ぱるりろん
tenkyuugi no umi
戦後、資紀と希が街を歩きながら青空を眺め語る日常もの。
このお話の肝は、資紀がなにげなく希の飛行時間(戦闘機の飛行歴)を尋ねたことです。
希からの答えは資紀の想像を絶するほど少なく、まるで素人同然の有様でした。希が予科練に入ったころは人も燃料も足りず、練度の低い者がろくに訓練もできない状態で前線に配備させられていた時代。片道燃料で敵艦に当たる行為も、一人前に操縦ができなければ成果を上げられないのに、それでも当時の上官等からの教えのまま、気持ちがあれば大丈夫だとまっすぐ信じて言い切る希に、暗澹たる思いと、生き延びてくれてよかったという安堵の混ざった感情を抱える資紀。
短いお話ですが時代背景も相俟って、深いです。資紀が希を雛にたとえるところでなんとも言えない気持ちになりました。
小冊子付きで買いたくてこのシリーズはコミコミスタジオさんで毎回注文する事に決めてます。
文庫本の付録SSですが、コミコミさんのSSってA5サイズです。大きくて読みやすいですが、一緒に保管したい派なのでサイズ揃えて欲しいななんて思ったりします。
さて内容ですが、こちらは本編終了後の資紀視点です。戦後10年と言っているので2人が再会してからさらに2年が経過してますね。
あの時の判断は間違えではなかったかと考えてしまう資紀。そりゃそうだよ、[あの時はああするしか無かった]と希が言ったり、自分でも言い聞かせても右手首から先のない愛しい人の姿を見る度に心苦しくもなるわ。
そんな想いの資紀がふと雑談として当時の飛行訓練はどの程度の時間戦闘機に乗ったのかと希に聞いてみたら、やっぱ自分の判断は間違えじゃなかったと心から思えたってお話。
しかし、資紀って心で思った事を普段口には出さないままだからなに考えてるの?って希はなるよね。
私は、嫌だなー、素直に言って欲しい。
本編に描かれていたSS[サイダーと金平糖]の時みたいに度々酔っ払って本音を語ってあげてほしいな。
色気のある展開は全くなし。
本編終了後、攻めの資紀視点のお話です。
小倉の街を二人で歩きながら、青空を見上げて「そういえば何時間ぐらい飛行練習をしたのか」と尋ねる資紀。それに対する希の答えは驚くべき物でーー
と続きます。
飛行練習時間300時間で半人前、それから100時間プラスで実地練習を積めば、なんとか搭乗員として列機につくことができる。
…あまりにも遠く、実感の湧かない世界だけれど、希の答えに資紀が「幼鳥どころか、雛だ」と驚愕するのも当然かな、と。時間の桁からして違う。。
実際の戦争末期にも、きっと燃料不足でどこも練習時間など確保できなかったのだろうな、と思うと、なんともいえないやるせなさを感じます。
もし彼が飛び立っていたら、万が一にも生きては帰れなかったけれど、こうして今二人で並んで歩いているという事実。
その奇跡のような事実に静かに感謝する資紀の思いが静かにけれど深く確かに伝わってくるSSでした。