amazonの電子書籍版です
haru ni kou
kindleの自家出版を開拓するのが好きで、昨年、作者の『やさしい嘘のかさねかた』を初めて拝読しました。BLのキモをキッチリと押さえていて好印象を抱いたのですが、そのまま後回しに。ずーっとAmazon様からオススメされ続けていた本作の表紙イラストにどうしても惹かれて、この度、ようやく読む機会を得たところ…
じゅ、JUNEの遺伝子がここに…!!令和に入って、この手のタイプの作品に出会えるとは感無量です。メンタルに余裕がある時に読めてよかった…。重いです。重いけれど、何年かぶりに腹の奥をかき混ぜられるような濃厚なBL読書体験をさせていただき、歓喜にうち震えました。
平家建ての古民家にひっそりと暮らす隆心と雪弥。庭先に顔を出したフキノトウに興味を示して立ち止まった少年、眞雪。彼ら三人の出会いがもたらすシリアスドラマです。
終始物語につきまとう悲哀は、雪弥が彼の人生を引き受けなければならない、「生きる理由」への問いかけにあります。いつ生きることを放棄してもおかしくない彼を全力で守り続ける隆心。雪弥の家族は隆心と自分だけ。なのに、二人は未だジェラシーに囚われ続けるほど熱烈な恋の只中にいる…。世間から隔絶された片隅で、穏やかに暮らしていた二人の前に現れたのが、小学生の眞白でした。
眞白は育ちの良い裕福な家庭の子供で、誰にも相談できない家族間の秘密を抱えていました。何も詮索せずに子供らしく接してくれる雪弥たちが住む家は、眞白にとって温かい避難所となっていきます。そこは唯一、彼が安心して子供でいられる「家族」のような居場所だったから…。
本作はプレBL時代を経験済みの方々ならばそれほど抵抗はなかろうかと思いますが、ポストBL読者には地雷注意の呼びかけの方がレビューに相応しいのかな?それともさらに進んで、いにしえが逆に新しくって、こちらが今の基準値になってきているのかな??よくわかんないや笑
個人的には一周以上回ってきたテイストというか、えげつなく濃い自主映画を一本観たような満足感がありました。と同時にストーリーから受けた衝撃に打ちのめされてしばし放心状態。…ですが、読み終わった後に冒頭のシーンに戻ることで、希望が用意されているところに救われます。
些細な言葉の誤用には目を瞑らせてくれるほど、それを凌駕するエピソードシーンの紡ぎ方が秀逸です。一つひとつのエピソードに静かな説得力があり、どれも視覚的なワンシーンとしてわたしの心に刻みつけられています。その作者の筆力に唸りました。特に凝った言葉を使っているわけではないし、文章に目立ったクセはありません。ましてや文字数を割いているわけでもないのに、人物それぞれの複雑な心境がじわじわと沁みてくる。エピソードと同じく、キャラクターたちの思いを繋ぎ合わせる作業を読者に委ねてくれるのも嬉しいです。そうすることでしか見えてこない物語の余白部分こそが、小説を読む醍醐味ですから。個人的には濡れ場のシーンも素晴らしかった…。昏く退廃的なエロティシズムに溢れていて、どの交わりも何ひとつ物語から逸れるものが一切ない。
人の生死が関わってくるお話ですし、一部年齢設定が低過ぎるきらいがあるので、ほんと、地雷の方は興味本位で読まないでくださいね。フリじゃないですから。本気です!!
以下余談 *・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*
2019年ちるちる企画「腐っても不朽の名作100選」に参加した時に、ふゆの仁子先生の『深海魚たちのうた』を候補の一つとして回答させていただいたことがあります。本作を読了後、ふと思い出したのが、わたしの思うまさにその不朽の名作でした。もしかしたら、この作品が令和の名作としてどなたかの心に刺さることがあるのかも…、いや、是非なって欲しい!!と思わず願ってしまいました。同じ嗜好を分かち合える人だけに読んでいただきたい、宝物のような作品です。