。
けれど今若杉と恋人になろうとするには歳をとり過ぎていて、会社での地位の事、妻の事、それらを無視することは出来ないという大人の恋のお話だと思いました。
心の中の若杉を好きな部分は綺麗なもので、でもそれを素直に出せるには外の世界は厳しすぎて、現実と自分の心の内とでぐるぐると気持ちを持て余す、全体的に野田の心理描写を追った静かで綺麗な作品でした。
まだ色んな問題は残っていて、でもそこを安易に終わらせない所でこの作品の完成度が高まっている気がします。
少し物足りないのは、「体もなにもないものになっても相手を探し出せるか」という深いお話までする2人ですが、野田の一人称のお話なので、肝心の若杉の心理が野田ほどに理解できなかった事でしょうか。
でもこれは野田の綺麗な独白でこそ成り立つお話なので難しいところです…。
「萌」や「萌×2」などという生半可な評価を許さない作品だな、と感じました。
「神」か「趣味じゃない」かのどちらかしかない。
「趣味じゃない」が選択肢に含まれる最たる理由は、あらすじ・冒頭部を読んで抱いていた印象と、実際読んだ内容が180度違ったから。
あらすじと冒頭部を読んだときは、「いい加減で酷い人間なのに、どうしようもなく魅力的な悪魔のような攻め」に魅了され、翻弄されてしまう「真面目で純朴な受け」の話かと思ったのです。
しかし実際読んでみたら違った。
攻めはとても魅力的な男性だけれどもそれ以上にやさしく情があって、受けのことを受け止めたい、どうやったらいいのかと悩む真摯な人物でした。
むしろ、真面目で純朴そうな(そして真面目で純朴では、ある)受けの方が悪魔のような人間だった……。
でも受けも、ただ酷い人間なわけではない。
受けの中にどうしようもない暗くぽっかり空いた穴があって、それを自分でも扱いかねているのがよく伝わってきました。
そんな受けを、攻めはなんとかしてやれるんじゃないか、うまく接することができるんじゃないかと期待し、しかしやはり自分の手には負えないと絶望する。それが繰り返される。
そんな作品でした。
趣味か、趣味じゃないかと問われたら間違いなく「趣味じゃない」。重くて苦しくてつらい。
でも、受けの苦しみも、攻めの苦しみもわかる。人間のエゴイズムを描き出した、見事な作品だとも思う。
なので、悩みに悩んで「神」評価にしました。
系統としては、もだもだ系。
だけど、イライラはしないです。それよりもむなしさが残る。
心理描写の壮絶さはまさに杉原先生の真骨頂!
そんな作品です。
文体がとても綺麗です。
読んでいるだけで、違う世界にきたような気持ちになりました。
「小用」という言葉を見て、びっくりとともに楽しい。
野田の独白で話がすすめられるので、心情を理解しやすかった。
読んでいて、互いの心の隔たり、葛藤に
どーして、言わないのー。
とじれったくなります。
SMシーンは軽めで、痛い汚い感じはしませんでした。
背徳を感じさせる美しい描写で。
どちらかといえば、自己保身ばかりの野田の方が若杉への放置プレイ気味だったような。野田の冷たさや弱さが際立っていました。
野田の妻や若杉の恋人など、関わった人間の心情はあまり語られなかったので、理不尽に2人に振り回された気持ちを知りたくなりました。
妻の側へ知られてしまったことで、野田が不安定になるのでお互いの対決を読んでみたいと思ったからかも。
ラストは続きが気になる余韻でしめられ、どうなったのかと嬉しいもやもや。
ただ、前向きな選択をしそうな印象を受けました。
続きがあれば、読みたい作品です。
作家買いです。有難いことに紙の新本がまだ入手可能だったので、名作の呼び声高い本作品、お取り寄せしてしまいました。”神”or”しゅみじゃない”の二択系統です。いつもより読み進むのに時間がかかってしまいましたが、読了して”神”一択でした。”翳りゆく部屋”という昭和の名曲があるのですが、音楽にするとそんなイメージでした…。
大人のベリービターな恋愛小説ですね。”恋愛”の本質小説です。楽しい内容ではないので、誰にでもお勧めできるものではないのですが、読み継がれてほしい名作、こういう情緒が廃れてほしくないという気持ちです。昭和の文芸が好き、とかいう方ならささる気がするのですが。あと、R37ということで…。(37℃なだけに)
一目惚れ!ってヤバいですよね。相手のバックボーン抜きで好きになっちゃうんですもん。俗っぽく言うと見た目なんですが、綺麗にならすと魂レベルということです。見た目に惚れたという野田に対して、同じ見た目で全く違う中身の自分を好きになるのかと若杉が問う場面が印象的でした。形もなにも存在しないところでも野田を選ぶと語る若杉、こんなにもロマンチストで誠実で寂しがりやな男がなぜ野田のような男を好きになってしまったのか、、というこの不可解さこそ恋の醍醐味な気がします。
年齢と経験を重ねるほど、純粋に恋愛をすること自体が難しくなるんですが(実際問題w)、だからこそ10年前に封印したはずの若杉への気持ち、世俗に汚れていない唯一の美しいものを手放したくないと考える野田と、求めても求めてもすり抜けていってしまうような存在に情熱を注ぐ若杉が、心から血を流しながら行う行為が切なすぎました。野田が狡い人間に見えるのですが、実は自分が傷つきたくないと思う分だけ、他の人にも傷ついてほしくないと思っているだけな気がします。両想いなのに自分の幸せだけに酔っていられないほど、野田は周囲の人の気持ちを慮ってしまうのだと思いました。(ある意味、正しい大人なんです。)
おそらく、出会わないほうがそれぞれ完璧な人生を歩めたのかもしれないと思わせるCPです。価値観の相違は別れる前提みたいな設定なんですよね。肌をあわせたときに感じる温度の幸福感が自分のおかれている現実をひととき忘れさせる中毒性のある麻薬みたいものだからこそ、野田はその感覚と正気のはざまでずーっと揺らぐんじゃないかなと思いました。しんどい…でも素晴らしい作品です。
恋愛模様が丁寧に書かれています。
受けも攻めもどちらにも感情移入は出来なかったけれど、この二人には幸せになって欲しいし、こんな風に(大小じゃなく)人を好きになることが出来るのは羨ましいなとも思えました。
野田の自分の性嗜好に気付かないまま、流される風に結婚して、仕事もそれなりに順調で、なのに過去に重い荷物を抱えたように生きている。そしてその荷物の一つが再び目の前に現れたら…
若杉もあの時に感じていた想いをずっと持ちづづけて、面影を辿るようにして生きている。
長く離れた時間がお互いの立ち位置を変えてしまっている(妻帯者と恋人持ち)が、それが故に?野田は若杉への想いに気が付き、何よりもただ若杉を離したくない離れたくないということを一番に置くことを覚悟した訳で。
若杉はどうにもならない野田の気持ちが自分に向けられていたことを認識し、恋人とも別れて野田を甘やかす。。。いえ、自分だったら野田みたいな奴は付き合いきれないですけどね〜
離婚を承知した奥さんもかわいそうだけど、良い相手がいるなら二人をそっとしておいてあげてほしいな、と切に願います。(実際は義母だけど)
BLというよりも、切ない、でも未来は明るいと思える恋愛小説だと思います。なので萌えない(笑)
終わり方は余韻があるので、モヤッと感はありますが、野田の意気込み?がハッキリしているので、引っ張る感じではないかな。
続編希望が多かったら、その後のストーリー展開もあったのかも知れません。
冷たく固まってひねくれた男野田と、情熱的な男若杉との10年愛。
I
10年前、関係を持っていた男若杉との再会と邂逅。
若杉と野田は、全くその持って生まれた性質が違う。だからこそ惹かれ、わかりたくて近づき、理解し難くて反発する。
若杉の愛し方は甘く官能的で、でも野田の欲しい愛し方は無理矢理で乱暴で酷くして欲しくて。心では若杉の愛し方を望んでもいた、でも好きと言われるのも優しいキスも嫌がっていた日々。
再会して、またつかの間同居して、あの頃とは違う目で自分を見る。この自分の心の中にも恋という場所があった事を。
II
10年前とは全く違う温度でまた恋をしている二人。
野田視点なので若杉の心中は定かではないけれど、野田の方はかつて男の熱情に引き込まれまいと逃げていた感情に進んで落ちていくようで。
そんな時、若杉の別れた恋人が野田の前に現れて『別れてくれ』と懇願する。
そこからは混乱して話も聞かず一人で抱え込む野田と、そんな野田を手に負えないという若杉の、いわば修羅場。
別れたい。別れたくない。
もうお前を追わない。俺はどうしたらいい。何を望んでる?
殺してくれ……生きてくれ。
III
別居中だった妻と離婚が成立できそうで、野田は若杉と生きる事を考えていた。二人ともやっと思いの通じた恋人のように甘い時間を共有していたのに。
事件が起きる。
今までの野田だったら全てを捨てたかもしれない。でも今の野田なら…若杉から『生きてくれ。俺のそばで』と請われた野田なら。
『大丈夫だ ここにいる。私は、ずっとそばにいる。』
若杉が芝居の脚本家兼役者、という設定のせいかどうか、文章を読んでいると演劇的というか、舞台で俳優がこの「37℃」という芝居を演じているのを観ているような気分になりました。目に浮かぶ、というのかな。
野田が変化して若杉を求める熱量のようなものが、ただの文章だけでなく実体を持って迫ってくる。
決して甘い物語ではないけれど、重厚感、読み応えのある小説でした。