帰宅

帰宅
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神11
  • 萌×25
  • 萌5
  • 中立0
  • しゅみじゃない0

--

レビュー数
4
得点
90
評価数
21
平均
4.3 / 5
神率
52.4%
著者
剛しいら 

作家さんの新作発表
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イラスト
茶屋町勝呂 
媒体
小説
出版社
角川書店
レーベル
角川ルビー文庫
発売日
価格
¥480(税抜)  
ISBN
9784044362010

あらすじ

ぼくだけを好きでいて、お父さん……。

爆発事故で妻を失い、ひとり息子も大怪我を負った中堅俳優・佐伯は、事故後の息子が異常な愛情で接してくるのを苦悩しつつも、受容していた。しかし、「息子」として接していた彼は本当の息子ではなかった……。
表題作のほか、デビュー作に書き下ろしを加え、痛く、せつない愛を描いた、著者初の作品集となるラブ・ストーリーズ。

表題作帰宅

人気俳優
裕造の息子の同級生、高校生

同時収録作品ぴすとる

秀明の2年上
中3

同時収録作品一枚の遺書

中3
中3

その他の収録作品

  • あとがき

レビュー投稿数4

剛先生の、極・初期もの。

茶屋町イラストを捜していて遭遇。
剛先生の作品って、ちゃんと“好き・嫌い”が別れるので、これはどーなの?と探り探り読み始めるのですが、この薄い文庫本の1ページから嵌っていました。

以下、起承転結の起~承部分をネタバレしています。

『ピストル』
秀明は苛められ易い。
不登校を続ける中暇つぶしのゲーセンで、自分を褐上げしていた嫌な先輩・山内光史と出逢ってしまう。
下卑た表情、しっかりとした体躯と怒声に竦み上がった秀明は、光史の言いなりにコンビニ強盗の片棒を担いでしまう。
そこから2人の、支配する者・される者の逃避行が始まった・・・

『帰宅』
俳優・佐伯の元に、妻と一人息子が爆発事故に巻き込まれたと知らせが入った。
警察で妻の焼死体を確認・・否、恐ろしくて出来なかったのだが、息子は重体で病院に運ばれたとの報に胸を撫で下ろす。
人気が出始めてから忙しさにかまけ、息子とは溝が出来ていたから、これからは妻の分も出来る限りしてやろうと決心する。
だが、退院し帰宅した息子は今までと全く違う。
佐伯にべったり付きまとってくるのだーあまつさえ恋人の様に。佐伯の不安は深まる。

『一枚の遺書』
真澄が自殺した。
遺書には、苛められたと自分のイニシャルが記されていた。
2年で同じクラスになって仲良くなって、クラスの誰もが親友だと苛めなど無かったと証言してくれている。それどころじゃない2人の関係は良好だった。
何故あの真澄が、自分を陥れる様な事を?

3作ともに根底に「孤独への嫌厭」があります。
『帰宅』だったら、家族を突然亡くした中年男のこの先の不安が、偽りの関係を許容したように、その先が暗かろうとも虚構だとしても、小っさな光に縋っているんです。
何だか、夜の光に集まる虫みたい。
今が孤独・将来が孤独、自分の恋心や居場所が叶えられない孤独。
それらが見えてしまった登場人物達が、暴力・策略・請願・妥協を術として使い、どうにかあがなっているのを、AパターンBパターンとして見せてくれた3作品だと思います。
誰もが考えたくないから蓋をしている問題なんですよね。
この暗さ、癖になりそうです♪

6

人と人が寄り添うことの尊さ

三つのお話が収められた短篇集。表題作「帰宅」と「一枚の遺書」には読了寸前に味わう、ある共通の感覚がある。最後の文章まで辿り着くと与えられる、するりとしのび寄ってくるような悲しみの感覚。それぞれのタイトルにもなっている「帰宅」と「一枚の遺書」というキィワードが、あざやかな真実を見せてくれる、巧緻に仕掛けられた鋭さがある。

中堅俳優の佐伯は爆発事故で妻を失い、ひとり息子の尚紀も火傷と、顔面に大怪我を負った。事故の前にはろくに話もしなかった父と子だったが、失う恐怖を知った佐伯は、いい父親になろうと決心する。
本当の息子ではないかもしれないという戸惑いを押しのけて、誰かが待っていてくれる家に帰る喜びは大きい。佐伯に執着し懇願してくる尚紀の姿に鬼気迫るものを感じ、恐れながらも、愛されることの喜びを佐伯が見出す糸口として、「帰宅」という事象があるのだ。
禁忌を犯して求め合った後で、ふと我に返るように、ぽつりとこぼされた一言。それに込められた万感が、胸に迫って苦しい。佐伯が尚紀を受け入れてなお、空虚がまだシンと存在している、それが、じわりと怖いようでもある。

「一枚の遺書」は、高校生の近江政彦がある朝、クラスメイトの少年の自殺を知らされ衝撃を受けるところから始まる。自殺した須藤眞澄は、政彦にいじめられていたと、恨みの言葉を連ねた遺書を残していた。
なぜ眞澄は自殺したのか。なぜあんな遺書を遺したのか。政彦は周囲に問い詰められても、断罪されて然るべきだと口を閉ざしたままだ。自分の本心からも目をそらし、向き合うことを恐れる彼を、受け止めてくれる存在が現れる。眞澄の自殺を調べる刑事と、彼らの担任教諭という二人の大人だ。
著者の作品には、青少年の健全な育成を担う大人のあるべき姿が描かれる。「ぴすとる」においても、閉塞感に悩まされ日常を逸脱した少年と向き合う一人の刑事が、ラストにさらりと書かれている。著者の信念なのだろう。あからさまでありながら厭味を感じないのは、著者の切なる願いがそこに見えるからだと思う。

このお話は読後の後味がいい意味で、悪い。とても遣り切れない。誤解がとけても、どんな真実が明らかになっても、取り戻せないものがある。
政彦は大人たちに自分の真実を語る。しかし本当のカタストロフが待つのは、さらにその後、不意打ちのように。これは、苦しい。嬉しくも、悲しくもあり、ただひたむらに出口のない感情に見舞われて苦しい。救いは、そこには確かに愛しか存在しなかったことだ。

「ぴすとる」もまた結末に近付く頃、それまで見えていたものがガラリと姿を変える。しかしこれは悲しみばかりではなく、やり切れなさの向こう側から希望が微笑みかけてくれる。
三編をとおして紡がれる人と人が寄り添うことの尊さ。ぜひ多くの人に読んでもらいたい一冊。

4

これがデビュー作

これが剛しいら先生のデビュー作。
時代的なこともあると思うけど、かなり暗くシリアス。いわゆるBL的な、攻めがいて受けがいて、恋愛関係があって、ラストは何らかの決着がある、という展開ではありません。
もっと文芸的、といってもいいかもしれない。
3作品が収録されています。

「ぴすとる」
家にも学校にも居場所のない中3の秀明。今夜もどうせ母親はいないからゲーセンに行って…と考えていたら、昔よくカツアゲされたグレた先輩の山内と出くわして……という冒頭。
秀明はズルズルと山内に引きずられ、コンビニ強盗、大阪への逃避行、女装しての美人局など、昏い坂を転がり落ちていく。
圧倒的な上下関係、言うことを聞くしかない秀明。しかし、大人しくしていればやけに優しい山内に秀明は愛情すら感じ始め、2人で転々と逃げながら、恋人同士のように戯れる。
ついに山内は秀明を手放そうとするが、秀明の方が一緒にいたいと騒いで…
やはり(母から)愛されている実感を確かに持っている秀明だから山内を愛したのか、秀明から愛を示されてから山内も愛を知ったのか、愛を知った山内はこれからしばらくの会えない日々を過ごしていけるのか。
まだ子供の「純」を持つ秀明の一種の無邪気さが、2人のいた場所の閉塞性を一層際立たせる。

「帰宅」
かなりサスペンスフルというか、もう「ホラー」といってもいいくらいだと思った。
中堅俳優・佐伯の妻と息子が、タンクローリーがスーパーに突っ込む大事故に巻き込まれ、妻は死に、息子は大火傷と顔を怪我するも命は助かる…という冒頭。
息子・尚紀は以前とは人が変わったように父に甘えて、親戚も友人も遠ざけ学校にも行きたがらず、ひたすら父と一緒にいたがる。夜も眠れないとベッドに潜り込んで。
この息子は誰なのか。別人と入れ替わったのか。
佐伯は今ただ1人自分だけを求めてくるこの存在をまた再び失う地獄よりも、性の地獄を選ぶのか。
私はこれはバッドエンドだととらえる。

「一枚の遺書」
1人の中学生が死んだ。
遺されたワープロ打ちの「遺書」にM・O君にいじめられている、とあり、刑事に呼ばれる同級生の近江。
刑事は、近江がまだ14才でも一人前の人間として扱ってくれた。それに応えて近江は死んだ眞澄との関係性を語り始める…
この物語もまたいわゆるBLとは一線を画している。
まだ子供で、生まれた愛をどんどん育てていった眞澄。近江はある意味巻き込まれ、そこに近江なりの愛はあったけれど、眞澄の愛とは意味も重さも違っていた…
近江の心の中を知らずに死んだ眞澄はハッピーだったのかも、と言えるのかもしれない。眞澄のノート、幸せと恋の歓びが溢れて溢れて、哀しかった。

5

何が家に戻って来たかで変わる

帰宅に関連する家族についての三つの短編集。
その中の「一枚の遺書」は剛先生のデビュー作と紹介があったので、読みました。表紙絵と挿絵が無い電子版です。

読後に、これで良かったんだ、とスッキリ思えない毒を夫々含んでいるので、心に刺さります。
ファンタジーで実際にあるかのような嘘物語でも、生きていると色々あるんだ、と読後に思う一冊でした。
こういうもの悲しい結末は、JUNだから?どれもハッピーエンドとは言い切れない結末でした。(JUNを知らないのでなんとも評価できない)

「ぴすとる」は、好みじゃないので意欲湧かない。・・書きようないです。

「帰宅」の息子の今後は、きっと麻生先生の「リバース」の円と似た、終りのない苦しみになっていきそう。

「一枚の遺書」の真犯人。剛先生、まさかと思うのですが、実の自分の目=母親視点で書いていたのかな?だとしたら・・・殺したいほどの思うようならない子への母の愛ってコワイ。

1

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