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私の明日は、あなたとともにある
hana wa shishi ni mamorareru
こちら、中央アジア風(チベット文化圏)ファンタジーとの事です。
それぞれに抱えるものがある二人が共に旅をする中で、苦難を乗り越えながら「自分の幸せが存在する理想郷」を目指すー。
って感じの、感動的で壮大な物語になります。
ところで、夢乃先生の作品が好きで色々読んでるんですけど、ここまで不憫で悲惨な目にあう受けは初めてでして、途中で何度も心が折れそうになりましたよ。
「この子が幸せになるまでは・・・!」と、歯を食いしばって読みましたけど。
もう、二人が彼の地に辿り着いた時は、頑張ったねえ、二人とも!と。
そして頑張ったねえ、私!!と。
そんな感じで、ラストでは感動もひとしおなんですけど、あまりに受けがかわいそうな作品が辛い方は、ご注意下さい。
内容ですが、不思議な旅人・センゲル×天涯孤独の孤児・メトゥによる、中央アジア風ファンタジーです。シリアス寄りです。
聖者に仕え、更に自身の背にある蓮の花に似た痣が「霊的な証」として、拝まれる対象であるメトゥ。
成長と共にその美しさが仇となり、邪な欲望を持って背中を見る巡礼者や村人が出て来るんですね。
そんなある日、村を訪れた、どこか他の人とは違う雰囲気を持つ旅人・センゲル。
メトゥが巡礼達から襲われた所を助けてくれ、更に「明日の自分が見えていない」と印象的な言葉を残し、去ります。
ここから、保護者である聖者が旅立ち、とうとう追い詰められたメトゥは自身の故郷を目指して旅立つ事に。
その途中で死の危機に陥った彼を救ってくれたのは、またしてもあの旅人センゲルでー・・・と言うものです。
で、まずこちら、世界観やストーリーがかなりしっかり作り込まれていて面白いです。
チベット風の舞台に、明らかに周囲の人達とは人種が違う、美貌の主人公の出生の謎。
西の果てにあるとされる、美しい理想郷。
そして、とある目的の為に、旅を続ける男・センゲル。
こう、主人公であるメトゥがかなり不憫なんですよね。
村では性的な対象として襲われそうになったり、亡くなった聖者の代わりに「洞窟の聖者」とされそうになったり。(洞窟に閉じ込められて一生を暗闇で祈りを捧げ続ける)
また、出奔すれば出奔したで、これまた過酷な旅路に身体を狙われ、更に死にそうな危機にも陥る。
これね、情景描写がとてもお上手な作家さんでして、厳しくも美しい自然の描写に感動するんですよ。
ただその分、主人公が悲惨な目に遭う部分の描写も、半端無くリアルで辛すぎるんだな!
実際に体験してるような痛さで、もう読むだけで息も絶え絶えなんだな!!
とは言え、ここから主人公救済ターン。
センゲルに拾われたメトゥですが、彼に従い様々な旅路を経験する。
こう、ファンタジーの醍醐味と言うと「見た事の無い世界」だと思うんですけど、まさにそれが魅力的に描かれてるんですよね。
命を奪う凶暴な吹雪に、どこまでも続く砂の大地。
恐ろしい砂嵐に、澄みきった夜空に広がる美しい星空ー。
二人がそんな中で旅をしながら、少しずつ少しずつ心を通わせて行くのがとても素敵で。
また、この旅を通して、それぞれに抱えるモノを昇華して行くのが感動的なんですよ。
あらすじに「二人に課された宿命」となってるんですけど、これ、かなり痛々しいし切ないものです。
そして理不尽だとも思います。
だからこそ、その宿命を乗り越え、二人が願った場所に辿り着く事に、熱い感動を覚えると言うか。
自分の明日はセンゲルの幸せの為に思っていたメトゥが、共に居る為にと思いを変化させるラストでは、胸が熱くなってしまう。
あとですね、メトゥですが、すごく普通なんですよ。
いい意味で。
適度に弱い部分があって、だけど強さも持つ。
こう、雄々しく運命を切り開いたりはしないし、置かれた場所でしなやかに生きて行く事も出来ない。
でも、その場その場で、迷ったり悩んだりしながらも、ただ懸命に生きる。
そして、愛する人の幸せを、純粋に願うー。
すごく健気で頑張り屋ないい子なのです。
センゲルもセンゲルで、とても厳しくはあるものの、器の大きいいい男なのです。
ところで、若干引っ掛かる部分もあって、センゲルが毎回、助けにくるのがタイミングが良すぎるとか、終盤がちょい上手く行き過ぎと言うか駆け足気味と言うか。
センゲルは旅人だからな~。
メトゥが襲われたその日その時間に、ピンポイントで村に来るのはちょっと違和感があるよ。
あと、敵側がわりとアッサリ改心するなぁとか。
いや、これは私がひねくれてるだけの気もしますけど。
と、ちょっぴり引っ掛かる部分もあるんですけど、全体的にはとても好みで、感動するお話でした。
深みのあるストーリーで、大変素敵な作品だと思います。
亀井先生の挿絵がめっちゃ好きで購入。スピンオフでも関連作でもないですが「王の至宝は東を目指す」に続く中央アジアあたりのお話。ファンタジーだし、考証がなされている訳ではないですが、文化や食べ物などの記載がとても豊かだよなあと思うお話、本編250P弱+半年後のお話14Pほど+あとがき。うんうんと思うところはあるものの、ラブ的にはあまり盛り上がらなかったので中立にしました。
山間の貧しい村に師と二人暮らしていたメトゥ。師が洞窟にこもって経を唱え続ける「洞窟の聖者」となって3年、小さな穴から食事を差し出す役目を果たしています。いよいよ食事が戻されない日が10日続いて亡くなったとわかった師は洞窟から出されて鳥葬に。面倒を見る師がいなくなり村での役割が無くなったメトゥに村の者たちは、師と同じ洞窟の聖者になるか慰み者になるかと迫ります。いずれも選べないメトゥはとにかく自分の出自を探そうと村を出るのですが・・と続きます。
攻め受け以外の登場人物は
村人や隊商、攻めが拠点としている村の人たち、攻め父母、受け母等々、こまごま多数。皆さん、厳しい山や砂漠で生きておられる方々・・
**以下より内容に触れる感想
攻めさんは冷静沈着、厳しい運命をひたすら受け止め真摯に向き合っている方。受けさんは考え不足な点が多数あって、よく生き延びられたねと言うしか無い方。知識を得られない環境で、日々の糧を得るのに精いっぱいの環境だとこうなるのかもなと納得はしますが、受けには少しシンクロし難かったです。
おおと思ったのは、中央アジアあたりの厳しい状況故に、攻めがあっさり受けを連れていかなかったり、村人が「お前に何ができる」と問う点。そうだよね、自分が生きるのに必死なのに、何か役立つものが無ければ面倒を見る理由がない。シビアとしか言えない世界には非常に納得です。
そしてキーアイテムとして出てくるバター茶!!!!これのなんと美味しそうなこと!飲んだこと無いし、日本人の舌にあうかどうかは?なのですが、それでもめっちゃ美味しそうで、おおお飲んでみたい!ととっても思いました。
最後に亀井先生の挿絵について。ほんとーーーに素敵です。受けの三つ編みある豊かな髪やチベット風な衣装、馬(大好き!!!!)、祭壇などの絵がたまんなく好きでした。もっと小説挿絵描いてほしいなあ・・・
中央アジア雰囲気満点なファンタジーありのお話が気になられた方でしたら是非。