【小説部門】 3位
心の声が聞こえる。相手の本音が分かる。だからこそじれったい! そんな恋があるなんて知らなかったですっ。
「心の声が聞こえる」。ちょっと突飛ですが、良くある設定ですよね。ドラマでも漫画でも、小説でも、パッと思いつく作品名があるのではないでしょうか? そんな中、私が真っ先に思い浮かべてしまうのがこの『言ノ葉』シリーズです。ご紹介する『言ノ葉ノ世界』は前作『言ノ葉ノ花』のスピンオフですが、前作とはパラレルワールド的な繋がりしかなく、共通点は「心の声~」しかないので、本作単体でも十分に『言ノ葉』ワールドを堪能できます。むしろ、「心の声~」を堪能したいなら本作を一番に進めたい!
本作は攻め視点で描かれています。生まれつき心の声が聞こえる仮原は、ある日、車と接触してケガをします。その車を運転していた大学准教授の藤野は心の『声』と口で発生する声が同じ人間でした。輪唱のように響くその“声”を心地よく感じる自分に苛立った仮原は、藤野がゲイであることを知り、偽りで「好きだ」と告げます。
もう、この時点で仮原は藤野に惹かれていたと思うんですが、他人の心は分かっても自分の本心にはいまいち鈍感なこの攻めは、あくまで「藤野の欲しがっている言葉を言ってるだけ」と考えているんです。
本当にしょうもない奴なんですが、私にはどうしても仮原を嫌いになることはできませんでした。麻雀でイカサマはするし、占い師は足蹴にするし、携帯を取り上げるし、「嫌な奴」というには十分な要素を持っているのに、その行動のどれもが「嫌な奴ぶってる」ようにしか見えない。なんとも残念な奴です。誉め言葉ですよ。
何が言いたいかと言うと、私はこの攻めが大好きだと言うことです。仮原が悪ぶっているのは、自分の弱さとか、寂しさの裏返しなんだと思います。その証拠に、藤野の拒絶の『声』を聞いた瞬間、ボロボロに崩れてしまいます。藤野に泣きながら縋り付いて、好きと伝える姿には胸を打たれました。
こういう、なりふりかまわず思いを伝える男に弱い・・・・・・。
この必死の告白で、二人は正式につきあう事になるのですが、ここからが大変です。何しろ仮原は「心の声が聞こえる」んです。嘘や隠し事は一切出来ません。ずっと『声』が聞こえっぱなしの仮原は、藤野の心の『声』と発声する声が違ってしまうのが怖い。『声』を聞かれている藤野は常に本心を知られているという緊張感がある。そこにどうやって折り合いを付けてゆくのか、二人の忍耐が試されます。
今まで、相手の本当の気持ちが分からない、本当の気持ちが言えない、という意味でじれったい恋の話はたくさん読んできましたが、相手の本当の気持ちが分かるからこそじれったい、というものありなんだということを本作を読んで知りました。
普通なら、相手の本心を聞き出すために顔を合わせて話をするというものですが、本作では全く逆です。相手の本心を知らないため、『声』を聞かないために携帯電話で会話をするようになります。今、これを書いていて気付いたのですが、この『言ノ葉』シリーズの裏テーマは携帯電話かもしれません。前作でも携帯電話は気持ちを伝える重要なアイテムになっていましたし、本作でも携帯電話の存在は仮原、藤野、そして占い師にとって重要な意味を持って描かれています。考えてみると携帯電話というのは立派な泣きアイテムかも知れません。電波だけで相手と繋がる関係・・・・・・。今、携帯電話の切なさに気付きました。
話がずれてしまいました。すみません。戻します。
とにかく、相手の心が分かるというじれったさもあるということです。
今まで、心の『声』と発声する声は別物と割り切ってきた仮原にとって、心でも言葉でも好きと言って欲しい藤野の存在は、本当に特別なのでしょう。それこそ、今までのように悪ぶることも出来なくなるほどに、藤野にメロメロです。
藤野の方も、自分のために必死になってくれる仮原のことが好きなんだろうな、と思います。ずっと、仮原について語ってしまったので藤野について語るスペースが少なくなってしまいました。ここで一気に語ってしまおうと思います。
藤野は、腹が立つほどいい人です。究極のお人好しです。超天然です。そして仮原にとっては「奇跡のように優しく美しい男」なのです。仮原の屈託を受け入れられるのは藤野しかいないでしょう。仮原は、藤野がいなくなったら占い師のようになること間違いなしです。 ん? そういえば、超重要人物である占い師についても全然語れてない! でも、彼の物語については、前作『言ノ葉ノ花』があってこその深みがあるとも思います。占い師「アキムラカズヨ」のパラレルワールドでの恋が知りたい方は『言ノ葉ノ花』もどうぞ。より作品世界が広がるかもしれません。
それと、どうしても言っておかなければならない事があります。
「心の声が聞こえる」というのはとってもエロい! 「恥ずかしくていえない」というのが全部聞こえてしまう訳ですから、そりゃそうですよね。
ということで、「言えない」「分からない」というもどかしさとは一味違う、「心の声が聞こえてしまう」というもどかしさ(そしてエロさ)は一読の価値ありです! 是非どうぞ。