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kusa no hana
サナトリウムで無茶な手術を希望し、自殺のような術中死を迎えた汐見という男の、二つの恋の記録で構成される物語。愛と孤独について深く語られており、心で理解するのは難しかった。
匂い系と言われるのは、最初に語られる汐見の恋の相手が藤木忍という男だから。藤木はかなりの美形らしく、細かい描写から汐見がじっと観察している様子が窺え、執着が感じ取れた。
最初は懐いていた藤木が、なぜか自分を避け始めて落ち込む汐見。悩んでいたところ、友人に愛と孤独を説かれて話し合う決心をする。この友人の言葉は後半にも生きてくる内容で、まわりくどく汲み取り難くても、とても心に残った。
そして前向きになる汐見はちゃんと即話し合おうとして良かったし、このときの心理描写は印象的。会話も感情剥き出しで萌えがあり、ときに情けなさを出しながら縋っていて、心に刺さる言葉がたくさんあった。
が、なぜかじわじわ湧いてくる不安が拭えない。藤木と話す汐見は、自分の恋心に陶酔しすぎているよう。相思相愛では?と一人浮かれているのを汐見視点で読んでいるのに、同じ温度で盛り上がれない。
藤木は言葉は少ないが、その態度と汐見の心理描写を併せて考えると、十分気持ちを察することができると思う。逃げたくなるのも分かってしまう。
この時点では、すれ違ったまま藤木の死をもって終わったような描き方。
汐見の次の恋物語は、藤木の妹千枝子と。汐見の恋の仕方は変わっておらず、独りよがりで千枝子自身を見ていない。さらには藤木を失った孤独を抱えたままで、やはり千枝子は汐見の元を去っていく。
そして手記の締めは衝撃だった。藤木にも千枝子にも愛されていなかったと、孤独の先の死を予言する汐見が切ない。汐見は全てを分かっていたのだと、こんな最後に知らせてくるのはずるい。
(※汐見の推量に関し、巻末の解説とは一部違う解釈で読んだ)
ラストの千枝子の手紙は、少しだけ答え合わせのように感じた。思いを寄せられる者から見た汐見像が、こちらが受け取っていた印象と相違ないと確認できる。
一人称だが知らぬは本人ばかり、物語の登場人物と読者が受け取る主人公像が同じ、というのは恋愛小説にすごく欲しい要素。ここで読めるとは……と感動した。
これらを踏まえた上で最初から読み直したら、たぶん汐見を見るのが辛すぎて泣いてしまう。汐見は生涯藤木一筋だったのだと思う。愛すべき哀しい男の物語だった。