嫌な奴(文庫版)

iyana yatsu

嫌な奴(文庫版)
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神55
  • 萌×28
  • 萌5
  • 中立5
  • しゅみじゃない6

--

レビュー数
18
得点
327
評価数
79
平均
4.3 / 5
神率
69.6%
著者
木原音瀬 

作家さんの新作発表
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媒体
小説
出版社
講談社
レーベル
講談社文庫
発売日
価格
¥693(税抜)  
ISBN
9784065162798

あらすじ

杉本和也は、大嫌いな「親友」三浦に会うため12年ぶりに故郷を訪れる。再会した三浦は昔と変わらず嫌な奴だったが、和也はどうしても突き放すことができない。三浦に押されるまま、一緒に暮らすことになってしまい……。不器用な友情と、胸が張り裂けるような愛情と性愛を見事に描く傑作!

表題作嫌な奴(文庫版)

和也の元同級生,小学4年生→27歳
高校教師,小学4年生→27歳

レビュー投稿数18

愛なんていらない執着があればいい

木原音瀬先生の作品は設定や展開がすごく好みのものばかりなのですが毎回オチだけ受け入れられない!ってことが多く今回もびくびくしながら読みました。
結果、この作品は最後まで好きでした!
途中なんでやねん!ってところもありましたが、私も木原節に慣れてきたのか今回はこれか〜って感じで割と流せました笑。

とにかくこの二人の関係が大好きすぎたのでもう細かいことはいいです!愛し合ってない、信頼関係が築けていないカップルが大好きなのですが、この二人はそれがすごくてどちらからも純粋な愛は0(元々はそんなことなかったはずなのにね)なのに離れられない。逃げられない。苦しくて悲しくて怖くてしんどい地獄。辛くて楽しかった。

最後の三浦がまた悲しくてやるせなくて素晴らしかったです。どうしても三浦に肩入れしちゃう…どこで間違えたんだろうね…でもこれでいい。二人は良くないだろうけど私は読んでて楽しかったです。

0

自分にかけた呪い

再読。

プライベートでも仕事でも死ぬほど忙しく精神的に余裕のないこの頃。
ふと夜中に目覚めてしまい、眠いのに寝付けず、こんなことをしている場合じゃないのにと焦りながらも現実逃避でこの本を手に取りました。

さらに追い討ち。

この追い込まれた気持ちを記録として残さなくては、、、と変な使命感に掻き立てられてレビューします。

嫌な奴

このタイトルの意味。
終始、受けの和也の視点で物語は進みます。
自分に執着する、攻めの三浦から必死で逃れる和也。
執拗に追いかける三浦。

逃げたかったのは、何からか?

途中から、和也の三浦に対する認知にズレがあることが明らかになります。
和也の中では、転校初日の印象のままの三浦のままです。
彼の内面に触れることを頑なに拒絶し、認知の修正を拒否します。
客観的に見ると、三浦は人たらしと言えるほど魅力的。
けれども、和也の中では、乱暴で自分勝手で鈍感な奴のまま。

諦念から三浦を受け入れはじめた和也。
ようやく認知のズレも受け入れはじめます。

小学生のような幼い情緒から、成長をはじめます。
これは、和也の成長物語と受け取りました。




0

愛の不条理

 何か面白い小説が読みたいと思い、木原音瀬ってBL界では巨匠らしいし読んでみっか〜と軽い気持ちで「美しいこと」「箱の中」の文庫版を読んだのですが、す、っすげえ‼︎と衝撃でぶっ飛んでしまいました。

 私は面白かった作家の本をローラーするヘキがあるのですが、とにかく作品数が多いので、文庫になっているのを拾って読んで、出会ったのがこの作品です。やっぱりすごい〜すごく面白いよー!

 子どもの頃から苦手だった男に粘着され、大人になってもなんやかんやとそばを離れてくれず、結婚が決まってやっと逃げられると思っていたら婚約者に式当日に駆け落ちされ、戻ってきた男に最終的に手ごめにされる…という、ノンケの男子からしたら悪夢でしかないお話。でもこれが、腐女子の目を通すとなぜか良い…。なんだろう、ラブもときめきもなく、荒涼とした物語なのに、なんでこんなに面白く感じるんだろう。不思議です。

 この話の見どころは、やっぱり執着攻めのものすごさでしょうか。授業中に教室に乱入してきた三浦に、学校の中を追いかけられるシーンは圧巻です。あと、いきなりシャツを引き裂かれるところでわくわくしてしまいました、すみません笑

 攻めの三浦は、杉本に嫌われていることを知りつつも、離れようとしない。自分も相手も傷ついてもうぐちゃぐちゃなのに…。心はくれないんだろう、でも体に触れれば温かいとか、出会わない方が良かったとか、セリフがもう切なくて、一方通行の愛の悲しみを感じます。最後の一文にも胸を締めつけられました。三浦に感情移入しているのかも…
 三浦と比べると、どうしても杉本は見栄っ張りで情のないやつに感じてしまいます。彼も相当かわいそうなんですが。最後の方で、怒りと憎しみの中にあきらめの安寧を見い出しているような描写がありました。

 愛って決して甘いだけのものではなく、不条理かつ理不尽なものだということを思い知らされる傑作だと思います。いやあ、本当に木原作品はすごかった。

1

嫌な奴

小学生時代の凶暴な三浦のイメージが染み付いて大嫌いなのにかといって無下に扱うことも出来ずズルズル関係を続けた結果、救いようのない状況になる話
和也の本性が垣間見え初めてから三浦が傷つく様子が痛々しくていたたまれなくなる。一方的に追い詰めているのは三浦なのに。
無理やり体の関係に持ち込めても本当の意味では受け入れて貰えない。でも心が反応を示さなくても身体は応えてくれる。それが自分には優しいんだと吐露する三浦が哀れで愛しくて泣けます。
全く救いようがないかと思いきや、終盤の和也のエピソードから三浦を受け入れつつある事が窺えました。
なんだかんだ死ぬまでずっと一緒に居そうな二人。

新装版と旧版どちらも読みましたが、セリフなど変更されてる箇所が多く見られます。新装版では初回限定でその後の2人の様子が書かれたリーフレットが付いてきました。

0

萌えるか?基準だと中立・・・

このずっしり来る読後感。
これぞ木原音瀬。という作品です。

中立にしていますが、作品としては神評価です。萌えるポイントがあるか?というとほぼ無い(苦笑)
もうBLって世界じゃおさまらないのかもと思います。
というか私はビブロス版を読んだのですが、文庫版はBLレーベルじゃないのですね。比留間久夫さんのYesYesYesのような読後感。

この受け(和也)の偽善者というか、幼い頃に「みんなと仲良くしましょう」という先生の言葉で縛られ、嫌いな三浦のことも嫌いと言えない。三浦は和也を好き(このときは友情だったのかも)で同じ高校に行くために必死で勉強をしたり、親友のような立ち居振る舞いをしていたために離れられない状況に。

逃げ出すしかない、どうやったら逃げられるのかと考えていたときに、母親の再婚を期に引っ越しする。そのまま大人になって高校教師になったりしている訳ですが、ひょんなことから三浦と再会してしまう。
でも再会の前からずっと気にしていたので、勝手ながら読み進めるうちに結局心の奥底では好意?それとも情なのかな、があったのではないのかと思いました。

この三浦がめちゃくちゃな執着(いや、ストーカ的なんじゃなく)で和也を蝕んでいく・・・・その様が描かれています。
和也がはっきりと決別するとか、はっきりした行動を取っていたら、友人の小野田にも話を出来ていたら、、、壊れなかったのかもな。(和也が明確に壊れた表現はなかったのですが、そう読めたんです)
嫌な奴だけど切り捨てられないっていうのは、男女間でもありえるし、それが同性だから余計ややこしいことになっちゃっていて。三浦も同じこと言ってましたけど。彼らはどうやったらぐるぐるから抜け出せるんでしょうね。

この先の二人がどうなっていくのか、、、
モデルがいらっしゃるとも書かれているのですが、どうしても気になってしまう作品でした。
また、他の方のレビューを見るとビブロス版と文庫版で改定されているところがあるようです。ですので、私の感想はあくまでもBL版!のビブロス版のものです。
文庫版ではちがった受け止め方になったのかも知れません。。。
逆に変更しなければ講談社文庫では出せなかったのか、それとも作者の意図でそうしたのか、ちょっと気になりました。

0

どんなに嫌われていてもそばに居たい

幼馴染同士の何年にも渡る片思い。

主人公2人は幼馴染同士なのですが、受けの和也は攻めの三浦の事が嫌いで何とか逃げようと悩み、もがき続けます。
三浦はどんなに気持ちが通じなくても嫌われていても、何とかして和也のそばに居ようとするのですが、その姿が健気で泣いてしまいました。

2人の気持ちは最初から最後まで交わることはなく、それでも傍に居続けるという不思議な関係が続きヤキモキさせられました。

ずっと和也視点で、最後に少しだけ三浦視点の話があるのですが、悲しくて涙が止まらなかったです。

0

愛とはなんだ。情とはなんだ。人間の深い業とは。

他のレビュアー様のレビューを、わかるーーー、わかるーーーと頷きながら読みました。愛とは温かいものだけじゃないんだな、それは行き着いた執着となって、もはや本人たちすらも、自分を行動させる深層心理を理解できないでいる。すごい本でした。

あらすじは他のレビュアー様が書かれているので感想を書きます。

とにかく、三浦、杉本の非常に繊細な心理描写を淡々と延々と書き綴り、物語の軸となるところに一切のブレがない。木原先生の想像力と語彙力、表現力は凄まじいもので、秀逸とかそういうレベルでは語れないほど。作品世界に惹き込む描写力は、他の追随を許さないほど圧倒的だと思います。

杉本に執着する三浦の様々な行動は恐怖です。杉本にどんな風に思われても、冷たくされても、その執着をやめることがない。じわじわ、杉本のテリトリーに入ってくるんですよね。遠慮もなく、本当に一方的に。

一方、杉本は三浦を徹底的に嫌悪するも、外面だけはよく、三浦を心底疎ましく思いながら、世間体や周りの目を気にしてはっきりできない。杉本は自分の教え子から「偽善者」と呼ばれ、ハッとするんです。自分が三浦に対してしてきたすべてが「偽善」であることに。

三浦が激しい執着の一端を見せるのは、決まって「杉本が黙って自分の前から消えたとき」なんですよね。杉本が高校進学直前に、自分に何も言わずに消えてしまったことが相当のトラウマになっていて、見境なき執着を見せる。杉本の勤める高校にまで押し入って追いかけるなんて、恐怖以外の何者でもないです…。

この作品は、愛とは何か、三浦の杉本に対するそれは、愛なのかなんなのか、ということを深く考えさせられました。三浦もわかっているんですよね、すべて。自分のこの抑えきれない執着が杉本の幸福には繋がっていないということ。ただ、三浦は杉本に優しくしてほしい、ただ、そばにいたい。本当にそれだけなんです。でもはっきり言ってめちゃめちゃ自己中ですよね。そこに、杉本の心はないし、明確に拒否されているんだし。でも、自分の抑えきれない欲望のために、執着をやめられない。

心をくれない、愛してくれない。けど、身体を繋げているときは優しくしてくれると感じられる。隣に眠るだけで安心していられる。身体だけでもいい、杉本という男がいてくれるなら。そこまでに思う三浦ってほんとーーーに、闇が深いなぁって思いました。

三浦が前妻との間にもうけた子供が夭折してしまったり、その後付き合った女性に妊娠していると嘘をつかれ、憤怒する描写があって、三浦にとって子供って本当に愛情を寄せられる絶対的なものなんだなって思いました。それは孤独な三浦のたった1つの断ち切れない絆になるものであり、この描写から、三浦の抱える孤独や過酷な過去を生き抜いてきたしんどさみたいなものがわかって、三浦が本当にかわいそうに思ってしまいました。だからこそ、杉本にあそこまでの執着を見せるのかなと。セックスを重ねた杉本に対して、孕めばいいのに、と話すセリフがあるんですけど、三浦は本気でそう思っているんだろうなと。自分にとっての愛情の絶対的なもの。愛に飢える三浦の奥底を丁寧に描いています。

杉本も杉本で、まぁ本当に嫌な奴なんですよね。私はこの作品の題名は、杉本のことを言っているんだと思いました。杉本も全然ブレないんですよねーー。どっかのタイミングで絆されて受け入れるのかな?と思いきや、ずーーーーっと、嫌悪(笑)ずーーーーっと拒絶(笑)ずーーーーっとすきあらば逃亡したい(笑)本当に二人の間に、愛は生まれないは、ずーーーーっと嫌いなんです、三浦のこと。これ、ほんとにすごいなって(笑)こんな作品初めてでした。でも、すごい。本当に徹底的に変化がないんですよ、杉本も。一貫して、三浦が嫌いだし、終始イラつくし、憤っている。その描写も生々しくて、細かくて、本当に木原先生すごいなーって思いました。脱帽です。

身体の関係になってからは、もはや杉本は無駄な抵抗せず、受け入れている。そのほうが楽だし、もはや、杉本自身もわからなくなっているんですよね。でも、三浦が入院することになり、やっと一人の時間、一人寝ができるようになっても、そこに三浦の存在を確認してしまう。ストーカーのごとく電話がかかってきて、ウザいな、めんどくさいなって思っても、三浦の存在がなくては安眠できなくなってきている。

これ、なんですかね…。杉本のなかに、ある種、三浦から逃れられなくなったことへの絶望感とかそういんじゃなくて、別の感情がうまれているんですよね。それは愛とはまだ呼べないものだけど、ある意味、三浦を受け入れたってことなのかなと。

単行本化を記念したSSが本の中に入っていて、三浦と肉体関係を持ってから何年後かの話なんですけど、すでに三浦との同居、というか、三浦と生きていくことを、半ば傍観者のように認識する杉本が描かれていました。でも、三浦との肉体関係は完全に杉本の一部になっていて、自分自身の身体を三浦に委ねるほどになっています。

つまり、お互いがお互いに向けたベクトルは違う方向に伸びてはいたものの、結果、同じところに着地はして、そこにいわゆる一般的でいうところの愛と呼べるものはなくとも、(三浦はあるかもしれないけど)お互いを受認して、なんというか、同じ想いではないんだけど、それぞれにいろいろ決着させて一緒にいる、という選択をしたのかなと。うーん…これをハッピーエンドというのか、という感じですが、杉本も長い年月、三浦という男に囚われてきたわけだしね…。結果、落ち着いたのかなと。

木原先生の作品は、人間突き詰めると…みたいなテーマが多いように思いますが、それを読者側に考えさせるだけの圧倒的な筆力に、もうなんもいえねー状態になります。あまりに圧倒されて、神以外の評価は考えられなかったです。

4

NoTitle

嫌な奴とは三浦の事なのでしょうがあまりそう思えません、粗暴な時期があったのは確かですが中学を卒業する頃には普通の人格になってます。それを否定するのは和也だけでそれでいてはっきりと拒絶せず相手を自分の隣に居させる。嫌なら拒否すればいいわけでそれがプライドからか本心は嫌でないのかはっきりしない。

二人は同じ進学校に受かりますが和也は離れるために遠い土地へ引っ越し、三浦は一人で全寮制学校に通う事になります。独居で車椅子の三浦の父親は家具で下敷きに、それで和也を追いかける三浦を理解できず物語に入り込めませんでした。

0

やっぱりBLが好き(長文)

本編を読み終えて、出版社が講談社文庫だったのを思い出し、これはBLとして刊行されたものじゃないんだと気を取り直しました。ちるちるでは非BL登録ではないけれど、これはBL枠で読んだらいけないやつだったと肝に銘じました。

というのも、ビブロス版で読んでいた者としては、読後全くの別物感がじわじわと襲ってきたわけで、それが時間の経過による記憶の改ざんのためなのか、あるいは大幅に加筆修正されたゆえなのかはさだかでなく…、この際、所持しているビブロス版と読み比べてみたら違いが分かるのではないかと両者を照合して、自分なりに感じたことをレビューとして書いてみたいと思います。わたし自身木原先生の大ファンですが、中にはこれを読んで気分を害される方がいるかもしれませんのでご容赦ください。

まず、本書のカバーイラストをご担当されている丹地陽子さんはとても魅力的な男性を描かれるイラストレーターさんで、前々から気になっていた方でした。以前、匿名でちるちるのニュースコメント欄を拝借しまして丹地さんの情報を募ったところ、ちるちるを私物化しないで!とお叱りを受けた過去があります。あの時は注意してくださった方以外にも、もしかしたらご本人様にも不快な思いをさせてしまい、大変申し訳なく深く反省しています。話は戻りますが、丹地陽子さんはやはり期待を裏切ることなく、表紙絵一枚のみで作品の世界観を見事に表現している、素晴らしいカバーイラストに仕上げられているなと思いました。詳しい経緯は知る由もありませんが、きっと非BL作品だから引き受けられたんだろうな…、BL界に来られることはないんだろうな…、と脳内のどこか遠いところで察している自分がおります。残念ですが、まだまだこちらの世界はきっちり線引きしなければいけない領域だということを心しなくてはいけませんね。

木原先生の作品を読んだらその日の夢見が超絶悪かった、という初めての経験をしたのがこの『嫌な奴』でした。イラストが坂井久仁江名義の国枝先生というのも、この作品が後に一般小説として復刊される未来を暗示しているようで興味深いところです。ノベルス版だと挿絵が多くて受け攻めのビジュアルがイメージしやすかったですし、ストーリーの緊迫感がほぐれる効果もありました。木原先生なので、終始読みながらの拷問状態は通常ではありましたが、わたしとしてはお話の内容以上に、なぜ今この作品が非BLとして刊行されたのかに関心が向いてしまいました。

このお話を腐ィルターを通さずに読むと、三浦は単に気持ち悪い奴です。そんな奴にどこまでもつきまとわれて逃れられない、とある不運な男の話です。結末も同じなのに、ビブロス版で読んだ時の衝撃や不気味さ、消化しきれないモヤモヤは感じられず、こんなにフラットでまとまりのあるお話だったっけ?と読み終えて当惑しました。本作がいわばBLの二次創作としての一般小説とするならば異色作になるのかと思います。ですが、わたしには全然引っかかるものがなく、元ネタのBL版の方でガッツリと三浦と和也の関係に萌えていたわけなので、一般小説側の読者から見たら明らかそっちの感覚の方こそが変態なんだったと自覚しました笑

以下、しょぼい比較が始まりますので警戒してくださいね。

この文庫版の三浦は一層気味が悪いキャラクターでした。ビブロス版の三浦はもっと屈託がなくて、和也に対してストレートに一方的な親友以上の恋情を滲ませていたように思います。それなりに「攻め」仕様だったことが比較してみてわかりました。和也も三浦からの好意を自覚しているんですよね。三浦は擬似的な肉親(家族)の愛情を求め、和也は疎ましく思いながらも偽善的な同情心だけは持ち合わせている。二人の間には出会った時からずっと不思議な引力が働き続けているのです。

たとえば高校受験前、深夜に三浦が和也の自宅を自転車で訪れるシーンや、二人で四万十川へ旅行した時に和也が三浦を置き去りにするシーン、和也に嫌われているのがわかっているのに、三浦が無理矢理彼を凌辱するシーン、そしてその後も和也の職場にまで押しかけずにはいられなかった三浦の和也を求めずにはいられない激情から、薄々と感じられる何かがありました。そういったところにBL的な萌えを覚えていたのに、おかしいなと会話や地の文章をビブロス版と照らし合わせてみたら、わたしが萌えていた部分が微妙に修正されていることに気が付きました。ってことは、BLとして読み取るべき箇所が消されてしまったってことになるのかな?と。それに、小野寺の存在感が前よりも増しています。小野寺と三浦の関係も不思議で、小野寺の方が三浦に執着していて実は好意を持っていたんじゃないかと邪推してしまうくらいです。おっと、その邪推がすでに腐ってましたね…。本作では、受け攻めの概念だけでは昇華させることができない二人の関係の複雑さを、小野寺に活躍してもらうことで補われているような印象を受けました。

こういう読み方をする読者、一番嫌な奴!笑

ビブロス版の方を読み返すと、1998年当時の消しゴムの値段とか、三浦が入院中に読んでいた小説のタイトルが明記されていることとか、リアルな情報が盛り込まれているのを再発見して、ファンとしては二度目の興奮をさせてもらえました。もしBLで先に読んでいなかったら文庫版にどういう感想を抱いたのか…そちらも経験してみたかったです。

BLが後ろめたいジャンルではないことを、BLペンネームのまま非BL作品も生み出していく作家様によって証明されていくのは心強いですし、とてもチャレンジングだと思います。BLはすごいんだぞ!なんていつも心の中だけで叫んでいることだけれど、本書を読み終えて、自分は心底BLが好きで、BLというジャンルでしか読めないものを読みたいんだ!という謎な欲求を実感しました。

15

恋とは呪いである

1998年ビブロス(!)刊行の『嫌な奴』を大幅加筆修正したものとか。
ビブロス版を読んだような気がしていたのですが未読でした。
ただねぇ、物語自体を全く違うものにしてしまうことはないでしょうから「やっぱり木原さんはずーっと木原さんだったんだなぁ……」と思いました。

このお話には、ど不幸まみれの地獄が『ある一言』や『ちょっとした行為』によって天国になってしまう『木原マジック』がありません。だから読んでも幸せにはならない(人が多いと思う)。
ただ、ここに書かれているのはある種の純愛なんだろうなとは思うのです。

親の離婚によって田舎町に引っ越してきた和也が、泥濘にはまった三浦の父の車椅子を三浦と一緒に押してあげたのは、和也からすれば道徳心に裏打ちされたちょっとした親切でしかなかったのだと思います。
でも、孤独に慣れた三浦からしてみれば僥倖だったんだと思うんですね。
まさに、暗闇に差し込んだ一筋の光だったんだろうと。
それに縋るしかなかったんだろうと。
でも和也は暴力的な三浦のことが嫌いなのです。

これ、2人の性質が違い過ぎるから、互いに理解のしようがない。
和也は自分のことを偽善者だと思っているけれど、他者の目を気にするというのは人の気持ちを理解できるからで、これ、別の角度から見れば彼の利点にもなり得るものなんです。だけどその所為で、三浦を決定的に自分から退けられない。
三浦は自分に正直で、努力家です。和也と同じ高校に行くために猛勉強し、ほとんどビリに近い成績からとんでもない進学校に受かっちゃったりする。でも、和也が自分を嫌っていることが解らないのです。いわゆる『空気が読めない』。
この2人、解り合えるはずがない。

だから三浦の想いが強ければ強いほど、和也は三浦を嫌いになります。
いや、むしろ恐れると言った方が近い。
だけど三浦は和也から離れることが出来ないのです。
この恋は呪いに限りなく近い。

ただ、恋と呪いは元々すごく近しいものなのかもしれないのです。
だって『好きの反対は無関心』なのですから。
ホント、木原さんって怖いよなー……

15

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