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ousama no natsuyasumi
すっごく良かったです。
学生がたくさん出てきて、皆それぞれの思いを抱えていて悩んでいて、でもすごくきらきらしています。
主人公の語り口調の文体なので子供っぽく、稚拙とも言えるのですが、だからこそ余計にこの子たちが子供ながらに色々悩んでいて、でも結局自分で自分を幸せにしなきゃね、という言葉がすごく自然と心に入ってきます。
作者さんがあとがきで、幸せな話を書きたかったんだと言っていたとおり、
すごく苦しくてせつなくなる話なんだけど、幸せってなんだ?ってことをこの登場人物たちにすごく丁寧に説いてもたった気がします。
主人公は今年の学園の美人コンテストである皐月賞に選ばれ、「皐月姫」と呼ばれる郁。
郁の寮の同室である旭は、顔がよくて堂々としていてサッカー部のエースで成績も学年一位、というパーフェクト君であだなは「王様」。
けどこの王様は何だか訳ありで、完璧さを演じているようなところがあります。仲良くなろうとしても壁を作られているような・・・。
寮もの、というか学園ものいいですね。
アイスを分けたりカッコイイ生徒会長と綺麗な書記がいたり。定番だけどやっぱり好き。
郁の周りの友人もへんに大人びておらず、等身大です。
郁は旭と打ち解けられないことを幼馴染の小野瀬に相談しますが、小野瀬は「何がほしいかまで配慮してやる必要はない」という態度。
ですが次第にみんな旭がどこかおかしいこと、バランスが悪いことに気づき始めます。
「幸せとは何か分からない」という旭を「幸せになる努力をする気がない」と解釈する小野瀬。
旭が幸せを拒み、周囲を拒むわけとは何か、というお話の一方で、郁の周囲の環境にもスポットライトを当てています。
郁は絵を描きたいのに家族に反対されていること、小野瀬は力になってやりたいのに郁が頑なに一人で何とかしようとしていることを悩んでいます。
この2人の長年の友人なんだけど、あと少しで触れるか触れられないかの距離にいるというところがすごく綺麗なもののように思えます。
何というか、学園という空間でこの淡い恋に発展する前の微妙な雰囲気を描くというのは、文章でなくもはや空気感としかいいようがない。本当に素晴らしいです。
文章もすごく素敵な作家さんで、次から次へと胸にぐっとくるような言葉があふれています。
友達に恋をしてしまい、それを後ろめたく思っている旭。
それを告白する旭に小野瀬は「友情は綺麗で愛情は汚いの?」と問いかけます。
小野瀬も好きな人がいるけれど、旭は罪悪感をと戸惑いを持つのに対して小野瀬は「恋なんてそうそう何回も出来ないよ」ってスタイルで潔くて格好いい。
結局美味しいところを持っていってしまうのは生徒会長と去年の皐月姫である美人書記さんなのですが、やっぱり学園もの醍醐味は頼りになる先輩だなぁと思います。
この2人もすごく自然なカップルで、この2人のお話も書いて欲しかったという欲が・・・。
自分から幸せを拒んでいるような頑なな旭の理由も、知ってしまえばそれは考えすぎじゃないかと思います。
もう少しハードルを低くして、幸せを求めてもいいような・・・。
最後の旭の告白シーンは本当に感動したし、郁の告白のシーンは心が温まりました。
郁にも、自分の気持ちを言えない理由があります。
けれど全部ひっくるめて最後にはもういいよね、となります。結局自分が幸せになるためには我慢していた理由などもういいよね、というなんだかもう幸せとはかくも単純なことなんだと教えられるお話でした。本当に読んでよかった。
このお話、「最後の夏休み」の続編で、そちらでは旭がこの学校にくるまでのいきさつが書かれています。
私は先にそっちを読んだので読んでいないと印象が変わったかはわかりませんが、旭に対する周りの戸惑いや共感は読んでいない方が楽しめたかもなぁと思います。
「最後の夏休み」が恋愛というより友情の延長のようなお話だったので、こっちで旭の胸に秘めた思いがすごく激しいものだったのでちょっと驚きました。
もうどのカップルもみんな可愛いです。すごくオススメしたくなる作品です。