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深い霧のなかを彷徨うようなお話、です。
彼らが語る物事の全容も、真相も、ほとんど終盤まで見えてきません。
なのに、痛がる想いばかりひしひしと伝わってきます。
終わり頃、たった一文、リリを語る言葉が出てきます。
そこへ辿り着くと、ひどい力で奈落に突き落とされるみたいな心地になる。
そうして、この一文のためにすべてがあるんだ、と思い知るんです。果てない落下も、飛翔かと錯覚する。
打ちのめされるように、大好きな小説です。
『私立櫻丘学園寮』シリーズ、三作目です。
今回は、前二作にも登場したディープインパクト、『櫻丘寮の悪魔』松嶋が主人公です。
受けの松嶋は女性的な美しさとは裏腹に、口を開くと耳を疑いたくなるような暴言を繰り出す少年。
攻めの斎木は、松嶋のいとこで寮長。
にこやかで人当たり良く見えながらも、松嶋には執着しています。
己では目を向けたくない恥部をいとも容易く白日の下に晒す松嶋の言葉の凶器を、寮生たちは恐れています。
誰でも自覚はあっても見ないようにしている心の奥深くまで斬り込む松嶋。
それは他人だけに向けられる狂気ではなく、自身にも、自分の傷に自分で爪を立てるような子なので、読中つねに痛々しいです。
お話は松嶋と斎木との、冷たく見えて実は触ると火傷してしまうようなお互いへの想いや執着が描かれていて、何度か同じ行を繰り返し読んで解釈したりとその辺りは相変わらずの橘作品です。
人によって『神』評価の基準はまちまちかと思いますが、わたしは数回読み返したくなることを基準にしています。
その点で言うならば、この作品はわたしにとっての『神』ではないのです。
作中上げ続けられる松嶋の、体の痛さではなく心の叫びが痛々しく、読み返すのに気力がいるのでなかなか再読し辛い作品ですので。
ただ、このシリーズは三作で一つの物語だと感じます。
三作皆カップルは違いますが、あの時はこの人こんな風に思っていたのかと、角度を変えることでの見え方の違いが絶妙なのです。
今回の『朱い熱』はその辺りがかなり顕著で、なるほど三部作最後だけあるなと思わされました。
なので、わたしは『神』評価にしました。
私立櫻丘学園寮シリーズ三作目。
「櫻丘寮の悪魔」と呼ばれる、美貌の松嶋理利(マサトシ)が主人公。
一作目は王子とツンデレ、二作目は健気で可愛い中学生の恋、そして三作目は……
松嶋が主人公ならば、それはそれなりに痛くてドロドロだろうな、と予想はついたが
その通りだった。
彼は一作目からすごく気になるキャラで、二作目でお気に入りキャラとなり、
そしてこの三作目で主人公。
一作目で主人公(で私が好きな)烏丸を苛めるイヤな先輩だった松嶋だが、
姫城が一番仲良くしていることや、三尾のことは可愛がっている様子に、
単なる性格の悪いいやな奴ではないだろうことは容易に想像がついた。
二作目で、三尾視点から話が展開されると、随分印象が変わり、
おそらく一筋縄ではいかないトラウマチックな過去があるんだろうなー、
そして、唯一彼をリリという愛称で呼ぶ一学年上の斎木を慕い、
彼と何らかの因縁があるんだろうというところまでは、想像がついてさてこの巻。
話としては、JUNEっぽい。
松嶋のキャラも、こういう設定も、雰囲気も頗る好みではある。
好みだし、キュッと胸を引き千切るような痛みもいい。
だが、しかし。
これは個人的な感覚では、乗り切れなかった。
だって、あまりに、中高生として変。
いや、松嶋もだけれど、彼をリリと呼ぶ斎木が。
大学生くらいの設定だったらまだ飲み込めるかもしれないけれど、
変だよ!というのがどうしても頭からぬぐえず、
他にも細かい部分での違和感をもったまま
(例えば私立中学の願書の受付が8月で終わっている、とか。)
読み進めることになってしまった。
そもそも橘作品は現代の日本であっても極めてファンタジーで、
非実在少年達が出てくるのは折り込みずみ、
常に年齢にしてはやることなすこと大人なのは分かっていたのだけれど。
でもこれはどうしても気になって集中できず、あー勿体ない。
そういう意味では、評価は部分的には神だし、部分的には中立で、とてもまだら。
無難に間を取って、この評価にしました。
今回の主人公は、1作目・2作目で毒を吐きまくっていた問題児。
「櫻丘寮の悪魔」こと松嶋理利 (リリ)。
彼が主人公なら、あまあまな物語には到底ならないだとうと予想はしておりましたが。
思った以上に痛いお話しでした。
「姿形は天使だが、開いた口からは毒しか出てこない」松嶋が唯一、
心を傾け信頼しているのが、櫻丘寮の寮長を努める従兄の斎木志鶴。
志鶴は愛情を込めて、松嶋を「リリ」と呼び、松嶋の側にいます。
そんな志鶴の声に心を鷲掴みされている松嶋。
二人はお互いが「全て」と思うくらい求め合っているのですが、
過去のある事件がきっかけで、心が擦れ違ってばかりなのです。
シリーズ中では一番、濡れ場が多い作品ですが。
志鶴と松嶋の絡みは一切甘くなく、痛々しいだけです。
身体を重ねれば重ねるほど、心は遠くなるという感じで。
それぞれが胸に抱いている深すぎる思いと傷が、
ますます二人の関係を複雑にしていきます。
「俺はもう、どうしていいかわからない」
「僕にもうかまわないで」
とうとう身動きが取れなくなった二人の会話には緊迫感が漂い、
ひりひりと肌を刺す痛みを感じます。
静かで淡々とした紅い熱に、読んでいる私もうかされました。
BLというより、JUNEっぽい作品だと思います。