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hako no naka
本作品は、私が木原音瀬さんという作家にはまるきっかけになったものですが、一度しか読めていませんでした。私の中では、揺るがない一番の傑作であるにもかかわらず、人の弱さ悲しみがあまりに濃密で、読み返すには覚悟が必要で。でも、ドラマCDが発売される前に、思い切って読み返してみることにしました。
堂野崇文は痴漢の冤罪で服役しますが、家族に愛されて育った真面目で普通の感覚を持った男です。刑務所での過酷な生活に苦しむ堂野を助けたのが、喜多川圭。口数の少ない喜多川は、殺人の罪で9年間も服役しており、人間関係は取引だと考える、普通ではない男。
助けてくれる喜多川に何か返したくて、堂野は喜多川に本を読む楽しさと友人としての情を教えようとします。しかし、それは喜多川に堂野への恋情を生み出し、やがて喜多川は強引に体の関係に及んでしまいます。
喜多川に、会えない寂しさと刑務所での生活が不自由だと気づかせた堂野は、残酷なのかもしれません。しかし、もともと喜多川の中には情があり、堂野はそれに気づかせただけなのではないか。種に水をやっただけなのではないかと思えてなりません。家族が元同房の男に詐欺にあい狂わんばかりに苦しむ堂野の頭を撫でて慰めたり、堂野の好きな食べ物を監督官の目を盗んで皿に乗せたり、風邪薬を分けてくれたり。喜多川の振る舞いには、取引だけでは説明のつかない優しさが感じられます。
出所した喜多川が探偵をつかって何年も堂野を探し、やっと消息をつかんだとき、震えながら「神様…」と呟く場面に熱いものがこみ上げてしまいました。母親の言うまま殺人の罪をかぶり、情の何たるかも知らなかった男が、堂野に再会できる喜びに絞り出した言葉。人はこんなにも変われるものなのか。喜多川の堂野への想いが、この一言に凝縮されていると思いました。
喜多川にそんなにも大きな足跡を残した堂野は、喜多川の出所の日に会いに行きませんでした。喜多川に会いたいと思う気持ちが何なのか分からないまま、関係を切ることを選びます。堂野は優しいけれど、弱いのですね。二人の想いの差が、とても悲しいです。
弱い男がもう一人。喜多川に頼まれて堂野を探す探偵・大江。彼は堂野探しの困難さと金欲しさから、喜多川に詐欺を働きますが、喜多川・堂野と同房だった芝に見抜かれ、死に物狂いで堂野を探すことになります。
大江がもっともらしい理屈で自分を正当化するのが、哀れで滑稽でした。でも大江は、喜多川の画才を見抜いたり、少ない手掛かりで堂野にたどり着いたりと洞察力は鋭いし、勉強意欲の低い娘に働いた方がいいと言ったり、まともな感覚の持ち主でもあります。詐欺をはたらいたのは娘の学費のためだったのですが、堂野探しに必死になったために家庭は崩壊。幸せになるのは本当に難しいとしみじみ思いました。
刑務所の面々、詐欺探偵、そして堂野と喜多川。きれいごとでない感情は複雑な読後感を残しますが、人間の真の姿を見るようで、なんだかほっとする気もするのです。
次巻は、本作以上の熱量で、愛とは幸せとは何かと、問いかけてきます。結末を知っていても、本を持つ手が震えるようです。
普段芥川賞作家より直木賞作家の本を愛読している者ですが、BL界の芥川賞と名高い本作は圧巻の読み応えでした。予想外に所々泣かされました。意外だったのは、冤罪はテーマでは無かった事です。そちらに重きは置かれていません。妙齢な男同士の風変わりなラブストーリーがテーマです。「妙齢」な所がポイントです。
この巻では、刑務所内での喜多川と堂野の二人の出会いと親交が描かれた表題作の「箱の中」とその後の喜多川サイドの話を第三者(探偵)の視点で描かれた「脆弱な詐欺師」が収録されていました。
「箱の中」では、前半部分はBL小説という事を忘れるほど、淡々と刑務所内部の日常が写実されていて興味深く読み進めていたところ、途中からガッツリBL展開になり、恋愛部分も楽しめました。「箱の中」も充分面白かったのですが、個人的には「脆弱な詐欺師」がのプロット(構成)が秀逸だなーと思いました。文章に無駄が無いし、物語の運び方が計算し尽くされています。ダレる部分がありません。
「脆弱な詐欺師」では、 真相(堂野の居場所の手がかり)を求めるまでのすったもんだと泣かせる程の喜多川の純情が描かれていて、最後の1ページまで探偵や喜多川と同じ気分になってドキドキしながらページをめくりました。人の居場所を突き止めるだけで、ここまでスリリングな展開になるとは・・。それも堂野が世間で幸せとされている人生を確実に歩んでいる事が読者に伺えるだけに、喜多川と再会する事により起こりうる不穏な何かを想定するから、余計に真相に近づく事が怖くいんですよね。喜多川は怖いぐらいに真っ直ぐだしww作家さん実にストリーテラーだわ。芝の件もグッときました。
また喜多川と堂野の二人の間の二つの格差が物哀しかったです。一つ目は、バックグラウンドです。堂野は不幸にも冤罪で運悪く刑務所で短期間過ごす事になったという人災にみまわれたけれど、もともと家族の愛情の下で教育も受け職歴もあるので、刑務所を出てからも、社会的なブランク期間があったという事実は残れども、社会的に生きる術を知っているので、着実に社会復帰をし、世間的な幸せを掴んでいるのに対して、家族や過去の実績を持たない喜多川は、堂野探しを心の支えにして日々必死に働いて生きるしかない。
二つ目は、相手への想いの量です。喜多川の事について多少の気がかりはあっただろうものの、この五年の間、喜多川の出所日にも会いに行かず、新たな人生を選択し、歩んでいる堂野に対し、堂野の事を一時も忘れず、堂野探しに貴重なお金と時間と自身の健康をも費やしてきた喜多川。この二人の格差が切なくって終始涙せずにいられませんでした。世の中知らない方が幸せな事は多いと思うけれども、突進する喜多川には世間の常識は通用しないです(笑)。物語の主人公は世間の常識をぶち破るから物語になるんですけれどねー。次巻でどういう終焉を迎えるのか非常に気になります。
久々に読む木原作品。
ずっとなんとなく手に取らないでいた本作ですが、ちょうど今は重いものを読みたい気分だったので挑戦してみました。
表題作の主人公(視点主)は受けの堂野。
痴漢の冤罪で服役することになった30歳で、ごくごく一般的な思考の持ち主です。
そして同時収録の『脆弱な詐欺師』は、本編攻めの喜多川が、先に出所した堂野を探す依頼をした探偵・大江が視点主となっています。
こちらには堂野は殆ど出ませんが、同房だったキャラの芝が印象深く登場していました。
本編は服役中の様子が、脆弱な〜の方は本編の6年後です。
本編でも怖いくらいに堂野へ執着していた喜多川の様子は変わらず、全財産つぎ込んでも探したいと探偵社を渡り歩いています。
親からはまともに養育されず、不幸な育ち方をしたためにコミュニケーション不全な喜多川。
そこへ自分の理解しがたい善人(堂野)が現れ、その光にあてられ雛の刷り込みのような現象が起きたと読んでいて感じられました。
本来ならば保護者へ寄せられるべき情であるのにそれを経験していない喜多川にはそうとわからず、執着するというのは恋愛的な好きということだと思ってしまったのでは。
個人的には堂野へそこまでの魅力を感じることができず、ただ特異な環境下で流された普通の男のようだなと思いました。
本編はともかく脆弱な〜を読んでいて特に感じたのは、第三者が視点主のせいなのと芝という悪を断罪する人間が登場するために、一般本でBLのL抜きで書かれ、こちらもBLだと認識せずに読んだらさらに面白かったのではということです。
BLとして執筆されているのですからそれは本末転倒なのかもしれませんが、ここまで普通のBL的萌えを表現されないならその方が個人的には良かったですね。
表題作は自分の萌えが迷子になりオロオロしましたが、脆弱な〜はすごく面白かった!
表題作だけだと萌えが見当たらないので中立で、脆弱な〜だけだと萌×2という感じなので評価は間をとりました。
障壁を乗り越えて辿り着く純愛、それが男同士だからこそ、カタルシスを得る事ができるのがBLならば、もしかしたらこれはBLとは言えないかもしれない。次巻の『檻の外』と合わせてひとつの物語である今作は、理屈でいえば充分BLなのだけど…BLという枠に収まらない。それは人間を描いているからなのでしょう。
木原さんの作品は総じて、BLの枠に収まらないと評される物が多い印象ですが、今作もまた然り。だって甘々でもなきゃキュンキュンでもなく、ニヤニヤしながら読ませてもくれないのです。今作では暴力的な場面は控えめですが、しんしんと降り積もる雪の如く痛みが胸に堆積していきます。
堂野は平凡で真面目で情がある普通の男として描かれており、冤罪という不幸に見舞われそれまでの生活が一変してしまいます。箱の中では自らの人生に関わる筈のなかった世界が否応なく彼を蝕み、次第に堂野は病んでいきます。そんな彼を献身的に世話をし支える喜多川。彼の存在で精神が安定するものの、次第に向けられる裏表のない真っ直ぐな好意に堂野は翻弄されていく…というのが大筋です。
平穏で普通の日常というのは何か特別でないものの象徴のようですが、普通というものこそ、努力の上に成り立っている。人間は無意識でも墜ちてはいけない場所を、取捨選択し『普通』という幸福を勝ち取って平凡に暮らしています。堂野は冤罪によって奪われてしまう訳で、なぜ自分だけがと絶望するのも無理はありません。
しかし、箱の中では皆同じで優劣はありません。正義を貫く事で支払った代償がとても大きい堂野は、頑固で優柔不断で、世間知らずで弱く愚かです。そういった人間の弱さや狡さを普通の堂野もしっかり持っている。けれどそんな普通だからこそ、喜多川は堂野に惹かれたのだろうと思います。
ギブアンドテイクでしか人間関係を築く術を知らなかった喜多川、堂野に利害を要せずそばにいる事を許され、人として当たり前に育む筈だったものを堂野から与えられます。これは喜多川の成長物語でもあるのです。
喜多川にとっては堂野との出会いは幸福でもあり、また不幸でもあったのではないでしょうか。彼もまた、箱の中を自らの場所とし不満もない日々を一変させられたのです。世界の中心が堂野になってしまい、想いが遂げられれば良いけれど、そうはなってくれません。直情的な喜多川の好意は病的で欲望に正直な恐ろしいものです。堂野が恐怖を抱くのもまた仕方のない事。
喜多川の出所日、堂野が選んだ選択肢は現状を考えれば自然で仕方の無い事なだけに、彼の涙は切なくて胸に迫ります。
『脆弱な詐欺師』では堂野を捜し続ける喜多川のその後が描かれていきます。ここでは、芝の立ち回りが重要な役割を果たしており、彼もまた喜多川という男に翻弄された人間の一人なのでしょう。自らの罪悪感を解消したいが為のようでそれだけではない。喜多川をマトモじゃないと言いながら助ける芝の情が、切なくも温かかったです。
堂野の居場所を知り、たまらず駆け出していく喜多川の無垢さが可愛くもあり恐怖でもあり胸に刺さります。
一方通行でも人を愛する喜びを知った喜多川にどこか救われる気もしたりしなかったり…
今作だけでは、読後スッキリはしませんが、『檻の外』まで一度は読んでもらいたい素晴らしい作品です。
木原さんの本はすごく覚悟して読むのですけど、毎回、予想を超えたヘビーさに胸をえぐらます。本当に人の弱さ、狡さ、闇のところを容赦なく突きつけられた上で、それだからこそ、愛の美しさや尊さを見せつけられます。すっごい読み応えで、感動しました。
個人的には、「美しいこと」よりはこちらの作品の方が好きでした。「美しいこと」は恋愛にとことん向き合うような内容でしたが、こちらは人生?に向き合うような内容だったなと思います。
最初から最後まで、これでもかと容赦がなかったですwww BLとしてのある種のファンタジー(あり得ないほど当たり前に同性が恋愛関係になれるご都合主義) なお約束に囚われない、しかも、素晴らしい文章と表現力。そこだけ見ると一般作品?ゲイ文学?という印象なのに、それを裏切り、しっかりとBL的に萌え萌えな同性の恋愛やエロ要素もある。色んな意味で極めてる贅沢な作品だと思います。
挿絵もイメージ通りでぴったりでした。
以下、ネタバレ注意
抽象的になってしまいましたが...。
前半にあたる「箱の中」は、囚人の喜多川と堂野の出会いから、出所後に喜多川が堂野を探しているところまで...。
2人が交流を深めるところはどきどきでした。少ない言葉のやりとりから、喜多川がなぜ堂野に惹かれていったかを察することができ、胸が痛かったです。喜多川は初めて無償で与えられる愛や好意があることを堂野に教えられて、それは、彼の根底を揺るがすものだったのでしょう。それを思うと、堂野の冤罪と懲役は(彼自身にとってどうであれ)無駄ではないように思ってしまいます。
個人的には、今巻クライマックスでの芝さんの活躍がかっこよかったですw なんか色々悲惨だったので、芝さんのタンカにスカッとした人は多いはず...w
「檻の外」でもそうなのですが、人は痛い目を見るまで何が大事か見えなかったりするものですね。なんだか、どの人の愚かさや弱さも、別に特殊なものではなく自分の中にあるものだと思わされます。そして、辛いところを通るからこそ、与えられた恵みに感謝できるのかもしれない...。(月並みな感想ですが)
喜多川の言葉でいちばん印象的だったところを抜粋します、
「ここ出たら 、あんたの恋人と話をしようと思うんだ 。あんたの恋人はあんたじゃなくてもいいかもしれないが 、俺はあんたじゃないと駄目だ 。絶対に駄目だ 」
喜多川は何ももってなかったからこそ、本当に自分にとって何がいちばん大事か知ってて、必死で手放さなかったのだろうと思いました。
最近ようやく作家買いを卒業し、数多おられる諸先生方の作品を乱読しようと思っていた矢先でしたが…どうやらハマってしまったようです、木原先生の魅力あふれる作品群に。ということで、次に読む作品はこの人気作をおいて他になく、手に取りました。
目次
・箱の中(受け視点)
・脆弱な詐欺師(探偵の大江視点)
・それからのちの(探偵の大江視点)
あらすじ
混んだ電車内で痴漢と間違われた堂野(受)。嘘でも罪を認めれば執行猶予がつきます。が、やってもいない罪を認めることが出来ず、正義を貫いたために強制わいせつ罪で実刑判決を受けます。収監された雑居房で、長いこと服役中の喜多川(攻)と出会います。堂野(受)は最初は喜多川(攻)のことを冷たい男と思っていました。次に優しいと、そして可哀想な男と思うようになり…。
堂野(受)は痴漢冤罪の被害者です。怖いですねー、痴漢冤罪。「この人痴漢です」と言われたら、99%有罪になると聞いたことがあります。今では大分社会の情勢も変化しつつあるようですが、この小説が発表された当時は今よりももっと厳しかったに違いありません。TVのニュース番組等でこの痴漢冤罪が特集されるたびに、女性で良かった、などと他人事のように捉えていた痴漢冤罪。この作品で、間違われた本人の気持ちになって考えてみましたが、改めて恐ろしいと感じました。
痴漢冤罪事件を無くすために、男性専用車両を導入してほしいとの申し入れがあるそうですが、是非導入して頂きたいものですね。女性専用車両だってあるのですから。ただ本当にそうなったらゲイの人は喜びそう (^^ゞ
堂野(受)と喜多川(攻)が親しくなったのは、堂野(受)が風邪を引いた際に風邪薬をくれたため。たかが風邪ですが、こういう場所で風邪を引くことがこれ程大変なものだとは想像もしませんでした。
刑務所は、受刑者たちがもう二度とこんなところに来たくないと反省し、自立更生を促す場所。ゆえに快適な場所であるはずがなく、それで良いんだと思っていました、今までは。でもこの作品を読んだとき、初めて受刑者の気持ちが手に取るように分かり、医務は週5日に増やして貰えないだろうか、などとBLとは関係のないことを願ってしまいました。
喜多川(攻)ですが、実に純朴で素直、正直で一途な男だなーと思いました。「堂野(受)を好き」と言う気持ちを隠すことなく、周りから茶化されても気にしない。堂野(受)を好きで、好きで、いつもくっついて離れない。なんて可愛いんだろうって愛しく思いました。それなのに堂野(受)の出所直前に懲罰を受け、独居房に入れられます。これを機に喜多川(攻)の長い、長い、堂野(受)探しの旅が始まるのです。
執着と言うのかな、私は喜多川(攻)を忍耐強く不屈の精神の持ち主と見ました。もちろん愛のなせる業ですが、堂野(受)を探すために必死になって働くんですよね。働いて、働いて、得たお金は全て堂野(受)探しに費やします。
「脆弱な詐欺師」で初登場の探偵の大江は、喜多川(攻)をカモに働かずしてお金をまんまとせしめます。大江視点のため大江の事情も良く分かり、決して悪い人ではないことが分かるのですが、やっていることは詐欺であり、犯罪です。
喜多川(攻)を助けるために一芝居打ち助けに入った芝さんが実に頼もしく、格好良かったです。
木原さんの作品なのでこれでもかというほど主人公を不幸にしますね…。でもBLとしてちゃんと萌えます。
1つどうしても納得いかなかったのが主人公の堂野が冤罪で刑務所に入るって点ですかね。冤罪である必要あるかなって。実際痴漢の冤罪なんてほとんど起こらない事なんだし、実際に性犯罪起こして刑務所入るでも良かったのでは。それだと刑務所で可哀想な目に合ってもあんまり胸が痛まなくて済みます(笑)。
喜多川の方も冤罪臭いんですよね。
木原さんの登場人物達に本当に容赦ないところは好きなのですが。
刑務所を出てからも喜多川はなかなか可哀想な目に合ってるんですが、可哀想萌えというか、弱っている喜多川にきゅんとしてしまいました…。
「箱の中」「檻の外」の堂野と喜多川を初めて目にしたのは「ergo」シリーズの四コマ(寸劇)でした。木原音瀬さんの作品でも評価が高く、ランキング常連の作品なので大雑把なあらすじは知っていたものの、「ergo」の二人はとてもほのぼのとしていて、過去に色んなことはあったのだろうけど今は幸せな二人…という感じだったので――ううっ…正直、小説は読みたくなかったのです。だって辛そうなんだもの。というか木原作品だから絶対に辛いんだもの。しかも二冊読まないと報われない感じなんでしょう?…ううっ。
そんな折、某号の「ダ・ヴィンチ」で「BL界の芥川賞」と称されていたのを目にして…これは読まねばと思って遂に手に取ったのでした。前置き長い。
上下巻とも言える二冊を通して、5つのエピソードが4人の視点で描かれています。…4人ですよ。2人じゃないんです。まずこの点に唸りました。読み応えがある…なんてもんじゃなかったです。読み始めに大きく深呼吸。読み終えて大きく深呼吸。色んな感情が渦巻いて叫び出したくなるような、誰かと滾々と語り合いたくなるような、そんな小説でした。
私は、これは喜多川圭という男の人生をトレースする物語だと思います。そして上下巻の上巻であるこの作品では、起承転結で言うと人生の「転」(転機)に当たるお話が描かれています。純粋にこの一冊だけだったら評価は「萌」かなと思いますが、上下巻合わせて「神」にします。
生きていく先に幸せがあるのか――。喜多川ほど一途になれたら…と少し彼が、そして堂野が羨ましくなりました。
前の方も書かれていますが、ぜひ『箱の中』、『檻の外』とそろえて、一気に読まれたほうがいいです。箱の中だけを読んで終わると、せつなすぎてつらいから!
攻の喜多川の純真無垢で一途に受を思う様は、読んでて胸がヒリヒリしました。早く幸せにしてあげて!という一心で読むのを止められませんでした。
私は、また読み返す本って今のところ少ないのですが、この本は読み終わった直後にまた読み返してしまうほど響きました。
おすすめです。
冒頭から心ごと持っていかれてしまって、もう最後までノンストップ。
これ以上読んだら展開的にヤバイ……次をめくるのが怖いと思いながらも、先を読まずにはいられない。
おそろしいほどの吸引力で、途中でページを閉じるのを許してくれません。
というくらい話がしっかりしていて面白かったです。
痴漢に間違われて服役している受と、ある理由から殺人罪で服役していた攻の、もう不器用すぎるくらいにせつない恋のお話でした。
今回は救いようのない感じで終わってしまっているので、これから読もうと考えている方は、必ず【檻の外】も用意していた方がいいと思います。
パンのエピソードに、鼻の奥がツンとしました。
一途に想い続ける攻がせつなすぎて、かなしすぎて。
読み応え抜群でした。
初めて木原音瀬先生の本を読んだのが、この作品でした。
全身に衝撃が走り抜け
開いた口が塞がらなかった。
同性の男に対して、こんなに愛おしく思ったことなんて今までに一度もなかったです。
しかも架空の本の中の男に対して…。
人を愛するということが、木原先生の作品を読むと
常に考えさせられてしまいます。
涙が止まらないし、
愛おしいし、俺の心の中に侵食していくんです物語が…。
物凄い影響を受け、
愛してやまない一冊です。
この本と出会えて本当に良かったです。
感動もたくさんありますが、何よりめちゃくちゃ面白かった!
初めて読んだ木原作品が”趣味じゃない”評価だったので、おっかなびっくり手にした作品だったのですが、物凄く入り込んでしまいました。
堂野と喜多川に心臓を鷲づみにされて夢中になったし、堂野に共感できてしまったことが神評価に繋がったと思います。
堂野は良くも悪くも普通の人なのかなと思いました。
喜多川を受け入れられる器なんか持っていないのに、中途半端に受け入れてしまう情は持ってる。
もちろん心が弱り切っていたという状況もあると思いますが。
その中途半端さや宙ぶらりんな態度に共感できてしまって、どうしても堂野を責めることができませんでした。
アクセル(愛情)とブレーキ(迷いとか恐怖)が同時にかかってるような状態は、前には進まないんですよね…
どうにもできない堂野が歯がゆくもありますが、優柔不断になってしまう部分は人事ではなくだいぶ心を抉られました。
喜多川の人物描写はもの凄く衝撃的でした。
自我や社会性がすっぽり抜け落ちたまま、経験だけベトッと乗せられたような人物に感じます。
特に、初めて愛を知った喜びが無邪気で残酷でとても引き付けられました。
到底社会にうまく溶け込めるとは思えないんだけど、喜多川の存在自体に感じる感動も半端ないです。
幸せになってほしいという気持ちしかでてこない。
堂野を探し続ける一途さ(執着性)や、居場所を突き止めたラストの描写は言葉になりません。
喜多川にとってこの巻は、紛れもなくハッピーエンドなんですよね。そこがめちゃくちゃ切なかったです。
堂野と喜多川の着地点が気になって気になって、これから「檻の外」を読みますが徹夜になってしまいそうな予感がしてとても怖いです。
すでにたくさんの素晴らしいレビューがある中に今更私なんぞが書き込むのもおこがましいのですが、あまりに素晴らしい作品だったので賛辞を贈りたくて。
木原作品は好きだし評価も高いし期待が大きすぎてもしも裏切られたらとの心配と、きっと名作だろうから心して読まねばとの気負いから、購入後数か月読むことができませんでした。
やっと読んでみたら、まったく期待を裏切らないばかりか評価以上かと思われるほどの出来栄えで、満足感でいっぱいになりました。
木原作品は人間の弱さや醜さを肯定したうえで目を背けない。物語にとって都合のいい方向に人物を動かすのではなく、それぞれのキャラクターがちゃんと考えて動いていくから、先が読めない。その前提で作品世界の神である木原さんは運命のいたずらのように容赦なく試練を与えていく。そこが面白いところだと思います。話をBL的に簡単にまとめようとはしないところが、本当に好きです。
誰にでもいいところと悪いところがあるという本当に当たり前のことなんですが、それをちゃんと感じさせてくれます。堂野は正義漢かもしれませんが
一方で世渡り下手でもあり、自分の正義のために家族を巻き込んだことで苦しみます。人を疑わないことは善良ではありますが、そのせいでさらに家族に追い打ちをかけることもあるのは現実ではこれも当たり前のことで、道徳的であることが本当に正しいことなのかどうかを投げかけます。見方によっては堂野はただの生ぬるい世間知らずとも言え、そこだけ取ってみるとまるで善良であるのは愚かなことであるようにも見えます。
しかし、そんな堂野の善良さを愛する喜多川に救われていきます。大切にしてきた正義や善良さを信じられなくなった堂野のアイデンティティを喜多川は尊いものとして盲目的に愛する。
途中、堂野が喜多川にそばにいてくれてありがとうと言います。喜多川は自分は何もしていないと言う。堂野は何もしなくていいのだと言います。納得のいかない喜多川に堂野は苦笑します。
その以前には、なぜ自分に親切にするのかと問う堂野に、喜多川はありがとうと言われるのが気持ちいいからだと答え、自分の好意に対して礼を言うことを要求します。違和感をおぼえた堂野はやはり苦笑します。
そして、喜多川に情を教えてあげたいと思い、堂野の愛情はそこから始まっていきます。
この作品が素晴らしいのは、堂野と喜多川の間で交わされる愛が一つの種類ではなく複雑に絡み合っているところだと思います。犯罪、冤罪、善悪、そういったものの使い方も巧みなのですが、一番物語に深みを与えているのは愛とひとくくりにされる多様な思いの機微を丁寧に、でも決して見せつけることなく綴っている部分だと思いました。
本当に素晴らしい作品だと思います。
とりあえずこの作品を読むにあたり、理解しておくべき点があります。
それは、この小説の世界が「BLを寛大に受け入れる世界ではない」ということです。
BL作品でよくあるのは、「男を簡単に好きになれる」「男同士で付き合っても周りから許させる」という世界です。
しかし現実の世界ではどうでしょう。
例えば男A(ゲイでもノンケでもいいが)が男B(ノンケ)に告白したところで、その人はAを受け入れるでしょうか?
ノンケが実生活において、男の人を見て
トゥンク…
「(な、なんだ…このドキドキは…)」
と顔を赤くして考え込むことはほぼありえません。
男が男を好きになるということは難しいことなのです。
この小説は、その現実世界のような感覚です。
その為、「男でも好きだ、付き合ってくれ!」「お、俺でいいのかよ…///」という甘い流れはありません。
そこはきちんと把握しておかないと、読んだときに「なんだこの受け…」とイライラすることになってしまうでしょう。
そして次に大切なこと、
それはジャンルについてです。
先程言ったように、これは「甘々♡」を期待して読む作品ではありません。
(むしろ結構シリアスな内容…w)
”男同士”をよく意識したうえで成り立つ物語です。
内容としては「BL小説」というよりは「小説(一般の小説)」寄りになっています。
その為、BLとは離れたことも多く書かれていますので「BLじゃない…」と感じてしまう方もいるようです。
しかし、この作品において議論すべきなのはそこではありません。
ネタバレは控えたいので詳しくは書きませんが、この小説を続編も含め最後まで読んだとき、感想は二つに分かれるでしょう。
簡単に言うと「好き」と「嫌い」です。
そんなのどの作品でもそうじゃん、と思うでしょうが、私が言いたいのはそうではありません。
ストーリー展開において、個人によってよりはっきり分かれるようなのです。
私は「好き」の方だったのでこの★5の評価なのですが、
「嫌い」だと思う方もでてしまうことには仕方ないと思うストーリーだと思います。
デリケートな内容を扱っていますので…。
なので、購入を考えている人は、とにかく実際に読んでみると良いと思います。
そして、読んでみて「嫌い」と感じてしまう可能性もある、ということも理解しておきましょう。
今までに言ったことをきちんと理解し、勘違いしたまま読むなんてことがなければ、
色々考えさせられる作品となるでしょう。(良い意味でも悪い意味でも)
問題なのは、読んだあなたが「好き」か「嫌い」、どう受け止めるかなのです。
文章(表現)がとてもうまい方なので、文章が微妙だったら…ということは心配しなくて良いです。
(BL小説という枠を超えて文庫本としても発売しているくらいなので…)
「好き」だと思えた方には”最高な作品”として自分のなかに残ることでしょう。
私は泣いて泣いて…とにかく泣いて大変でした。
そして後編である『檻の外』を最後まで読んだ時、
なんとも言えない‥‥とにかく心が温かい……最高…
と放心状態になることでしょう。
あなたにとってどういう作品になるのかはわかりませんが、
私と同じように「素敵な作品だ」と思えたらいいなと願っています。
う~ん。
これはボーイズラブなの??
一言で言いますと、全然面白くない。
好きになる瞬間、好きだと気づくときって、
ほんとうに単純なのは分かりますけど、
なんか軽いんですよね。
もっと強い何かが欲しかった。
それこそ「分かる!」って思えるほど、共感できるようなものが。
なんで頭なでようと思ったのかも謎ですし。
喜多川の堂野に対する愛情表現も、
インパクトが欲しかったんでしょうけど、
イマイチでした。中途半端でした。
房のなかでのセックス、エッチも、
とってつけたような。
ここしかないからとりあえず書いとこうみたいな。
そんなんじゃないのは分かてますよ!!
でも、わざわざあそこでする意味あったのかい???
とにかく喜多川のキャラクターが定まってないように感じました。
きちんとした教育を受けていないにも関わらず、
変な知恵はあったり。
なんかテキトウだなって思いました。
その点堂野については完璧だと思いますけど・・・
う~ん。
木原さんの作品だってことで期待しすぎたかな・・・という印象。
で。
「脆弱な詐欺師」
ギブアップ!!
途中までがんばって読みましたが、
もう無理。
とにかく、この話いる?!w
必要?!
檻の外でどうなるのか、気になりますけど、
早く読みたい!って思うほどじゃないね。
凄い酷評ですけど、
私感ですからね!鵜呑みにしないで、是非買って読んでくださいね☆
ちょっと重い話ですけど十分楽しめますよ。
私は胡麻豆腐さんのこのレビューを読んで、すごいなぁ、と感動しました。
この作品、私にとっては『神』作品なのですが。
見方が変われば『趣味じゃない』になる。
すごく正直で素直なレビューに感激しました。
またいつか、胡麻豆腐さんのパンチのきいたレビューが是非読みたいです。
痴漢と間違われ逮捕されてしまった堂野崇文は、無罪を訴え続けて最高裁まで争い、そのことが仇となり、実刑判決を受け刑務所に入れられてしまいます。
被害に遭った女性が間違えて堂野を訴えるのはなんとなくわかる。でも、それを見ていた証人がいたりして・・・。
その証人は、ただの通りすがりなのに、そして、冤罪ということは、そんなことをしていないのに「私も見ました」的な証言。
その後の取り調べや「罪を認めてしまった方が早く解放されるし罪も軽くなる」という現実。
けれど、やってもいないことを認められない。そのため「反省が見えない」ということで執行猶予なしの実刑判決。
入った雑居房で犯罪者達に囲まれた生活。
普通の人だった堂野が精神的に追い込まれていく過程がすごくリアルでした。
そんな刑務所の中で堂野が出会った喜多川圭。
喜多川は、19歳で殺人を犯し、すでに10年近く服役しています。
誰からも親からさえも愛情を受けられなかった喜多川は、精神的にとても未熟です。
そんな喜多川にはじめて生まれた人間らしい感情はまっすぐ堂野に向かっていきます。
刑務所という特殊な環境のなかで、近づく距離、それに流される堂野。
喜多川が堂野に抱く感情は狂気をはらんでいてとても怖い。
堂野が先に刑期を終え出所します。
出所する際に堂野は、雑居房の芝に喜多川への言伝を頼もうとします。
しかし、芝から諭され、堂野自身思い切ることができず、何も伝えないまま出所していきます。
そして、喜多川の刑が終わる日に・・・堂野は、迎えに行こうと思い・・・けれどそれを行動に起こすことのないままその一日が過ぎる。
切なく、でもどうすることもできない現実を強く感じるシーンでした。
そして、喜多川が出所したあと、堂野を探している過程で出会う「脆弱な詐欺師」探偵の大江。
大江は、しがない探偵で、妻と娘がいるのですが、娘の大学進学を控えて家族間はギクシャクしています。
とにかくお金が必要・・・そう、大学に通わせるにはけっこうな大金が必要で、けど、勉強する気持ちがないなら「働けば」と思う大江に対して妻は「大学くらい行かせてあげなければ可哀想」真っ向対決です。
そんな頃、大江は喜多川に会います。
「金は払うから探して欲しい」
喜多川は出所してから5年、ずっと堂野を探し続けていました。
大江に会う前も何人か探偵に頼んでいますが、すべて断られ続けます。手かがりが少ない
のです。
大江も本来なら断らなければならない依頼でした。
しかし、お金欲しさに大江は、喜多川をだまします。
前科のある喜多川にとって大江に払う依頼費は大金でした。
大江にだまされているとも知らずに大金をつぎ込む喜多川を見るに見かねた芝が今度は逆に大江を脅します。
「堂野を探せ、探し見つけなければ喜多川から金をだまし取ったことを世間に公表する」と・・・。
自分の生活が壊れることをおそれた大江は必死に堂野を探します。
そして、大江は、堂野を見つけ、喜多川に堂野を見失った公園周辺の地図を渡します。
その地図を握りしめる喜多川・・・。
芝も約束通り堂野を見つけてきた大江を放免します。
ホッとする大江・・・けれど、そんな大江を待っていたのは、妻からの離婚届。
妻は娘を連れて家を出て行ってしまっていました。
大江が罪を犯してまで手に入れたかったもの守りたかったものはなんだったのでしょう。
人の狡さとか弱さを突きつけられる作品でした。
喜多川は、堂野への手がかりを手に入れました。
出所後の喜多川の側に芝がいて良かったと思いました。
けれど、芝は、喜多川と堂野の関係を応援しているわけではありません。
喜多川が堂野をあきらめて自分の人生を生きるようにと思っているし、実際に喜多川に何度もそのことを伝えます。
けれど、喜多川には、堂野しかいないのです。
会わなければ、終わらない・・・。
この物語は「檻の外」へと続きます。
※ まずはじめに。
本の内容をお知りになりたい、もしくは感動を共有したいという方は、
どうぞ他のレビューをご覧ください。
冤罪で刑務所に入れられた、堂野は、
自分や家族の未来を台無しにした人たちのことをきっと、本当に酷い、許せない、と思ったはず。
そんな堂野が、今度は喜多川の未来を踏みつける……わたしにはそう思えてなりませんでした。
喜多川に心底辛い時に支えられ、感謝する気持ちがあるのに、助けてやりたいとも思っているのに、
真の意味で彼のことを考えてあげられない。
他人よりも、結局は自分の方が大事。
不都合なことはあまり深く考えないようにして、状況に流される。
どれも人として普通のことで、慣れない刑務所内で大きなストレスを抱えた状況なら、
尚のこと当然なのかもしれません。
頭ではそう思っても心が掻き毟られて、どうしても悪感情が拭えない自分がいました。
「どうして俺にありがとうって言うの?」
きっと無表情でその言葉を述べたであろう、そんな喜多川に、堂野はどうして……?
自分を大切にしてくれなかった母親のために、殺人者にもなれる喜多川。
その母親よりも堂野のほうが「いい」「愛してる」と言う。
そんな喜多川が、自分とのどんな未来を切望しているのかも、堂野はよく分かっていた。
それでいて、
喜多川の想いには応えてあげられないと思いつつ、でも、何とかしてやりたいと思う。
嫌だと言いながらも、結局は受け入れて、慣れる。
「ここにいる間だけ」という約束で、少しぐらいは…という自分の気持ちを満たす。
喜多川のエスカレートしていく行動は、
堂野のその“ちょっとなら”と流されていく気持ちの後に、いつも起きているように思うのです。
ちゃんと受け入れる気がないのに、中途半端に手を差し伸べるのは、優しさ? それとも、残酷?
得られるはずだった未来を台無しにするのと、初めて見た未来への夢を台無しにするのと、
どちらがどれほどマシなのでしょう。
無色だった喜多川の未来図に、色がつき、それが美しくも切ない。
そしてその未来図が、色の素晴らしさを教えた本人によって捨てられる、現実。
決して堂野を悪者にせずに、その現実でもがく喜多川。
「酷い、許せない」というわたしの想いは行き場を失い、
この本一冊だけではとても消化しきれませんでした。
先日、この『箱の中』と続編『檻の外』が収録された決定版が一般書として文庫化されました。そちらの方で、一般書としての『箱の中』について書かせてもらったので、ここでは収録されなかった短編・番外編を含め、作品自体について書きます。
BL好きで、この作品をまったく読んだことがないという方は、ノベルス版で読むことをオススメします。2冊買うことになりますが、文庫版に収録されていない短編がとても重要になるので。
それでは本題。
10代で殺人罪を犯した囚人・喜多川と、彼の雑居房にやってきた痴漢の冤罪で実刑を受けた不遇の男、堂野。
この二人の出会いからはじまる「真実の愛とはなにか」を極限まで突き詰めたような物語。
泣きます。
号泣します。
涙なくしてはぜったい読めない。
号泣、という表現をつかうほど読書で泣くことってそうそうないですが、まさかBL作品でこんなに泣くとは思いませんでした。
それは、『冤罪』という屈辱を受けながら「死」を望むほどの理不尽な境遇に身をおく男の絶望感や、
同じ箱の中にいながらも、「自由を知らないから不自由と思えない」子供のような男がもつアンバランスな純粋さが、ありのまま淡々と描かれているからだと思います。
無駄に美化することも、逆に悲惨さぶることもなく綴られた文章は、刑務所という閉塞的で、規律と嘘と理不尽さにあふれた箱の中を表現するのに相応しい。
物語の前半、読者は堂野の不遇な運命に最大級の絶望感を感じます。
ただでさえ冤罪なのに、金を騙し取られ、懲罰を受け、風邪で死にかけ、人間不信に陥ります。堂野の身に起きることはすべて不幸、どこをみても同情するしかなくて、読んでるこちらも辛くてしかたありません。
「もうやめてあげて…」となんど願ったことか。
だけど、この底辺の底の底に落ちていく苦しみがあるからこそ、その後の喜多川とのぎこちないやり取りが胸を締め付けるほど切なく、温かいものに感じるのです。
喜多川は、親の愛を知らずに育った男でした。
親戚や施設を転々とし、大した教育も受けておらず10代で収監された。だから、物事を知らない。善悪もわからない。常識やモラルなんてもってのほかです。
だけど、それは知らないだけで、頭が悪いというわけではない。
「ありがとう」という言葉をもらう喜びを知り、それがほしくて堂野の世話を焼く。
そんな男の思考回路を知った堂野が、打てば響くが、精神的な「心」の部分で未成熟な喜多川に物を教えたくなるのは無理もないことです。
絶望感に取り付かれていた堂野を救ったのはそんな喜多川の存在でした。
感情を捨て思考を放棄し、言われたことをただ行う平穏をよしとしてきた喜多川が、人間らしい感情を覚え変化していく様は圧巻です。
そして、喜多川にとっても、この世のどこにも見たことがない誠実で真面目で優しい堂野という男は、生きる希望のような存在になっていきます。
大人はいろいろ複雑に物事を考えるけど、子供はまっすぐで単純です。
そんな子供のように純粋で、ストレートな思考で、恥もプライドもなく一生懸命に愛を伝える喜多川の姿は、痛々しくなるくらい必死で、涙がでてきます。
ノンケである堂野が戸惑うのをよそに、喜多川が愛していると囁いたときから、この物語は「ひたすら一途でひたむきな不変の愛」を描いた苦しく長い試練の話へと変わっていきます。
『箱の中』では、喜多川の愛は堂野に拒絶された形で終わります。
■脆弱な詐欺師
喜多川が出所後、堂野の行方を探す話。
ただ会いたい、という願いのために出所後、4年以上の歳月をかけて堂野を探し続ける喜多川。
そんな彼を騙してお金を稼ごうという小悪党な探偵、大江。
物語は彼の視点で描かれています。
第3者である大江の目を通して客観的に喜多川を描くことで、常識を超えた愛の深さが一層際立つわけです。
そして、給料の全て、生活の全てを堂野探しに費やす姿は、痛々しいほどなのに、当の喜多川が「気にするな」と平然としているのでたまらない気持ちになります。
『箱の中』で名脇役を演じた芝というキャラの計らいもあり、ついに堂野発見に至ります。
たまたま大江の悪事を知った芝が、何も気づいていない喜多川のために一肌脱ぐのですが、そんな芝の真の思惑を大江にだけ伝える場面がまた涙を誘います。
信頼している人間に裏切られるのは、しんどい。
…最後まで、大江を親切な探偵だと信じていた喜多川を守り通してくれた芝の優しさに誰を代弁するわけでもないですが「ありがとう!」と言ってしまうくらいグッときます。
■それから、のちの… (※文庫版、未収録)
大江中心の数ページの短編。
大江が後輩の探偵に告白されるエピソードを通し、うまくいかない現実の辛さを描いた話。
もともと監獄物が好きです。
ガッツリ刑務所を扱ったBLは、英田サキの『DEADLOCK』シリーズや、定広美香の『アンダーグラウンドホテル』などがありますが、どちらも外国が舞台です。
日本の刑務所を舞台にし、しかもここまで本格的に刑務所内を描いた作品ははじめてです。
架空のお話とは思えないほど作りこまれた人物たち。
手に取るように伝わってくる感情表現。
向き合うことを避けがちな「真実の愛」というものをとことん追求する気概。
これだけのものを描ける作家さんがいることに、そんな作品と出会わせてくれたBLという世界に、感謝したいと心から思った名作です。
《個人的 好感度》
★★★★★ :ストーリー
★★★★★ :エロス
★★★★★ :キャラ
★★★★★ :設定/シチュ
★★★★★ :構成
被害者が無罪と解る視点で進んでいき、
警察の取調べを受けるシーンはストレスを
感じずにはいられなくて、すぐチャンネルをまわした。
現実にも有罪になり、罪によっては死刑になってしまった
人もいたのだろうな、とか自分や身内、友人が被害にあったら、
と改めて考えると恐ろしいです。
育った環境が人を作り、それをもとに
新たな環境を作っていったりしますが
非常識な環境の、影響を受けた人間の
言動や行動は良くも悪くも、せつなくて
胸につまるものがありました。
箱の中は、さまざまな情や冤罪以外にも
虐待や、育児放棄など問題視されている内容も含まれています。
個人的には木原ワールドに嵌っているので満足しました。
が、生々しいお話なので人によって賛否は分かれると思います。
メディアでも問題として取り上げられている『冤罪』
深く考えさせられました。
なにもしていないのに、ある日突然犯罪者になり、有罪判決を受け、自由の欠片もなければ人権すらないような刑務所へ……
それだけでなく、犯罪者のレッテルを貼られ自分自身だけでなく家族まで苦しめてしまう、なにもしていないのに。
その恐ろしさを軽く考えていました。
そして、喜多川の愛に色んな意味でゾッとした。
まともな教育もまともな生活もまともな愛情も受けることが出来ずに育った大きな子ども、
そんななかで唯一自分を褒めたり叱ったりしてくれた。
喜多川の愛は友情とか家族とか恋愛とか、そんな枠組みなんてどうでもよくて、そんなもの無いに等しい。
ひたすらに愛しい、それだけ。そんなあまりにも一途で純粋な愛にゾッとした。
そして、さすが木原音瀬とも言える。
喜多川の愛を一心に受ける堂野はいたって普通の男で、とくに男前な訳でなく、かといって人として特別優れた所があるわけでもない。言うなれば「お人好し」
そんな二人、刑務所から出た後どうなるのか…、
気になって気になって……どうして私の手元に『檻の外』が無いのか…っ!!
「脆弱な詐欺師」もなかなかでした…、木原さんえげつない。
大した悪人がいるわけではない所がもどかしくもあり、しかしだからこそリアルである。
個人的に大江さんのストーリーが読んでみたかったり…。
あぁ、早く続きが読みたい!
まずタイトルが好き。「箱の中」「箱の外」シンプルだけど内容もよく表現していて凄く良いタイトルだと思う。
最初読んだ感想は、とりあえず何より「冤罪怖えええええええ!!!!」でした。
思いもよらない痴漢の冤罪でみるみる内に刑務所の中に。
自分は女性だからまあ痴漢冤罪はきっと無いだろうけど、これって世の中の男性にとっては他人事じゃないというかいつ何かの拍子で人生がここまでもろくも狂ってしまうという事の描写が先ずは何より怖かったです。
罪を犯して刑務所に居るなら諦めもつくけれど、堂野の場合はそうじゃない。
そのぶつけようのない怒りと哀しみと絶望感の書かれ方が見事でした。
そんな中で、堂野は一風変わった男、喜多川と出会うのですね。
不器用なのか純粋なのかひたむきに堂野を求める喜多川は実に興味深い人物で、そしてストーリーもじっくり読ませます。
BL部分を希薄にしたら一般小説でも十分通用する面白さと、冤罪の怖さを描いた一作。
最も思入れが強いBL作品。
冤罪で実刑を受けた堂野が、刑務所という特殊な状況下で出会った喜多川との、束の間の恋愛です。
冤罪なのに服役しなければならない堂野の心情につまされますが、それ以上に喜多川という男に引き込まれました。
その純粋ゆえの恐ろしさに。
恵まれない生い立ちの喜多川。
それでも思うのは、堂野に出会うまで喜多川は不幸ではなかったということです。もちろん堂野が同情したように他の人間から見れば哀れな人生。
でも幸せだと感じる感情はとても相対的で、辛い事を知らなければ幸せを実感できないように、幸福感を知らない喜多川にとっては、世間的に不幸なその境遇ですらただの「現実」であり、日常なんです。
でも喜多川は堂野に出会ってしまった。
見返りなく「ありがとう」と言ってもらえる戸惑いと喜び、褒めてもらえる誇らしさ、他人が自分に笑いかけてくれる面映さ、優しくされる快感。本当なら様々な人から受け取るはずの、堂野からのそうした小さな善意。
それが積み重なり、いつしか幸福感=堂野という図式が喜多川の中で出来上がってしまいます。
これは二人にとって悲劇でしかありません。
堂野にとっては一時的な情でも、愛情に種類があることさえ知らない喜多川にとっては、堂野への好意が全てであり唯一絶対のもの。
この決定的なズレが、喜多川には分からないのです。
家族、友人、知人、そして恋人。
本来はそうした存在へ分散されるはずの愛情が全て、たった一人の人間に向かっていく。それも凄まじい純度で…。
どう考えても堂野には、物理的にも精神的にもその愛情を受け止めるだけのキャパが無いのに、気持ちを止められない喜多川。
そんな二人の気持ちのアンバランスさが、不毛で悲しい。
なまじその辺のホラーを読むよりも、喜多川の堂野への飽くなき渇望に、言葉にできない恐怖を感じました。
でも、喜多川にとっても悪夢だったんだろうなあ。
ただの「現実」でしかなかった自分の境遇が、堂野を失って初めて堪え難い苦痛になる。それはもしかしたら孤独なのかなあ。
箱のような小さな部屋で育った喜多川は、例え大人になってもその箱の中にいる子供のままだったんじゃないかなあと思います。
そしてその箱の中にやってきた堂野。
箱の中(刑務所)という意味もあるだろうけど、タイトルにはそんな意味も込められているんじゃないかなとか勝手に推測してます。
出所して6年後の喜多川の様子が、第三者を通して語られる2話目。
この主人公の小悪党ぶりの匙加減が絶妙で、読みごたえ抜群です。
後書き代わりの「それから、のちの…」の追い討ちをかけるような補足には、思わず苦笑が漏れたけど。容赦ねぇ。
そして言いたいことは一つです。
続刊「檻の外」を手元に用意して読んで下さい。
辛い話だけど、絶対処分できない一冊です。
痴漢の冤罪で訴えられ、罪を認めなかったせいで実刑を受けた堂野が、刑務所の中で出会った無口な男喜多川。
小さな箱のような部屋に閉じこめられてまともな愛情を受けずに育った喜多川は、他の受刑者とは違う堂野になつき、次第に強く惹かれていきます。
他には何もいらない、堂野だけがほしい。
衆人環視のなかでの強姦におよんだりもします。
そんな喜多川に困惑しながらも、堂野は彼を振り切れない。穏やかで優しい男でした。
書き下ろしの「脆弱な詐欺師」は、先に出所した堂野を探すために、生活と収入のすべてを私立探偵につぎ込む喜多川を、金だけ巻き上げようとする探偵視点で描いています。
だまされていることにまったく気づかずに、自分はカビのはえたパンの耳をかじりながら堂野をさがそうとする喜多川の一途さが悲しく、だからラスト近くの、堂野を見つけた詐欺師に対する「今日から俺の神さまはあんただ」という喜多川の言葉から、彼の喜びが伝わってきて泣けました。
私はミステリー好きでミステリーもよく読むのですが、これはBLなんでしょうか??
木原さんの作品は恋愛物であってもミステリー的だな~とは思っていましたが。
普通の人である堂野がチカンの冤罪で刑務所に送られ、更に騙され酷いめにあう理不尽さに怒りと悲しみ、、そして恐ろしさを感じます。
この話の何処にBL的展開が?と思いながら読み進めましたよ。
そして、愛や恋どころか人としての情緒に欠けている子供の様な喜多川。
喜多川の親はネグレストだったのです。
普通というものが解からない喜多川の不憫さに涙がブワッと溢れてしまいました。
刑務所を先に出た堂野を探し続ける喜多川は痛々しくもあり、恐ろしい。
堂野を見つけたらどうなってしまうのだろう?見つけないほうがいいんじゃないか?
そして、、、堂野の行方がわかったところで「箱の外」へ。
これセットで買ってから読むことをお勧めします。
続き気になって眠れませんよ。
正直、萌えるかどうかといったら萌えないし、エロシーンもエロというよりは生々しく不快感を感じるほど。
刑務所の描写も読んでいて、本当に殺伐とした気分にさせられます。
辛いシーンが続き、胸が痛くなります。
同じ刑務所ものでも英田サキさんの「DEADROCK」シリーズとはえらい空気が違うよ。
先の読めない展開にハラハラしながら、木原さんの筆力に最後まで一気に読んでしまいます。
昨夜一気に読みきりましたが。。。
最初から最後まで、心が悲鳴を上げていました。
すべてが辛すぎるよ。。。
今まで、木原作品でいろんな痛みを経験しましたが
また新たな痛みでした。。。
痴漢の冤罪で、最後まで無実を訴えたばかりに実刑判決を受けた堂野が
やり場のない怒りを抱える気持ちが痛いほどわかるし
きちんと相手を確かめなかった痴漢の被害女性や
大して調べもせずにどうののことを犯人と決め付けた警察に
心のそこから憤りを覚えつつ、手を震わせながら読みましたよ。
一方の喜多川も
家族からの愛情を与えられないで育っただけではなく
ろくでもない母親のせいで刑務所に入ることになって
それでもその事実に気付けない中身の幼さや
その分ストレートな感情表現なんかを見てると
かなり上から目線だけど「憐れ」過ぎてきつかった。
だから、喜多川が堂野に異常なまでの執着を見せてべたべたする様子も
なんだかんだいいつつも喜多川に流されてる堂野の様子も
まるで「つかの間の幸せ」を見ているようで救われました。
でも、そこは木原さん。
あっけないほど簡単に二人を離れ離れにしてくれちゃいますよね。。。
しかも、堂野は結婚しちゃうし。。。
喜多川が出所した後のことを考えると。。。喜多川がかわいそう。。。
だから、続編の中で
堂野の居場所がわかった時の喜多川の喜び様を見て
涙が止まらなくなってしまいました。・゚・(ノД`)・゚・。
その、続編「脆弱な詐欺師」にもかなりイライラさせられた!
世の中にこんなサイテーなやつがいるなんて!!
って、キィィィィヽ(`Д´)ノ!!ってなりましたが。。。
喜多川と堂野の刑務所での同室だった芝GJ!!
胸が透く思いでしたよ。
しかも、私をイラつかせた張本人・大江の結末も容赦なかったw
「檻の中」では、再会するであろう喜多川と堂野がどうなっていくのか。。。
しっかりと見届けたいと思います。
コノハラーむつこです。
正直いうと、木原音瀬さんの作品はレビューしづらいんです。
思い入れが強すぎて、「私の思いを文字で伝えきれない…!」という不安があって。ぽんぽん何も考えずにレビューしてたころが懐かしい。
刑務所ものです。
閉ざされた小さな空間のなかで、一つの愛、いや、愛とも呼べないような執着が生まれ、そして、その愛(執着)は、(いったん)死にます。
そういうお話です。
冤罪で刑務所に入れられた生真面目な男(受け)と。
殺人を犯し、20代のほぼすべてを刑務所のなかで過ごしてきた世間知らずな男(攻め)と。
まともな人生をまったく知らずに育ってきた攻めが、受けに抱いた感情は、生まれたてのヒヨコのインプリンティングに似ている。
攻めは受けの背後に、「美しいもの」「正しいもの」「真っ当なもの」を見て、そこにすがりつくのだ。
怖いほどの執着は、刑務所を出て六年たっても変わらない。彼にはソレしかないのだ。『薔薇色の人生』の攻めもそんな感じですが、この小説の攻めは、それ以上に純粋で悲しい。そして怖い。
怖いんですよ、まじで。
やめてくれと思う気持ちと応援したくなる気持ち、両方の気持ちがゴチャゴチャになって、ボロボロに泣けました。
続編の『脆弱な詐欺師』も傑作でした。
まともな人間が犯罪に手を染める過程が鮮やかで、説得力ありすぎます。BLの範疇にとどめておくのがモッタイナイ。ミステリ小説としても一級品だと思う。このミスの選者たちも、BL界に目を向けるべきだ!なんてやくたいもないことを思いましたw
脇役の芝は、味がありすぎ。いぶし銀の魅力とはこのことだな、と。
『檻の外』へと続きます。
二冊まとめて読むべし。
市役所で働き、普通に暮らしていた男 堂野崇文。
満員電車に乗り痴漢と間違えられ冤罪で服役する。
築き上げたものが壊れ、家族に迷惑をかけ堕ちてしまった先の
刑務所でも騙され打ちのめされる。
そんな堂野の頭をただ撫でてくれた男が喜多川圭。
堂野は喜多川に「ありがとう」と言うんです。
それがきっかけ。
他人に感謝される喜びを知った喜多川は
「ありがとう」のために堂野の世話を焼く。
お駄賃代わりに「ありがとう」を要求するようになり
堂野に絵を誉められれば
今度は、誉められたくて絵を必死に描くようになる。
酷い生い立ちの喜多川にとって
堂野は、はじめて出会った“普通の人”なのだけど
喜多川にとっては、それがとても大切な人になってしまったんですよね。
そして堂野にとっても箱の中(刑務所)という
劣悪な環境で、当たり前が通用しないわけです。
だから、あまりに当たり前のこと人間として当たり前の交流が
酷く特別のこととして心に響く。
本質的な“情”で、つながったふたりは
堂野の出所で離れてしまう・・・
1年あとに出所した喜多川は、必死に堂野のことを探すんですよー。
喜多川は、箱の中からでたのにちっとも解放されてないんだよ。
いつまでもいつまでも堂野という箱の中から出られないっ。
いやもう、解放されることが喜多川にとっての幸せなのか
何が幸せなのかってのは、難しい話だけどもね。
ふたりの絆は、まさしく“情”なんだけど
前に、なんていう漢字が入るのかは、まだわからない・・・
普通なら受けと攻めが幸せに暮らせるように願うのがBL読者。
私ももちろんいつもそうなのですが、これを読み始めたとき、おいおい喜多川やめておけよ~~~と思ってしまったのは読者失格でしょうか?
喜多川の執念が怖くてストーカーだよ。と思えてしまったのです。
そして人間として堂野が住所を教える勇気が持てなかったのがわかる気がしたので、今更とりあえず幸せな堂野を探さなくても……と思ってしまったのでした。
前半、刑務所の中は異常な環境だろうし孤独な中、気遣って貰った堂野が喜多川に依存してしまう気持ちはよくわかります。
もともと痴漢の冤罪などの展開から堂野は優しくて人生真面目で損をするタイプだな?って感じがしたので。
強い人ではなく、やはり弱い人ですものね。
そりゃ異常な環境の中で精神的にもおかしくなるでしょう。
でも喜多川、やり過ぎです。
もちろん彼の境遇の悲惨さや彼がどうしてこうなったかは大変よく理解できて、彼に罪があるとは思えません(堂野への思いも)
それでも客観的に見たら喜多川がやりすぎで堂野が可哀想。
そして堂野はちょっと狡い男です。
弱いところが狡い男。
これって木原さんの話に多いタイプじゃないですか?
これぞ人間!って感じです。
人間いい人も悪い人も紙一重。
つまり犯罪者もそんな場合があるかなぁ?と思いました。
弾みで犯罪犯してしまう人もいるだろうし、ちょっとした偶然で思いとどまった人もいるでしょう。
そんな人間の弱さ、しぶとさは後半の「脆弱な詐欺師」の展開にもよく現れています。
本当に人間の弱さとか汚さを毎度描いてくれますよね、木原さん。
でもそれだからこそ、キャラやストーリーが生きてきます。
喜多川の執念を見ていると、人間やれば出来るとか、本気になればとか、「一念岩をも通す」って言葉を思い出します。
そしてどこで読んだか忘れましたが(少女もののコミックだったかな)「諦められる恋は本物じゃない」って言葉を思い出しました。
軽い気持ちで読む本では決してない。
どんな話であっても結局BLなんだから!と読み始めた自分に後悔した。
現実とリンクして考えざるを得ない、冤罪をはじめとする犯罪、
犯罪者に対する社会の目、出所を待つ家族の気持ち、
そして人間の弱さ、狡さ。
堂野の怒りの矛先のないやるせなさに拳を握り、
喜多川の生い立ちに胸を震わせた。、
それでも自分とはかかわりが薄い刑務所内の出来事。
共感できない気持ちがある自分が悔しい。
書き下ろしである探偵社に勤める中年の大江視点の話からも人間を見た。
正論と言い訳が紙一重であるように、すべての人間がいい人であり悪い人である。
この本に心から共感することは、人間の醜さも無垢さもすべて認めることのように思えた。
私にはそれを受け入れることが怖くて、心からの共感には至っていない。
でももう一度痛みを堪えて読むための相当な勇気もまだでてこない。
こんなに考えさせられた小説が今までにあっただろうか。
この小説はBLという枠だけにくくってしまいたくないという意味も込めて、
中立の立場にこの本を置こうと思います(´・ω・`)ノ
痴漢と間違われて逮捕された。
警察にも弁護士にも3万払って嘘でも罪を認めてしまったほうが得策だといわれた。
しかし、やってもいない罪をみとめたくはなかった。
これまで何に対してもマジメにそつなく暮らしてきた。
市役所につとめ、何不自由なく。
そんな自分がどうして。
1年半留置所におしこめられ、最高裁までいった裁判ではこれまでの努力むなしく有罪の判決がきまった。
初犯にしてはいささか厳しい実刑判決だった。
監獄に入ってからの堂野の話。
堂野・・・なんていうか、踏んだり蹴ったり(苦笑
話を一本とおして、しゅ~~~~わ^~~っと来る話でした。
いつもみたいに「ウホ☆」「ジュルリ」「ハァハァ」言っている余裕がなかった(苦笑
ひたすら胸が苦しいというか。
盛り上げるだけ盛り上げといて、突き落とされるというか。
素直に、喜多川が28にもなって、すごく子供みたいとか。
まっすぐに、「好き」というキモチをあからさまにする喜多川はやっぱりかわいいと思うし、キュンとする。
それに対しての堂野のキモチもわからんでもないと言うか。
独房/みんなの前での交接。
堂野とシンクロしてすごく苦しくなる気持ちと、その行為に対する萌えとで、すごく不思議な気持ちになりました。
やましい自分が恥かしいorz
なににしても、牢屋という閉鎖された空間で起こる、堂野を中心とした物語。
どんぞこにいた堂野のキモチの変化や、周りとのかかわりがすごく良くわかる作品です。
なんていうのかな、気持ちを載せやすいというか。
その分、読み手も苦しいんだけど。
続編「檻の外」を用意して読むことをお勧めいたします。
続きが気になって夜も眠れなくなるから。