電子書籍限定短編
renai tensho
シーモアで読了。
電子限定の短編小説で、フル-ル文庫サイトの試し読みで知りました。
読了後に短編ならではの、何とも言えない余韻がありました。
イラストは、表紙の他に1ページの口絵があります。
物語は社会人2人の、雨が降りだしたある夜のお話です。
1年前、桐生和彦(きりゅう・かずひこ)は年下の同僚・友成聖士(ともなり・さとし)に告白されましたが、返事は保留にしたままです。
返事のできない桐生に友成が「いつまでも待ちます」と言い、全くその事に触れずにいてくれるからです。
桐生は、3年前に取引先の営業部長の一人娘と結婚しましたが、1年程で離婚して左遷に近い状態で友成のいる部署へ異動しています。
離婚の原因は、結婚後に気づいた自分の性癖(男寄りのバイ)です。
告白から1年後の今、桐生は友成とのことをはっきりさせようかなと思います。
職場の飲み会後、2人で駅へと向かう帰り道で豪雨に濡れながら、桐生は何とか友成を足止めしようとします。
すると、友成がホテルに泊まることを提案します。
シリアスな過去は回想で明かされ、物語が鷹揚な性格の友成のおかげで暗くなりきらないところがいいです。
友成は告白の言葉もそうですが、話し方がとても賢く優しいです。
桐生と息が合っているというか、2人の会話は弾んでいて時々くすりと笑わせてくれます。
雨宿りした時に出会った易者に、桐生と友成の前世は「漁師と彼に飼われていた犬」だと言われます。
その話を馬鹿馬鹿しいと取り合わない桐生と、それもいいかもという感じの友成。
そもそもファンタジー系の話ではないので、前世の話自体はどうということも無いのですが。
その話を一緒に聞いた事で、共通の話題になっていくのが面白いです。
1年が経ち、告白の事を言い出せない桐生に対して、さらりと言ってのける友成が凄いです。
友成からすればホテルへ誘った時点から、今夜もう一度口説くつもりでいたのでしょう。
桐生は自分の事で一杯いっぱいになりながらも、徐々に心の整理がついていきます。
これが友成といる時で、桐生が1人きりで泣くことが無くて良かったです。
桐生は辛い過去から抜け出して、ずっと返事を待ってくれていた友成へ素直に気持ちをぶつけます。
この場所がホテルの部屋で本当に良かったです。
桐生が年下の友成に身をゆだねる初めてのセックスは、読んでいてドキドキしました。
友成が何度も言葉で好きだと思いを伝えていたところは、グッとくるいいシーンでした。
そしてピロートークがまた、2人らしくて笑ってしまいました。
友成はともかく、桐生は仕事と恋が一緒の関係は大丈夫なのか、ちょっと心配です。
読み終えてからも、何だかとても気になる2人だなと思いました。
<以下は、読了後に読んでほしい内容です>
このお話には「幸せになる」というキーワードがありました。
元妻が桐生に言った言葉。
「ちゃんと幸せにならなかったら許さないからね」
桐生が告白されて返事を言えなかった時に、友成が言った言葉。
「幸せになりたいと思ったときに呼んでください」
そして1年後に桐生が言った、友成への返事の言葉がちゃんと繋がっていました。
それがとても良かったです。
つき合う前の2人に易者が言っていたけど、私も「末永くお幸せに」という気持ちです。