chill chill ちるちる


BLアワード2010


激変するBLCD、波乱の2010年度、そしてこれからの展望を語る
評者:ぎがさん
BLCD界は、BLコミックなどの好調と対照的に波乱の展開の1年であった。
2010年度のBLCDを、CDレビュー第一人者のぎがさんに振り返ってもらいます。

2010年度BLCD界を取り巻く状況は、一聴者である私の目から見ても厳しいものであった。
3月末にサイバーフェイズ、11月にインターコミュニケーションズという、長年BLCD界をリードしてきたメーカーが相次いで倒産し、結果として毎月発売されるCDの枚数も毎月10枚前後に減少した。しかし残されたBLCD各メーカーも、続編か過去2年ほどの話題作を原作とした作品など比較的手堅い作品を提供してくるので、現状では私の毎月の購入数はさほど減少していない。

このコラムでは簡単のため、アワードの対象となる2010年2月1日~2011年2月19日に発売されたBLCDのうち、商業BL小説またはコミックを原作とし販売された約120作品のみを扱う(つまり雑誌等の付録・全員サービス・ゲーム派生・同人作品は除く)こととする。もちろん全てを聞いたわけではないので、一部内容の偏りや不正確さがあることをあらかじめお断りしておく。

集計期間内でメイン出演作が10作以上なのは、多い順に近藤隆さん森川智之さん羽多野渉さん平川大輔さん鈴木達央さん遊佐浩二さん小西克幸さん鳥海浩輔さんであった。特に近藤さん・鈴木さんはここ2年ほどで出演作が急速に増えており、まさに2010年の顔と言えそうだ。
平川さん・遊佐さんは、以前は攻め役が多い印象であったが今年は受け役が多かった。かつては受け役と言えば声が高く実年齢も若い声優さんがつとめることが多かったが、原作に30歳代以上の年上受け作品が増えてきたことを背景としてか、近年は中堅以上のしかも攻め役を多く担ってきた声優さんが受け役にコンバートする例が増えてきており、千葉一伸さんなどは、出演作は決して多くないが象徴的な例である(尤も今年の受け役作品『子連れオオカミ(フィフス)』は年上でもオヤジでもないが)。フリートークで語られる限りご本人もまんざらではなさそうなので、是非今後も期待したい。
この他、10作以上には届かなかったが今年明らかに出演が増えたと感じられた声優さんとして野島裕史さんがいる。痛い系の筆頭とも言える『COLDシリーズ(マリン)』はまさに彼の代表作となるだろう。

集計期間内に初めて絡みのある役を担当した声優さんには、間島淳司さん『家賃半分の居場所です(フィフス)』同時収録作受け、『恋を知る日(フィフス)』攻め)、三浦祥朗さん『嘘と誤解は恋のせい(インター)』 『同 ラヴァーズブートキャンプ(インター)』攻め)、樋口智透さん『公僕の恋(フィフス)』サブカプ攻め)、佐藤拓也さん『男の子だもの!(フィフス)』サブカプ攻め)がいた。
間島さん・三浦さんはすでに10年以上のキャリアがあるとのこともあってか、ドラマCDとしては初絡みとはいえ全く危なげない印象であった。
三浦さんは少しねっとりとしたクセのある発声が特徴的で、様々な役柄を自分の色で演じてくれそうであるし、樋口さん・佐藤さんはともに嫌みのない格好いい系の発声で、受け役をうまく引き立てられそうな印象があり、いずれも今後の活躍が期待される。
間島さんは、『恋を知る日』の攻めも意外なほどよかったのだが(しかもモノローグ担当)、『家賃半分…』では吐息混じりで色気と品のある絡みの演技を聞かせてくれた。喘ぎの盛大なタイプ(これはこれでサービス心の現れでもあるし、役柄にさえ合致していれば何ら問題はない)とは一線を画すことから間違いなく需要が見込まれると思われ、ぜひ今後も注目したい。

BLCDの近年の特徴のひとつは大作化であり、2~3枚組CDや比較的短いスパンで続編が発売される場合が増えてきた。先にも取り上げた『COLDシリーズ』のほか、『タナトスの双子1912 / 1917(Atis)』 『終わりなき夜の果て(ムービック)』 『言ノ葉ノ世界(Atis)』などは今年の代表作だろう。このほか特にAtisでは発売作品のかなりを2枚組が占めており、懐には痛いが聞き手としてはありがたい傾向ではある。
ただし原作のボリュームにもよるが2~3枚組も善し悪しで、作品によっては間延びしてしまうことがある。大作が増えた中敢えて1枚にテンポよくまとめた作品は、聞き心地がよいためヘビロテすることにもなる。例えば“漫画化シリーズ”『ごめんなさいと言ってみろ』 『愛なら売るほど』 『吸血鬼には向いてる職業』(いずれもリブレ)はそうした作品の筆頭である。

一方で「多カプもの」の存在もやはり外せない。特定の声優さん目当てで購入する場合には出演時間や物語のボリューム的に不満が残ることもあるが、新たな声優さんの発掘にはもってこいである。
今年の多カプもので特によいと感じられたのは『男子迷路(リブレ)』だ。原作の構成が元々実に見事なのだが、1枚のCDに4カップルも登場するのに、それぞれの絡みのシーンが比較的濃厚であるほか、各キャラクターが確立していて他カプの物語でも意味のある役割を果たすので、出演陣には目新しさはないものの、通しで聞いた際に満足感の得られる1枚だと思う。

またBLかどうかも危ういところだが、『おやじな!千夏と巴の場合(ascolt)』は女子高生がおやじになってしまうという特異な設定の物語なので、最近はメインをつとめることの少ないベテランが多数出演し、「オカマ」ではなく「女子高生」を真剣に演じているのがなんとも楽しい作品だ。特に巴役・大川透さんの演技は他では絶対に聞けない可愛らしさである。

最後に、複数の自治体で「青少年保護育成」を盾に出版物等の過剰な取り締まり強化としか考えられない条例改正が進められた今年度、『妄想カタログ(リブレ)』という実にかっ跳んだ内容のCDが発売されたことは特筆すべきであろう。高校生である主人公が実際にはひどく純情かつ初心であるからこそ炸裂する妄想エロが何とも楽しく、シリアスで心にしみる作品もいいがこうした単純な娯楽作品もあるべきだなと感じたが、情勢からすれば今後こうした作品が発売される機会は大幅に減るのかもしれない。

紹介者プロフィール
ぎが
本州のやや北の方に、ひとりでひっそりと生息しています。10代の頃に多少かじりはしたものの、商業BLに本格参入したのは約2年前のこと。ごく当たり前にかわいい系・きれい系の受けが好きだったはずが、あれよあれよという間にオヤジ含め幅広く雑食に。自分の適応能力に驚かされます。

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