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junai
2011年にもえぎ文庫さんから刊行された同名小説の新装版。
旧版は未読なのでこちらとの比較はできません。旧版も電子での販売が停止になりましたが、新装版は海王社さんから電子限定で刊行されています。
旧版未読なのでもしかしたら間違っている部分があるかもしれませんが、新装版との違いについて。まず収録されているのは表題作『殉愛』、『メビウスの環』の短編2話。この2話は旧版にも収録されていると思います。新装版にはこの2編に加え、さらに短編が2つ収録されています。「一通の手紙~詫び状~」と「もう一通の手紙~チームメイトへ~」の2話。どちらもすごく短いお話ですが、この2話がまた素晴らしい作品で、旧版をお持ちの方にもこの短編のために新装版を買ってほしいと思わざるを得ない、そんな感慨深い作品でした。
『殉愛』、そして『メビウスの環』については旧版のレビューに感想が書かれていますが、一応こちらでも書こうと思います。ネタバレ含んでいますので、苦手な方はご注意ください。
『殉愛』
大手企業に勤務する営業部長の阿久津には優秀な部下がいる。辻沢という名のその部下をことさらに可愛がっていたが、その辻沢が半年後に結婚することになり仲人を頼まれた。
優秀で尊敬できる上司と、有能な部下。
阿久津と辻沢は、その関係のはずだった。
が、阿久津は辻沢に恋愛感情を抱き始めていて―。
というお話。
20歳という年の差、男同士というハードル、そして自分は既婚者で辻沢ももうすぐ結婚する。
己の恋が成就することはないと思いつつそれでも辻沢に惹かれていく想いが、阿久津視点で訥々と描かれていきます。けれど読者には辻沢の阿久津への想いが透けて見えているんですね。二人が想い合っているということが。
いわゆるW不倫ものですが、阿久津にしろ辻沢くんにしろ、自分の相手への想いを正当化してはいません。妻たちに対する贖罪の思いは常に抱き続けている。が、離婚することなく不倫関係を続けていくので、そこはもしかしたら好みが分かれるところかもしれません。
『メビウスの環』
医者の雄一には婚約者がいる。
彼の上司の娘の夏美だ。だが、雄一は学生時代から身体の関係がずっと続いているセフレのような立場の友人もいる。夏美の実兄の秋生。どんなに冷たい態度を取っても酷いことをしても、雄一から離れることのなかった秋生。けれど夏美に秋生との関係がばれ、そして雄一があっさりと切り捨てたのは夏美ではなく秋生の方だった。
イケメンで優秀で、教授の娘の夏美との結婚を控え、雄一の未来は輝かしいものになる、はずだった。が、一つの凄惨な事件が雄一を襲って―。
雄一がクソです。
クソな攻めさんってBLでは珍しい存在ではありませんが、その中でも群を抜いたクズさを誇るゲス男です。攻めザマア展開なのかな?と思いつつ読み進めましたが。
『殉愛』しかり、『メビウスの環』しかり。
今作品に収録されているお話はどちらも悲恋です。バッドエンド、あるいはメリバに含まれるのか?んー、これ、書いていいのか悩みましたが、地雷の方もいらっしゃるかもしれないので一応書こうと思います。以下激しいネタバレがありますので、お嫌な方はここでストップしてください。
両作品とも、いわゆる「死ネタ」です。
『殉愛』も『メビウスの環』も初出が1998年だそうですが、もう少し古い作品かな?と読んでいて思いました。昔はこういう悲恋て流行りでしたよね。今であればハピエンにもできるバックボーンを持つ作品ですが、こうした悲恋は今だからこそ、かえって斬新なストーリーに感じます。そして、その儚さがむしろ良い。決してハピエンではありません。甘くって優しいお話を好まれる方には、正直お勧めしづらい作品ではあります。
が、なんて言うんですかね。
愛憎の果ての果てまで描き切った、そんなお話でした。
『殉愛』は、まさにそのタイトル通り、愛に殉じたお話。
『メビウスの環』も、そのタイトルに偽りのない終わりのない愛憎のお話。
そんな気がしました。愛するという方向性を間違えたゆえの、不器用な男たちが行き着いた、その先はー。
旧版には収録されていない(と思われる)2話の短編の内容についてですが。
タイトルが『一通の手紙~詫び状~』と『もう一通の手紙~チームメイトへ~』。
そのタイトル通り、「手紙」という媒体で紡がれていくお話です。
今作品の収録作品はシリアスベースのものが多いですが、その中で唯一明るい希望を照らしているのが『もう一通の手紙~チームメイトへ~』かと思われます。が、もう一つの短編『一通の手紙~詫び状~』は、こちらも読んでいて楽しくなるお話ではありません。
が、これがグッときましたねえ…。
いや、こちらも好みは分かれそう。分かれそうですが、この手紙を自分が受け取ったら敗北宣言してしまうだろうなと思いました。
「結婚」という形に持っていける男女のカップルと、そういう縛りが無くてもずっとそばにい続ける男同士の恋人たち。勝ち負けではないですが、「結婚」という誓約の重さと、その縛りに括られることがなくとも想い続ける愛情の深さをしみじみと感じながら読破しました。
新装版の挿絵は旧版と変わらず周防さんが描かれていますが(中身は比較できませんが、表紙は旧版も新装版も同じ)、周防さんのイラストがまた良い…!繊細で、儚くって、そして美しくって。作品のイメージそのままのイラストで萌えは確実にアップしました。
こんな神作品を今まで読み逃していたとは…。
今回、こうして新装版として刊行していただけたことに感謝。今現在電子でしか販売されていないようですが紙媒体でも発売して欲しいなあ、と切望しています。
短編集
なかでも「一通の手紙」が、凄く評判だったので、読んでみた。
・・評判になるだけあります。
京都の板前から、愛した人の妻へのわび状。
詫び状と言っても、調理人らしい復讐。
しかも、頃合いを見て後から届く手紙が示す内容が、グロイ。
愛しているからこその、情念と怨念。
綺月先生は、寓話的な、痛みを伴うトラウマや、深い後悔を伴う結末を仕込む展開が上手いと思う。
人を傷つけるような身の振り方は、しないほうが良いと思った。、
電子版には紙に未収録の短編がある、という事で購入。
改めて既読の「殉愛」と「メビウスの環」を再読したけど…
重い、重い…
こちらは紙の方でレビュー済みですが、このドロドロがどこか懐かしく今令和の時代の新たなドロドロを読みたい気分になりました。
時代も生活様式も変わったけれど、人の心はそこに沿いながらも変わらない核があると思うから。
さて、電子版限定収録の2編について。
「一通の手紙〜詫び状〜」
単身赴任の夫の愛人だった小料理屋の店主(おとこ)が、妻に向けて送った手紙。
という体裁。
胃袋を掴んだことから関係を持つようになった経緯、ご主人も寂しかったんですよ的な擁護、本当に申し訳なかったという謝罪…
だが結局「離婚」はできない男は妻の元に帰ることになり。
丁寧で柔らかく腰も低い、そして私は負けて引き下がるのだ、と言ってはいるが。
強烈なプライドが滲み出る文面がコワイコワイ。
そして最後の文章。
はじめ読んだ時、えッ⁉︎ウソもしかして殺しちゃった?バラバラにしちゃった?
なんてビックリして。
いやいや、私の料理で健康状態も男っぷりも上がったご主人をお返しするわって意味よね、と思いつつまた読むんだけど。
やっぱりバラバラ…?なの…?
「もう一通の手紙〜チームメイトへ〜」
ゾ〜っとした後は爽やかなお飲み物はいかが?みたいな一編。
体裁は、建築事務所の後輩から先輩に宛てた手紙。
後輩くんはパリでの一年間の研修を終えてこれから帰国しますよ、という報告。
パリでコンペに勝ったこと、フランスでできた友人の結婚式に招かれたことなども。
この後輩くんが、モジつきながらもストレートに思うがままを記すこの手紙を読んでいると、思わず頬が緩んじゃう。
で、私見。
この後輩くん。この恋は多分実らないかな。なんて思うの。
やっぱり先輩が朴念仁だからね。
でも、後輩くんの本来の望み通り、ものすごい味方のチームメイトとしてがっぷり組んでくれると思う。
後輩くんはその後一皮も二皮も剥けて日本を飛び出して、海外で先輩のように信頼に足る男性をゲットするんじゃない?
勝手にそんな未来を予想して読みました。